『コケシちゃん』
佐藤まどか/作 木村いこ/絵
フレーベル館
2014.11

版元語録:四年一組にも、スイスから体験入学生が来る! 金髪かな? 言葉通じるかな? ウキウキのマコちゃんと、ドキドキのわたし。でも、やってきたその子は日本人そのもので、まるでコケシみたい。なんでもはっきりという“コケシちゃん”は、わたしとちがいすぎて…。

レジーナ:特に気になるところもなく、さらっと読みました。地域にもよるのかもしれませんが、スイスの学校は、そんなにアジア人の生徒が少ないのでしょうか? 佐藤まどかさんはイタリアにいらした方で、以前、ミラノが舞台の『カフェ・デ・キリコ』(講談社)を読みました。 

ハリネズミ:異文化交流の話ですね。ただし、こけしちゃんはスイスのイタリア語圏の学校に行っていたという設定です。それなのに、ホット・エア・バルーンとか、イエロー・モンキーとか、イタリア語ではなく英語ばかりが出てきます。最後のくるみちゃんの手紙の最後の言葉もなぜか英語。そのあたりにちょっと引っかかりました。こんなふうだと、外国人はみんな英語で話しているという間違った概念を子どもがもつようになるかも。人物造型は、わかりやすいといえばわかりやすいけど、ヨーロッパ文化圏だから個人主義的という典型みたいな図式的な描かれ方ですね。もっと立体的に描いてほしいところだけど、中学年くらいが対象だとこのくらいでよしとしてしまうのでしょうか? 自分の意見が言えないくるみちゃんが、少しずつ変わっていくのはいいな、と思いました。 

ヤマネ:まず、表紙は子どもが好きそうで手にとりそうだと思いました。しかしカバーを取ると、表紙とのギャップに驚きました。中は、お話の中でクラス全員で描いた絵になっているのですが、それならばクラスの子全員描かれていればよいのにと思います。異文化を知る入口としていい本かなと思いましたが、とくに大きな感動があるわけではありません。出井君は、スイスから来た体験入学生の京ちゃんをあれこれいじめるけど、カラっとしていてあまり陰険に感じませんでした。それはなぜかと考えたところ、ひとつは、女同士、男同士のいじめの方が陰湿になりやすいのでは?ということと、いじめられている側の京ちゃんがきちんと言い返せる子で、出井くんの行為に対していじめだと思っていないからだと思います。 

アンヌ:比較的構成がはっきりしていて、すらりと読めたのですが、それだけ、特に思い入れを感じるところがありませんでした。一人一人について見つめなおしていくと、奇妙なところが、いろいろありました。主人公のくるみちゃんは、かなり内向的な性格で、自分も転校生でつらい思いをしたのに、京子ちゃんは、はっきりものが言える強い人間なんだと決めつけて、転校したての時でさえ、親切にしません。いじめっ子の出井くんは、日本では協調性が必要だと、もっともなことを言って、京子ちゃんをいじめ続けます。出井君が、家庭の事情で辛い思いをしているのがわかっていくのですが、だからといって、人をいじめていいわけではなく、出井君のいじめは曖昧なままです。京子ちゃんについては、コケシのストラップを買って、くるみちゃんに気を使う性格と、スイスで後天的に得た論理的な性格とが矛盾するような気がして、このストラップの場面が、すらりと飲み込めない気がしました。唯一、くるみちゃんが指導役になって、絵を描く場面が素敵でした。美術製作を個的な世界としてとらえる京子ちゃんに対して、ちゃんと反論し、共同作業で絵を描き上げるところがおもしろかった。それだけに、船を新聞紙で折って作るとか、廃物利用をするところが、まあ、現実なんでしょうけれど、なんで最後まで完全に美しいものに仕上げなかったのだろうかと残念に思います。 

ルパン:これは、異文化交流の話だと思うと、そんなにおもしろくない本です。掃除当番がない、給食がない、というのは、へえ、そうなんだ、とは思うけれど、それ以上のものではない。そこがポイントなのではなくて、この物語のこけしちゃんは、もっともっと壮絶な人生を体験しているのだ、ということに読者が気づかなくてはならないんだと思います。たとえば、金髪で青い目の本物のヨーロッパ人の子どもが「日本とヨーロッパは違うよ」と言うのであれば、確かに異文化交流の話であり、クラスの子も喜んでそういう話を聞くのだと思う。ところが、日本人以上に日本人っぽい「こけしちゃん」がそういうことを言うことでいじめられてしまう。自分たちと同じ顔をしている人間が、「ヨーロッパは違う」と言ったことで、自分たちの文化が否定された気がしていじめるんです。いっぽう、こけしちゃんは、ヨーロッパでは、地元の文化にはなじんでいるのに、みんなと外見が違うからという理由でいじめられている。ヨーロッパでも日本でもいじめられているんです。ただ、もったいないことに、そのシチュエーションの悲惨さが、この物語ではいまひとつ伝わってこない。これで読書感想文を書かせるのならば、おとなが問題提議をしてあげなければいけない、ちょっとわかりにくい作品だと思います。 

ハリネズミ:ツメのあまいところがあるんでしょうね。 

アンヌ:いじめも、例えば、出井君と原君のようなコンビでいじめるところなど、まるでジャイアンとスネ夫のようで、典型的で紋切り型のような気がします。

(「子どもの本で言いたい放題」2015年6月の記録)