レジーナ:物語の中に、昔話を織り込みながら、新月という現代の要素も上手に入れていて、日本のファンタジーのおもしろさを味わえる本です。砧やたる丸など、名前もおもしろいし、登場人物が、物語の世界を、自由に生き生きと動き回っていて、小学校中学年の子どもが楽しんで読める本だと思いました。「カチカチ山の刑」なんて、いかにも、単純でそそっかしいタヌキが考えそうなことです。狛犬に乗って滝をのぼったり、天狗の鼻が天井につかえたり、わくわくする描写がいっぱいあって、柏葉幸子さんの初期のファンタジーに通じます。挿絵も、なかがわさんが書いているので、物語の雰囲気によく合っています。目次の下の挿絵、砧の影がタヌキになっているんですね! 男の子もおもしろく読めると思いますが、表紙がピンクで、タイトルにもお姫様が出てくるので、手に取りづらい男の子もいるのでは? クダギヅネの存在感があまりないのが、少し気になりました。あとがきを読むと、続刊がありそうなので、これから活躍するのかもしれませんね。

アンヌ:ファンタジーの作りがゆるい気がしました。聞いたことがあるものを使って作り上げた感があります。昔の冒険ものにあるような、月蝕にうろたえるタヌキとか、最初に見たものを親と思う動物の習性を使ったクダギツネのところとか。今日欠席のルパンさんからも、p.135の子安貝の説明が「イヤホン」だったり、p.136の遠めがねで「テレビの生中継をみる」とあったりして、時代設定のしばりがゆるいというご指摘がありました。きれいだなと思ったのは、赤い皆既月食の中で砧が踊る場面です。ここは、挿絵も魅力的でした。

サンショ:さあっとおもしろく読んだし、子どもにも楽しめると思いましたが、欲を言えばお話の中のリアリティがもう一歩考えられているとよかった。たとえば天狗の鼻は、人に教えるとどんどん急激に低くなることが絵でも表現されていますが、だったら長い修行なんてしなくてもまたちょっと知識を仕入れれば急にまた長くなるんじゃないの、なんて突っ込みを入れたくなりました。あと、どのエピソードもどこかで聞いたような気がするのは年齢対象が低いからしょうがないのかな。

マリンゴ:第1章の登場人物の紹介が見事で、あっという間に惹き込まれてしまいました。まほろと、たぬきの茶々丸、母親の砧の関係って、ちゃんと説明しようと思うと、かなりややこしくページを要する気がします。それを、会話中心に無駄なくさらりと説明しているのがすごいと思いました。テングと出会ってからも、先の読めないのびのびとしたストーリーで、最後まで楽しめました。

ミホーク:かわいらしいお話ですね。昔話だけど、会話のやりとりは現代的なスピード感を感じました。「音楽は呪文のようなもの……とてもすてきなおまじない」など、ところどころ素敵なセリフが心に響きました。

ペレソッソ:出たときに読んでるんですが、今回きちんと再読できていません。ごめんなさい。絵は好きで覚えていたんですけど、中身はすっかり忘れてた。ただ、好感はもっていたとは思います。「イヤホン」とか「テレビ中継」というのが出てくるのは、昔話風の世界にそういうのが混ざるのは嫌いではないので、たぶん反感は抱かなかったと思います。

レン:するする読みました。読みはじめるとすぐ、こういう世界がありそうに思えて、物語世界にさっと入っていけるところ、どこも子どもに伝わるように表現されているところがうまいなあと。カステラやチョコリットなどのカタカナ語は、遊び心かなと思って、私は気になりませんでした。ただ、おもしろいことはおもしろいのですが、メタフィクショナルなたくらみをぶっちぎるような意外性を私は感じられず、物足りない感もありました。これは、私が大人だからかもしれませんが。

(「子どもの本で言いたい放題」2016年1月の記録)