西山:おもしろく読みました。調べもしてないのですが、これって、どこかに連載していたものを集めたのかしら。基本設定を繰り返したり、文体が不統一だったり・・・・・・。メモでも取りながら読めば、それぞれの物語がどう絡んでいるかがもっとはっきりしてもっとおもしろいのかもと思っています。さらさら普通に頁を繰っていくと、どこの誰だったかということは混ざっていって思い出せない。柏葉さんは、このタイプの、西欧中世的異世界のファンタジーを時々お書きになっていると思うのですが、私は、現代日本がベースとなっているファンタジーが柏葉作品の中心と理解しています。今日のテキストの中で魔女の歴史性を踏まえているのはこの作品。血でつながらない家族の有り様(p26)は、『岬のマヨイガ』(講談社)も思い出させて、柏葉さんのテーマの1つなんだろうと思います。でも、魔女の魔法の力は血で継がれるので、魔女は、血縁の抗いがたさと、そこからの解放を考えさせる絶妙の存在なのかもしれません。「カッコウの卵」の「竜まきの姫君」好きでした。(追記:「ラ・モネッタちゃん」を思い出しました。)

マリンゴ:とてもよかったです。『岬のマヨイガ』は、ストーリーがてんこ盛りだったのに対して、こちらは抑制されたトーンで、少ない言葉でたくさんのことを描いていて、正直、こちらの作品のほうが好きでした。大人向けの短編連作集のような作り方で、子どもに対して遠慮がないので、読む子たちは新鮮に感じるのではないでしょうか? ただ、最後の2編が「ですます調」になっていることに違和感がありました。世界観も違うので、これは省いて別の本に収録すればよかったのに、という気が。あと、説明の重複が多いですね。子供へのわかりやすさのためにわざとやっているのか、別々の時期に書いた短編をまとめたときに重複が生じたのか、わからないのですが。あと、どうでもいい余談ですが、74ページのイラスト、「真珠色の豊かな髪」という文章から想像する髪の毛とまったく違って(笑)。こんなソバージュっぽくはないかな、と思いました。

げた:魔女ってなんだって、あんまり考えたことなかったんですね。魔女って、歴史的にみれば、ものすごく能力のある女性が男性社会にいいように使われて、都合が悪くなったら、魔女狩りと称して抹殺される、そんな悲劇的な存在・・・だった。そういうことだったのかと今更ながらわかったような気がしました。新鮮な感じではありましたね。この魔女話集はどれも悲しいものばっかりですよね。私は基本的に楽しいお話が好きなんですけど、終わりの3つが、ハッピーエンド的で比較的楽しめるお話で終わってよかったかな。

ピラカンサ:お話はおもしろく読んだんですが、どこか落ち着かない気持ちになるのは、実際の魔女をめぐる歴史との齟齬があるからかもしれません。魔女狩りの時代は、「魔女」というレッテルを貼られた「普通」の女性が逮捕されたり処刑されたりしていた。でも、この作品では、かなり強い魔法を使える魔女が権力者につかまるのを恐れて隠れたりしている。子どもの読者が読んだら、びくびく隠れてないで魔法でなんとかすればいいんじゃないの、と思うんじゃないかな。佐竹さんの絵は素敵ですが、表紙の右上にあるネコだけコミカルに描かれていて、ちょっと笑えました。

あさひ:柏葉幸子の作品は、『霧のむこうのふしぎな町』(講談社)をはじめ何冊か読んでいて、どれも好きでした。今回、久しぶりに読むということで、楽しみにしていました。1章ごとに、お話がそれぞれバラバラで、これらがどう1つにまとまるのか、つながるのか、と期待して読んでいったら……最後までそのままで、拍子抜けしてしまいました。まさか、短編集とは……。全体で1つの物語になると思っていたので、個別のお話ごとに繰り返される、背景、状況の説明を、少しくどいかなと感じながら読みました。でも、物語の世界観や1つ1つのお話は、とてもおもしろかったです。なので、余計に、1つの物語としてつながった作品を読んでみたいと思いました。個人的には、このように、魔女狩りを設定にいかしている作品を他に読んだことがなかったのですが、子どもがどう受け取るかなどは気になりました。歴史を知らなかったら、魔女狩り自体が物語の世界のこと、と思ってしまう子もいるのでは?
先ほどお話があった、魔女という設定に関しては、個人的にはいろんな意味を持たせて描かなくてもいいのかなとは思っています。不思議な能力がある存在というだけで、物語に登場してもよいのではと思います。

ノンノン:読み応えというところで、もう一歩踏み込んでほしい印象でした。自分が編集担当だったら、読者が読み終わって、「短編が鎖のようにつながり『ああ! なるほど!』とすとんと落ちるようにつなげてください」とお願いするかも。そうすると、何度も読みたくなる作品に仕上がると思うので。文章がとても上手いと思ったんですが、少し書き足りてないところがあるのかも? 何回か戻らねば分からないというのが何か所かありました。あと、せっかくこの世界観で、佐竹美保さんの美しい絵でまとめていくのなら、短編すべてを淡々とした常体でまとめてもよかったのではと思いました。説明の重複も削ってもよかったかも? この本は魔女の話ですが、女性の気持ちも描かれているので、全編、わかりやすい形で掘り下げられたらすてきかな。本書のなかではシルバの話が好きでした。最後にお嫁にいくかどうかのシーンで「私を認めてくださった 好きになれる」というセリフ、すごくよかったです。小学生の自分の価値を認められていないと感じている子どもにすごく響くのではと思いました。あと蛇足ですが、たくさん姫君がいて嫁に出す話がありましたけど、息子いないのに全員嫁に出して跡継ぎどうする?と思いました(笑)。佐竹さんの絵も好きなんですが、想像したのと違う表情・しぐさの絵があって…。石工の奥さんのプラチナブロンドの長い髪がちりちりに描かれているところとか、あーん、違う〜と思いました(笑)。やっぱりさらさらヘアじゃないと、金髪は女子の憧れなので。

アンヌ:今回の作品の中では一番好きです。ロシアの怪談や民話から題材をとった短編集『魔女物語』(テッフィ著 群像社)を思い出しました。この物語の向こうにも日本の古典の物語が見えてくる気がします。「カッコウの卵」「魔女の縁談」の竜まきの姫君には、『虫めづる姫君』を思い出しました。もしこれを読んだ子どもが大きくなって『堤中納言物語』や『とりかえばや』『宇津保物語』などを学校で習った時、何か共通するものを感じるといいなと思います。私は魔法戦争が出てくる話が嫌いなのですが、この物語では実際に戦争で戦う場面はありません。いかにそれを避けて生きるかという話の方が多い。杖殿の説明が毎回あるのも、昔話の始まりのような繰り返しの心地よさを感じます。私は魔女について考えるのがとても好きで、それは同時にミソジニーとか異端であることについて考えていくことになると思っています。「ポイズン・カップ」の母も、弟を眠らせたら城主となることも可能だったろうに、女装して魔女のふりをして暮らす。闘わないことを選んだ一種の異端者のように感じます。残念なのは、最後の2つの話が魔女というより竜の話になっていったこと。この2つには違和感があります。

よもぎ:最後の2つの物語だけ敬体で書かれている点にも、違和感がありましたね。いろいろな雑誌に掲載した物語を集めたので、しかたがないのかしら? 私は、最後の2つが好きなので、こういう物語を集めた別の作品集を読みたいなと思いました。そしたら、対象年齢も、もっと低くなって、楽しい本になるんじゃないかな。物語自体は、読んでいるときは、それぞれおもしろかったし、美しいとも思いました。史実にある魔女(魔女と呼ばれた女たち)や、ジェンダーの問題も意識して書かれていると感じましたし。ただ、それぞれの話がつながっているような、いないような……。読み取れていないのかなと思って、何度も読みかえしてみたのですけれど。

ネズミ:カバーそでを読んで、1つの話だと思って読み始めたので、短編集だと認識するまでとても戸惑いました。会話の言葉遣いや、描写の美しさなど、さすがだなと思うし、女のさまざまな生き様が1編ずつに浮き彫りになるのはおもしろかったです。ただ、「名を名のらぬ魔女」がいる世界という共通点があっても、最後の2編だけ敬体になっているので、本づくりで疑問が残りました。雑誌などで発表されたお話を集めたのかなという印象を私も持って、巻末に何か書いていないかと探しました。あと、結婚とか、これからの生き方とか、この本で描かれているテーマは、小学生よりも中高校生が悩むことかなと思うと、体裁と対象年齢がずれている気がしました。四六版で、もう少し大人っぽいほうが、そういう人たちが手にとったかなと。

レジーナ:柏葉さんの本は子どもの頃大好きで、『霧のむこうのふしぎな町』(講談社)、『りんご畑の特別列車』(講談社)、『かくれ家は空の上』(講談社)など、何度読みかえしたかわかりません。この作品は短編集だからかもしれませんが、少し物足りない印象を受けました。描かれる恋愛の形もすごく古典的です。おとぎ話風に語るにしても、現代の問題への洞察があったり、『逃れの森の魔女』(ドナ・ジョー・ナポリ/著 金原瑞人・久慈美貴/共訳 青山出版社)が「ヘンゼルとグレーテル」を魔女の視点で描いているように、ジェンダー等の問題について現代の文脈で見直していたりすると、より深くなると思いました。

(2016年12月の言いたい放題)