『ふるさとは、夏』
芝田勝茂/作 小林敏也/画 
福音館文庫
2004
原題:(パロル舎 1996)

版元語録:夏休みに父の故郷を訪れたみち夫は,ふしぎな少女とともに,奇妙な世界に引きこまれて……方言の魅力と郷愁溢れるファンタジー。

ミラボー:アニミズムというか、あらゆるものに神様が宿っていて、その神様たちが楽しく活躍するという話は気に入りました。方言がきついので、入れているのはとってもいいですけど、読みにくいといえば読みにくい。だれが矢を射たのか、推理小説っぽく仕立てています。男の子と女の子のいる間に立つので、キューピットの矢かな、と最初から予想は立ちますが……。1990年の作品だけど、村の統合合併のことが話題になっていて、去年、今年あたりでもちょうど当てはまって、時代をとらえていると思います。

たんぽぽ:おもしろかったです。白羽の矢が立ってからあとも、短く感じました。方言が楽しくて、映画を見るような、おもしろさでした。

カーコ:とてもおもしろかったです。何の説明もなく方言が出てきて最初とまどったんですけど、これは読者が主人公のみち夫と同じ視線で読んでいけるようにわざとこうしているんだなあ、と途中で思いました。ほかの登場人物も神様も魅力的で、五尾村という世界がおもしろいんですね。矢のことを知りたいと思って読み進むんだけど、最後は、この世界を味わった満足感があるので、結末はどうでもいい感じがしました。物語が三人称で語られるからこそ、安心してひたりきれるのかも。p344の「おらちゃ、どっから来たがやろ。ほして、どこへ行くがやろ」というせりふが、生きることの不思議さを象徴しているようで心に残りました。

ウグイス:日本の児童文学らしい作品。この田舎は私の父の出身地と似ていて懐かしかった。子どもの頃、夏休みにひとりで田舎に長く滞在したことがあって、田んぼを抜けていくと川があって鎮守の森があってという風景を覚えています。バンニョモサといった呪文のような名前が出てきますが、村では近所同士苗字で呼ばずにその家のおじいさんの名前で「〜〜さ」と呼ぶ場合が多いんですね。この物語では主人公が田舎に行って、自分は誰も知らないのに、村の人々はみな自分のことを知っているという感じを受けますが、私も子どものとき同じような感じを味わいました。自分は初めて会う人ばかりなのに、村の人々は「〜〜さの何番目の息子の子」と知っていて、話しかけてくるんです。人間臭い神様が出てきますけど、村のおじいさん、おばあさんも、神様も、子どもにとっては同じようなものでしょう。生まれたときから見守ってくれる木とか、安心できる、ゆったりとした気持ちになる存在。会話が方言なのでとても雰囲気があって良いんですが、字で読むと読みづらく、子ども読むと苦労するかも。最後、主人公が家族のところに戻ったところも、自然な感じでいいですね。

アカシア:ファンタジーワールドをどこに作るか、ってことなんですけど、過去にさかのぼったり、まったく別の異世界をつくったりと、作家によっていろいろ苦労しています。この作品は、日本の現代で空間移動して、都会の子にとっては不思議な方言や風習が存在する「田舎」をファンタジーワールドにしてしまったところが、まずおもしろいですね。ブンガブンガキャー、ジンミョー、ゴロヨモサ、バンニョモサなど、神様や人の名前が片仮名で出てくると、それだけで不思議な感じがつくれる。神様がアロハシャツを着て温泉に出かけたりするのもおもしろいし、神様のくせに人間にたのんだりするのも意外。小林さんの挿絵もいいですね。方言の使い方も、わからないところは呪文のようにリズムを楽しんでいるうちに、だんだんわかってくるという状態をを主人公と一緒に体験できるので、これでいいのだと思います。
ただヒスイが、最初は引っ込み思案で、「きゃあ」と叫んで立ちすくんだり、みち夫にしがみついてふるえたりする場面があるかと思うと、後ろの方ではたいへん気丈な挑戦的で元気な女の子に描かれている。キャラクター設定に揺らぎがあるんですね。ひょっとすると、この男性作者の中に、憧れの女の子像と、児童文学としてはこう書かねば、という立て前とが乖離していて、こうなるのかな、と勘ぐってしまいました。白羽の矢をだれが射たのか、という謎で物語を引っ張りますが、村人たちは「神がかりしたり、ちょっと気がふれたりした村の者が射る」と考えているのに、神様たちは「人間ではなくて神様のだれかが射るのだ」と信じている。この辺があいまいなので、その後の犯人さがしもイメージがあいまいになっているのが残念。それから巻末に、この文庫版は1990年の福音館版の復刻で、別に加筆訂正したものが1996年にパロル舎から出ているとありますが、どんなふうに加筆訂正してあるのか知りたいと思いました。

うさこ:おもしろかったです。夏休みという限られた時間のなかで、行きたくなくて行った父親の故郷でおこる不思議な体験と空間と神様との出会いなど、設定は目新しくないですが、実にうまく書かれていて、物語のなかで十分に田舎の夏休みを体験できて楽しめました。暑い、汗、虫の声、ムシムシする風など、細部もうるさくないくらいに程良く描かれ、どっぷりと夏の舞台を満喫できた印象です。いろいろな神様がでてきて、それがどれもユニーク。明るくとぼけていて神秘的でない神様像もよかった。どちらかというとゲゲゲの鬼太郎の妖怪風なイメージだったけど。村の伝統行事、村独特の名称の付け方、人々の交わり方など物語の骨組がしっかりしていたのも、話にすんなり入れなじめた理由ではないでしょうか。この物語の山場は、「白羽の矢の犯人をあてる」シーンでしょうか。そこまでが、つまり神社ごもりの夜、白羽の矢をはなった犯人探しのところまでが、途中とっても長く感じられ、しかも方言の会話文を読み続けるのが少々辛かったかな……。

げた(メール紹介):ちょっと前の本ですが、うちの図書館では基本図書にしています。しかし、装丁などが古めかしいせいか、貸し出しはあまりないようです。私は今回初めて読んだのですが、意外に厚みのある構成と内容だなと思いました。家族、都会と田舎、色々な土着の神様たち、などいろいろ考えさせられる内容でした。白羽の矢は誰が?と推理仕立てになって、最後までひっぱってくれます。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年9月の記録)