日付 | 2008年7月24日 |
参加者 | マタタビ、ジーナ、みっけ、ハリネズミ、球磨、ネズ |
テーマ | 夏休みに読みたい本 |
読んだ本:
原題:THE INVENTION OF HUGO CABRET by Brian Selznick, 2007
ブライアン・セルズニック/著 金原瑞人/訳
アスペクト
2008.01
版元語録:舞台は1930年代のパリ。主人公はパリ駅の時計台に隠れ住む12歳の孤児ユゴー。彼は、父が遺したからくり人形に隠された秘密を探っていくうちに、不思議な少女イザベルに出会う。からくり人形には二人の運命をも変えていく秘密が隠されていたのだ。......からくり人形のぜんまいが動き始めるとき、眠っていた物語が動き出す!
原題:GEORGE'S SECRET KEY TO THE UNIVERSE by Lucy and Steven Hawking, 2007
ルーシー&スティーヴン・ホーキング/著 さくまゆみこ/訳 牧野千穂/画 佐藤克彦/監修
岩崎書店
2008.02
版元語録:あのホーキング博士が、子どもたちのために書いた、スペース・アドベンチャー。物語の力で「科学する心」を育てる画期的な本! 物語を楽しく読みながら、宇宙の起源、太陽系、ブラックホールなどの最先端の知識が身につき、19のコラムと32頁の美しいカラー写真が、科学の基礎として、すぐれたガイドになっている。
三木卓/著 荻太郎/画
福音館書店(福音館文庫)
2006
版元語録:ぼくが引っ越そうと思い部屋を探していると、不動産屋に格安の物件がありました。しかし、条件の一つに「毎日、お魚を食べる方」と書いてあったのです。芥川賞作家が子どもたちに贈る、動物ファンタジーの傑作。
ユゴーの不思議な発明
原題:THE INVENTION OF HUGO CABRET by Brian Selznick, 2007
ブライアン・セルズニック/著 金原瑞人/訳
アスペクト
2008.01
版元語録:舞台は1930年代のパリ。主人公はパリ駅の時計台に隠れ住む12歳の孤児ユゴー。彼は、父が遺したからくり人形に隠された秘密を探っていくうちに、不思議な少女イザベルに出会う。からくり人形には二人の運命をも変えていく秘密が隠されていたのだ。......からくり人形のぜんまいが動き始めるとき、眠っていた物語が動き出す!
マタタビ:惹きつけられる作品でした。絵と文が贅沢にかみ合っていて、後半になって構成の謎が解けていく。絵から音が聞こえてくるんだあと思いました。街や駅のざわめきや足音なんかが聞こえてくる。不思議な感覚でした。本の中心は文章だけど、これだけインパクトのある絵がふんだんに入ることによって、絵からも様々な感覚が呼び覚まされるんですね。内容は小学生にはちょっと難しいかなあ。でも、少し読書量のある高学年の子が出会ったら、びっくりすると思います。私自身すごくびっくりしました。本の新しい可能性を感じました。
ジーナ:さくさくと読んだのだけれど、後で何も思い出せないんです。一時楽しいけれど、絵が特に心を打つわけでもなく、筋を読む本かなあと思いました。なぜ思い出せないのかというと、文を読むのと絵を見るのとは働きが違うからでしょうか。文字で一つ一つ書きあらわされたのを読むと、心にイメージがくっきり刻まれますよね。でも、この本では絵の部分はぱっぱっとめくってしまって、絵でストーリーが進む部分があるのに、そこの印象が薄いみたいなんですよね。だから、読み物としては物足りない。それにしても大きな本ですよね。絵がいっぱい入っているのを考えると、よくこの値段で出せたなとは思いますが、手元に置いておこうと思うのは、この絵が好きな人かな。
みっけ:私もさらさらと読みましたが、なんかうまく入れなかった。急いでいたせいもあるんでしょうが、とってもおもしろいとまでは思えませんでした。ある程度固まって出てくる文章を、読む速度でするすると読んでいくと、突然絵がどどどっと出てきて、文字がまったくなくなる。そうなると、こんどは文字を追うのとは違って、一枚一枚を見ていく感じになって、がくん、がくん、がくんというリズムになる。ようやく絵を見るのに慣れたと思ったら、また今度はするするが始まるという調子で、最後までリズムに乗りきれませんでした。絵も、私の好みで言うともう一つという気がします。うまいですけどね。内容として、からくり人形の話やら映画が初めて登場した頃の話は、とてもおもしろかったし、ああこの人は、からくり人形や映画が大好きなのだなあ、というのが伝わってはきたのですが、それ以上とまではいかなかった。絵と文章が肌別れしているんですよね。文章を、無声映画の台詞みたいな字体で書いたりすれば、もっとしっくりきたのかもしれませんね。でも、文章の量が多いから、それも難しいかな。
ハリネズミ:この本は、絵でコルデコット賞をとっているんですよね。普通は絵本が取る賞です。小説の文法と絵本の文法は違いますが、この本は絵本の手法で書かれているのかも。小説として完成させるなら、もっときちんと説明したほうがいいところがあります。たとえば、ジョルジュ・メリエスは実在の人物ですが、この本からだけではなぜこの人が映画を拒否しているのかよくわからないので、もう少し書き込んでほしいところです。それからお父さんが火事で死に、おじさんも行方不明になってユゴーは孤児になるわけですが、物語だったらそうそう都合よくすませてしまうことはできない。
この絵は、私は好きです。映画みたいに引いたり寄ったりで、スライドのような効果が出てますね。それに、次々に謎が出てきて読者を引っ張っていくのもいいと思いました。一つ変だなと思ったのは、本文冒頭に舞台は「1931年パリ」と書かれているのに、訳者あとがきには「時代は20世紀、おそらく第一次大戦と第二次大戦のあいだのいつか」と書かれているんです。なんなんでしょうね?
球磨:こんなに厚くてどうしよう、と思って本を開いたら絵が多くてすぐ読めてしまいました。ですが、小説としては完成していないというハリネズミさんの指摘には納得です。なるほどと思いました。絵はとてもよく描けていると思います。実話を元にして初期の映画のことなんかをこんなにおもしろくできるんだなあと、感心しました。翻訳に統一性がないのが残念ですね。題名は、原題は「ユゴーが作り出したもの」でしょうか、日本語では「不思議」を入れて子どもたちを引っ張るんでしょうね。『レ・ミゼラブル』の地下道を思わせるような箇所もありますね、パリの裏の魅力というか。あんまり本が好きでない子にも薦められるかもしれません。
ハリネズミ:原書の表紙はカラーですよね。日本語版の表紙はモノクロで、趣はありますが、楽しい感じは削がれてますね。
この後、本作りのことで盛り上がる。
(「子どもの本で言いたい放題」2008年7月の記録)
宇宙への秘密の鍵
原題:GEORGE'S SECRET KEY TO THE UNIVERSE by Lucy and Steven Hawking, 2007
ルーシー&スティーヴン・ホーキング/著 さくまゆみこ/訳 牧野千穂/画 佐藤克彦/監修
岩崎書店
2008.02
版元語録:あのホーキング博士が、子どもたちのために書いた、スペース・アドベンチャー。物語の力で「科学する心」を育てる画期的な本! 物語を楽しく読みながら、宇宙の起源、太陽系、ブラックホールなどの最先端の知識が身につき、19のコラムと32頁の美しいカラー写真が、科学の基礎として、すぐれたガイドになっている。
ネズ:友人の小学4年生の息子さんが、買ったその日に一気に読んでしまったとか。普通こういう本は、子どもが案内役でいろいろなことを説明してまわるという形が多いのに、この本はストーリーと科学の知識がしっかり絡み合ってますね。それにストーリーそのものも、意外といっていいほどおもしろかった。悪役が学校の先生というのは、けっこう子どもにとって怖いですよね。ホーキング博士の本は、前に読んで途中でやめた覚えがあるけれど、こういう本を読めるなんて、今の子どもは恵まれてますね。中の写真がきれいで、感激しました。これは、CGではなく、本当に撮影した写真なのかしら?
ハリネズミ:ホーキング博士がかかわっているからには勝手にCGをつくったりはしないでしょう。コンピュータ処理をした画像は、ちゃんと断り書きがしてありますね。
ネズ:ブラックホールなんて、知ったつもりで日常ジョークに使ったりしているけれど、実はよく知らなかったんだなあと思いました。ブラックホールから脱出できるなんてね! 続きが楽しみです。もうできあがっているんでしょうか?
ハリネズミ:全部で3巻とのことですが、出版社の人に聞いたら、2巻の原著原稿はまだこれから上がってくるそうです。
ジーナ:図書館は予約がいっぱいだったので、夏休みに中学生の息子に読ませようと思って買いました。読み始めたらおもしろくて。科学というのは諸刃の剣だと思うのですが、「科学の誓い」のところに著者の考え方が表れていて、信頼感を持って読み進められました。私は星のことはまったくわからないけれど、わかりやすくておもしろかったです。主人公が、ベジタリアンで自然志向の両親のせいで肩身の狭い思いをしているところがリアルで、その科学アレルギーの父親が物語に巻きこまれていくので、この先どうなるかが楽しみです。写真の入れ方や説明文の入れ方が、わかりやすいですね。説明がじゃまにならない。これは絶対に続きを読まなくちゃ、という終わり方ですね。悪者の先生はハリー・ポッターにも出てきて、その流れかなと思いました。とても読みやすく、ぜひ子どもに薦めたい本です。
マタタビ:キャンペーンに来た本屋さんの熱気に感心して、すぐに買いました。私のような文系人間にわかるのかなと心配だったけど、ストーリー中心で読めて楽しめました。宇宙についての解説コーナーでは、昔の物理の授業がよみがえってきて、少し懐かしくなりました。始めは構えていたんですが、とても読みやすかったのでホッとしました。子どもも、その子その子でいろいろな読み方ができると思います。興味のありよう次第で、理科から行ってもいいし、物語からいってもいい。おもしろい本ですね。
『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』(布施哲治著 くもん出版)という本を以前読んで、それはそれで内容はおもしろかったんだけれど、終始説明的なので、子どもがこれを全部読み切れるかな、と感じてました。この本で楽しみながら得た知識と、『なぜ、めい王星〜』で得た知識と比べたらどうなんでしょう? この本なら400番台を読めない子でも楽しめますね。子どもの目を科学に向けるために、こんな手があったんだ! 難しい科学の知識とストーリーをこういう風に組み合わせられるんだ。さすがホーキングさん。楽しかったです。特に最初の方に出てくる「科学の誓い」に感心しました。子どもに科学の楽しさをこういう風に手渡せるといいですよね。
球磨:知り合いの理科の先生に言ったら、まだ読んでなかったんで紹介したんです。お話もおもしろく、また写真や説明もおもしろくて、宇宙について納得しながら読みました。冥王星についてなど最新の知識も入っているし、次が楽しみですね。すぐにその先生に貸そうと思ってます。
ネズ:「誰かに読ませたい〜!」という本ですよね。
球磨:本当にそうですよね。
ハリネズミ:私は天文の知識がそんなにないんですけど、子どもたちが彗星に乗って惑星を見て行くところが、生き生きとしてて臨場感もあって、おもしろかったですね。こんなふうに書かれたのを読んだのは初めて。ホーキング博士の知識の裏付けがあるので、安心して読めるし。私は文系なんで、科学をお勉強として教えるのではなくて、物語としておもしろく読めて、副産物として科学の知識も身に付くような本があるといいな、と以前から思ってたんですけど、これはそんな思いに答えてくれました。監修の先生は、ホーキング博士のお友だちだそうです。宇宙に詳しい方にうかがったら、子どもの本にこれだけ新しい宇宙の写真が出ているのは珍しいそうです。この本に出てくるブラックホールの説明も、ホーキング博士が考えだした新しい説で、今ではそれが定説になってきているようです。
ネズ:私が子どものころは、八杉龍一著『動物の子どもたち』や、お魚博士の末広恭雄さんの本など、子どもにも大人にも読めるベストセラーになるような本があって愛読していた覚えがあるけれど、最近はどうなのかしら?『動物の子どもたち』は、毎日出版文化賞を受賞しているから、大人も子どもも楽しめる本だったってことですよね?
この後ひとしきり、科学読み物談義で盛り上がる。
(「子どもの本で言いたい放題」2008年7月の記録)
おおやさんはねこ
三木卓/著 荻太郎/画
福音館書店(福音館文庫)
2006
版元語録:ぼくが引っ越そうと思い部屋を探していると、不動産屋に格安の物件がありました。しかし、条件の一つに「毎日、お魚を食べる方」と書いてあったのです。芥川賞作家が子どもたちに贈る、動物ファンタジーの傑作。
球磨:また鎌倉が舞台の話ですね。もうちょっと漢字を入れて上の学年の子もすっと入れるようにしてもいいのではないでしょうか。内容は、好感をもって読めました。最後の終わり方が今ひとつ物足りません。
マタタビ:一話一話楽しみに読みました。一見ほのぼのとした童話ですが、じっくり読むと、大人にはツンとくるペーソスや味わい深いユーモアがあって、しみじみしました。でも、そういった楽しみって、大人読みすればわかるけれど、子どもには味わえるかな? 何とも言えない軽みや、かすかな哀愁、きっと著者ご自身、自分で楽しみながら書かれたんだろうと思います。ストーリー自体は、ビールを飲む楽しみについてや、銀行からのお金の話など、大人ならそのおもしろさがよくわかる内容が多く、子ども向けとは言えない。単に動物が出てくる童話として、幼い子どもに与えたのではと少しもったいないかな。大人のことが理解できる大きな子に読んでほしい。
ジーナ:楽しいというより、愉快という感じでした。うまいですね。とても上質なフィクションだと思いました。はしばしが楽しめて。整理券のするめを食べてしまうところなんて、とてもおもしろいですよね。店子のぼくも足を1本食べてしまうとか。あと、この本は哲学的なところがあって、たとえば252ページ。猫の毎日はつらいことばかりだと言われたぼくが、「にんげんだってそうですよ。(中略)すばらしい日もありますけれど、それは、その生き物の一生からみれば、たいていの日はつらいものです。だからすばらしい日は、よけいすばらしくもなるのですけれどね。」という言葉にはじーんとしました。今の書き手はなかなか書かない世界だと思いました。今の子に読んでほしいですね。
みっけ:なんか、ふにゃふにゃっとしていて、それがなんとも心地よく、おもしろかったです。くすくす、にやりと笑ってばかりでした。この人間さんがまるでカリカリしていないのもいいですよね。心底納得とか、そういう激しい関係ではなく、しょうがないなあ、と思いながらもそれなりにつきあっていて、それを自分も楽しんでいる。そのスタンスがとってもいい感じだと思いました。私は、子どもは子どもなりに十分楽しめると思いました。だって、もうあっちこっちがおかしくて、笑えるもの。初めて猫と出会うところで、一切説明も言い訳もなく猫がすぐにしゃべりだして会話が成立してしまうあたりも、下手するととてもぎこちなくなったり嘘くさくなるんだけど、そういう感じがないんですよね。ほんとうには起こりえないのに、この作者の世界にすっかり入り込んで、話がするすると展開していく。そのあたりがうまいですねえ。最後で猫を眠らせて全部外に出す、という展開は、こういうふうに納めるしかなかった、という感じでしょうかね。暴力を使うわけにもいかず、でも何らかのけりをつけなくてはならなくて。30年前の作品なのに、あまり古くなった感じがしないのもいいなと思いました。
ネズ:「母の友」に連載されていたころ、愛読していました。いまあらためて読んでみたら、文章のうまいこと、うまいこと! 子どもの本の文章は、こうでなくちゃと感激しました。「すずしいさがし」など、ちょっと書き方をあやまると、甘ったるくて嫌らしくなってしまうけれど、心を揺さぶられてしまう。猫は実は苦手なんだけど、本当にこんな風に感じたり、考えたりしているのかなと思ってしまいました。荻太郎さんの絵も、すばらしいですね。この世代の作者の文章を読むと、落語とか講談とか、日本の伝統的な話芸のベースがあるのを感じます。今の子どもにはわかりにくいところもあるかもしれないけれど、わからないなりに心に残っていて、大人になって「あっ、そうだったのか!」とわかることもある。子どもなりにすてきだなって思った文章は、ずっと覚えていますし、子どものときにいい文章を読むって、本当に大切なことだと思います。終わり方はすっきりしないところもあったけれど、無事に終わらせるにはこれしか仕方がないのかと……。
みっけ:なんていうか、作者の視線にすごいていねいさを感じますよね。文章もだし、いろいろなものを見ているその視線にも。
ハリネズミ:特に最初のほうは、人間と猫のやりとりがおもしろいですねえ。寿司屋に就職するブラックとか、アゲハに恋するトラノスケとか、大家49匹にいろいろ特徴があるのもいいですね。それに、随所にユーモアがちりばめられていて、笑えます。文章はいいんですけど、平仮名が多すぎるのは逆に読みにくいんじゃないかな。それから、タイヨー石は謎のままになってますね。最後のまとめ方だけはちょっと不満です。「私は今もねこたちとくらしています」で終わってもよかったのに。子孫が戻ってくるなんて、今の子には「ありえない」なんて言われそう。三木さんには犬の本もあって、私は『イヌのヒロシ』(理論社)も大好きです。
(「子どもの本で言いたい放題」2008年7月の記録)