この国は、深慮なしの政治家のせいで、だんだん戦争に近寄って行っている気がします。そんな不安を抱えている私たちが相談して、この本を出しました。これは、戦争や平和を考えるための子どもの本のガイドブックです。

子どもの本は、すべての学びの入口でもあるので、子どもに手渡すだけでなく、大人にも読んでほしいと思っています。

1ページ1冊の割合で作品が紹介されているだけでなく、ところどころにコラムがあって、まとめて考えることができる仕掛けになっています。編著者だけでなく、三宅興子さん、落合恵子さん、ひこ・田中さん、中島京子さん、安保関連法に反対するママの会の方、SEALDsメンバーだった方たちなど、何人かの方たちにも原稿を書いていただきました。

読んでおもしろいガイドブックになったかと思います。表紙の絵やカットは、いとうひろしさんが描いてくださいました。私はブックトークなどで戦争の本を取り上げるときのヒントもコラムで書いています。

野上さんが書いた前書きと私が書いた後書きを載せておきます。ぜひ、手に取ってみてください。

<はじめに>
日本は、1945年8月15日に、アメリカやイギリスなどの連合国を敵に回した戦争に負けて以来、一度も戦争をしていません。310万人ともいわれる、尊い犠牲者を出した反省から、憲法で戦争をしないと決めたからです。その後、世界の国々と友好関係を築き、平和が続いてきたことで経済も発展し、戦後の荒廃から立ち直り豊かな暮らしを実現できました。
ところが、それから70年以上もたつと、戦争の悲惨な記憶がうすれ、近隣の国々を侵略したことへの反省もなく、憲法の精神をないがしろにして、戦争ができる国に変えようとする力が強まってきています。世界の各地で、いまも戦争や紛争が起こっていますから、いつまた日本がそれに関わらないとも限りません。
子どもの本に関わる私たちは、将来にわたって戦争の悲劇を子どもたちに味わわせることを断じて避けたいと願います。そこで、全体を8章に分けて戦争と平和を考える本を300冊以上紹介しました。これまでも戦争と平和をテーマにしたブックリストはたくさんありましたが、この本では、コラムを除き2000年以降に発行された比較的新しい本を精選しています。この本をもとに、戦争のない平和な世界を作るには、どうすればいいか考えてもらうとうれしいです。(野上暁)

<おわりに>
戦争を描いた本なんて読みたくない、と思う方もたくさんいると思います。だって、暗くて、重苦しくて、子どもが笑ってくれないからね、という声も聞こえてきそうです。朝の読書の時間に、戦争が出てくる本はふさわしくないよね、とおっしゃる方がいるのも知っています。
「だけどね」と、私たち編集委員の五人は思いました。「だけど、戦争が出てくる本も読んでみようよ」と。とりわけ日本の国が戦争に向かおうとしているように思える今、読んでおく必要があるとも思いました。
それで、戦争と平和に関する子どもの本のブックリストを作ることにしました。私たちは集まって話し合い、どの本を取り上げるかを決めていきました。ほそえさちよさんに編集をお願いすることも決めました。そのうち、「一つのテーマで何点かの本を概観できるようなコラムも必要だね」、「今この本を戦争に向かわせないために、頑張っている仲間たちにも参加してもらおうよ」ということにもなりました。
今はまだこの日本には、小鳥の声で目を覚ます人もいるかもしれません。働きに行く前に犬を連れて林の中を散歩する人もいるかもしれません。友だちや仲間と楽しくおしゃべりしながらお昼ご飯を食べる人もいるかもしれません。子どもたちと水辺や牧場や公園で遊んでいる人もいるかもしれません。でも、戦争はそういうものの一切を徹底的に壊してしまいます。
私たちはこのブックガイドをつくりながら、こんな発見をしました。

・ほんとうの戦争って、ゲームとは全然違うということ
・戦争で儲ける人がいる以上、起こしたくなる人もいるということ
・戦争って、一度始まるとなかなか終わらせることができないということ
・戦争で死ぬのは、ほとんどが市民や子どもだということ
・戦争は、殺した方も大きな傷を負わなくてはならないということ
・このブックガイドに取り上げた本には、戦争や平和だけでなく、人間の奥深さが描かれているということ

ちょっと世界を見わたしてみてください。私たちには見えにくいけど、世界のあちこちに戦争や紛争で日常のくらしを壊されてしまった人たちがいます。生まれてからこの方ずっと戦争しか知らない子どもたちもいます。その人たち、その子どもたちは、私たちとは関係ないのでしょうか? 見ないですますことができれば、関係ないと言えるのかもしれません。でも、私たちの国でつくられた兵器がその人たちを殺してはいないでしょうか? 私たちが選んだはずの政治家が、その人たちの命を奪う手伝いをしてはいないでしょうか? そんなことにも目を向けていったほうがいいと私たちは考えました。
このブックガイドには、ここに載っている300冊の本の作家・画家たちだけでなく、紹介文を書いたみんなの気持ちもつまっています。そのうえに、読んでくださるみなさんの気持ちものせていただければ幸いです。
おもしろそうだなと思ったら、このブックガイドで取り上げた作品そのものを手に入れて読んでみてください。本屋さんになければ図書館でさがしてみてください。ブックトークの時に、取り上げてみてください。子どもが手に取れるようにしておいてください。そこから、何かが少しずつかわっていくかもしれません。(さくまゆみこ)

(編集:ほそえさちよさん 装画:いとうひろしさん デザイン:鷹觜麻衣子さん)

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<紹介記事>
・「岩手日報」2016年11月27日