『キノの旅(1) the Beautiful World』
時雨沢恵一/著 黒星紅白/挿絵
アスキー・メディアワークス(角川つばさ文庫)
2011.07

版元語録:『世界は美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい』--短編小説で綴られる、人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅の話。シリーズ累計700万部の人気作品「キノの旅」が角川つばさ文庫版で遂に登場。

ajian:1、2話読んで、あまりおもしろくなかったので、全部きちんと読めなかったですね。銀河鉄道999を思い出したけれど、もっと軽いというか、平板というか……。普通は、物語を物語ることで、何か伝わるものがあると思うのですが、これは何を伝えようとしているのか、よくわからなかったですね。こういう場所に行って、これこれこういうことがありました、という連続で。設定やアイデアだけがあって、肝心の中身がないように感じられました。

メリーさん:ライトノベルは時々読みますが、タイトルは知っているけれど手に取っていなかった1冊でした。これは、いわゆる大人向けの寓話ですよね。言葉遣いも、ある一定の年齢層に向けて書かれているので、この児童文庫の読者にはわからないものが多いのではないかと思いました。ただルビをふればいいのかというと、それは違う気が……。こういう物語は、主人公のキャラクターが好きか嫌いか、設定に入り込めるかどうか、ということで読み進めるものだと思うので、文学的にいいとか悪いという話とはまた別だと思います。人とバイクというアイデアはとてもおもしろいと思いましたが、キャラクターにはそれほど魅力を感じませんでした。

大福:少年漫画のような読みやすさと、戦えるカッコいい主人公、個性的で便利な相方エルメス。黒星さんという絵師さんは、機械をうまく描くことで定評があり、女性にも人気があります。作品とも合っていると思いました。このシリーズは、私が中学・高校生くらいの時に流行りました。かなり短い短編なので通学の時間に一話が読めたりと、量もちょうどよかったです。キノとエルメスがいろいろな国の人と関わって、いろいろな価値観を見せてくれるので、自分も少し哲学した気になれますし、自分がこの国に行ってキノの立場になったらどうするだろうと考えることがとても楽しかったことを思い出しました。電撃文庫にあった第4話「コロシアム」は、角川つばさ文庫版には入っておらず、そのかわりに「偉人の国」という短編が入っています。「コロシアム」では「殺せ殺せ」という大合唱や、キノが王様を銃で打ち抜く生々しい描写があるので、子どもにショックを与えないためなのかなと思いました。

トム:中高生に人気の本と聞きましたが……。人の痛みが分かる国、多数決の国、大人の国、平和の国などと、ひとつひとつの章に大きな主題がストレートに出ているけれど、なにか読後はすっきりしません。現実の皮を剥ごうとしているのかも知れないけれど、展開が一方的だし、読者に対して乱暴な気がします。戦争についてもこんなに簡単に書いておしまいにしてよいのかと思います。大国への批判は充分わかりますが……。全体を通して乾いて暗い感じですが、その暗さの質が気になります。

ハコベ:『星の王子さま』や『ガリヴァー旅行記』のような話ですが、どこがおもしろいのか、なぜ読まれているのか、さっぱりわかりませんでした。学校図書館(中学、高校)の司書の方にうかがったら、主人公が女の子っぽくなくて(イラストも含めて)、自分の目の前で起こる出来事に感情移入せず、いつも距離を置いてさめた姿勢でいるのがクールでかっこいいというので、読書力のある子にも無い子にもよく読まれているとのこと。世の中の出来事に真摯に立ち向かっていく姿を滑稽だとか、ウザいと感じる風潮と、どこかでつながっているのかもしれません。パラパラめくって軽く読む本なのでしょうが、それならもっとおもしろい本があるのにと思ってしまいます。

レンゲ:10年くらい前に中学校の図書室のボランティアをしていたとき、よく借り出されていた本です。今回初めて読んだのですが、私はつまらなかったです。大人になりたくない、大人になることに希望を持っていない子どもが、子どもに書いた本という印象で、そのニヒリズムがいやでした。投げやりという言葉にも通じますが、希望のないところが。
『ほこりまみれの兄弟』では、旅を通して主人公が成長していくけれど、これはひとつの旅が終わっても、前と同じで主人公は変わらない。なぜ突然攻撃的になるのかも理解できなくて、本と対話できませんでした。こういう世界はゲームでもたくさんあるし、別に本で示してやらなくてもいいのでは? つばさ文庫は小学校中学年からだそうですが、ただでさえ忙しい今の子どもに、わざわざこの本を手渡そうとは思いませんね。

ハリネズミ:ちょっと時間がなくて、まだ半分しか読んでいません。でも、机の上に置いておいたら、まわりの若い人たちがすぐに反応するので、人気がある本だということはすぐわかりました。学校という空間を息苦しいと思っている若い人たちが通学途中で読むには、いいのかもしれませんね。文学としては舞台設定もあいまいだし、情景描写もたいそう貧弱ですが、プロットだけはなかなかおもしろい。そういう意味では、今のライトノベルの典型かもしれませんね。角川つばさ文庫で読んだのですが、新たに書いたという4話だけが、ほかと違って、ですます調になっているのが気になりました。同じ注がどの話にも入っているのもわずらわしいと思いましたが、これはどこから読んでもいいという作者のメッセージなんでしょうか?

プルメリア:小学4〜5年の女の子たちが読んでいました。読んでいる子どもに「この本、みんなが読んでいるけれど、どこがおもしろいの?」と聞いたところ「キノが女の子っぽくないところが好き、それにどこからでも読めるし」と言っていました。今回読んでみたところ、女の子が手に取る表紙や挿絵だと思いました。どの章からでも読めることや各章の表紙がまとめて最初にある本作りは面白いと思いました。

きゃべつ:私も中学生のころに読みました。とても流行していて、この人の他の作品も読んだことがあります。クールで、世間を斜めに見ている「僕っ娘」のキノは、自意識を持て余している思春期の子にとても刺さるキャラクターなのだと思います。児童書で「旅」がテーマになる場合、そこには成長や目的があるけれど、『キノの旅』にはそれがなく、サザエさんのようにキャラクターは据え置かれて、旅という手段によって舞台のほうがくるくると変わっていく印象でした。さまざまな国が出てきますが、原作の電撃文庫でおそらく一番人気があり、もっとも『キノの旅』らしい「コロシアム」が角川つばさ文庫では収録されていません。代わりに入っていたのは、ですます調のお話で、ライトノベルをそのまま児童文庫に持ち込むことの揺らぎを感じました。

(「子どもの本で言いたい放題」2012年3月の記録)