『ブルー』
久美沙織/著 
理論社
2010.01

版元語録:真っ青な空が広がる夏のある日。13歳の今里杏は、生まれて初めて学校をさぼった。図書館で読書ざんまいのはずか、ひょんなことから、会ったばかりの女性の話を聞くはめに…。

レン:どう読んだらいいのか、戸惑いながら読み進めました。まず、冒頭のお母さんのとりみだしようが理解できないし、そのあと偶然出会ったおばさんと1日すごすのですが、この2人が接近するきっかけが読みとれずリアリティが感じられませんでした。どこか読み落としているのかと、何度も前に戻ったのですが結局わかりませんでした。中学生くらいの子は、こういった文体で書かれていると読みやすいと感じるのでしょうか。分類としてはエンターテインメントだと思いますが、これでよいのかと、疑問が残りました。

タビラコ:さっぱり分からない作品でした。青木湖に行くあたりから、ミステリーになるのかな?それともファンタジー?と期待しながら頑張って読んだのですが……。あとがきで、作者がなぜこの作品を書いたのか知り、単に作者の思い入れにつきあわされたのかと、がっかりしました。作家が物語を書く動機はいろいろあると思うのですが、それが作品として完成されていなければ、読者は読んで損しちゃったな!と思うだけ。けっきょく、ふたりのおしゃべりを聞かされただけで、物語が動いていっていない。安室奈美恵とか、現実の固有名詞がいろいろ出てくるところも、読者に媚びているような感じがしました。

トム:いま起きていることをぽつぽつとちりばめた短いラジオドラマを聞いているような感じがしました。読み終えて、もう1度会いたいと思う人が、この物語の中にはいなかったんです。やはりこのお母さんは苦手です。全体にどうしてこういう人のつながりになるのかわからないまま終わってしまいました。

紙魚:一人称というのは難しいですね。この作品は、地の文でも、カギ括弧内の会話文でも、つねに主人公が思いのたけをつぶやいていて、読みづらかったです。情景描写や状況描写が、極端に少なく、つねに登場人物が心のうちを語っているので、読み手としては、どんな気持ちでいるのだろうと想像しながら読むことができないんです。だから、最後まで、感情移入をすることなく、読み終えてしまいました。だからなのか、物語も、ポイントごとに進んでいくものの、登場人物たちといっしょに歩いたという気がしないんです。そのつもりになるからこその物語のおもしろさが、味わえませんでした。もしかしたら、思春期のある時期の人が読んだら、ぴったりとはまるのかもしれません。

きゃべつ:作者がまだ作品との適切な距離を見いだせていない作品だなと思いました。あとがきにもありますが、これは作者の身の回りに起きた事件を元にしているのですね。若くして事故で亡くなった体育の先生。そのひとは、どんな思いをかかえていたのか。それが、この物語のなかで追われている謎だと思うのですが、実際のモデルがいるからか、遠慮があって描けていないと思いました。キャラクターの造形にも、疑問があります。それぞれが与えられた一面しか演じず、深みがないからです。母親は悪い人、おぐらさんはいい人、父親もいい人、というように。父親というのは、いまだ経済的支柱としての性格を持っていると思いますが、この家庭では父親が父親としての役割を果たしておらず、その分を母親が負っています。父親は、亡くなってしまったことも大きいでしょうが、父親でないことで、主人公にとっての理想像となっているのだと思いました。私はまだ駆け出しの編集者ですが、読者にきちんと思いが伝わるように、作家と作品との距離を考えていきたいと思いました。

シア:とっても苦手なタイプの本です。帯などに「爽やかな物語」などというフレーズが書いてある場合は、危険信号です。すーっと読めてそのまま終わるというのが大抵なんです。文章も一人称というよりも単なる日記で、『まいったな〜』などと書き出す辺りでいい加減にしろと思いました。一生懸命中学生の視点で書こうとしているところが既に駄目です。かえって薄っぺらく感じます。狙って外しているので、もっと許せません。ギャグも寒いです。現在の芸能人の名前など、リアルな単語が出てくるのも苦手です。ライブ感が出るかもしれませんが、すぐに消費されていく作品ということを作者が分かってやっているということですよね。こういうのは嫌ですね。この作品は、何故か私の嫌なところを全て押さえてしまっています。分かりやすさだけでどんどんどんどん話を進めていく、中身のない麩菓子のような日本の作品って感じです。実際に起きた青木湖のバス事故を題材にしたので、関係者に迷惑がかからないようにと作中では湖の名前を「蒼木湖」にしたそうですが、全然変わってないですよね。丸わかりです。あとがきに「死は多く描かれているけれど、再生の物語です」というようなことが書かれてましたが、再生しているのは作者本人だけじゃないですか。こっちから感じるものもないですし、イライラしました。奥付の作家紹介も、こんな褒めてる紹介あったかなと思うような文章で、これはどうなのかと。この本ではここが一番おもしろかったですね。中高生で本を読みたくない人が、仕方なしにさらっと読むにはいいかもしれません。子どものための子どもの作品という感じです。

プルメリア:展開がよくわからず読みにくかったです。普通図書館で初めて出会った知らない人についていくのかな?と違和感があります。初めての食事の場面、デザートをやたらとすすめすぎエスプレッソのダブルもなぜか気になりました。お父さんのことを回想しながら、自分の生活を見直し前向きに歩いていこうという形で受け止めればいいのかも。事実を作品に取り入れることはすばらしい試みで、そこは新鮮だと思います。

ハリネズミ:今回読む時間がなかなか取れなかったので、薄いという理由で、これを最初に読みました。でも他の2冊を読んだ後に思いだそうとしたら思い出せないほど、印象の薄い本でした。見直しているうちにストーリーは思い出したのですが、まず私は、この不審なおばさんに主人公がついていってしまうのが疑問でした。ついていく何らかの魅力があるように書いてあるなら別ですが、何も書かれてない。私は作品世界のリアリティがないと嫌なほうなので、そこからもうあり得ないと思って印象が悪くなってしまいました。主人公の悩みにも入っていけないので、どうでもいいおしゃべりを聞かされているような気分になってしまったんです。本を読まない子どもには入りやすいという声もあるかと思いますが、本を読まない子だって、作品の中になんらかの真実が描かれていないと心の栄養にはならない。暇つぶしのエンタメならほかのメディアのほうが強いですからね。人間についてなり世界についてなりをもう少し考えたうえで、うまく若い人に伝わるように書いてほしいな。人物もすべて一面的で、ミムスのような魅力もない。作者が自分の心の救済をしているだけなのではないかと思ってしまいました。今回の選書担当者は今日来ていませんが、いいと思った理由を聞いてみれば、また違う見方もできるかもしれませんけどね。どんな本でもいいと思う人もいればよくないと思う人もいるので。

(「子どもの本で言いたい放題」2012年2月の記録)