『ローズの小さな図書館』
キンバリー・ウィルス・ホルト/作 谷口由美子/訳 
徳間書店
2013
原題:PART OF ME by Kimberly Willis Holt, 2006

版元語録: 1939年、パパが家を出ていき、ママは、私と弟と妹をつれて故郷ルイジアナに移ることに決めてしまった…。14歳のローズは、家族のために図書館バスのドライバーとして働きはじめる。でも、作家になる夢はずっと忘れなかった…。ローズの物語から始まり、息子、孫、ひ孫と、四人の十代の姿を生き生きと描く。本への愛がつなぐ、家族の五つの物語。

アカシア:ずいぶん前に読んだので思い出す部分と思い出さない部分があります。5部構成になっていて、4世代のそれぞれの物語をそのうちの4部をつかって書き、第5部で亡くなった登場人物以外の全員がそろうという構成がおもしろい。すべてのエピソードの舞台が図書館ではないけど、本や図書館にまつわる人を4世代にわたって描いています。アメリカの十代の普通の人たちがどんな暮らしをしていたのか、世代をまたがってたどれるところもおもしろかったです。わなにかかった犬の話など印象的なエピソードも登場します。おまけのおもしろさとしては、ホームレスの人が図書館でハリー・ポッターを読んでいるなんていうところ。平日の昼間、行き場のない人が図書館にいくのは、日本もアメリカも同じなのかと思いました。系図があるのでそれを見ながら読んでいけるのもいいですね。大傑作とは思いませんでしたが、佳作。気持ちのよい本でした。

ウグイス:4世代にわたる家族の物語で、最終章で79歳になった主人公ローズの現在が語られています。とてもつらい境遇にありながら、本が大好きで、移動図書館の運転手として本にかかわっていくローズ。どんな運命も受け入れていく主人公の芯の強さに共感を覚えました。最初の章の展開がおもしろく、この子がどうなっていくのかと期待が高まります。その後の章で、ローズの生き方や本に対する気持ちが、次の世代の家族にどう伝わっていくかが描かれています。2章以降は三人称で書かれているのでより客観的に物語が進み、描かれている期間もローズの章より短いので、ちょっと物足りなさも感じるのですが、読み進むにつれ、書かれていない部分にどんなことが起こったのかを想像する楽しみもあることに気づきました。例えば「アナベス」では3人の男性が出てきますが、次の「カイル」の章を読むと、アナベスの結婚相手は別の男性だとわかります。結局アナベスが選んだのはどんな人なのか、「カイル」を読んで知ることになるわけですが、その間の出来事は読者の想像にゆだねられているのです。人物描写は短いながら的確で、読者の想像をかき立てるので、十分に物語の中にひきこまれます。ローズの子ども、孫、曾孫の中には、ローズと同じように本が好きで図書館に通う者もいれば、本とは関係のない生活をする者もいるけれど、どこかで必ず本にかかわっていくところがおもしろい。どの章にも常にどこかにローズの存在があり、最後にローズの夢がかなうというのは、幸せな余韻が残る終わりかただと思いました。
 各世代の描写の中からは、それぞれの人生のほんの一部を垣間見ることしかできませんが、前の章からのつながりが随所に見られるので、読者は満足できます。そういった小さな描写が、その後の章への大切な伏線となって物語に深みを与えていると思います。たとえば、ローズは後に夫となるルーサーに出会ったとき、しわくちゃなシャツが気になるという描写があって、次の章では、ルーサーが「糊のきいたシャツのボタンをとめていた」という1文があり、結婚してローズがパリッとしたシャツを着せていることがわかるわけです。そういうのが、物語を読む楽しみのひとつだと思うし、読者を満足させてくれると思います。また、その時代にはやっていた小説や、図書館の様子にも時代性が見られ、「本」を通してアメリカの時代の移り変わりを感じることができます。日本でも翻訳されている書名が数多く、それを読む人々がより一層身近に感じられました。『大地』から『ハリー・ポッター』まで登場する本は他にないですよね。本や図書館をキーワードにして描いた家族の歴史というのは珍しく、本好きな人の心をくすぐる描写が数多く散りばめられています。図書館がなくてはならない存在であり、図書館員は本の好みを知り尽くした一生の良き友人として描かれているのもよかった。ローズが最初、ぜんぜん本を読まない人に『大地』を紹介して失敗するけれど、そのあともっと軽い本や料理のレシピ本などを手渡したら、その次に行った時には借りたい人を5人も連れて待っていてくれたところなんか、ぐっときました。
 原題、Part of Meはどう訳すか難しいところですが、「ローズの小さな図書館」とすると、ローズだけの物語にも思えるので、ちょっと内容と違うかなという気がしました。時の流れや家族の歴史というニュアンスがほしかったと思います。

ルパン:私もいいお話だと思いました。はじめにローズが出てきて、そのあと何世代にもわたる何十年分かのエピソードが出てくるんですけど、最後にまたローズの物語が出てくる、というのがすごくいいですね。ときどきちょっとわかりにくいところもありましたけど。たとえば、p16。「風車を回して、畑に水をやるのをやめた」という描写があるんですけど、これ、風車は回ったのか回らなかったのか、って悩んでしまいました。それから、ローズと図書館司書をやっていたアーマがずっと独身なのは切ないなと思いました。ローズの家系はつぎつぎに子どもが生まれてそれぞれの幸せをみつけていくのに、この人はずっと移動図書館のなかで人生を過ごしていくんですよね……。

シオデ:良い本だと思います。本でつながる4世代の物語というのも、本や図書館を愛する大人たちには文句なしに受け入れられるテーマですし、章ごとのエピソードも良く描けている。第1章と第2章は、特に良く書けていると思いました。ただ、私はひねくれているのかもしれませんが、おもしろくなかったし特に感動もしませんでした。発想から書き方に至るまで「いい本でしょ? 感動するでしょ?」と言っているような……。優等生的な感じがするんですよね。私は、登場人物が書いているうちに作者の手に負えなくなってしまうような、作者の思惑と違うところにたどりついてしまうような作品が好きなので、あまりおもしろみを感じなかったのかもしれません。書名がいろいろ出てきますけれど、その本が読んだ人の人生にどのように関わってきたかまでは書いていませんよね。その本を読んでいる読者は想像できるかもしれないけれど、本当は「本&図書館=素晴らしい」ということより、どうしてそうなのか、個々の本の力が読者の人生にどんな風に働きかけたのかを書いてもらいたかった。本好きの人にとっては、いまさらいうまでもない、当たり前のことなのかもしれないけれど。ちょっと引っかかったのはp176の「わけのわからないことをわめいているホームレスみたい」という1文。この子(アナベス)って嫌な子だなと、一瞬思ってしまいました。つぎの章にもホームレスの人たちのことが出てくるので、ホームレス(今は路上生活者っていうんじゃないかしら?)の人たちに対する感じ方が時代によって変わってきたと作者は言いたかったのかもしれないけれど、それだったらもう少していねいに書いてもよかったのでは? 原文がどうなっているかは分からないけれど、アナベスは路上生活者一般についてそう思っているのか、それとも特定の、たとえば自分の家の近くにいる誰かについてそう思っているのかもわかりませんでした。

夏子:アカシアさんと同じく、気持ちのいい本だと思いました。私は、表紙が気に入らないんです。この本は“時の流れ”が一つの大きなテーマとなっているのに、この表紙では、それがあまり感じられないのでは? 好意的に言うと、アメリカの移動図書館の車を、日本の読者に見せてあげる必要はあったのかもしれませんが……。本の内容は、最初のローズの章が何と言ってもいちばんおもしろかったです。「大草原の小さな家」シリーズのように、貧しく素朴な生活がリアルに描写されています。だけどこういうリアリズムのよさが発揮されるのは、貧しい時代の素朴な生活でないとだめなんだと思う。世代が代わってローズの孫のアナベスのあたりで、時代は近代ではなくなり現代になりますよね。現代になると、こういうリアリズムで生活を描いても、読者が共通項を持てないというか、共感しにくくなるんだと思う。アナベスの章は、主人公の心理描写になっているし、カイルの章になると、ハリーポッターの本が消えるというミステリーを持ってこないと、ストーリーにならなくなってくる。ええっと、村上龍の言葉を借りると、貧しさゆえの「悲しみ」に共感するのが近代で、個人がばらばらとなったがゆえの「寂しさ」に共感するのが現代とのこと。おおざっぱな言い方ですけれど、悲しみから寂しさへという近代から現代への変化が、1冊のなかで感じられて興味深かったです。
 最後にローズが登場することで円環が成立します。児童文学の中には、ものを書きたい女の子がたくさん登場しますよね。この本では、そういう女の子が年をとり、おばあちゃんになってから本を書くわけです。それをひ孫が読むというふうに時間が一巡りするところも、おもしろかったな。

ajian:好きな本でした。短いエピソードを重ねていくので読みやすかった。わなのところ、漁師のおじいちゃんのコネが運転免許場できいたはなしなど、一つ一つのエピソードが印象的です。こういう構成で書けるなんて巧い。いろいろな書名が挙がっていて、ローズがパール・バックの『大地』を貸して失敗したジュリアに次に『春は永遠』を貸して、とても気にいってもらます。『春は永遠』が読みたくなったけど残念ながら未訳でした。アメリカで有名な本がいろいろ挙がっていて、他の本も見てみたい気持ちになりました。アナベスが結婚したのは第3部には出てこない日系の人なんですが、それってだれ?と思いました。

夏子:日系の方の苗字は「コアミ」ですよね。「小網」さんっていうのかな?

シオデ:作者が知っている日系人の名前かもしれませんね。

ajian:だんだん現代的になっていくのもおもしろい。ベトナム戦争の話や、チャットルームに入り浸る子も、おもしろかった。

ルパン:未訳といえば、私も、『シンデレラの姉』を読んでいてお母さんが夕飯を作るのを忘れる、というシーンがあったので、その本を読んでみたいと思ったんですけど、これも日本では未訳でした。

:ちょっとお行儀がよすぎるかな。本好きに向けて「よくできた本でしょう」と主張しているみたい。本がたくさん出てきて、辛いときには『大地』、読書への目覚めには「ハリー・ポッター」などメンタルと本がリンクしてる。ブック・ピープル向けの工夫や間テキスト性がたっぷりでした。だから、ちょっと作りこみすぎかなと思いましたが、一応はおもしろかったです。ルイジアナだし貧しいし、最初は黒人の話かと思いましたが、白人ですね。クレオール的な言葉やアクセントは土地のもののようなので、翻訳で工夫されていますが、原文が見たいなと思いました。

ヤマネ:夏子先生が先ほど見せて下さった原書のように、時の流れを感じさせる表紙だったら手に取ったかもしれませんが、日本語版の表紙ではあまり手に取りたいと思いませんでした。また『ローズの小さな図書館』というタイトルから、もっと図書館の話を中心に描かれるのかと期待していましたが、実際は違いました。でも、4世代にわたる家族を書いている構成はとてもおもしろいと思いました。最初のページに載っている地図や家系図が読む手助けになりました。本の中で紹介されている名作とお話のつながりを感じられて心に残った場面は、マールヘンリーの章で『黄色い老犬』という本を読む場面。犬が助からないというパターンに陥ってなくて良かったとホッとしました。全体的にはあまり感動できなかったけれど、良い本だと思いました。

げた:私も、タイトルと表紙の絵を見て、もっと図書館を中心にした話なのかと思ったんですが、違いました。アメリカ南部の1940年前後からの子どもたちの様子を描いているんですね。先程リアリズムで素朴な生活が描かれているという意見が出ましたが、第2部の「わな」の描写などは、たしかに南部の生活を感じさせるリアリティがありますね。ただ、それぞれ章が短いので、これから、という感じのところで終わっていて、ちょっと印象が薄くなり、残念です。私ごとで恐縮ですが、ローズは自分の母と同い年で、母の人生とつい重ねてしまいました。

夏子:大人向けのこういう本『チボー家の人々』とか『ジャン・クリストフ』とかは、何て言うんだっけ? 「大河小説」でいいんですか? たいていもっと分量が多くて、何冊にもなっていますよね。これは短いエピソードをつないで1冊になっているので、読みやすくて助かる(?)というか、子ども向けなんだわね。でもこれほど短くても、後半になればなるほど、家系図を見ないと誰が誰だかわからなくなりますよね。

プルメリア:表紙の女の子は落ち着いていて14歳には見えないかな。裏表紙の、のどかな感じが気に入りました。各章ごとの内容が違っていますが、年号が書かれているので時間が経ったんだなと思うとすんなり内容には入れたような気がしました。ローズがミンクを溺れさせる場面など、当時の生活様式がわかり興味深く読めました。物語の舞台になっているアメリカの地図や家系図、作品に出てくる書名のリストがあるのは作品をさらに読みやすくしてくれました。図書館が作品の中にいろんな形で出てきたのがとてもよかったです。

レタマ:最初のローズの物語が一番印象的でした。17歳だとごまかして免許を取るときに、苦手なおじいさんが口ぞえしてくれるエピソード、移動図書館で人びとに本を手渡していく話など、とてもおもしろくて、そこだけをもっと深めてくれてもよかったのにと思いました。章ごとに世代が順々に変わっていく構成は、本を読み慣れている読者でないと読みにくいかな。1930年代と言ったら、日本の人たちはどんなふうに本を手にしていたのでしょうね。アメリカは図書館サービスが古くから発達していたのだなあと思いました。

シオデ:ルイジアナの言葉が出てきたり、それぞれの時代のベストセラーや背景にある事柄が出てきたりするので、アメリカの読者は自分の国の歴史や時の流れ、自分たちの家族について、日本の読者とはちがう感動をおぼえるのかもしれませんね。

ウグイス:地方色というのも一つの特徴なんでしょうね。ルイジアナといえば、アメリカ人なら誰でも知っているような雰囲気があるのだろうと思います。翻訳になるとそこがちょっと伝わりにくいというマイナスポイントはあるかも。以前、作者のホームページだったか、この本の紹介ページのBGMとして明るく賑やかなバンジョーの音色が流れていたんですね。たしかに日本語版のイメージとはちょっと違うかもしれません。

夏子:ルイジアナの地名は、確かブルボン王朝のルイ王から来ているんですよね。スペインやフランスのラテン文化が入っていて、独特な地域ですよね。

シオデ:ルイジアナの言葉の訳は難しかったでしょうね。促音の「ッ」が使われているところなど、音読するときはどんな風に読むのかな? 日本のどこかの地方の言葉を使う場合と、木下順二さんのように創作方言にする場合があるけれど、わたしは創作方言にするしかないと思っています。

夏子:すべて標準語に統一する翻訳者の方もいるけれど、それも味気ないですよね。

(「子どもの本で言いたい放題」2014年7月の記録)