『シャイローがきた夏』
フィリス・レイノルズ・ネイラー/著 さくまゆみこ/訳 岡本順/挿絵
あすなろ書房
2014
原題:SHAILOH by Phyllis Reynolds Naylor, 2000

版元語録:子犬のシャイローと出会ったことをきっかけに、少年マーティは、誰にも言えない秘密をもつことに・・・。子犬を思う少年の気持ちが、痛いほど伝わってくる珠玉の名作!

レジーナ:主人公が、犬を飼いたいとどれほど強く思っていて、シャイローのことをどれほど大切に思っているか。シャイローと心を通じ合わせていく過程が丁寧に描かれているので、最後にやっと犬らしくほえて喜びを表す場面が、胸につまりました。主人公の首筋に妹が顔をくっつけ、まつ毛をパチパチさせるのを「バタフライ・キス」と表現していますが、素敵な言葉ですね。岡田さんの挿絵は、温かでな物語の雰囲気によく合っていますね。いかにも西洋といった雰囲気に描かれていないので、日本の子どもも親しみやすいのではないでしょうか。

ハイジ:隠して飼うというのは、大変だけど、楽しかったのでは。ジャドが約束を守ってくれるかわからないのに、マーティがちゃんと働くところが、尊敬できました。

ルパン:私もそう思いました。最後に、ジャドも根はいい人だとわかって、読後感がとてもよかったです。

レン:ちょっと前に読んだので、細かいところを忘れてしまったのですが、いいなと思ったのは、男の子の気持ちに添って読めたところ。それと、大人の姿がくっきり描かれていること。ジャドも、両親も。大人の世界がきちんと描かれているのが、翻訳もののいいところですね。そして、日本の親子だったら、なかなかしないような会話が出てきます。英語圏だと、こういう会話を日常的にだれもがするのかはわからないけれど、自分の意見をきちんと言い表しています。いい意味で新しい世界を見せてくれると思います。

アンヌ:最初に読んだ時から、ラストのジャドの言葉にひかれました。善悪を決め付けるのではなく、曖昧さを許しているところが、意外でした。何度も読むうちに、もう、ジャドの気持ちになって読んでしまいました。普段は犬以外に誰もいない生活の中で、毎日主人公の少年と話す。すると、自分の子供時代の寂しさをつい口にしたり、虐待していじめるつもりが、水を用意したりするようになる。最後に、首輪を差し出す時のセリフには、シャドの代わりに泣きたくなりました。また、主人公の周りの大人たちの描き方も意外でした。狭い共同体の中で生きる大人たちは会話の仕方も独特で、直接話し始めるのではなく、回りくどく話しながら本題に入る。生活に困っている人のために、こっそりパイとかケーキを郵便ポストに入れてささやかな生活の援助をしようとする。なんだか白黒はっきり決めつけるようなところがなく、私自身のアメリカに対する偏見が、変わりました。

ヤマネ:とても好きなお話でした。主人公の男の子の気持ちになって読めるところが良いと思いました。シャイローを守るために、周りにどんどん嘘をついて苦しくなっていったり、お母さんに知られてしまってハラハラしながらも少しほっとするようなところなど、子どもの気持ちがよく描かれているので、読む子どもたちは主人公に深く共感しながら読めるのではないかと思いました。小学校高学年の子にぜひ薦めたいと思います。“日本の児童文学は、宗教と政治を書かない”と言われているようですが、p86で主人公の友達のお母さんが、普通の会話で、主人公に選挙の結果の話をしていて、このへんのところは日本の物語にはない要素だなと思いました。

ハリネズミ:私もとても好きな作品です。以前は同じ作品が『さびしい犬』(斉藤健一訳 講談社)というタイトルで出ていましたね。表紙に、ジャドと思われる人の顔にビーグルの胴体がついている絵が載っていて、私にはちょっと不気味でした。今回はイラストも変わって、原作のさわやかさがよく出ていますね。これはシリーズになっていて、続きがあるようです。日本ではまだ一巻目しか出ていませんが。映画化もされて、アメリカではとても人気がある作品のようです。約束はきちんと守るとか、自分でできることは子どもでもちゃんとやるとか、アメリカがもつ価値観の肯定できる部分を体現した作品だと思います。

アンヌ:いきなり主人公の少年がライフルを持って散歩し始めるのは衝撃でした。銃で撃たれたウサギの肉を食べるのもためらう性格なのに、ライフルを打つ練習をするのが日常というところに、銃社会を感じました。

(「子どもの本で言いたい放題」2015年3月の記録)