『ペーパーボーイ』 STAMP BOOKS

ヴィンス・ヴォーター/著 原田勝/訳
岩波書店
2016.07
原題:PAPERBOY by Vince Vawter, 2013

版元語録:1959年、メンフィス。ぼくは夏休みのあいだ、友達のラットに代わって新聞配達を引き受けることになった。すぐにどもってしまうせいで人と話すのは緊張する。でも大人の世界へ一歩踏み出したその夏は、思いもよらない個性的な人たちとの出会いと、そして事件が待っていた。2014年度ニューベリー賞オナーブック。

ルパン:ものすごくよかったです。ゆうべ、「明日読書会だから急いで読まなきゃ」と思って開いたのですが、1ページ目からもう時間を忘れ、何もかも忘れて、最後まで読みふけりました。唯一、「四つのことば」が今ひとつ明快にわからなかったことだけが残念ですが。student, servant, seekerはなんとなくわかるのですが、“seller”には、どんな哲学的な意味が隠されているのでしょう。でも、その謎もまた余韻として心に残ります。ところで、あとがきを読むと、これは自伝的小説なのですね。途中まで、昔の話だと気づかずに読んでいました。黒人がバスの座席などで差別されているという描写で、初めて現代が舞台でないことに気が付きました。でも、こういう時代って、それほど遠い過去の話ではないんですね。だってそれを経験した人がまだたくさん生きているのですから。この物語は、すべての登場人物が実に活き活きと描かれているところが一番よかったです。まるで今、そこにいるかのように、それぞれの姿が目に浮かんできます。

西山:気持ちよく、ストレスなく読みました。いつの時代か、意識せずに読んでいて、いま言われたように、私もバスのシーンで、あれ?となって裏表紙を見て1959年と気づきました。148ページの、大人になりたい理由など、とてもおもしろく読みました。吃音という困難を抱えているからこその部分と、その特殊性を超えた、普遍的な思春期の考え方や感じ方が分裂していなくていいなと思いました。言葉そのものが中心で、英単語自体のちょっとずらした言葉遊びや、お母さんの言い間違えなど、日本語に移し替えるのはものすごく大変なことだと思うんですけど、説明が挿入されるという感じではなくて、自然に読めたので、これは、すごいと思いました。

マリンゴ:岩波書店のスタンプブックスシリーズ、大好きです。なので、今回もとても楽しく読みました。装丁もとても素敵ですね。実は、私も数カ月新聞配達をしていた経験があるので、この本の新聞配達のシーンを読んで、いろいろと思いだすことがありました。たとえば、夕刊を毎日、門の外で立って待っている人がいたなぁ、とか。そういう触れ合いがあったので、この少年が配達を通してさまざまな人と出会っていく展開はリアルだと思いました。そして、何よりも文章がすばらしい。全文を通して読点が1つもないんですよね! それでいてまったく読みづらさを感じさせない、翻訳の技がすごいと思いました。

アンヌ:読点がなかったのですね。今の今まで気づきませんでした。「人が刺されたあの事件のこと……」と始まるのに、読んでいる最中は主人公の吃音の悩みに夢中になっていて、そういう事件に向かっていることも忘れていました。スピロさんに名前を聞かれて気絶する場面では、主人公の痛みを体中で感じました。2人が詩を一緒に朗読するところは、言葉を声に出す喜びと吃音の不可思議さを同時に感じられ、本当に素晴らしい場面だと思いました。マームが動物園で写真も撮ってもらえないということに、差別が様々な形で人を支配していたことを知らされました。スピロさんの変わった話し方とか、文章全体の不思議な一本調子とか、この翻訳者にしては変だなと思い、原文を読んだ人に教えてもらおうと思って今日来たのですが、読点なしだったとは……。すごい翻訳だと思います。うまい小説という書き方ではないけれど、本当に心に残る物語だと思います。表紙のポーチのベンチ型ブランコの絵もとても魅力的で、物語のイメージがうまく伝わっていると思います。続編があるなら読んでみたいと思っています。

アカシア:本の構造自体は『アポリア』と同じで、周りとのつき合いに困難を感じている少年が、否応なく周りの人と知り合うことになり、そこから成長していくという作品です。でも、こっちの方が、主人公に寄り添って一緒に成長していくような気持ちで読めますね。まだヴィクターは吃音を持っているので、しゃべるときには必要以上に息継ぎをしてしまうことから、文章を書くときは息継ぎなしで書きたい。だから原文もカンマなしなのですが、それを日本語でも、読点なしでいてちゃんと流れる文章にしている翻訳者の原田さんの腕がすばらしい。また脇スジとして、ヴィクターが父親とは血がつながっていないとわかる場面があるのですが、そこもとてもうまく書かれていて破綻がない。周囲にいる人たちがまた個性派ぞろいで、しかも味がある。うまい作家だし、うまい翻訳者。何度も読みたい作品に仕上がっています。

レジーナ:主人公はテレビ少年との出会いで、人は見かけより複雑で、いろんなものを抱えていると気づきます。主人公もマームもスピロさんも、1人1人が生き生きしていて魅力的です。誤解されたり、想いをうまく言葉にできなかったり、人と心を通わすことの難しさは、だれもが日々感じていることです。吃音の少年が主人公ですが、多くの人に届く普遍的な成長物語だと思いました。

げた:吃音の大変さを改めて、知りました。皆さんが言うように、スピロさんは知的で、カッコいいですよね。子どもの人格を認めて、1人の人間として接する。自分も常にそうありたいと思ってます。ワージントンの奥さんについては、主人公の少年が彼女を大人の女性として憧れる気持ちがなんとなくわかるような気がします。マームは母親以上の存在ですよね。マームの存在に比べて、父母の存在が薄いのが気になりました。R・Tとの戦いの場面は手に汗握る感じで、とっても、おもしろく読めました。本の装丁もかっこいいですね。

ネズミ:ほんとうにおもしろかったです。日本人の書いた作品と、外国の作品の違いというのも考えさせられました。吃音のことなど、日本のリアルな環境で描くのはかえって難しくて、現実との違いが気になってしまうのではと思うのですが、外国だとこういうものかと、かえってすっとその世界を受けとめて読める気がします。そして視野を広げることもできる。海外文学のよさですね。作品のおもしろさについては、みなさんのおっしゃるとおりですが、特に私の心に残ったのは「言葉」と表現をめぐるくだりです。言葉を出したからと言って、それですべてを表現できるわけじゃないというのが、書かれていますよね。80ページでは、自分が言おうとしたときに、思うように相手が受け止めないもどかしさや、人が発した言葉が、文字通りの意味だとは限らないことが書かれています。また246ページでは、マームが「パチリと大きな音をたててハンドバッグの口をしめた」のが「すべて終わってけりがついたことを宣言したみたい」というふうに、行動から読み取られる意味を語っています。お母さんの言い間違いは、それでお母さんの性格を露呈したり。いろいろなことを考えさせられました。

アカザ(メール参加)今日みんなで読んだ3冊のなかで一番良かったばかりでなく、最近読んだなかでも最高でした。原田さんの訳も本当に好きな作品を訳しているという感じが、ひしひしと伝わってくる見事なものでした。子どもの友だちに吃音の男の子がいましたが、これほどの苦しみを抱えているとは気づきませんでした。吃音を克服した作家ならではの悩みが細やかに描かれていて、興味深かった。医学的に吃音を治療するのではなく、人と人とのつながりで克服し、成長していく有様が描かれていて感動しました。程度にかかわらず障碍に悩む人たちにとって、心強いエールを送っている作品だと思います。どの登場人物もしっかり描かれていて、それだけでも素晴らしい。マームが素晴らしいですね。黒人が市民権を得る前の社会で誇りたかく、しかも賢く生きている姿が、とても美しいと思いました。

エーデルワイス(メール参加):IBBY主催「バリアフリー絵本展」(盛岡巡回展)の中に展示されていた1冊で、興味を持ちました。筆者の自伝的物語というのは納得。吃音症の少年の言葉を発音する心理がよく伝わってきました。黒人のメイド、マームとのやりとりやマームがヴィクターと呼ぶところが好きです。深い愛情が伝わってきます。R.T.とのやりとりはらはらしました。解決してよかった! スピロさんとのやりとりはまるで禅問答ようです。含蓄がある言葉の数々ですね。心に残った言葉がたくさんあります。1959年のアメリカの南部の様子、特に映画に出てくるようないかにも南部のアメリカの家の様子が分かります。まだ人種差別が色濃い中、ヴィクターの家は裕福で両親も人格者のようです。出生証明書の欄に「父親不明」と書いてあった件については解決されていないので、続編に明かされるのでしょうか。このことも筆者の事実なのかと気になります。

(2016年11月の言いたい放題)