げた:現実として、リアルのような、ここまでいいやつがいるかなってところはありますけれどね。完璧じゃないから、またそこがいい、こんな子がいるクラスだったらいいなっていうふうに思いました。先生もすごくクラス運営やりやすいんだろうなって。今でも現実にいじめって一定数あるんですよね。こういう子がいてくれたら、いじめもなくなるのにね。それとサジくんって、前の学校ではいじめられたけど、けっこう行動力があって、頼もしい感じがしました。リアルのお母さんを笑わせようと漫才のDVDを持っていくなんて、ちょっと想像を超えてますよね。リアルとアスカとサジの3人トリオ、すごくいい感じですね。

アンヌ:とても繊細に書かれていると小説だと思いましたが、それだけに息が詰まるようで読み返せませんでした。リアルが背負わされているものが大きすぎて、弟の死だけではなく母の病とか。アルトの様ないじめが趣味みたいな人間が出てきても、兄としての責任の問題に話が流れていくところとか、つらさが先立ちました。

コアラ:友情だけでなくて、恋と失恋の話にもなっていておもしろかったです。他人のことを思いやったり行動を理解したりして、繊細だし、無意識にやっていると気づかないことだと思うんですけれど、自覚的に友達同士でも配慮しあっているんだなと思いました。タイトルもおもしろいと思いましたが、装丁がちょっと地味かなという気がしました。

ハル:とてもよかったです。同性愛者の男の子が登場しますが、そうなるとこういうお話はだいたいそこに集中しがちで、道徳的にもなりがちだと思っていました。でも、戸森さんの場合は、そこは話のひとつで、道徳的にもならず、読書のおもしろさが存分に味わえる。夢中で読めて、読み終わってからもいろいろ思い返して心や頭で想像したり、考えたりできる。課題図書(第63回青少年読書感想文全国コンクール・小学高学年課題図書)に選ばれたのも納得の、いい本だと思います。

よもぎ:とてもおもしろかった! 会話といい、一人称で書いている地の文といい、こんなに上手い作者が出てきたんだと感動しました。特に、サジの書き方がいいですね。ちっともめそめそしていなくて。こういう書き方だったら、いろんな子がいて、どの子もみんな普通の存在なんだと読者の子どもたちも感じるのではと思いました。p201のサジのせりふ、「うそばっかり」なんて、いいですよね! あえて難をいえば、あまりにも上手くて、すっきりまとまりすぎているところかな。こういう言い方をすると叱られるかもしれませんが、女の人の書き方だなあと感じてしまいました。作者が自分の体験から書いた『ジョージと秘密のメリッサ』は、もっと激しい、胸に突きささるようなところがありましたけれど。

ネズミ:「ワケあり」のさまざまな事情をかかえながら生きていく子どもたちに共感しながら、ぐいぐい読まされる作品でした。おもしろかったです。p147に「いいたいことをいえばすっきりするから我慢するななんて、おとなはたまにそんなことをいうけど、そういうのってちょっと無責任だ。すっきりするだけじゃすまないってことを、ぼくたちはけっこうちゃんと知っている」という文章がありますが、子ども社会のたいへんさに作者がよりそっていて、もがきながら出口をさがしていく子どもたちを応援しているのが伝わってきました。

サンザシ:主人公のリアルは、あえてリアリティからちょっと離れたスーパーボーイにしているのだと思ったので、私はあまり気になりませんでした。とてもいいな、と思ったのは、サジが同性愛者だということが嫌な感じなしに書かれているところです。サジはそこだけではなく別の面もちゃんと描かれているので、一人の人間として浮かび上がってくる。またそのサジの思いを大事にしようとする渡の視点もいいな、と思いました。同性愛者とどう付き合っていいのかわからない子どももたくさんいるので、こういう作品が出るのは評価したいです。またこの作家は、文章にリズムやうねりがあって、会話のテンポもいい。これからが楽しみです。

ルパン:文句なくおもしろく読みました。いちばん良かったのはp201「だって、ふたりで外国にいけるほどおとなになるまで、ぼくとリアルは友だちでいられるだろうか。これだけははっきりわかるけど、五年になってぼくとリアルがなんとなく仲がいいかんじになれたのは、サジがいてくれたからだ。」というところです。地味キャラの「ぼく」の気もちがほんとうに“リアルに”伝わってきました。

マリンゴ:この本は、昨年刊行されて間もなく読みました。文章がとてもうまい。そして、リアルくんにしろ、サジくんにしろ、華やいだキャラクターなのが、他の児童文学と大きく違う点だと思います。一般的に日本の児童書に出てくる登場人物って、素朴なイメージの子が中心で、こういうふうに、オーラを持つ子が描かれているのは珍しいですよね。同世代の小学生の読者が憧れるような魅力的なキャラで、惹きつけられて読めそうだな、と。戸森さんのブログなどによれば、LGBTはこだわりのあるテーマだそうで、今後も書き続けたいようです。2作目の『11月のマーブル』(講談社)も読んで、わたしは『ぼくたちのリアル』のほうが好きでしたが、1作1作がほかの作品にない独特な雰囲気をまとっていて、これからも新作が楽しみです。

りんご:最初のリアルの描写にすごくひかれました。リアル、完璧すぎるんじゃないかとも思いましたが、嫌味じゃないし、こんな男の子いたらいいな、と素直に思います。3人の男の子たちも愛情深く描かれていて、しかもお父さん、お母さん、学校の先生もリアルに描かれているところが好きです。カバーに使われている紫色は、お話のなかで大事なモチーフになっているラピスラズリの色だそうです。

西山:私は『11月のマーブル』と続けざまに読んで、正直に言うと、初読のときは印象がよくなかったんです。2作の印象があっという間に混濁しちゃって。再読したら、ここ好きっていうところをあげていくと、驚くほどいっぱい出てくるんです。目に付いた一例を挙げるとp45「友だちの数が多いやつは、たいていベルマークを集めるのがうまい」とか、こういうのすごくおもしろいと思う。冒頭は、後藤竜二の『大地は天使でいっぱいだ』(講談社)を思い出しました。文章が生き生きしてる。うまい。でも、後藤竜二始め、先にたくさんいるし、こういうヒーローを出すのはとてもいいなと思ってるんですけれど、石川宏千花さんの『UFOはまだこない』(講談社)の彼がいたよなと思ったり。では、どういう点が新しいのかと考えると、トランスジェンダーの子どもを意識的にテーマとして取り込んでいる点かだろうけれど、2作の印象が混じってしまったのも、まさにその点が原因だと思うので、あまり手放しで賞賛できない感じです。お母さんの問題、リアルの問題、こんな重たいものを背負わせなくてもと、物語が過剰な感じもして、もっとものすごく日常のリアルたちを読みたいと思いました。作者が描きたいと思っている、目を向けている問題を入れることが過剰で、止めた方がいいと思うのではなくて、それらがもっと普通にさらりと書かれたのが読みたいという勝手な感想です。

サンザシ:さっき『川床にえくぼが三つ』(にしがきようこ著 小学館)を読んだとき「ふるふると首をふる」という表現はいかがなものか、という意見が出ていましたが、この作品にもp80に同じ表現が出てきます。はやりなのでしょうか?

よもぎ:いま、マンガやアニメに使われているオノマトペが、文学作品でもよく使われるようになってきてますよね。いいのか悪いのか、それともしかたがないのか分からないけれど、わたしとしては児童文学作品には昔からの美しい言葉を使ってもらいたいという気がしています。児童文学って、そういう言葉を次の世代に伝えていく船のようなものだと常々思っているから。その反面、作者独自のオノマトペを創造してほしいとも思うんですよね。

エーデルワイス(メール参加):よくあるテーマですが、構成がしっかりしていて、ぐいぐい読めました。同性を好きになる川上サジの内面はどうだったのか、深くは踏み込まないで、爽やかに終わっていますね。日本には昔からマンガにBL(ボーイズ・ラブ)の分類がありますが、やっぱりマンガのほうが進んでいる気がします。登場人物の名前が魅力的で、璃在の璃はラビスラズリでお母さんのるり子にたどりつくところとか、サジはスプーンで広い心をもってすくい取るだとか、最後に意味が明かされるところが憎いと思いました。

(2017年4月の「子どもの本で言いたい放題」より)