『月の影 影の海』 (十二国記) 

小野不由美/作
講談社
1992.06

版元語録:「あなたは私の主、お迎えにまいりました」学校にケイキと名のる男が突然、現われて、陽子を連れ去った。海に映る月の光をくぐりぬけ、辿りついたところは、地図にない国。そして、ここで陽子を待ちうけていたのは、のどかな風景とは裏腹に、闇から躍りでる異形の獣たちとの戦いだった。「なぜ、あたしをここへ連れてきたの?」陽子を異界へ喚んだのは誰なのか? 帰るあてもない陽子の孤独な旅が、いま始まる!

トチ:私は面白く読みました。オリジナリティーがあって、生き生きと描かれている。フィリップ・プルマンの〈ライラの冒険シリーズ〉はパラレルワールドから入るけど、〈十二国記〉は高校生の日常から、現実からスタートするので、中高生にも読みやすいのではないかと思いました。目新しいことが次々に出てきて、ストーリーにひかれて読みました。一国の統治者の選ばれ方が、選挙でも血筋でもなく、なんとなくダライラマの選び方に似ているところも面白かった。ただ、シリーズをずっと読んでいくと、『風の万里 黎明の空』あたりで、急につまらなくなる。同じ作者が書いたものだろうかと思うぐらい、文章に勢いが無くなるし、どういうわけかお説教くさくなる。ついに沈没してしまい、『図南の翼』は買ったけれど読んでいません。

アカシア:私も、このシリーズを次々に買ってずんずん読んでいったのだけど、途中の巻で読み続けられなくなった。文章も、なんだか急に下手になったなぁ、と思ったし。

カーコ:久しぶりに日本語の本を読みました。ハイファンタジーが苦手で、説明の細かいところは飛ばしてしまいましたが、筋としてはおもしろく、早く先が読みたいと一気に読みました。十二国の構成や階級などの詳しい説明に私は入りこめず、このように書きこんであるからおもしろいと一般の読者は感じるのか、ここまで書かなければおもしろ味がでないのだろうか、というのがよくわからず苦しかった。あと、陽子の父母が出てくる場面での二人のやり取りがステレオタイプに思え、陽子と学校の友達の会話にもひっかかりました。たとえば、宿題のプリントを友達に見せるシーン。「中嶋さんってまじめなんだねぇ」をうけて、「ホント、まじめ。あたし宿題なんてきらいだから、すぐ忘れちゃう」というの。十二国以外の部分、現実の世界の表現がこんなに直接的でよいのだろうかとおどろきました。

ペガサス:先入観なく読んだせいか、結構おもしろく読めました。BSでアニメになっているのを観たけど想像したとおりの感じ。主人公が陽子のほかにクラスメイトの男の子と女の子を加えた3人になっていた。普通の生活をしている子どもが異界へ行くファンタジーは、主人公が何か不満をかかえているといった必然性があるものが多いけど、この主人公の必然性はそれほど強くない。いい子に見られているということが不満といえば不満かもしれないけど、特に望まないのに選ばれてしまい、いやだいやだと思いながら引き返せないというところがおもしろい。「なぜ」ということがわからないまま、どんどん進んでいくし、つれてきたケイキという人物が消えてしまうので、ますます何がなんだかわからなくなる、それが読者を引っ張ってくれて、先へ先へと読ませるのでしょう。描写がわかりやすいから想像しやすいし読みやすかった。でも、12国全部読むのはちょっと辛いなあ。異界もの、という意味で、プルマンと一緒に取り上げたのはよかったかも。

アカシア:12の国があるから「十二国記」で、これは12の国のうちの一つの国の物語なのね。

ペガサス:すごくファンは多いみたいだけど、ストーリーが想像しやすいからかしら。

アカシア:プルマンとは質的には正反対だと思う。〈十二国記〉には新しい価値観は無いし、エンターテイメントだと思うけど、私はハリー・ポッターよりはおもしろいと思う。ハリー・ポッターを読むくらいなら、日本のファンタジーにもこんなにおもしろいものがあるのだから読んでほしい。全体に荒削りのところもあるし、文章のばらつきもあるけれど、小野さんにはストリーテラーとしての力もあるし、王様と麒麟の関係に興味がもてるし、必然性が無く選ばれると言うところも私はおもしろいと思った。インターネットで見ると、小野さんのファンのHPってたくさんあるのね。版元の講談社も〈十二国記〉のサイトを開いてるし、関連のイベントもいろいろあるみたいだし、熱烈なファンがたくさんいるのがよくわかる。

愁童:困ったなぁー。トチさんがハマってるっていうから期待して読んだのだけど、大人用(講談社文庫版)は文章がむずかしくて……。X文庫はやさしくしてあるらしいので、そっちで読めば良かったかな。ハリー・ポッター好きな人は同質なおもしろさで読めると思うけど、こっちは翻訳じゃないんだから、もうちょっと気持ちいい文章で読みたいな。劇画だと思えばOKなのだけれど。例えば、「どうしようもない」が「どうしようもできない」といった具合……。そんなにおもねなくてもと思っちゃう。ひょっとしたらハリ・ポタの方が日本語としてまともかな、なんて思ったりして。

ペガサス:「麒麟」なんて漢字で書くと格調高く見えるじゃない?

愁童:わざわざ使う必要があるのか?

アカシア:私は「麒麟」を出してきたのは、おもしろいと思ったな。ただし、全編において伝説や神話を下敷きにして考証を重ねて書いているのかというと、そうでもないみたい。何巻目かの後書きで、作者も不備がバレないか不安って書いていた。でも、アイデアを借りてきて、自由につくっちゃっても、こういうのはそれでいいんじゃないかな?

愁童:月の影が、沸き立つ海面に映ってるみたいな描写は、随分乱暴だなって思うけど……。モチーフは「千と千尋の神隠し」とよく似てる。きっかりした現実に向かい合えば、自立して行動できるというメッセージはそれなりに伝わってくるよね。今の子供達の教室の交友関係をうまく捉えていると思うし、そこを出発点にして、ファンタジーの中でしっかり成長していく女の子像は説得力はあると思う。

トチ:〈ハリー・ポッター〉より、人間の裏表が表現されているよね。主人公が出会う人物でも、動物でも、最初は敵か味方か、悪者かそうでないか、まったく分からない。親切そうにみえた小母さんが、実は主人公を売春宿に売りとばそうとしていたり……。

アカシア:〈ハリー・ポッター〉は、登場人物が紙人形みたいで裏から見るとのっぺらぼうだから、リアリティが感じられない。その点、〈十二国記〉にはリアリティがあるよね。

ペガサス:会話のやり取りにリアリティがあってうまい。〈ハリー・ポッター〉と比べても、実際にありそうな会話が多くて、こっちはおもしろい。表現の不備とか気になるところはあっても、こういうものはあまり考えずにどんどん読める。

愁童:憑依するときのヒヤッとする感じはリアリティがあっておもしろかった。でもこの世界、ファンタジーなの?

アカシア:しいていえばファンタジー的エンターテイメントじゃない? 今並んでいるネオファンタジーの範疇に入るのかな?

ねむりねずみ:最初から文章にひっかかりっぱなしで、すごい日本語だと思いました。時代がかった表現で書こうとしているのは分かるけれど、まず3ページの「目に強い酸味を感じた」というのに、え?こんな言い方したっけと思ったのが運の尽きで、それからは気になって気になって、例えば上巻の42ページの「ヒヒは〜」ではじまる文章にある「乱暴な運送」(講談社文庫版では「運搬」と変更)という言葉、こんなところで運送かあ、といった調子で、片っ端から引っかかった。あと、下巻の26ページに「ダイニングキッチン」という言葉が出てきて、このほうが今の若い人にはわかりいいのかもしれないけれど、中国風の粗末な家にダイニングキッチンはないんじゃないの?と思ったり。小難しい文章で、しかも若い人にわかるようにと考えた結果、こうなっちゃったのかなあ。

愁童:「とらまえる」なんて、平気で出てくるし……。

ねむりねずみ:私も上巻59pの「真っ暗な海で……」のところのイメージが今ひとつわからなかった。でも引っかかりながらも、先はどうなるかと気になって、そういう意味では一気に読めました。一言で言えば女の子の成長物語。箱入り娘だった主人公が、生きて行くだけでも大変な世界に行って、今まで気付かなかった自分に気付くと、そういうことなんだ、なるほど、なるほど、と思って読みました。異界に連れてこられてしまって、訳が分からないまま必死にがんばって生き延びようとする主人公の心の動きはうまくかけていると思いました。箱入りの生活から異界に入るという設定からして、随所に面白いところがあるし、ゲーム的な面白さもある。作品に勢いがあって、日本語を気にするのをやめたらすごい勢いで読めました。でも、イラストは安っぽくていやだった。大人の文庫には挿し絵がないみたいだから、そっちでで読めば良かったかな。

すあま:これはずっと以前に読んでいたのですが、読み直す時間が無くて忘れている部分もありました。図書館では、評価が高かったと記憶しています。〈十二国記〉の中ではこれが一番おもしろいと思う。王様に麒麟がついているという設定が面白かった。他の日本のファンタジーは古代に舞台を求めることが多かったけど、これは中国風なところが珍しい。作者が主人公をいじめていると言うか、女の子チックな話ではなくてハードボイルドなところが変わっていると思う。友人の中には何度も読み直す人もいるし、ホームページサイトもあってファンは多いみたい。大人版の文庫も出ているけど、私はx文庫のイラスト付で読みました。巻が進むにつれてコミカル系になっているのは、最初に力が入りすぎたのかしら。

愁童:陽子が思い迷う描写が冗長で、読むリズムが乱された。

トチ・中高生の読者は、主人公と一緒に悩んだり迷ったりしながら読むんでしょうね。中高生のそういう心の動きを、作者はよくわかって書いていると思いました。

(2002年04月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)