『見習い物語』
レオン・ガーフィールド/著 斉藤健一/訳
岩波少年文庫(全2巻)
2002 (福武書店 1992)
原題:THE APPRENTICES by Leon Garfield, 1982

版元語録(岩波書店):18世紀ロンドンの裏通り。点灯夫、産婆、質屋、葬儀屋、薬屋、印刷屋など,さまざまな職業の見習いの少年少女が日々切実な思いで生きていた。かれらの喜怒哀楽を、物語性ゆたかに印象的に描く、ユーモラスな12編の短編連作。

アカシア:文庫の表紙絵、新たに出したにしては何だか古めかしい。内容は、今回の3点の中では一番おもしろかった。それぞれ独立した短編だけど、同じ人物が所々で顔を出す。よく工夫されているし、短い中に人を惹きつけるものがあります。訳もよかった。『ブレーメンバス』(柏葉幸子/著 講談社)を取り上げた時に、短編らしい切れ味がないという欠点が挙がったけど、これはそういった欠点がなく短編集として安心して読めました。ただ、今の子どもたちにどうか、という点はありますね。見習いという立場の子どものことが、日本の子にわかるかどうか。徒弟制度についての説明は一応冒頭でしてあるけれど。点灯夫、煙突掃除など、イギリス文学にはよく出てくるので、イギリスの子どもにとってはなじみがあるんでしょうね。

愁童:今の日本の子たちは、こういう世界にまるで無縁でしょう。どういう仕事に就くかより、まず偏差値。だから、この作品のように、生きていくということの原点がすごくよくわかるものを今の子どもたちに読ませたい。短編としてうまくできているし、1つの章の登場人物が、別の章にさりげなく出てきたりして、見習いの子供達が当時の社会の中に組み込まれて生きていく様子に目配りが効いているように思った。、産婆見習いの章で、難産にならないように窓や箱やびんのふたなど、ありったけのものを開けるというのが出てくる。そんなの、今の子は、一体何言ってんの、と思うかもしれないが、生まれてくる命に対して、周囲がそういった配慮までして一生懸命かかわっていたんだということを知らせたいね。生きるということに対する意味が熱く語られている作品だと思った。

ハマグリ:18世紀のロンドンで、親方の所に修業に出された子どもたちの話、ということで、暗く、辛い話になりがちだけど、苦労しながらも子どもらしい知恵を発揮してたくましく生きていく様子が描かれているところがよいと思った。ユーモアがあり、パワフルな感じを受ける。子どもの力を信じるという観点に立っているところに好感がもてるのね。ディケンズの雰囲気に似てるといわれるけど、子どもの純真さが人の心に灯をともす、っていう描き方が似ているんじゃないかしら。短編集としては、12の月に合わせた物語が構成されている上に、1つ1つがバラバラでなく、関連付けられていていて見事。

きょん:クラシックな、正統派の作品で、安心して読める。たしかに今の子どもたちがわかるかどうか、とは思う。同時代的に存在するのはちょっと難しいのかな。『アリスの見習い物語』にも魔術的なものが出てきたけど、十分に描ききれていなかった。その点、こちらは満足できた。

すあま:だいぶ前に読んだ。今回あらためて読み直したのだが、やっぱりおもしろかった。こういうおもしろい短編を書ける人が日本にもいるといいのに。日本ならさしずめ江戸の町人もの、ってところでしょうか。暮しの中で起きるちょっとした出来事に光をあてる感じが、宮部みゆきの作品に似ていると思った。それぞれ短編として独立してはいるけれど、登場人物が重なっているのも楽しい。でも、この本は長編物語に見えるので、短いおもしろい話だ、ということを子どもに紹介してあげる必要がありますね。文庫化されて読む子が増えるならいいけれど。

:自分から手に取ろうとはしないだろう作品だったので、読めてよかったと思う。汗や臭いといった、普段使ってない五感に訴えるところが印象的。描写力があって、とにかく読み応えがあった。

ハマグリ:昔読んだ本なのに、今でもシーンを思い出せるところがすごい。

アカシア:これぞ読書の楽しみってところがあるよね。

(「子どもの本で言いたい放題」2004年5月の記録)