『エンジェル エンジェル エンジェル』
梨木香歩/著 (新潮文庫 2004)
原生林
1996

版元語録:コウコは、寝たきりに近いおばあちゃんの深夜のトイレ当番を引き受けることで熱帯魚を飼うのを許された。夜、水槽のある部屋で、おばあちゃんは不思議な反応を見せ、少女のような表情でコウコと話をするようになる。ある日、熱帯魚の水槽を見守る二人が目にしたものは――なぜ、こんなむごいことに。コウコの嘆きが、おばあちゃんの胸奥に眠る少女時代の切ない記憶を呼び起こす……。

すあま:おばあさんとおかあさんと女の子が登場して、おかあさんのいないところでおばあさんと女の子が時間を共有する、というところが『亀になったおばあさん』と共通していた。さわことこうこの話をもっと交差させればよかったのではないか。この作家の作品には、おばあさんと孫がよく出てきますね。

雨蛙:タイトルどおり『エンジェル エンジェル エンジェル』づくしの本ですね。文体を変えておばあさんの出来事を語ってますが、これだけでおばあさんは極楽浄土にいけるんでしょうか? 熱帯魚に興味がないせいもあり、この作品はいちばん感情移入をしにくかった。

アカシア:梨木さんの作品の雰囲気は、大庭みな子の作品にちょっと似てますけど、私は大庭みな子のほうがうまいと思います。この作品は、おばあさんの人生がおもしろく伝わってこない。エンジェルフィッシュが共食いするのなんか自然の摂理なのに大げさなのも、いやでしたね。

愁童:図書館で借りられなくて、評判の高い本だし、知り合いの中学生にあげてもいいと思って買って読んだんだけど、期待はずれでした。同じ著者の『裏庭』(理論社)も精神医学に詳しいことにからめて評価されてたけど、どうもそう言う部分で迷路に入り込んじゃってる感じがしました。『亀になったおばあさん』と発想が同じ。はめ絵がはまるようにぴたっと決まったという納得感が得られなくて、消化不良のまま放り出された感じ。

ハマグリ:梨木さんは苦手だけど、これはなんだか食い入るように読んでしまった。でも読んだあと、いやーな感じが残った。今と昔が交錯している構成によって、次第にわかっていくことがあるのかと思って読むんですが、最終的にわからないこともあって不満が残る。エンジェルをモチーフにしているのはわかるけど、何の意味があるのかわからない。おばあさんになっても残っている悔恨を描いたの?

アカシア:心の揺れ動きみたいなものをうまく書いてるんでしょうけど、世界が狭いのが気になりますね。

紙魚:『亀になったおばあさん』は冷たいと思わなかったんですが、これはちょっと背すじが凍るようなおそろしさがありました。感覚的な表現はとってもうまくて、すごいなあとは思いましたが、なかなか愛着が持ちにくい物語ですね。オリジナル版は、おばあさんの章は文語体でなく茶色い文字で印刷されています。文庫化するときに、2色刷りができなくて、改稿したのでしょう。

カーコ:私はこの作家に苦手意識があって……。「狭い世界」というのは、そのとおりですね。小さいなら小さいなりに、細部に目をみはるような新鮮さがあればいいけれど、そういうわけではない。この女の子とおばあさんの関係も深まっていくというのでもない。つかみどころのない気持ちの悪さが残りました。

むう:『裏庭』読んだとき、なんだか未消化の心理学や洋もののファンタジーのごった煮みたいでいやだなと思って、それ以来あまり印象がよくないんです。この作品は短いし、すいすいと読めるのは読めたんですけれど、読後感がよろしくない。脂ぎったエンゼルフィッシュの印象に収斂しちゃう感じ。おばあちゃんの少女時代にしろ、主人公の現在のことにしろ、一皮めくった底意地の悪いところがじわっと出ていて、決して積極的意地悪じゃないんだけど、不作為の意地悪とでもいうのかな。一見きれいなエンゼルフィッシュもそうだし、おばあちゃんがツネに対してフォローしないで放っておくこともそうだし、「わたし」が思いつきでエンゼルフィッシュを飼い、共食いを見ているだけなのもそう。これだけ強烈な印象を残すのは、ある意味では作家の腕がいいんだろうけれど、読んでよかったという気持ちになる本ではない。人間の嫌な部分をびらびらと見せられているような気色の悪さがあります。随所に、最後のつねの木彫りの天使が飛び出してくるところとか、鮮烈なイメージを残す場面があって、うまいなあと思ったけれど、全体としては好きじゃありませんでした。

ケロ:この作品は、1回目読んでよくわからなかったので、2回読んだんです。古い、茶殻まいて掃除したりするディテイルは好きです。自分の悪魔的な部分を見て絶望するという部分と、自分のエンジェル的な部分と悪魔的な部分の折り合いがつかないあたりは、よくわかりました。でも、自分のそれと、おばあちゃんのそれが、ぴったりはまっているように感じられなかった。それに、おばあちゃんも、過去のことが解決して安心して死んだというわけではないですよね。それぞれのちょっとだぶっている部分を交互に描いた、という感じで、読後に「うまい!」とは、思えなかったです。

:私は、図書館で何人も予約が入ってて借りられなかったの。人気があるのよね。

アサギ:文庫版にするとき、なんで旧仮名遣いに変えたのかしらね。ただ書いているっていう感じで、作品の必然性を感じなかったわね。ただ、部分的に風物とか、シュークリームとか、おもしろいところがあったわね。解説のように、はめ絵がぴったり合う感じはなかったわね。それと、どこか心理の奥に死に向かうものがあったんじゃないかしら。また死んじゃった、また死んじゃったと楽しんでいるような。

ハマグリ:あとがきの人、孫娘にコウちゃんという名前をつけるわけじゃない。それはぞっとしたわ。

(「子どもの本で言いたい放題」2004年7月の記録)