『ビッグTと呼んでくれ』
K.L.ゴーイング/著 浅尾敦則/訳
徳間書店
2007
原題:FAT KID RULES THE WORLD, 2003

オビ語録:「おまえ、すげえドラマーになれるぜ、ビッグT!」/破滅的なパンクロッカーとバンドを組んだ、超絶デブ高校生のコミカルで強烈な日々?/

アカシア:とてもおもしろかった。主人公のトロイは、自分にはいろいろな点でマイナスのレッテルを貼りまくっています。まわりの目を気にしすぎるし、〈デブ〉という脅迫観念にとらわれすぎている。それで、まわりの人たちには逆にプラスイメージのレッテルを貼りまくる。自分のことも他人のことも等身大にとらえることができないでね。弟は「どこにいてもしっくり適応できる」し、お父さんは「元海兵隊でびしっとしてて、背が高いけど筋肉質でデブじゃない」。カート・マックレーのことも、最初はやはり実像でなくレッテルで見てしまって「やせてる」、「まわりをまったく気にしない」「かっこいい」「自己表現できる」と、自分とは正反対のプラスイメージで最初はとらえている。でも、しだいに自分のことも他者のことも客観的に見ることができるようになっていきます。そのへんの過程が、うまく書けてますよね。最後、元海兵隊のお父さんの手をかりて、カートといっしょに住もうっていうのは、ちょっとやりすぎかなって思ったけど、カートはほかに救いようがないから、これしかないのかもしれません。カートみたいな子っていうのも想像できるし、トロイみたいな子もいっぱいいるだろうし。極端なプラスイメージや極端なマイナスイメージを出してオーバーに書いている部分など、コミカルな感じもあって。まじめなテーマだけど、笑えるところもあるって、いいじゃないですか。翻訳もうまい。

愁童:作者の創作姿勢がよく似ていて、『トモ〜』と読み比べる感じでおもしろく読めましたね。パンクロックがはやっていた時代にちょっと寄りかかりすぎてて、生活臭が感じられなくて、やや物足りない面もあるけど、自分のデブを鬱陶しく思う主人公の心情が良く書けていて、共感をもって読めたですね。

アカシア:パンクロックって、今でもまだ白人の間でははやってるんじゃないかな。この作者は、けっこう細かいところもきちんと書いてますよ。たとえばこのお父さんだけど、p33に「外に出ると、不審者が侵入しないよう、建物の入口をしっかりロックしてから、つかつかっとこっちにやってきた」なんて書いてます。p55には「部屋の奥にある窓の外に、一文字掛けた〈アン ィーク〉という赤いネオンサインがあって、けばけばしい光が部屋にさしこんでいる」なんていう描写もあるわよ。

mari777:私は今月の3冊の中でいちばんひきこまれて読みました。表紙の絵を見て、自分では絶対に買わない本だと思ったんですけど。内容的にはかなり特殊な世界を描いてるけど、翻訳ものっていうのがプラスに作用しているように思いました。ニューヨークを舞台にしていることで、距離がとれるっていうか、現代の日本の高校生が読んでも、逆にすんなり世界に入っていけるんじゃないかなと。翻訳はうまいなって思いました。最初から最後まで、ていねいに訳している感じです。ただ、割注が多いのが気になりました。割注ってどうなんでしょうね。

アカシア:読みたくない子はすっとばせばいいから、いいんじゃない?

クモッチ:翻訳物って、当たり前ですが外国のことなので、分からないことが結構ありますよね。そのぼんやりした感じもけっこう好きなんですが、脚注を読みながら、へ〜えと思う感覚も好きです。135ページの「デッドマン・ウォーキング」なんかはこれでよくわかるし。159ページの「あまーい空気…」についてる(マリファナはあまい香りがする)は、よけいかな。でも、おもしろい。207ページのように話の流れが速いところのベスピオ火山なんかは、無意識に読み飛ばしてたみたい。最後にまとめて注がついているのは、逆に話が中断してしまうので読みにくいと思ってしまいます。

げた:『トモ〜』もそうですけど、イメージがすぐにぱっと広がる感じです。タイトルを見ただけで、「何だろう?!」と手にとりたくなりますよね。主役の登場の仕方もおもしろい。地下鉄でふらふらしていたところを声をかけられて、おごらされちゃう。そしたら、それがロックの神様。伝説のロックスター。どうしてTがそんなに気に入られたのか、わかんないところもありますけどね。自虐的な「デブ」がどこまで、ビッグになるのかなって、期待させるところもおもしろいです。やっと、ライブにこぎつけたんだけど、いいところで、ゲロ吐いちゃって。でも、二度目の挑戦でスティックを持つところで終わって、ビッグなTを予感させる終わり方がよかった。すごく映像イメージがしやすくて、映画になりそうだなって思いました。一気に読者をひっぱっていってくれる本ですね。

クモッチ:私もおもしろくて一気に読んじゃいました。でも、カートの人物像がぶれちゃって、よくわからなくなったんですけど、先ほどおっしゃったように、主人公の目線で書いているので、それでかなと納得した感じです。でも、『トモ…』も1人称なんですよね。うーん、『トモ…』は、ぶれなかったんだけど。ぶれてしまうのは、「マンハッタンの高校生像」てのが、よくわからないからかな? カートの弱い面とスルドイ発言をする面に、私の中では折り合いがつかなかったという感じです。それにしても、この作品は、強烈です。臭かったり、うるさかったり、トロイがすごく食べるんで、読んでいて、だんだん気持ち悪くなってきちゃって。まあ、気分が悪くなるくらいリアル、ということなんですが、ほんと、キモチ悪かったです、これ。それにしても、父親が完璧なんですよね。中盤以降よく登場するこの父親は、どうしてトロイが過食症になっちゃったんだろう、というくらい良い父親ですよね。

アカシア:いや、いい人だけど、きっとそんなに完璧でもないんですよ。他者にはみんなプラスのレッテルを貼ってるトロイの目から見ると完璧に見えるけど、よく読むと、子どものことで悩んでる姿とか、「〈落胆している役たたずの片親です〉の電光掲示板が、頭上でチカチカ輝いている」なんて書いてありますもん。

クモッチ:最後のほうで、カートが「あのカップルを見ろよ」って言って、トロイが見ているうちにだんだんわかってくるシーンは、おもしろかった。こういうところも、カートはどこまでわかってるんだろう、と思いました。

アカシア:こういう子っていますよ。感受性はめちゃめちゃ鋭いんです。そのくせ、自分のことをかまってくれる人がいないから、正反対のタイプなのにトロイのお父さんみたいな人にちょっとなついちゃう。

きょん:私もカートのことがよくわからなくて、たぶんトロイの一人称で書いているから、カートのことを最初のうちは語れなかったんですね。

ジーナ:勢いのあるストーリーだと思いました。ぐいぐい読ませる。まさに、気持ち悪いほどのリアリティ。ここまでストロングな作品はなかなかないなーと。トロイが、カートというはちゃめちゃな子と出会って変わっていくのですが、ほかの人も変わっていくんですね。お父さんは、すごく厳格な人なのに、173ページで、カートは自分が盗みをしたのは「腹が減ってたし、疲れてたからっすよ」だなんてとんでもないことを言われても、鬼軍曹に豹変せず、カートに対して、予想と違う面を見せていくでしょ? だれもが、ステレオタイプにはまらずに、ストーリーの中で意外性を見せていくところがとてもおもしろいと思いました。ロックの場面の迫力は圧倒的で、すごい音が聞こえてきそう。ロック好きの息子に読めと勧めてしまいました。こういう場面を、文章でこんなふうに表現できるのだということを伝えたくて。

きょん:すごくおもしろく読みました。自分に自信を持つまでのストーリーで、ハチャメチャなところがおもしろいです。が、デブとしてのいじけた気持ちが前半延々と語られるのが、もういいやという感じもしました。デブの息遣いが聞こえてくるようで、私も気持ち悪くなってしまった。でも、カートとで会って変わっていって、ゲロを吐くところで、あまりな展開にびっくりして、そのあとぐいぐい読みました。人物の描き方がとてもうまい。カートが主人公のことをとても認めていたことに、トロイが気づくところもおもしろい。カートが、「お前も自分をさらして生きているんだ」というところ、カートがTを精神的に救ってくれた。でも、弟とのかかわりで、少しひっかかりました。デブの兄を前半さげすんで嫌っているが、わりとすっと認めていく様子に変わっていくところ。そんなふうにすっといくのかな?という感じがしました。

アカシア:前半は弟が「〜と思っているにちがいない」と言うくだりが多いんです。トロイが弟の実像を見ているわけじゃなくて、「きっと自分のことをさげすんで嫌ってるんだろう」と思い込んでる。それが、だんだん等身大の人物像として感じられるようになってくるんです。人物像がぶれてるわけじゃなくて、トロイの見方が変わって行くんじゃないかな。

愁童:終わり方が『トモ〜』と似ているなって、ちょっと思いましたね。最後の最後で、ギターと会話をしていくというのに、ドラムにスティックをたたきつけるという表現にはちょっと違和感を持ちました。ま、訳の影響もあるかもしれないけどね。

アカシア:最初の大事なステージではゲロ吐いちゃうんですよ。だから、ここでは叩きつけるほどでないとだめなんじゃないですか。

愁童:作者は、かなりの枚数を使って、主人公がギタリストのギターとの会話風なドラム演奏の練習シーンを詳しく説明的に書いてますよね。それだけに、作品の流れにそって読んでくると、「さぁ、会話の時間だ」という切っ掛けの言葉に反応してスティックをドラムにたたきつける、という表現が浮いてしまっているように読めちゃうんだけどな。まぁ、読み方次第では、これは主人公の最初のライブ演奏にスタートする意気込みの表現と受け取ってもいいんだろうとは思いますけどね。

一同:いや〜そんなもんじゃないよ。これでいいんじゃない?

(「子どもの本で言いたい放題」2007年9月の記録)