『おおやさんはねこ』
三木卓/著 荻太郎/画
福音館書店(福音館文庫)
2006

版元語録:ぼくが引っ越そうと思い部屋を探していると、不動産屋に格安の物件がありました。しかし、条件の一つに「毎日、お魚を食べる方」と書いてあったのです。芥川賞作家が子どもたちに贈る、動物ファンタジーの傑作。

球磨:また鎌倉が舞台の話ですね。もうちょっと漢字を入れて上の学年の子もすっと入れるようにしてもいいのではないでしょうか。内容は、好感をもって読めました。最後の終わり方が今ひとつ物足りません。

マタタビ:一話一話楽しみに読みました。一見ほのぼのとした童話ですが、じっくり読むと、大人にはツンとくるペーソスや味わい深いユーモアがあって、しみじみしました。でも、そういった楽しみって、大人読みすればわかるけれど、子どもには味わえるかな? 何とも言えない軽みや、かすかな哀愁、きっと著者ご自身、自分で楽しみながら書かれたんだろうと思います。ストーリー自体は、ビールを飲む楽しみについてや、銀行からのお金の話など、大人ならそのおもしろさがよくわかる内容が多く、子ども向けとは言えない。単に動物が出てくる童話として、幼い子どもに与えたのではと少しもったいないかな。大人のことが理解できる大きな子に読んでほしい。

ジーナ:楽しいというより、愉快という感じでした。うまいですね。とても上質なフィクションだと思いました。はしばしが楽しめて。整理券のするめを食べてしまうところなんて、とてもおもしろいですよね。店子のぼくも足を1本食べてしまうとか。あと、この本は哲学的なところがあって、たとえば252ページ。猫の毎日はつらいことばかりだと言われたぼくが、「にんげんだってそうですよ。(中略)すばらしい日もありますけれど、それは、その生き物の一生からみれば、たいていの日はつらいものです。だからすばらしい日は、よけいすばらしくもなるのですけれどね。」という言葉にはじーんとしました。今の書き手はなかなか書かない世界だと思いました。今の子に読んでほしいですね。

みっけ:なんか、ふにゃふにゃっとしていて、それがなんとも心地よく、おもしろかったです。くすくす、にやりと笑ってばかりでした。この人間さんがまるでカリカリしていないのもいいですよね。心底納得とか、そういう激しい関係ではなく、しょうがないなあ、と思いながらもそれなりにつきあっていて、それを自分も楽しんでいる。そのスタンスがとってもいい感じだと思いました。私は、子どもは子どもなりに十分楽しめると思いました。だって、もうあっちこっちがおかしくて、笑えるもの。初めて猫と出会うところで、一切説明も言い訳もなく猫がすぐにしゃべりだして会話が成立してしまうあたりも、下手するととてもぎこちなくなったり嘘くさくなるんだけど、そういう感じがないんですよね。ほんとうには起こりえないのに、この作者の世界にすっかり入り込んで、話がするすると展開していく。そのあたりがうまいですねえ。最後で猫を眠らせて全部外に出す、という展開は、こういうふうに納めるしかなかった、という感じでしょうかね。暴力を使うわけにもいかず、でも何らかのけりをつけなくてはならなくて。30年前の作品なのに、あまり古くなった感じがしないのもいいなと思いました。

ネズ:「母の友」に連載されていたころ、愛読していました。いまあらためて読んでみたら、文章のうまいこと、うまいこと! 子どもの本の文章は、こうでなくちゃと感激しました。「すずしいさがし」など、ちょっと書き方をあやまると、甘ったるくて嫌らしくなってしまうけれど、心を揺さぶられてしまう。猫は実は苦手なんだけど、本当にこんな風に感じたり、考えたりしているのかなと思ってしまいました。荻太郎さんの絵も、すばらしいですね。この世代の作者の文章を読むと、落語とか講談とか、日本の伝統的な話芸のベースがあるのを感じます。今の子どもにはわかりにくいところもあるかもしれないけれど、わからないなりに心に残っていて、大人になって「あっ、そうだったのか!」とわかることもある。子どもなりにすてきだなって思った文章は、ずっと覚えていますし、子どものときにいい文章を読むって、本当に大切なことだと思います。終わり方はすっきりしないところもあったけれど、無事に終わらせるにはこれしか仕方がないのかと……。

みっけ:なんていうか、作者の視線にすごいていねいさを感じますよね。文章もだし、いろいろなものを見ているその視線にも。

ハリネズミ:特に最初のほうは、人間と猫のやりとりがおもしろいですねえ。寿司屋に就職するブラックとか、アゲハに恋するトラノスケとか、大家49匹にいろいろ特徴があるのもいいですね。それに、随所にユーモアがちりばめられていて、笑えます。文章はいいんですけど、平仮名が多すぎるのは逆に読みにくいんじゃないかな。それから、タイヨー石は謎のままになってますね。最後のまとめ方だけはちょっと不満です。「私は今もねこたちとくらしています」で終わってもよかったのに。子孫が戻ってくるなんて、今の子には「ありえない」なんて言われそう。三木さんには犬の本もあって、私は『イヌのヒロシ』(理論社)も大好きです。

(「子どもの本で言いたい放題」2008年7月の記録)