『ぼくの羊をさがして』
ヴァレリー・ハブズ/著 片岡しのぶ/訳
あすなろ書房
2008-04
原題:SHEEP by Valerie Hobbs, 2006

版元語録:りっぱな牧羊犬になるために、ひとりぼっちのボーダー・コリー、ジャックは旅に出た。けなげな子犬の姿が胸をうつ感動の物語。

ハリネズミ:この作品もやっぱり犬を通して人間を描いてるんですね。さっきメリーさんが、今日の3冊はほんとに犬がこんなことを思ってるのか、いぶかりながら読んだって言ってましたけど、たとえば81ページを見てください。ホラリンとスナッチが、犬をおいてきぼりにしたあと、この犬が人間の心理をくみ取って自分をなだめるところがあるでしょう。こんなこと、犬が思うわけないですよ。かなり擬人化されているんです。嫌な悪人はサーカスの団長くらいで、あとの登場人物はみんないい人たちですね。そしてみんな名前があるんですけど、ヤギを飼ってたおじいさんだけは名前がない。このおじいさんが1人で暮らしていて、他人から名前を呼ばれることがないからですね。構成としては、現在の状態が最初に出てきてから、過去にさかのぼります。苦しいことがたくさんあっても、今は幸せだっていうのがわかってるから、子どもが読んでいて安心できるかもしれません。子どもたちに、生きるということはどういうことかを伝えようとする箇所がたくさんあります。ヤギ飼いのおじいさんは哲学的で、へたをすると説教くさくなってしまいそうですが、犬に語りかける形なので、嫌みがなくていですね。日本語の書名から、この犬は最後にまた牧羊犬になるのだろうと思ってたら、ルークが自分を必要としているのを感じるという方が大きかった。ルークと犬の関係は短い言葉でうまく書かれてますね。この犬が、ルークと一緒にいようと決心するところも自然で、うまいなって思いました。

エクレア:おもしろく読みました。一難去ってまた一難。最後は生まれた所に戻らず少年と一緒になるストーリーは、予想とは違いました。サーカスでは、動物はいろんな技をしこまれ、リアルですが残酷でかわいそう。動物の苦労がよくわかりました。目次のタイトルがすごくおもしろかったです。いろいろな場面が設定された作品を、ペットでなく牧羊犬として生きたい思いの犬といっしょに冒険しながら読みました。ルークと一緒に犬もひきとられる終わり方にホッとしました。

ハリネズミ:翻訳がとてもじょうずですよね。ひょっとすると、原書で読むより味わい深いかもしれませんね。

ヨカ:訳がいい、というお話しのすぐ後で、ちょっと言いにくいんですが、私はこれはダメでした。片岡しのぶさんは、前にこの会で取り上げた『モギ』(リンダ・スー・パーク著 あすなろ書房)でも、訳がうまいなあと感心したのですが、この本に限っていえば、冒頭からつまずきました。「よ」とか「ね」とかいう語尾が多用されているのが、まとわりつくような感じでアウト。なんとなく、甘い感じが漂っていて、苦手だ!というのが先に来てしまいました。アメリカのロードムービーの犬版、という感じで、いろいろな人が出てくる、という展開のおもしろさはわかったし、最後にルークを何とか里親と結びつけようとして、主人公が宙返りをするあたりは、サーカスでの経験が生きていて、うまくできているなあ、と感心したんですが……。最初でつまずいてしまったせいか、入り込めませんでした。それに、おじいさんの話も、ちょっと説教くさいなあと思ったし。残念!

サンシャイン:安心して読みました。牧羊犬として働きたいと思いながら、あっちこっちを放浪する。でも最後には小規模だけど羊の管理もできるような所にたどり着く。いろいろな人間が出てきて、みなし子で孤独な男の子(犬が主人公ですが)の気持ちもよく感じられる。同じみなし子の少年が里親に気に入られるように手助けするところなど感動的でした。犬同士の、(人間的な)出会いとまた人間模様を描いたお話。いい本だと思いました。中1くらいに読ませたいですね。

メリーさん:この物語は、犬の視点で、できごとが語られますが、やはり描かれているのは、人間の気持ちだと思いました。たとえば、主人公の犬が自らの気持ちを誇りを持って語る場面とか、サーカスで、他の犬が主人公に対してエールを送る場面など。犬は本当にそう思っているのか?(たぶん思っていない)と感じました。ただ、最終章での、犬と少年ルークの描写だけはリアリティがある。どちらも長い旅を経て、理解しあえる相手を見つける力が備わった。そこでは、人間と犬を越えた信頼関係が成り立っています。その描写はとても素敵だと思いました。どこまで擬人化するのか?というのはとても難しい問題ですね。物語の前半ではもう少し擬人化をせずに、それぞれの個性のぶつかり合いが描かれるとよかったかな。

ウグイス:いろいろな人間が出てきますが、それを犬の視点から観察していておもしろかった。犬がこんなことを考えるのか、という疑問はあるかもしれないけど、犬が語り手になっていることを最初から納得して読んでいけば、わりあいすんなりと読めると思います。最後にボブさんと会えるのかなと思ったという人がいましたが、私は最初から会えないだろうな、と思ってました。でもきっとハッピーエンドになると思ったので、ボブさんに代わる人がきっと見つかるに違いないし、どういう幸せの形が用意されているのかな、という興味があったんです。そして、最初にルークが犬を見つけるところに「あれ、わんちゃんだ」(p130)というセリフがあります。この言葉にルークの子どもらしさがとても出ていて、「あっ、この子だな!」と私は思いました。前に男の子というものには犬が必要だ、ってことが書いてあって、男の子と犬には大人にはわからない気持ちのつながりがあり、特別な存在なんだということがてもよく書かれていた。
 とてもわかりやすくて、おもしろい本だったけど、書名のイメージとは違いました。羊というのは象徴的なもので、もっと寓話的な内容なのかなと思ってたんです。表紙の感じも、内容より大人っぽい。犬と子どもの話だということがわかれば、もう少し子どもが手に取りやすいのではないかな。帯には子どもと犬のイラストがついているんですね。でも図書館の本に帯はないし、よく見ると背に子どもと犬のイラストがあるけど、小さすぎてよくわからないですね。

げた:話の筋がはっきりしていて、盛り上がりもあり、最後にきちんとあるべきところにもどってこられて、ハッピーエンドで終わりというのがわかりやすかったかな。行きて帰りし物語ですね。この犬、牧羊犬としての生き方を貫き通すというのが、偉いなと思いつつ、もう少し融通をきかせた生き方もありなんじゃないか、なんて思いながら読みました。

チェコ:表紙のイメージからは、確かにこんな話だと思いませんでした。犬が主人公の本としては、成功していると感じました。盗みはしないとか、ゴミあさりはしないなど、わざとらしいという意見もありましたが、私はかえって、犬として誇り高いところなんだと思いました。私も、ボブさんとはもう会えないと思いながら読み進みましたが、ラストがどうなるか予想がつきませんでした。主人公が犬であるが故に、人間が主人公だったらありえないような過酷なシチュエーションが出てきて、そこもおもしろかったです。サーカスに入ったときは、相手が犬だから人間の残忍さが余計ストレートに描けていて、効果的だったと思います。おじいさんとの旅も、破天荒でおもしろかったです。

クモッチ:さっきからメリーさんが、主人公が犬であるっていうことにこだわった発言をされてますが、確かに言われてみると、そんな気高いこと犬が思うわけないよなというところがありますよね。でも同時に、犬が言うことだから説教くさくなく読めることもあって、犬を主人公にするって結構便利だなあと思いました。放浪させたりするのだって、人間だとリアルすぎるけど、犬だとコミカルに読むことができますね。それから、この物語には、生きていく中で何度か思い返したいようなフレーズがたくさん出てきます。例えば181ページ、ヤギを飼ってるおじいさんが言う、人間にとって幸せとは何なのか、というようなところ。年齢が上のYA世代が読んだら、響くものがあるのではないかな、と思ったりしました。

セシ:おもしろかったです。犬のキャラが立っていますよね。働く犬だという誇りがあって、すごく気骨がある。人の世話になるのも、人に使われるのもだめとか。170ページの5行目「ああいうフニャフニャ声は、ぼくは大きらいだ。ルークはああっさりあきらめてしまうけど、そこがよくない」というところ、きっぱり感がよく出ています。「羊のいるところにいかなきゃならない」というのがずっと通っているので、それにひっぱられて読み進められます。前にこの会で読んだ、ネズミが冒険していく『川の光』(松浦寿輝/著 中央公論新社)では教訓が鼻についたけれど、これは哲学的なことも盛り込んでいるけれどお説教くさくないですよね。あらためて、あちらは大人の視点の大人のための作品、こちらは子どものために書かれた本だというのがわかりました。この犬がどこまでもポジティブに進んでいるところ、今の子に読ませたいですね。

うさこ:楽しく読めました。犬がとても健気で、犬に気持ちを寄せやすかったです。ロードムービーのような、犬と一緒に旅をしている感じもしました。犬が出会った人間によって、それぞれの章で味わいが違っていて、よかったと思います。書名の『ぼくの羊をさがして』の「羊」に置き換わることばが、章によって、「ボブさん」だったり、「居場所」だったり、「ぼくの価値」だったり、「誇り」だったり、「未来」だったりと、作りもうまいなと思ました。おじいさんの話は、嫌みがなく、いろいろなことを伝えているなと思いました。最初に結末が書かれているので、犬が途中辛い目にあっても、結末はハッピーになるから、どういう形でハッピーエンドになるのかなと、安心して読めました。

ウグイス:私はYAよりももっと下の子に読んでほしいと思うの。わかりやすいし、4年生から6年生くらいに読んでほしい内容だと思います。確かにおじいさんの言葉など、難しい部分も出てくるけど、おじいさんはそういう言葉を言うのが得意な人、ということで出てくるので、理解できるでしょう。装丁も書名もYA向きとして出されているらしく、小学生には難しそうに見えるのが残念。

(「子どもの本で言いたい放題」2009年1月の記録)