シア:『ビーバー族のしるし』と似たような時代ということで、時代背景としては、ディズニーランドで子どもたちも知ってるかな。なんて思って読み始めたら、びっくりの読みにくさ。文体のせいなのか、詩的すぎて読めません。ぶつ切りと言ってもいい文章。登場人物もだれがだれだかさっぱりわからなくて。読みながら、最初の登場人物一覧を何度も見ました。栞を挟んで読んでたくらいです。途中から見ちゃった昔の海外ドラマって感じ。訳のせいかなとも思うんですが、何がなんだかわからない。これで読書感想文を書くってどう書けっていうのでしょう? 高校生でもきびしいと思います。それに、中身はぜんぜん印象に残らないんですけど、殺人事件とか恋愛とかだけ妙になまなましくて。その辺が課題図書なのに嫌だなと。この作品を「ツァイト紙が絶賛」したって書いてあるんですけど、ドイツ人の感覚がわからなくなりました。頑張って読んで、何も残らない。表紙や題名は美しいけれど、これに騙されて高校生はみんな読むんじゃないかと思うと、心が痛みます。

エーデルワイス:そうか。最初のところに登場人物の一覧があったんですね。見ないで読んでたもんだから、名前が頭に入ってこなくて。だれかがだれかを殺したなっていうのが、4件くらいありましたか? 社会的には裁かれない。そういうこの場所での事件と、ハサウェイと彼女との恋愛がからんで進んでるんだなっていうのがわかるけれど、正直あんまりおもしろくなかったです。

メリーさん:高校生対象ということなので、ほとんど大人向け小説と同じだろうなと思いながら読み始めました。最後、メイシェを守るためにダッチ・ヘンリーを殺す場面はあざやかでした。ただそれにしても、文章が散漫で読みにくい。よくいえば短く区切ったハードボイルドなのですが、改ページ改ページで物語がつながらない感じがしました。子どもたちはこれを読んで、何を感じるのか? 追体験をするのか、全く違った時代と世界の物語として読むのか……? 課題図書になる前に、どの層をターゲットにして作ったのか疑問に思いました。文体がドライな一方で、中で擬音がたくさん使われていたり、装丁がヤングアダルトのようだったりと、ターゲットがはっきりしないところが難しい原因かなと思いました。

レン:私も途中で投げそうになりました。名前がいろいろ出てきて、だれのことをいっているのかわからなくなって。ハサウェイは、「歳は十四。いや十三か、もしかしたら十五」と8ページにあるのに、せりふがどことなくおやじくさくて、なかなかイメージできませんでした。『とむらう女』や『ササフラススプリングスの七不思議』(ベティ・G・バーニィ著 清水奈緒子訳 評論社)など、このところアメリカが舞台の作品が多いですね。アメリカが舞台だと、読者はずいぶん許容範囲が広いんだなと思いました。金鉱掘りの話なら、子どもの本で他に『金鉱町のルーシー』(カレン・クシュマン著 柳井薫訳 あすなろ書房)などがあるし、この本をわざわざ読ませなくてもと思いました。わからなさが残る作品でした。

ジラフ:『ビーバー族のしるし』を読んだすぐ後に、これを読みました。『ビーバー族〜』がしっかりとした、手ごたえのある作品だったせいもあって、散文詩のような『ハサウェイ・ジョウンズの恋』には、私もなかなか入りこめませんでした。この世界にどうしたらシンクロできるんだろう、何かアプローチできる手がかりはないか、自分の読み方が下手なんじゃないか、とすら思ったくらいで(笑)。ハサウェイの気持ちにうまく乗れれば、この美しい詩的な世界を感じることができるのかもしれない、と思いながら、結局乗れないまま、最後までいってしまいました。会話の文体にも違和感がありました。原語で読んだら、印象もまた変わるのかもしれませんけど。英語圏の作品とはちがう、ヨーロッパ特有の文体の問題もあるのな、と思いました。

酉三:私はめちゃくちゃおもしろく読みました。ハサウェイが不器用で、恋をしているということでばっちりはまった。カタカナでわけのわからない言葉(登場人物など)が続出することにも違和感はありませんでした。設定などは適当に流しながら読める。とにかく不器用な主人公と女の子の恋ということで楽しく読めたんです。作者は当時の記録を読んだのかもしれませんね。そこから想像を膨らませながら、ウェスタンを描いたのではないか。大自然の中で、むき出しの人間を書くのは、ここはとてもいい舞台。もっとおもろい言葉でくどかんか!と思いながら、主人公の不器用さにひかれて読みました。たしかに訳文は、やりすぎの感があるが、この3作の中で、私としては一番おすすめ。ただ、この恋愛を高校生に読ませて、どう思うか。年配の不器用な人が青春を思い出して読むにはいいけど。

レン:やはり大人の本なのでは?

ハマグリ:原題は「ハサウェイ・ジョウンズ」なのに、邦題には「恋」がつき、しかも「恋」を赤字で書いて目立たせています。装丁は初刷と2刷では全く違いますね。最初は大人向けの感じだったけど、課題図書になってから、タイトルを大きくしたのね。このタイトルや、きれいな表紙の絵から想像した物語とは全く違っていました。私も登場人物が多くて誰が誰やらわからなくなり、とても読みにくかった。途中で投げ出してしまいました。

ハリネズミ:私はけっこうおもしろく読みました。人殺しがしょっちゅうおこるような荒くれた舞台で、この若い主人公が一途に思いをよせていることは伝わってきます。文体も読みにくいとは思いませんでした。ただし、同じような名前の登場人物がたくさん出てきて、それぞれの人物がつかめるような描写はされていませんね。ハサウェイが生活必需品と同時に、物語を届けるということも、おもしろい。でも、これを課題図書にして作文を書くのは難しいのではないでしょうか。今の高校生がうぶな恋に心惹かれるとは思わないし、それ以外に何があるのかというと、ない。これがなぜ課題図書になったんでしょう? 大人の本として、文芸書として出して、何人か読む人がいるというのでいいんじゃないのかな。28ページの文字、前のページに送った方がいいのでは。

げた:19世紀半ばのゴールドラッシュ時代の一攫千金を夢見るアメリカの人々の人間模様や時代背景を読みとるにはいい本かな、と思いました。ハサウェイとフロラの恋を語る中で、「天使が心臓にしょんべんをかけた」という表現はおもしろいなと思いましたね。こういう時代だから、郵便事業もあるわけではないので、こういう仕事が歴史的事実としてあったということを高校生が読み取れればいいのかなと思います。この本はハサウェイとフロラの単なる恋物語ではないので、確かに、インターネットに出ている読後評を読んでも、どうやってこれで感想文を書けばいいのかわからないとか、読みにくいという感想が多かったようですね。何がなんでも今の高校生に読ませたいとい本ではないと思います。

プルメリア:表紙も素敵で、恋や友情があっていいなと思って読み始めましたが、文章が詩的で読みにくかった。ピアノを運ぶのに木箱に載せ、それをラバにのせて運んだというところがわかりづらく、小さいラバに乗せても大丈夫なのか、また父と子でピューマを簡単に射止めているが、実体験に基づいていないのではないかとも思いました。ハサウェイの父は字が書けるのに、少年になぜ字を教えなかったんでしょう? ハサウェイとフロラが簡単に結婚できるのも、ピンときません。『ビーバー族〜』とくらべると、次から次へと物事が解決していきますが、リアリティがないように感じました。最初に想像した物語とは違って、物足りなさが残りました。

シア:大半の高校生は、課題図書3冊のうちタイトルと装丁でこれを選ぶだろうと思います。とくに女の子は。だから本嫌いにしてしまうかもしれない本ともいえますね。恐ろしい罠とも言えます。

うさこ:タイトルに「恋」と入っているので、SLA推薦の「恋」なのかあ、と斜めな気持ちで読み始めました。厳しい自然のなかの出来事なのに、なんだかきれすぎる訳文がかみあっていない。そんななか、「天使が心臓に〜」などという表現は妙に際立って響いてきます。原題が「ハサウェイ・ジョーンズ」、でもこれをそのまま日本語のタイトルにしても内容がわからないので、日本語タイトルには「恋」を入れたのかな? そのために恋に関連する場面の表現は他のところより際立っていたのかなと、あれこれ想像しました。登場人物はたくさん出てくるけど、一人一人をあまり掘り下げて書いていないせいか、全体的に散漫な感じがしました。ハサウェイが郵便だけでなく、お話を届けるというのは、いいなと思ったけど。本や物語にふれることがそう多くない時代に、人間のなかにストーリーが生まれる、その原風景のようなものを感じました。ストーリーそのものをもっと読みたかったけど。どういうふうに感想文を書くのかな? きっと迷うと思う。自分の感じたままを書くと少し変になるのでは?

シア:SLAには選定図書や課題図書と色々あって、それぞれ選び方が違うので、何でこれが選ばれたんだかわかりません。

レン:「物語を運ぶ」主人公の「恋」と言っているけれど、でも語った物語そのものはほとんど出てこないんですね。だから、主人公がおもしろい話をしたというのが伝わってこない気がしました。

うさこ:たしかにそう。語ると、「つまらない」なんて言われたりして。『ササフラス・スプリングの七不思議』と違うのは、『ササフラス〜』の7つの物語がそれぞれおもしろかったこと。今回は3冊とも、現代と遠く離れた時代で、3人とも男の子が主人公で、学校にも行ってなくて…という共通点がありますね。

(「子どもの本で言いたい放題」2010年7月の記録)