『ステップファザー・ステップ〜屋根から落ちてきたお父さん』
宮部みゆき/著 千野えなが/挿絵
講談社(青い鳥文庫)
2005.10

版元語録:哲と直は中学生の双子の兄弟。2人きりで暮らす家に、ある日、屋根から泥棒が落ちてきた! 3人を巻き込む不思議な事件やできごとにドキドキ、ワクワク、最後はほろりの、ユーモアミステリー。1993年刊より6話を採録。

プルメリア:宮部みゆきさんは好きな作家さんの一人です。以前、講談社文庫で読んだときはおもしろいなと思ったんですけど、その後、小学校の学校図書館に購入した今回の本(講談社青い鳥文庫)を手にしたところ、以前の本と比べてしまい、挿絵がないほうがいいかなと思いました。小学校では高学年の女子に人気がありよく読まれています。今回あらためて読みましたが、あまりおもしろくなかったんです。双子の会話が作った感じで、自然体ではないように思えました。私の学級の子どもたち(小学4年生)に出だしを紹介したところ、男子から「『お父さんとお母さんが出てった』って、そんなことしていいのかな」という声が出ました。本を読んだ男子は「字が細かいし、書いてある内容がわからない」と言っていました。男子に比べて女子は「おもしろい。絵も好き」と人気でした。「ワープロって知っている?」と聞くと「国語に出ていたよ」との返事。国語の教科書に点字ワープロが出ていたので、パソコンとワープロの違いを言わなくても抵抗はないようです。私は最初のお話の鏡の世界がまあまあかなと思いました。挿絵では主人公が中1には見えない。中学生が読むには間延びしちゃうかな。

クモッチ:宮部みゆきさんは大好きなので、この本も普通の文庫で読みました。他の作品と違って軽く読めるので、読んでいるときはすごく楽しくて、読み終わるとすっかり忘れてしまう、という感じ。それはそれで、読書の楽しみ方の一つですよね。だけど、今回課題本になったのでもう一度読み返したのですが、あまり覚えていなくてあせってしまいました。このシリーズのものであれば、もうちょっと短くてコンパクトにしたほうが、よかったのでは、とも思いました。赤川次郎さんの作品を読んでいる感じでしたね。決して大人も完璧な存在ではなくって、しかも殺人みたいな事件がちゃんと起こっているところなどが、そんな印象でした。

アカザ:私も、たしか前に読んだと思うのですが、すっかり忘れていました。宮部さんの作品は、どれもくっきりと覚えているのに。この作品は、もともと子ども向けのものではなくて、普通の軽いエンターテインメントとして書いたものを青い鳥文庫に入れたのではないかしら。使っている言葉もそうですが、設定も子ども向けにはどうかなと思うようなところがありますから。双子の子ども自体に作者の思い入れがあるわけでもなく、かといって語り手の「おれ」に思い入れがあるわけでもなく、ただ面白いものを軽く書いたって感じ。文章はさすがに上手いなって思いますけど。

ハマグリ:主人公の一人称で書いている饒舌な感じがとってもおもしろくて、最初は楽しく読んでいたんですけど、同じようなパターンの章が続くので半分くらいで飽きてしまって、ちょっと退屈になりました。お父さんっていうには若すぎる主人公が、最初はちょっと閉口していた双子にだんだん情が移ってくる感じがおもしろかったです。でも全体に設定が絵空事っぽいのは否めない。子どもの読者は、全く子どもだけで暮らすなんてことができるといいなと思って楽しく読むだろうけど、偽札のところとか、ちょっとありえない設定も多かったと思います。絵に描いたお札が偽札だとわからないなんて……。最後は、実は主人公は双子にだまされていたというどんでん返しがきっとあると期待して読んでいたら、違ったので残念。そう思ったのは著者がミステリーだって言っているからなんですが、これではあまりミステリーの楽しさはないと思いました。5,6年生が気軽に楽しく読めて、このくらいの分量のものをとにかく1冊読み通したって思えるところはいいかな、と思います。子どもが使わないような四文字熟語とか言い回しとかが出てくるのも、大人っぽいものを読んだなって気持ちになるんじゃないかと思います。

ひいらぎ:宮部さんはけっこう好きなんですが、これはあんまり。すべてが絵空事という感じが最初からしてしまって。双子の子どもは、会話も絵も中学生には思えないし、どうも落ち着かないんですよね。さっき青い鳥文庫版は大人版のをベースに加筆したんじゃないかっていう話がありましたけど、逆に大人向けに出ているものから、6話だけをとったんじゃないの? 大人向けはもっと長くて、そっちを読んだら、物語としても腑に落ちるのかな、と思いました。中途半端感が少なくてね。プロットはそれなりにおもしろそうなんですけど、この版で読むせいか、キャラがどうもペープサートの紙人形が動いているみたいで。それから、双子が台詞を立て続けに言うところは、カギ括弧の前に句点がどれも入っているせいで、勢いがそがれちゃってますね。

アカザ:本好きの子どもって、とにかくなにからなにまで手当り次第にどっさり読むってことがあるでしょう? 私自身も子どもの時そうだったし、子どもたちにもそうしてもらいたいから、そういうときに読むにはいいのかなと思います。

ハマグリ:これって雑誌連載だったのかな? 章の頭に状況説明が同じように繰り返されるでしょ? 雑誌で毎回読んでいったらおもしろいのかもね。

クモッチ:宮部みゆきさんの作品への入口、って感じになったらいいですね。これ読んでから次は『龍は眠る』(新潮社)とかね。青い鳥文庫を書かれている作家の方で、作品中にミステリーの古典についての話をちょくちょく入れる方がいますが、宮部みゆきさんもそうで、『Yの悲劇』(エラリー・クイーン著 早川書房)とか、「87分署」(シリーズ。エド・マクベイン著 早川書房)とかいった言葉を意図的に入れていて、そういうところに、これからの読者への思いを感じますね。

アカザ:今月のキーワード「お父さん」だったんですよね。お父さんの部分はどうですか?

ひいらぎ:独身の主人公が最初は双子が迷惑なんだけど、だんだん情が移っていくってだけで、お父さんについて深く書いてるわけじゃないですよね。

すあま:以前大人の本として読んでいたので、子どもの本で出ているのに違和感がありました。双子が登場するので子ども向けでもよい、ということなのかもしれないけれど、それにしてはあまり活躍しない。あくまで主人公は急にお父さんになってしまった大人の男の人なので、どう捉えてどういう感想を言えばいいのかわかりませんでした。

キノコ:楽しく読んだんですけど、やっぱり子どものための作品とは違う感じですね。青い鳥文庫に収録して、主に小学生向けというのはちょっと疑問でした。中学生くらいだと、この作品も普通の文庫で読めるだろうし。父親となることに関していえば、主人公の心境の変化も、浪花節的な、ある種の型どおりの描き方で、児童書に出てくる「義理の父親」にはあまりない軽さがありますね。

すあま:別に子ども向けで出さなくてよかったのにね。

(「子どもの本で言いたい放題」2010年12月の記録)