レン:読みやすいし、ひきこまれてするすると読みました。子どものころをふりかえって書かれているのは最初からわかるのですが、最後に回想が出てきて、大人の本なのかなと。それから、主人公の視点で書いているからかもしれないけれど、おじいちゃんの輪郭がぼんやりした印象でした。もっとつっこんだ人物描写がほしいと思いましたが、このくらいのほうが今の読者には読みやすいのかな。おもしろいけど、ちょっと物足りなかったです。

トム:「しずかな日々」とはいえ、主人公にしてみれば大変な日々。スリランカの子どもと、「昨日のように遠い日」に登場する少年少女と、心の核のようなものが違う気がする。母親が宗教にからむところだけは、はっとしたのだけれど、それ以外はまた表面の静かな日々に戻ってしまう。結論が先にあって怒らない日本人。このおじいさんは、もっともっと言いたいことがあっただろうに。人によって行間の読みがさまざまなのかと思います。最後があまりに静かですけど…。物語に引っ張られて読みました。

アカザ:見事な文章で綴られていて、終わりまで一気に読みました。こういう物語って、3:11以前と以後とでは、ずいぶん感想が違ってくるのではないかしら。いまほど「日常」という言葉が大切に思われる時代はないのでは? そんな静かな日々=日常が淡々と続いていくなか(本当は「静か」でも、「淡々と」でもないけれど)で、少年たちが少しずつ成長していく様子が心に残ります。そのなかで、お母さんの存在がすごいですね。美しいメロディのなかに不協和音が混じっているような。このお母さんのおかげで、ストーリーがとてもリアルになっていると思います。私は、日本の創作児童文学をそんなに読んでいないのですが、良し悪しは別として現実の社会にじわじわと入りこんでいるスピリチュアルなものが子どもの暮らしや心に与える影響について書いたものは、あまり無いように思うのですが、どうでしょう?

うさこ:男子、夏休み、おじいちゃん、男の子の友情と、『夏の庭』(湯本香樹実著 徳間書店/新潮文庫)を思わせるような設定。出だしの印象から、小5の夏、この主人公の転機が訪れるのだろうな、と予想できます。小5の男の子の世界は単純で、無意味なことをするというのはよくわかる。自転車で出かけるシーンなどは、すごく共感できました。おじいちゃんの漬け物をおいしいというところは少し前の少年だからかな。本を閉じた後、タイトルの「しずかな日々」は、ちょっとパラドックス的なつけ方だなと思う一方、作者がこめた思いはもっと深かったのではないかな、とも思いました。そして、作者は子どもを読者と想定して書いてはいないのだなとも。大人になった自分が読んで、ふうんと思える部分はありますが、読み手に投げていて、今の子どもにそのまま手渡せる書き方ではありませんでした。

アカシア:今日の3冊の中では、後の2冊が大人の読者向けなのに対して、これだけはYA向けだと言えると思います。いちばん子どもの視点に近いです。ここには半分しか守られていない子どもが書かれています。書かれようはしずかなんだけれど、中ではドラマがある。この子は、一生懸命しずかな日々を送れるように頑張っているわけですから。おじいさんの存在がくっきりしなくてステレオタイプという意見がありましたが、母親とやりあってしまったら興ざめだし、そっちに焦点が行ってしまうので、ここは主人公を支えるという役目を果たしているんだと思います。読者はやはりYAでしょうね。もっと読者対象が下だと問題が解決しないまま終わらせるわけにはいきませんが、YAなら解決できないことは、そのままでも終われる。『ダンデライオン』(メルヴィン・バージェス著 池田真紀子訳 東京創元社)だって『チョコレート・ウォー』(ロバート・コーミア著 北沢和彦訳 扶桑社)だって、解決されないまま終わってますもんね。

プルメリア:学校の生活場面がよく描かれているし、登場人物一人ひとりの心情がわかりやすい。ひと夏のお話だけど、縁側、ペットボトルではない麦茶、ラジオ体操など、今とは少し違う夏の風物がきちんと描かれています。今の子どもたちには、なじみがないので、こういう作品で伝えられたらいいなと思いました。新しく友達になった押野のキャラクターが子どもらしくてとてもいい。彼の力によって主人公がいろいろなことにチャレンジしてできるようになる過程がたのもしい。スーパーでお母さんに会う場面はインパクトがあってどきっとしました。ちょっと前の子ども達の生活スタイルが書かれているのもいいなと思いました。

ajian:個人的に僕は祖父母と暮らしていた期間が長かったので、その時の記憶を重ねながら読んでいきました。ただどうも、自分の体験と比べて恐縮ですが、きれいに書かれすぎている印象があります。井戸水や、昆布でとっただし、つけものなんていうアイテムがそこここに登場しますが、どこかロハス臭がする書き方。自然派志向というか『かもめ食堂』(群ようこ著 幻冬舎)的というか……。好きな人は好きでしょうが、やっぱり人を選ぶでしょう。主人公が自転車に乗って、この道はどこまでもつながっている、と思うところ、こうした感覚はたしかにあったなぁと思いました。よく書けていると思います。最後の母親について書かれたところ、それまではわりあいおもしろく読んでいたのですが、もやもやっとしました。母の状況については、ずっとほのめかすような書き方で、向き合うわけでもなく、息子が最後にさらっと結論をくだしていて、よくわからない。文庫の帯で北上次郎さんが「自分はいま傑作を読んでいるのだ、という強い確信を抱いた」と書かれていますが、読み終わったときの感想も聞いてみたかったですね。

優李:その意見を聞くと、小学校の図書室には置かなくていいかな(笑)と思いました。文章がうまくて、どんどん読めてしまいます。「おじいさん」や「おかあさん」の描き方が、私にはちょっと物足りなかったけど、私がおとなだからかな。子どもの描き方はとても生き生きとしてよかった。特に自転車のシーンは、私も子どもの頃、夏休みに自転車でずいぶん遠くまで走ったことがあって、共感できました。最初の6歳の時の場面、お母さんとおじいちゃんのあの冷たいやりとりから、その後の僕とおじいちゃんの「関係」が短期間で成り立つということに、ちょっと疑問があったけれど、人生を肯定する「希望」がある本なので、いいなあと思いました。

メリーさん:最初にハードカバーで見かけたとき、児童文学の著者だけれど、この表紙なら大人向けの本だと思って読まなかったんです。夏とおじいさんというテーマで、すぐに『夏の庭』を思い出しました。子どもの本の作者というのは、もちろん大人なのですが、読者である子どもが読んだとき、どうしてこの人はこんなにも僕の気持ちがわかるのかな、と思わせるのが子どもの本だと思います。この本は子どもの頃を振り返るという設定になっていますが、子どもにとってこの時代はまさに現在進行形の「今」。やっぱりこれも大人の本だと思いました。いいところもたくさんあって、主人公のおじいさんと友人の押野が元々の知り合いだったことを知って、大事なことは根本のところでつながっていると感じるところとか、友人のことをよく見ていて産毛が見える様子とか、スイカに塩をふると大人っぽく思うところなど、そういうことある!という記述はたくさんあります。別れるのが嫌だから、最初から友だちを作らないで気持ちをセーブするなんていうのは大人っぽいけれど、子どもはそういうことを真剣に考える。一方で「心配事は杞憂だった」とか、「藺草の清らかな香りが鼻をくすぐる」という、子どももきっと感じているであろう感情を、大人の言葉を使わずに書いてくれるともっとよかったなと思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2011年6月の記録)