荻原規子/著
角川書店
2008.07
版元語録:世界遺産に認定される玉倉神社に生まれ育った泉水子は突然、東京の高校進学を薦められて…。新感覚ファンタジー。
みっけ:この作家の本は、基本的に好きです。日本の昔の出来事やなにかをうまく取り入れて、違和感のない作品を書く人ですよね。この作品でも、修験道や万葉集など日本古来のものを取り入れているんだけれど、それが単なる表面だけにとどまらず、うまく物語に取り込まれ、織り込まれている。いいなあと思いました。泉水子が無意識に作り出して結局はもてあましてしまう式神にしても、なるほどと思えました。自然やなにかの描き方が上手で、読み手を独特の雰囲気にひきこんでいく腕前はさすがですね。それにこの作品は泉水子の成長物語にもなっている。まったく無自覚だった女の子が、最後のところで自分が作ってしまったものの力関係をもとにもどすわけで、この先どう成長していくのだろうと思わせる。ちなみに私はこれに続いて第5巻まで読んじゃいました。
ルパン:おもしろかったけど、主人公の女の子が私の好みではなかった。目立たなくておとなしくて、とくに取り柄もないのに、まわりのお友達にすごくよくしてもらえる、って、なんだか少女漫画みたい。かえって、リアリティのない登場人物のほうが魅力的でした。たとえば和宮君とか。
シア:今回読んだ3冊の中では一番まとまって、やはり荻原さんだなって思いました。その先が読みたいなって思える作品になっている。自然の描写が少ない『カッシアの物語』に比べ、日本の自然は美しいなと改めて思いました。男の子も魅力的なんですよね。荻原さんの作品でひねくれた男の子って珍しいような気がしたので、驚きながら読みました。巫女とか山伏とかマニアックな要素をふんだんに盛り込んでいるんですけれど、上手にこなしていますね。
あかざ:とってもおもしろかったです。第2巻も読みたい! エンタメとして、見事に書けていると思いました。主人公の泉水子も、それほどうっとおしいとは思いませんでした。これから変わっていくところを描くのなら、これくらい強調しておいたほうがいいのでは? 最初は『十二国記』(小野不由美著 講談社・新潮社)とちょっと似てるかなと思ったのですが、こちらは日本の、それも都会で平凡に暮らしているものには見えてこない自然や、山伏のような日本の地に根ざしたものを描いているところが、とても魅力的でした。泉水子が山頂で舞を舞うところが素敵ですね。あの歌は、万葉集にあるものなのですね。
プルメリア:思ったことをなかなか言えずどうしようかと迷っている子どもは結構いるので、そういう性格を持っている主人公がいてもいいなと思いました。また、そういう子たちにとって自分と似ている性格の主人公がいる作品に出会うこともいいなって思いました。ふだんの生活では知らない神社のしきたりがたくさんあり、かなり山奥の大自然が舞台。山伏は普通の子ども達にはわからない存在ですが、このように意味深なものとして書かれているのもいいなって思いました。主人公の両親の職業は他の仕事とはかけはなれていたり、男の子のお父さんがヘリコプターで学校に来たり、以前読んだことのある荻原ワールドではないなって思いました。東京の商店街で主人公が帽子を買うシーンが、かわいいなって思いました。和宮くんが座敷童とは驚きました。この辺りから荻原ワールドがいよいよ出てきた感じ、作品がおもしろくなってきました。主人公の好き嫌いというよりも、作品のおもしろさ。わくわくしました。次作をはやく読んでみたいです。
レジーナ:それまで人まかせだった主人公が、「自分から知ろうとしなければ、見過ごしてしまう」と感じたり、また「(舞を踊る姿を)見られるのが怖いのは、傷つくのがこわいから、自分で自分を否定しているから」だと気づく場面に、成長を感じました。最後の対決は、あっけなく終わってしまったように思いましたが……。人品(じんぴん)」など、普通の女の子の言葉にしては難しい表現もありました。
ajian:漫画というか、若い女性向けの、Chik-Litみたいだなって思いました。自分に全然自信のない地味な女の子には、じつは魅力的な背景があって……っていうところから、強気で、なんだかんだと自分を守ってくれる男の子が登場するところまでふくめて。ベタな設定と展開が女性向けの通俗小説にのっとっている感じですよね。別にそれはそれで、個人的には大好物で、まったくかまわないんです。ただ、そういう小説で、いわば型を書いていても、どうしてもはみだしてしまう人間性や作家性というのがあって、そこがおもしろいところだと思うんですが、その点、これは少し物足りないなと思いました。あと会話が地の文に比べるとこなれていない。たとえばp10。「山奥に居つづけなくてはならない理由はないと思うよ。義務教育のあいだは、保護者と住むのはしかたないけれど、高校生にもなったらね。ご両親には、なにか言われているの?」ですが、いかにも説明という台詞ですよね。いや、基本的にはおもしろいし、うまく書かれていると思います。設定で、日本の民間信仰をとりいれているところも、いい着眼点だなと思いました。最近ずっと内向きだといわれていますが、裏を返せば、ナショナルなものへの関心が高まっているということだと思います。そういうものを取り入れて魅力的な物語に仕立てているから、これは売れているんじゃないでしょうか。
ハリネズミ:私は今回の3冊の中でおもしろかったのは、これだけなんです。エンタメではあるけど、世界がしっかり構築されてるし、それぞれのキャラもしっかりつくってある。ラノベ読むんだったら、このシリーズ読んだほうがよっぽどおもしろいと思うな。やっぱり荻原さんはうまいですよ。山伏みたいなものを持ってくるのも、さすがです。エンタメだって、ふにゃふにゃしたのじゃなくて、しっかり考えてつくってあるのを読んでほしいな。
ajian:アヴァロンは、これこそ Chik-Lit だなって思いました。アーサー王伝説がモチーフになっていますが、一般の人はあまり詳しくないと思うので、「湖の姫」っていわれても、遠いんじゃないかなと思いますね。この語りの調子は・・・中身がなくても、文体だけで魅力的な本ってあるじゃないですか。そうなってくれるとよかったんだけど、はっちゃけてるだけで、どうも乗れませんでした。あとは、ベオウルフとか、アレックス・ヘイリーとか、せっかく出てくるんだから、注があるとうれしい。
(「子どもの本で言いたい放題」2013年1月の記録)