日付 2008年4月4日
参加者 マタタビ、サンシャイン、クモッチ、ジーナ、たんぽぽ、ハリネズミ
テーマ 犬と子どもの物語

読んだ本:

『黄色いハートをつけた犬 』
ユッタ・リヒター/著 松沢あさか/訳 陣崎草子/絵   さ・え・ら書房   2007
Der Hund mit dem gelben Herzen by Jutta Richter, 2000
版元語録:イヌという名の犬が語る「創世記」。あなたの知らない楽園のこと、創造主のこと、そして人間誕生の話


『きいてほしいの、あたしのこと〜ウィン・ディキシーのいた夏 』
ケイト・ディカミロ/著 片岡しのぶ/訳 津尾美智子/絵   ポプラ社   2002
Because of Winn-Dixie by Kate DiCamillo, 2000
版元語録:スーパーの中で出会った、おかしな犬ウィン・ディキシー。さみしがりやで、笑った顔がとくいで、びっくりすると、くしゃみがでるの。ウィン・ディキシーのおかげで、ひっこしてきたばかりの町で、あたしにはすてきな友だちができたわ。そして、パパとも——。アメリカ南部、フロリダの小さな町を舞台に、いやされないさみしさをかかえた少女が、犬とのふれあいをとおして人のいたみを知り、心をひらいて父親とのきずなをとりもどしていく……。あたたかな感動の物語。


『ベストフレンド〜あたしと犬と! 』
堀直子/著 ミヤハラヨウコ/絵   あかね書房   2006

版元語録:飼い犬を亡くし立ち直れずにいた千織は、「捨て犬の里親を探す活動」をする人々に出会う。犬によって希望を取り戻す少女の感動物語。


『黄色いハートをつけた犬』

ユッタ・リヒター/著 松沢あさか/訳 陣崎草子/絵
さ・え・ら書房
2007

サンシャイン:正直、あまりよくわかりませんでした。グ・オッドがゴットなんだって後書きに書いてありましたが、どうもスッとは心に入ってきません。ロボコヴィッツは、神様のアンチテーゼ的存在として出てきたのかなとは思いましたが、関係性もうすっぺらな感じです。日本の子どもが読んで、この本を楽しめるのか疑問です。

マタタビ:創世記がもとになっているので、ヨーロッパの子どもにとっては示唆に富んだ話なのかなと思います。ロブコヴィッツって人の存在もおもしろいですね。ロボットではないのかな? この本は2回読みました。間にネズミとの戦いとか入ってくるんですけど、そうしたエピソードを入れた作者の意図はなんなのでしょう。だめだと思ったけど、立ち向かってみたらできたというイヌの成長? それとグ・オッドとロブコヴィッツの本筋とのあいだのからみがよくわかりませんでした。人が神様を待っている話っていうのはよくあるけど、これは神様が人を待っているっていうのかな。いまだに神の門は閉じているようなので、ある種の哲学書かな。今の子どもたちで、読める子がどれくれいいるんでしょう? 児童書という位置づけが適当なんでしょうか?

クモッチ:たしかに、だれに向けて訳された本なのか?という疑問が浮かぶ本でした。「だれにも愛されない犬が、子ども二人に心を開いて、かけがえのないものになっていく」っていう筋が一つあるけれど、読み進めていくと、どうもそれがこの物語の本筋ではないように思えます。犬が語る話が、後半ボリュームを増していくので。で、こちらの話が、犬が本当に経験した話なのか、犬の創作した話なのか、わからない。読者が立ち位置をどこに置いたらいいのか分からない感じがします。そのため何度か前に戻って読んだりしたのですが、疑問が渦巻きました。

ジーナ:ロッタの視点で物語が始まったかと思うと、次にノイマンぼうやの視点に移り、次に犬になりと、だれに寄り添って読み進めればいいか、わかりにくかったです。私はあとがきを先に読まなかったので、犬の語る物語が始まったところで、「この本は、犬の話すとてつもないファンタジー、おかしな人物を楽しむ本か」と思ったのだけれど、だんだんその内容が難しくなってきて。ロッタ自身の葛藤はあまり描かれていないので、中学年向けくらいの本かなと最初思ったけれど、犬の話を読むと高学年でないとわかりそうにないし、視点をずらしていく構成はかなり大人っぽい。でも、高学年にしても、この文体はかたくて、難しいと思いました。もしかしたら原書は、それぞれの人物の語り口がすごくおもしろかったりするのかなとも思いましたが、わかりませんね。

たんぽぽ:大人が読む分には、最後まで読めたけど、子どもはロブコヴィッツが出てくる時点でやめるだろうなと思いました。酔っ払いの3人が出てくるのが、ほかのコピーだったらよかったのになって。最後読みおわって、なんだか欲求不満でした。

ハリネズミ:これは寝る前に読む本にしてたんだんだけど、すぐ寝ちゃうのね。ぜんぜん進まなくって。それで、ちゃんと机に向かって最後まで読んだんですけど、疲れましたね。日本で出すんなら、もっと編集や翻訳の人が工夫しないと無理ですね。日本の子どもに届かない。この本、二人称がみんな「あんた」なんですよ。幼いノイマンぼうやが犬に「あんた」って言うんです。ドイツ語のduをすべて「あんた」にしちゃったのかな。さえらの本って、科学書はいいのに、物語はもう少し工夫してほしい、と思うことがよくあります。グ・オッドは、G.Ottなんですね。原書では明らかに神を示唆する言葉ですが、グ・オッドじゃあ日本の子どもには伝わりません。お酒の名前がいっぱい出てきますが、キャンティはチャンティになってるし……読んでいくうちに、変だな、と思う気持ちばかりがふくらんでいきました。

クモッチ:結局、だれに向けた、なんの本なんでしょうかね?

マタタビ:黄色いハートに意味があるんだろうな、だれかのオンリーワンになれるという話なのかなと思ったら、そうでもなくて。

ハリネズミ:もともとの本がこうなんでしょうか? それとも日本語版の問題なんでしょうか?

マタタビ:今回の3点のうち、この本だけは犬の視点ですよね。

クモッチ:おじいちゃんが、ロブコヴィッツを知ってるんですよね。ここで犬の世界とシンクロしている? その意味も知りたいですよね。

(「子どもの本で言いたい放題」2008年3月の記録)


『きいてほしいの、あたしのこと〜ウィン・ディキシーのいた夏』

ケイト・ディカミロ/著 片岡しのぶ/訳 津尾美智子/絵
ポプラ社
2002

ハリネズミ:これは前からとても好きな本なんです。この年齢の子ども向けの本としては、まれにみるよくできた本。何度読んでも、やっぱりいいなあと思います。まず、訳がすごくうまい。原文にもユーモアがあるんでしょうけど、それをうまく訳しているので、日本語でもちゃんと伝わってくる。図書館に熊が入ってくる話もおもしろいし、ウィン・ディキシーも、にやーっと笑ったり、くしゃみをしたり、仲間はずれが嫌で割り込んできたりする、おもしろい犬。グロリアとかオティスとかミス・フラニーとか、どこか奇妙な登場人物が出てきますが、その人たちのこれまで生きてきた人生っていうのを感じさせる書き方もすごいですね。主人公の少女は、引っ越してきたばかりで友だちもいないし、母親の不在も抱えて不安なわけですけど、ウィン・ディキシーを介していろいろな人に出会って成長していきます。そうした核になるストーリーは比較的単純ですが、登場人物のそれぞれが短い会話や言葉で浮き彫りになるような書き方をしている。人生経験を積んだ老人たちの知恵ある言葉にも含蓄がある。雷が鳴ってウィン・ディキシーがいなくなってしまったと読者も心配しますが、最後に絆がいっそう深くなるという終わり方もいい。文学として、とてもよくできていると思います。このページ数で、これだけの深みがある本って、ほかにはなかなかないですよね。

ジーナ:本当に楽しめるお話でした。片岡さんの訳がとてもうまい。日本人が日本語で書いたみたいに。要所要所の言葉も味わいがあって、p.95の、人のことを過去ではかっちゃだめ、こんな人と決めつけてはだめというところなど、心にひびきました。「あの本に、こんな言葉があったな」と、あとで思い出す本になりそう。一人一人の人物が、ストーリーのためにいるんじゃなくて、それぞれ生きて、とてもよく描かれていますよね。ただ、題名がちょっと残念かな。「ウィン・ディキシーといた夏」というと、ウィン・ディキシーが最後にいなくなっちゃうみたいだし。もうちょっと内容がわかる、手にとられやすいタイトルがなかったかなと。

クモッチ:わかりやすくよくまとまっていますね。長くなりがちな作品群の中で、この長さで感動が得られるいいお話を読めるというのも、いいなと思いました。好きだったシーンは、お父さんと女の子がウィン・ディキシーをさがしにいったところで、お母さんのことを話すところですね。「お母さんをとめなかったんでしょ?」と女の子も本音をお父さんにぶつけ、お父さんも、「お母さんは、もうかえってこないとわかったよ」と、女の子に自分の気持ちをはっきり伝えます。きちんと向き合う場面があるのがいいなと。また、このシーンは、犬がいなくなってさがしている間の会話で、オーバーラップのさせ方も、わかりやすいと思いました。

マタタビ:とてもあたたかい気持ちで読み終われて、いい本でした。登場人物それぞれが、どっかにからっぽの場所を持っていて、そのからっぽの場所を、ウィン・ディキシーと主人公がかかわりあっていくお互いの関係の中で埋められていくっていうのがいいなって。ジグソーパズルがくっついていくみたいに。それぞれの大人がとってもよく書けています。きれいごとではなく、言わなきゃいけないことがちゃんと書かれている。アメがね、おもしろいなって。アメが隠し味になって、だれもが持っているそういうものを引き出していく。心憎い使い方をしているなあって。片岡しのぶさんの訳だったので期待していました。ディカミロは前に『ねずみの騎士デスペローの物語』を読んで、ぴんとこなかったんですけど、今回はすばらしかった。

サンシャイン:私も今回の3冊を比べると、いちばん社会性が出ていて好感をもって読みました。『ベストフレンド』がほぼ自分の心だけの話だったのに比べて、父子家庭できちんと娘に相対していないお父さん、南北戦争の歴史的なこと、魔女と呼ばれているけどいいおばあちゃん、牢屋に入れられたことがあるギターがうまい青年など人物や状況が生き生きしています。主人公が世の中で生きている存在っていうのが、よく描かれていると思います。犬が人間の友達っていう物語はアメリカですからきっとたくさんあるんでしょうけど、いい読後感でした。題名のBecause of Win-Dixieというのは、どういう意味ですか?

ハリネズミ:ウィン・ディキシーをきっかけにして、変わっていけたっていう意味でしょうか?

サンシャイン:最後にオウムを含めてみんな登場するっていう、お話の終わり方もうまいと思います。

クモッチ:91ページ グロリアさんの家に木があって、あきびんをつるしているって。こういうことする人って、普通いるのかしら。やっぱりアメリカでも変なことですよね。

ハリネズミ:変というか個性が強いから、魔女って言われてるんでしょうね。

マタタビ:日本でも、犬と一緒に散歩してると、友達になるっていうのがありますよね。オウムのガートルードもいいんですよね。

(「子どもの本で言いたい放題」2008年3月の記録)


『ベストフレンド〜あたしと犬と!』

堀直子/著 ミヤハラヨウコ/絵
あかね書房
2006

サンシャイン:繊細な女の子でね、飼っていた犬のライオンが死んでつらい気持ちは、よくかけてるんだろうなと思いましたが、あまりにも社会性がないのが残念。作者自身の経験をもとにって書いているのはよくわかって、悪く言うのもいやなのですが、作品としては成熟していない所が目立ちます。ライオンに似ているコウチャを自分のところにおきたいと思いつつ、預かっているだけだからと心を抑える所は、良く書けているとは思います。だけど、コウチャを見て車椅子の男の人が立ちあがるっていうのが、ちょっとやりすぎというか、正直うそくさいと思ってしまいます。

マタタビ:作者の犬に対する思い入れがすごく強いんだなって、感じました。犬を失った喪失感はよく書けてているなって思いました。ストーリーとは関係ないんですけど、こういう本を子どもが読んだとき、捨てられる犬を処分する施設を子どもは悪いところだと思ってしまうんじゃないかと心配です。そういう仕事に携わる人の尊厳にもかかわるので、短絡的にとらえてしまうんじゃないかとひやひやするところも。その辺の痛みをどのくらい感じながら、書いたのでしょうか。

クモッチ:今おっしゃったところは、45ページですね。最近のお話は、こういう立場の人の苦しい気持ちっていうのも、きちんと書いているものが増えていますよね。ここに登場する遠山さんも、救える犬は救いたいというスタンスで描かれていますね。

マタタビ:今の子はわりに表面的に読むので、読んだあとは話し合いをしたほうがいいかなと思いました。

クモッチ:処分されてしまう犬のことを扱った話は、ノンフィクションではよく読みますが、これは、フィクションですよね。事実を伝えようとするために、お話がどうしても中盤以降説明的になって、お話そのものの楽しさより、事実がそうなんだという流れになってきてしまっています。フィクションなら、多くの関係者のそれぞれの気持ちを描く、ということが自由にできると思うのですが、このお話の場合、千織ちゃんがひきずっている気持ちっていうのが、悲しい、悲しい、という一辺倒になってしまっているようで残念。フィクションなんだからうまく表現して、もうちょっと奥ゆきが出ると、この作品の意味ももっと出てくると思いました。脇を固める、お父さんとお母さん、えりかさんの描き方も、創作ものにする以上、奥行きをもたせたいなあと思いました。

ジーナ:この本が伝えたいメッセージは、はっきりしてますよね。だけど、この作品でスッと伝わってくるかというと、疑問でした。最後にコウチャを飼いたがっているおじさんが立ち上がるシーンを含めて、都合よすぎる感じがするところが多くて、物語を楽しめませんでした。それが残念。文章も、ときどき引っかかるところがありました。

ハリネズミ:日本語が素人っぽいなと思いました。書き出しの「ぶどう色の空が、ほうきではいたように、しゅっしゅっと明るい白味を増していった頃」も、あれっと思ったし、随所に「翔馬が髪をかきむしった」なんていう陳腐な表現も見られます。台詞にしても、エリカの人物造型と「きゃーすてき」なんていう台詞がちぐはぐ。捨て犬の保護活動をしている人たちの様子については、よくわかったし、千織が回復していく様子もわかりやすい。おしっこをさせるシーンなど、実体験に沿ったことは、とてもよく書けている。犬の本や猫の本って、客観性を失ったまま書く人がいると思うんですけど、この本も全体の印象はそんな感じでした。

(「子どもの本で言いたい放題」2008年3月の記録)