日付 2013年5月23日
参加者 プルメリア、アカシア、レジーナ、ルパン
テーマ 旅に出よう

読んだ本:

『旅のはじまりはタイムスリップ 』
三田村信行/著 十々夜/挿絵   あかね書房   2011.05

版元語録:ある日、大河原博士からよびだされた蒼一は、逃げた妖怪を追って、江戸時代へタイムスリップすることに…。日本橋から京都まで旅をする蒼一、夏実、信夫は妖怪たちにおそわれ、大ピンチ…!? 妖怪だらけのアドベンチャー・ストーリー。


『シフト 』
ジェニファー・ブラッドベリ/著 小梨直/訳   福音館書店   2012.09
SHIFT by Jennifer Bradbury, 2008
版元語録:高校を卒業して、大学が始まるまでの夏休み、親友のクリスとウィンは2カ月かけてアメリカ大陸を横断する自転車旅行に出かける。だが、ゴールの西海岸に到着する寸前、ウィンは突然姿をくらます。大学が始まっても戻らないウィン。行方不明となったウィンを捜して、クリスはふたたび二人で通った道を辿る。


『サラスの旅 』
シヴォーン・ダウド/著 尾高薫/訳   ゴブリン書房   2012.07
SOLACE OF THE ROAD by Siobhan Dowd, 2009
版元語録:少女ホリーは、引き出しに見つけたブロンドのウィッグをつけると、ゴージャスな女の子サラスに変わっていた。アイルランド方面へ旅にでたサラスの行き着く先は?


『旅のはじまりはタイムスリップ』

三田村信行/著 十々夜/挿絵
あかね書房
2011.05

プルメリア:登場人物三人のキャラクターがそれぞれ個性的でおもしろかったです。

アカシア:私はステレオタイプだと思ったけどな。

プルメリア:ステレオタイプだけど、それぞれ個性が違うという意味で。

アカシア:このシリーズの、ほかの作品もお読みになった?

プルメリア:4巻まで読みましたが、最初がいちばんおもしろかったです。子どもの大好きな妖怪、笑いが出る弥次さん喜多さん、なぞの虚無僧などが次々に登場してきて飽きさせない。ふしぎなのは子どもだけで旅をするので、設定が不自然だったりするにもかかわらず、いろんなものが登場し、また事件がおきるので、その不自然さを感じさせない。江戸時代の生活のようすが子ども目線でわかりやすく読めます。この作品はエンタメですかね。

アカシア:そうでしょうね。

プルメリア:私は学級(5年生)の子ども達に紹介するとき、見返しの五十三次の地図も紹介しました。

アカシア:この作品、子どもは好きですか?

プルメリア:学校の図書館にはまだ入っていないので、公立図書館で借りてきたのを、たくさんいる希望者にじゃんけんしてもらって貸し出しています。希望するのは、どちらかというと男子が多いです。女の子は青い鳥文庫の「若女将シリーズ」とか「黒魔女さんシリーズ」が多い。今は、テレビでも時代劇の放送があまりないので、江戸時代を学習した6年生の子が読むと、もっとよく時代背景や文化・人々の暮らしがわかると思います。

アカシア:エンタメですけど、作者がベテランの三田村さんなので、安心して読めますよね。舌長姥、朱の盤、蒼坊主、ろくろっ首など、次々にいろいろな妖怪が登場してくるのも楽しい。唐突にやじさん、きたさんが出て来たり、おじさんが子ども三人だけで危険な旅をさせたりするのは、ご都合主義的な設定と言えますが、エンタメなので、まあ仕方がないか、と。印籠、関所、五右衛門風呂など、江戸時代の暮らしについての知識も得られるように物語がつくられていますね。

レジーナ:おもしろく読みました。妖怪の居場所をなくすために、町を明るくしたという設定も、よくできていますね。一度、過去にタイムスリップして、五郎左衛門を捕まえたから、妖怪の被害は現代の歴史に残っていないというのも、筋が通っています。未来や過去を行き来する物語としては、『時の町の伝説』(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作 田中薫子訳 徳間書店)を思い出しました。でも『時の町の伝説』ほど複雑でないので、読みやすかったです。

ルパン:おもしろかったです。ただ、シリーズということに気づかないで読んでいたので、終わりに近づいてきたとき心配になりました。まだまだ旅の途中なのに、って。あとで見たら小さく書いてあるんですけど、わかりにくいなあ。2巻からはどうなっているんだろう。子どもが続編から先に読まないか心配です。あとからつっこまれないように考えたのか、ちょっと先回り的に説明しすぎるきらいがありましたが(p31とか)、それ以外は楽しく読めました。

レジーナ:私も同じ疑問を感じたので、この箇所は必要だと思いました。ただ、教科書のように説明的なので、書き方を工夫すればよかったのでしょうね。

ルパン:三田村さんの作品を小さいときに読んだときは、かなりシュールな感じがしてたんですけどね。それもおもしろかったけど、こういうのも明るくていいですね。著者はかなりのご高齢だと思うのですが、それを感じさせない若々しさがある作品ですね。すごいと思います。

レジーナ:エンタメでも内容はしっかりしているので、勤務先の中学の図書館にも入れたいと思いました。

ルパン:昔は水戸黄門とかテレビで見ていたので江戸時代にもなんとなくなじみがありましたけど、最近はそういう番組も少ないし、見る子もあんまりいないと思います。こういう作品で昔の風俗を知るのもいいんじゃないかな。

(「子どもの本で言いたい放題」2013年5月の記録)


『シフト』

ジェニファー・ブラッドベリ/著 小梨直/訳
福音館書店
2012.09

レジーナ: p54の「歯ブラシの柄に穴を空けて、荷物を軽くする」や、p147の「コウモリ少年」など、意味の分からないところが、いくつかありました。p137の「ヒルクライマー」に、「山登りサイクリスト」という読み仮名がついていますが、何か特別な意味があるのではないかと読者に思わせてしまうので、ない方がよいと思いました。はく製が苦手だったり、強がっているけど、弱いところのあるウィンの性格が、よく描かれています。いなくなってはじめて、ウィルとの関係を心のどこかで窮屈に感じていたのだと、それまで気づかなかった感情を自覚する場面や、自分たちで友情に区切りをつける最後の場面も、心に残りました。ヤコブと天使の相撲や、旅路を見守る聖クリストファーなど、聖書を題材にしていますね。

ルパン:おもしろかった。時系列が行ったり来たりするので、慣れるまでちょっと時間がかかりましたが。p156にクリス・マッカンドレス事件のことが書いてあるんですが、この作者はそれに触発されてこの作品を書いたのかも、と思いました。何年か前に、その事件を題材にした『イントゥ・ザ・ワイルド』っていう映画を見たことがあるんです。事実に基づいて作られた映画なのですが、わかりにくい事件で、クリス・マッカンドレスはせっかく救われて幸せになれるチャンスがあっても、結局それをふりきってアラスカの荒野に入って命を落としてしまうんです。見てるとイライラするっていうか・・・人の愛に気づかないで、何やってるんだろうって、思うんですが、この作者はその事件に対する世間の消化不良感を、新しい作品にして解決したのかもしれません。もう一つのマッカンドレスの人生を用意した、というか。

レジーナ:若さゆえの傲慢さでしょうか。他者性が欠落しているので、自分がどれほどまわりの人に心配をかけているのか、気づかないんでしょうね。

ルパン:ウィンのこのあとの人生はどうなるんでしょうね。

アカシア:そのうち帰ると書いてありますよ。

レジーナ:展開が速いから、映画向きの作品かもしれませんね。

アカシア:私もおもしろく読みました。さわやかな青春小説ですね。読んでいるとき、本の開きが悪くてすぐ閉じてしまうのが残念。翻訳はp24の「あの子のことはね、自分の息子だったらと思うくらい、お母さんも大好きだけど」の「お母さん」に引っかかりました。母親が自分のことを指して「お母さん」って言うのは日本では一般的ですけど、それを良しとするのかどうかってところに、翻訳者のジェンダー観が出るのかもしれません。日本の女性も、もっと自分を持ったほうがいいと考えている翻訳者は、たぶんこうは訳さない。p25のマーシャルプランは、ただマーシャル大学にかかってるだけじゃないから、注があったほうがよかったかも。

(「子どもの本で言いたい放題」2013年5月の記録)


『サラスの旅』

シヴォーン・ダウド/著 尾高薫/訳
ゴブリン書房
2012.07

レジーナ:ダウドは力のある作家ですね。p186で、チャルイドラインに電話する場面で、思わず自分が住んでいた場所を口にしてしまったり、どこかで止めてほしいと願いながら、どうしていいか分からず、自分の本当の気持ちに気づいていないサラスの姿にはリアリティがあります。子どもをよく見て、知っている人の書いた作品ですね。しかし、妥協せずに書いているので、読み手に伝わらない部分があります。p70で、彼女の名前を飛行機で空に描く男の歌を聞いたレイが、「自分の名前が空に描いてあると、想像してごらん」という場面も、よく分かりませんでした。悪い子になろうとするサラスにも、共感しづらく感じました。そうせざるをえなかったんでしょうが、すぐに嘘をついたり、服を盗んだり……。p235に「短くかんだ爪」とありますが、かみ続けた結果、深爪になってしまったということなので、少し不自然な翻訳に感じました。

ルパン:私は、今日の3冊のなかでいちばんよかったです。たしかに最初のところでは感情移入しにくいですが。でも、この子の自分勝手さも感じ悪さも、だんだん絡まった糸がほぐれるように解明していって、親にちゃんと育ててもらわなかったことで傷ついていたこともわかり、親以外の人たちの愛情を得られるプロセスも見えてきて、読ませます。出会った人たちがみんないい人であるところも好感がもてます。菜食主義者のフィルとか。危ないシーンもあるけれど、運良く切り抜けていくし。ラストのp359で、この旅でいろんな人にたくさんのことを教えてもらったと気づくところに好感がもて、感動しました。何かにつけて里親のことを思い出すところも、ふつうの少女らしくてかわいい。レイのことも、「きみの名前が雲になる」と言われたことを何度も思い出しているし。最後はちゃんと里親のところにもどり、読者も安堵感と幸福感を味わえます。『サラス』の今後を想像するのは、『シフト』の続きを考えるよりずっと楽しくてわくわくしました。ウィッグをかぶると別人になるという設定もうまくできています。

アカシア:ホリーは14歳なのに、リアルな現実をまだ受け止められずに母親を理想化しているのが、不思議でした。『ガラスの家族』(キャサリン・パターソン著 岡本浜江訳 偕成社)のギリーも同じような境遇で、突っ張ってます。でも、あっちはまだ11歳で虐待はされてないみたいだから、母親を理想化するのもわかるんですけど。それと、ホリーの内省的な部分がちっとも書かれてないので、最後になって急に内省的になるのがなんだかしっくりこなかったんです。劇画みたいでね。

ルパン:ずっと会っていない母親をどんどん理想化していくのはむしろ自然に思えますが。

アカシア:でも、ホリーの場合は、母親から熱いアイロンを頭に押しつけられるという虐待も受けてる。それなのにここまで理想化できるのかな? ソーシャルワーカーたちも言うだろうし。

ルパン:言われても、受け入れられないんでしょうね、きっと。

(「子どもの本で言いたい放題」2013年5月の記録)