西山:今回の3冊の中で一番おもしろかったです。気に入った話を何度も聞く、家庭内のおなじみのエピソードがある、その場面がとてもよかったです。好感をもって読みました。ほかの本だと、入れ子構造が余計な仕掛けに見えたり、効果が上がっていないと思ったりすることがありますが、これは違和感なくおもしろく読みました。(当日言いそびれ。竜巻は本当に恐ろしいことで、津波や地震、あるいは空襲まで含め、おびえる子どもを安心させたいという思いがこの構造そのもので、そのことが最後の一行「また、トルネードが来たときにな」で強く感じられて、子どもへの愛にあふれた本だと思いました。)ただ、『レイン』(アン・M・マーティン著 西本かおる訳 評論社)を思いだして、「バディ」として「トルネード」を飼っていた女の子の気持ちを思うと……。そこだけは複雑です。

ネズミ:物語の中に物語がある構造が、効果的に使われていると思いました。カメのことも、手品のことも、五時半のことも、毎日の何気ない話だけれど、どれも楽しいし、何度も聞きたがるぼくたちのおかげで、楽しさがさらに増すようです。挿絵がとてもよくて、最初と最後だけカラーだけど、全部色がついているような錯覚に陥りました。p72の「あの男はれいぎ知らずで、自分の名前も、いわなかったしな」というのだけ、ちょっとひっかかりました。p62-63の場面で「あの男」を、それほど「礼儀知らず」と感じなかったので。ともかく、物語の楽しさを味わえる作品だと思いました。

レジーナ:絵がお話にぴったり! トルネードが愛らしく、生き生きと描かれています。カメが口に入って困った顔とか、大事な穴を猫にとられて呆然としている表情とか。最後のカラーの挿絵は、ほかとは少しタッチが違いますが、これもまたすてきですね。トランプの手品の場面はよくわからなかったです。トルネードがいつも同じカードをとるのは、においがするとか、なんか理由があるのだと思いますけど。「ハートの3だったら、カードを捨てない」というのが、手品なんですか?

西山:ちっちゃい子が、わけもわからない手品をやってみせることがありますよね。ボクとトルネードが自分たちでも「それがどんな手品なのか、さっぱりわからないんだ」(p30) と、一人と一匹が困った様子で顔を見合わせているp31の絵と相まって、本当におもしろいと思いましたが。

アカシア:そこはおもしろいんだけど、p78では弟が「トルネードは、ほんとのほんとに、トランプの手品ができたの?」ときくと,ピートが「ああ、できたとも」と答えるので、だったら、もう少しわかるように書くか、訳すかしてもらえると,スッとおもしろさが伝わるのではないかと思いました。つまり、本当は手品じゃないんだけど、やりとりがおもしろいんだということが伝わるように、ってことですけど。

レジーナ:手品っぽいというのはわかりますけどね。

鏡文字:また犬か、とちょっと思ってしまいました(前々回も犬の話があったので)。トルネードにいちいち「たつまき」のルビがふってあるのが気になりました。自然現象は、「たつまき」だけではだめなのでしょうか。物語は、ちょっと中途半端な感じ。竜巻が来ているという緊張感があまり感じられなかったんです。話をするのがピートで、この人との関係がつかめなくて。まあ、読んでいけば子どもたちと信頼関係があることは伝わるんですが、これまで子どもたちとどんな風に関係を築いてきたのか。親だったら、安心させようとして、こういう話をする、というのもありかもしれませんが、雇われている人、なわけですよね。ピートのことがよくわからない(人となりだけでなく、どういう雇用関係なのかな、とか)ので、なんでここまで子どもがなついているのかな、と・・・。私は子どもたちが話を聞いている間中、お父さんはどうなったかが気がかりでした。大事なくてよかったですが。あと、p48「じゅうたんをほりまくってあなをあけた」というのがちょっとひっかかりました。

アカシア:家の中でも前足で地面を掘るようなしぐさをする犬がいて、じゅうたんには実際に穴があきますよ。そういう犬を飼ってないとわからないかもしれませんが。

鏡文字:女の子のことは、私もかわいそうだと感じました。挿絵は、猫の絵が好きでした。

ルパン:おもしろかったです。トルネードは犬小屋ごと飛んできたんですよね。竜巻はたいへんなことだと思いますが、場面を想像するとなんだか笑えてきました。絵もすばらしいです。トルネードはピートと7年過ごしたとあり、最後(p79)の絵はピートがずいぶん大きくなっているんですよね。そういうところがいいなあ、と思いました。ひとつだけ気になったのは、トルネードの前の飼い主のこと。おじいさんから孫への贈り物だったんですよね。とてもかわいがっていた女の子と、プレゼントしたおじいさんが気の毒で・・・そこのくだりはないほうがいいと思いました。

アカシア:うちにも犬がいるんですけど、トルネードは、せっかく掘ったお気に入りの穴をネコにとられる。その時の顔(p51)、たまりませんね。犬の表情を挿絵はとてもうまく捕らえて描いていますね。暗くて狭いところにみんなで避難しているときにお話を聞けて、いつもそれを楽しみにしているという設定も、とてもいいなあと思いました。ほかの方と同じで、ひっかかったのはトランプの手品のところです。客観的に手品っていわれると、よくわからない。『レイン』では、発達障がいの子が、飼い主を自分からさがそうと懸命になります。この本では、もとの飼い主の女の子がトルネードを抱きしめている場面があるのに、ピートは、トルネードが戻って来たのを知らせないどころか、隠している。前の飼い主は意地悪だから返さなくていい、という理屈ですが、そうなら、前の飼い主をもっとひどい人に描いておかないと、読者もちょっと納得できないんじゃないかな。『レイン』を読んでなければ、そこまで思わなかったかもしれませんけど。

西山:『レイン』の主人公は、発達障がいがあって、嘘がつけない、融通が効かないという子だから、黙って自分のものにしてしまうというようないい加減なことができなくて、それが哀しい。そこを、あの作品の切なさとして読んでいたのですが。

アカシア:でも『レイン』のローズは、クラスの他の子の事は考えられなかったのに、あんなふうにほかの人のことを考えられるようになるのは、やっぱり成長が描かれているんじゃないかな。

ネズミ:この本では、ピートたちが犬を奪ったわけじゃなくて、トルネードが自分で戻って来たんですよね。

アカシア:本の前のほうに、犬が行ったり来たりするのもありだ、みたいなことも書いてあるので、そうすればいいのに、と私は思ってしまいました。

カピバラ:飼い主のわからない犬に出会い、かわいがるうちに元の飼い主が現れるという話はほかにもあるけれど、トルネードという自然災害とからませ、避難中にピートから昔の思い出話を聞くという枠物語に仕立てて、読者をひきこむ工夫をしていますね。読者もピートの話を聞きたいという気持ちで読んでいきます。ストーリーの組み立て方がうまいですね。元の飼い主の女の子がかわいそうだという意見がありましたが、読者はこっちに残ってほしいと思いながら読むから、この結末には満足すると思います。元の飼い主のことはほんの少ししか書いてないので、子どもの読者は女の子のほうにはあまり感情移入しないでしょう。大人の読者はそちらの状況もいろいろ想像できてしまうけれどね。とてもおもしろい作品でした。

マリンゴ:とてもおもしろかったです。短い文章なのに、いろいろなことが伝わってきます。私は、語弊があるかもしれませんが自然現象のトルネードが好きで(笑)トルネードのドキュメンタリーとか映画とか、必ず見てしまいます。が、日本の子どもたちはそこまで知識がないかもしれません。「台風」「地震」などは共通の認識がありますが、「トルネード」はそこまでぴんと来ないと思うので、訳者あとがきなどで知識を補足してあげたら、なおよかったのではないかと思います。物語については、エピソードの小さいところがいいですね。カメのこととか、五時半の猫とか・・・。一つだけ気になるのは、p76-77の見開きのイラスト。廃墟感が強くて、一瞬、すべて吹き飛ばされてしまったのかと思いました。そこまでの被害は受けてないので、もう少し、それがわかる絵だと、なおよかったのかなぁ、と。

西山:活字を変えているのもわかりやすいですが、実はそれに気付かないぐらい自然に読んでいました。これからお話が始まるというのがはっきりしているから、混乱はしないと思います。

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エーデルワイス(メール参加):表紙と挿絵が降矢ななさんだ!と、期待して読んだのがいけなかったのか、読後感が今一つ。アメリカの竜巻の発生する地名が書いてないのですが、日常に竜巻が襲ってくることや、避難の備えをしていることをもう少し書いてほしかったです。この本の薄さは低学年向きかと思いきや、語り部による過去と現在のお話が交互に進み、高学年向きなのか・・・。なんだか中途半端に感じました。犬のトルネードの物語の骨組みだけ残して、降矢ななさんの『絵本』にしたらどうかしら・・・なんて思いました。

(2019年1月の「子どもの本で言いたい放題」の記録)