小さなボートでふるさとを脱出する難民たちの物語。その難民のひとりラミがバイオリンを弾きながら語る「白い馬」の話が中に入っています。「白い馬」というのは、モンゴルの昔話、あの『スーホの白い馬』に出てくる馬です。馬頭琴の由来を語るあの物語が、難民たちに勇気をあたえ、希望の灯をもちつづける力になってくれます。

ジル・ルイスは獣医さんでもあります。どこかで知った馬頭琴の物語に心を動かされて、この作品を生み出したのでしょう。私も、今から十数年以上前に、当時外語大でモンゴル語を教えていらっしゃった蓮見治雄先生に会いに行き、もとになったモンゴルの伝承物語について教えていただいたことがあります。その時日本ではスーホとされている名前は言語の発音ではスヘに近いとうかがいました。ジル・ルイスの原文ではSukeになっています。この本では、みなさんが知っている「スーホ」を訳語としました。

じつは、私も赤羽末吉さんの絵に慣れ親しんでいたので、原書の絵には違和感があり、文章の権利だけ購入してはいかがでしょうか、とあすなろさんには申し上げたのですが、画家さんもこの本の絵で受賞なさっているのでそれはできないとのことでした。こうして出来上がってみると、これはこれでいいのかな、と思えたりもします。
(編集:山浦真一さん 装丁:城所潤さん+大谷浩介さん)