さららん:2002年初版の本だとは知らずに読み始め、すぐに『じゃりン子チエ』(はるき 悦巳/作)の世界を思い出しました。主人公「和ちゃん」の家族も、親友のホルモン焼き屋のスナちゃんの家族も朝鮮の人たち。そんな子どもたちをとりまく人間模様が描かれています。「朝鮮人のおとうちゃんなんかうちはいらんや」という日本人の女の子もいるし、同じ区域には、もっと貧しい暮らしをしている朝鮮部落もあります。和ちゃんは家族が大好きだけれど、自分が朝鮮だとは、学校では明かせません。朝鮮人ってからかわれたスナちゃんをかばえない。戦争中に日本人として無理やり日本に連れてこられたのに、戦争が終わったとたん外国人登録が必要になった朝鮮の人たち。126号という特別な居住許可のことを、父さんは和ちゃんにちゃんと説明します。国に帰りたくても、今の生活を全部捨てなくてはならない背景が読者にもわかってきます。政治にふりまわされる庶民の悲しみや怒りが、のどかな子ども時代のエピソードに織り込まれ、なんども考えさせられました。大人の社会の差別をそのまま映し出して、子どもたちは傷つけあうこともあるのですが、たくましく旅立つ親友のスナちゃんを見送り、和ちゃんが朝鮮人としての誇りを持って生きようと思うところで物語は終わります。大人の自分には理解できるし、読んでよかったと思います。でも今の子どもたちが予備知識なしで読むのは相当難しい作品ではないでしょうか。学習の一環で、在日二世や三世がなぜ日本にいて、どのように生きてきたか、ということを知るのには良いかもしれませんが・・・・・・。対象年齢は5-6年生ではなく、ずっと上の世代になると思いました。

アンヌ:なんだか昔読んだ『綴方教室』(豊田正子/著)を思い出すようなリアリティのある日常生活の描写が続いていくなと思いながら読みました。男の子の跡継ぎが生まれないと、お妾さんを囲って生ませたりする。そんな理不尽な大人の世界を描いていくので、3人姉妹の主人公の家も最後は酒乱のお父さんが暴力をふるって家庭を壊してというパターンになるのかなと思っていたら、逆に、謝り方を教えてくれ、「父さんの自慢の子や」と言ってくれて、主人公が自己肯定できたのにはほっとしました。最後にスナちゃんとお別れが言えてよかったと思えた、後口のいい物語でした。

木の葉:本の出版は2002年ですが、書かれている時代はそれよりかなり前。作者の実体験が含まれているのかどうかはわかりませんが、主人公が生まれたのは1949年で、作者自身の子ども時代とほぼ重なります。まず思ったのは、今の子どもが読んでもなかなか理解できないだろうな、ということでした。時代背景と在日の韓国・朝鮮の人たちの状況という二重のわかりづらさがあるな、と。大人でも、理解できない人も多いですから。これは、子どもが読むには解説が必要なのではないかと思いました。想像力だけでは無理で、そういう歴史を学んだ上で、読むことに一定の意味はあるように思いました。内容は、文学的というのか、女の子たちの心情をていねいに追っています。せつなさを感じる物語です。大阪などでなく地方都市が舞台というのもいいですね。ただ、韓国・朝鮮に対して加害者である日本人という立場を負わずに、作品に向き合うことの難しさをちょっと考え込んでしまいました。けっして正しい態度ではないことは承知の上ですが、かまえができてしまうというか、ある種の批評しづらさというものがあるような気がしてしまうのです。なので、いろいろ不自由というか窮屈だな、という感が否めません。歴史を知ること、学ぶこと、アイディンティティを大切にすることは重要ですが、外国ルーツの人からも、多様な切り口の「日本語」文学が出てくればおもしろいし、日本人(定義は難しいのですが)作家も、この作品の背景のようなテーマに、取り組むことができたら、という思いもあります。

まめじか:その時々の主人公の心の動きを追っている物語だからでしょうか。三宅君が唐突に現れた印象をうけました。「男のやることに、女ががたがた口出すな!」と父親が言うのは、昔の話だからということもあるのかな。

西山:『児童文学10の冒険 自分からの抜け道』(偕成社、2018)の解説を書くのに読み返した時、確かに作品の背景は古いけれど、今も読めると思ったんです。みなさんおっしゃるように、いろいろ説明が必要なことは多いと思います。解説で外国人登録の指紋押捺がいつなくなったとかは書きました。そういう補足は必要だと思います。でも、出だしのほうのシーンで、ウェディングドレスが着たいというのがごく自然に出ていて、ある時代のある女の子の生きたようすというのは普遍的に読めると思うんです。過酷ですけれど、「在日」の置かれた状況を肩肘張らず淡々とリアルに伝えている。李さんには、今の話をさらに書いていってほしいと思います。

コアラ:まず本のつくりが古いなと思いました。刊行が2002年ということですけど、もっと古く、昭和時代に刊行された本のように感じました。物語の設定が1960年代なので、狙ってその時代のように作ったのかもしれないとも思いました。内容は、1960年代の在日朝鮮人の生活を子どもの目から見ていて、今の子どもに知ってほしいから書いたんだなという作者の思いが伝わってきました。p87では、徴用という言葉も出てきて、今の日本と韓国の問題としてニュースで出てくる問題だし、意外と今が読むのにいいタイミングかもしれないと思ったりしました。タイトルも本のつくりも、子どもが手に取りたいと思わせるような感じではないのが残念です。クラスに在日の人がいるとか、過去を知りたいとか何かのきっかけで今の子どもが読んでくれるとうれしいなと思います。

ネズミ:在日に対する考え方が、1960年代と今では変わってきているでしょうね。

ハル:こういう時代が、こういう社会が、あったんだなと、知りたいことが書かれているお話で、全体の雰囲気も私は好きでしたが、ところどころ「この人はどのひとの誰だっけ?」ということがわかりにくかったり、ちょっと頭の中で推察して補いながら読まないと状況がわかりにくかったり。もうちょっと書いてほしい、もうちょっと読みたい、という部分も感じました。もしかしたらこの作品は、大人向けなんじゃないかなと思いました。

ルパン:先に『アーモンド』(ソン・ウォンピョン/著 矢島暁子/訳 祥伝社)を読んでしまったので、こちらは、最初なんだかちょっと退屈というか、ゆったり話が進んでいる気がしましたが、読み進めていくうちに、鉄浩おじさんのこととかスナちゃんの家のこと、そして最終的に在日朝鮮人の生きにくさなど、リアルに迫ってきてつらくなってきました。そのなかで、子どものもつたくましさや前向きな気持ち、そしてスナちゃんとの純粋な友情も生き生きと語られていて、すべてハッピーとは言えないなかで、読後感のいい作品でした。

サークルK:挿絵が世界観をよくあらわしていると思います、既視感のある風景が内容を助けているように思います。また、焼肉屋さんの匂いまで伝わってくるような描写がいいな、と思いました。大人の事情がだんだん呑み込めていく様子がていねいに描かれていて、一種のビルディングスロマンなのだろうと思いました。

マリンゴ: この本のこと知らなかったので、今回読む機会をいただけてよかったです。戦後の地方都市で、在日朝鮮人がどういう生活を送っていたのか、知らないことが多くて、描写を隅々まで味わいました。選択肢が非常に少ない生活だったのですね。日常をていねいに綴っていて、物語が立ち上がってくる印象があります。もっとも、中盤以降、若干冗長に感じる部分もありました。今日話し合うことになっている他の2冊が波乱万丈すぎるので、これが静かに感じられたのかもしれません。

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エーデルワイス(メール参加):作者の自伝でしょうか。在日朝鮮人の家族の物語ですが、貧しい時代の日本の家族の物語ともいえるかも。優秀な勝ち気な姉とわがままな妹にはさまれた主人公は、自分ばかり損をしているのではないかと思っています。裕福な鉄浩おじさんと春子おばさんの養子に行っていれば・・・それでも両親は養子に応じなかったことは嬉しいことでした。スナちゃんを二度も裏切った形の和子。だがラストが爽やかだったので救われました。

(2020年01月の「子どもの本で言いたい放題」より)