『ノウサギの家にいるのはだれだ?〜ケニア マサイにつたわるおはなし』
さくまゆみこ/再話 斎藤隆夫/絵
玉川大学出版部
2022.04

ノウサギが外から戻ってくると家の中にはだれかがいる。だれだと問うと、そいつが「おれは強くて勇敢な戦士だぞ。サイを張り倒すことだって、ゾウを踏みつぶすことだって、ちょいのちょいだ」というので、ノウサギは怖くなって、ほかの動物に助けを求める。ジャッカル、ヒョウ、サイ、ゾウが助けにくるものの、みんな怖くなって逃げていく。最後にカエルがやってきて、とうとう中にいたものが最後にわかって、みんなで大笑い。

斎藤さんの絵がとてもいいので、見てください。
(編集:檀上聖子さん 装丁:中浜小織さん)

 

〈マサイの人たちに伝わる昔話〉(あとがき)

本書は、東アフリカに暮らすマサイの人たちに伝わる昔話で、勇敢な戦士であることが重んじられていたマサイの人たちの価値観が色濃く反映されているように思います。力の弱い者が家をのっとられて、ほかの動物に加勢を頼みます。加勢してくれる動物たちは、しだいに大きく強くなっていきますが、中から聞こえてくる大言壮語にみんな怖気づいてしまいます。偉そうに声を張り上げていた者の正体が最後にわかると、みんながびっくりする、という展開がとてもゆかいですね。

マサイの人たちは、ケニアとタンザニア北部に暮らしています。もともとは遊牧民ですが、今はあちこちに動物保護区や国立公園ができてしまい、自由に動き回ることができなくなっています。伝統的な文化や風習を重んじる人も多いのですが、なかには『ぼくはマサイ〜ライオンの大地で育つ』(さくま訳 さ・え・ら書房)の著者ジョゼフ・レマソライ・レクトンさんのように外国に留学して政治家になった人もいます。

マサイの昔話は、以前『ウサギのいえにいるのはだれだ?』(ヴェルナ・アールデマ文、レオ・ディロン&ダイアン・ディロン絵 やぎたよしこ訳 ほるぷ出版)という絵本が日本でも翻訳出版されていました。登場する動物たちはほぼ同じですが、マサイの人たちが上演する劇という形をとっていて、話そのものももう少し複雑なので、本書とは趣がずいぶん違います。本書のようなシンプルな昔話をもとにして、いろいろなバージョンが生まれてきたのだと思います。

同じような昔話は、ロシアにもあります。『きつねとうさぎ』(ユーリー・ノルシュテイン絵 フランチェスカ・ヤールブソワ絵 こじまひろこ訳 福音館書店)という絵本では、家をのっとられたのはウサギで、のっとったキツネを追い出そうとします。東アフリカとロシアではずいぶん離れているし、文化も違うのに、同じようなお話が伝わっているのは、おもしろいですね。

本書では斎藤隆夫さんが、東アフリカの風土や動物たちの特徴と魅力をじゅうぶんに生かした、とてもおもしろい絵を描いてくださいました。マサイの人たちが暮らすサバンナに行ったつもりで、お話を楽しんでいただければ幸いです。