西山:まさかの小選挙区制と比例代表制をわかりやすく説いて、民主主義ってなに、多数決ってなに、という話でびっくりしました。おもしろかった。今回のテーマが何だったか案内を見直しもせず、子どものエンパワーメントが3冊の共通テーマかと思ったぐらいです。何かを実現していくための知恵をつけるというのは、とても良いと思います。ただ残念なのが、女の子と描き方。4章のタイトル「リーダーは女の子」になんだ?と思ったり、ホームルームでも、卓球の試合でも共に戦った同志のはずの松林に対して、美人かどうかとか顔立ちのことを言う(p158)のに、かなりがっかりしました。作者の那須正幹さんに対する思いには共感してあとがきを読みましたが、女の子の描き方は那須さんには学んでほしくないと切に思います。

まめじか:楽しく読みながら、民主主義のありかたや、いろんな意見を尊重することの意味を考えさせる物語です。男の子のせりふは生き生きしているのですが、女の子はアニメのキャラみたい。「あまいわ」(p68)、「勝負しなさいよ」(p124)「あなたが決めなさい」(p139)、「あら」(p157)など。こんなしゃべり方をする子に会ったことがないので。

彬夜:卓球ものというよりは、多数決の是非を問う物語として読みました。その問題意識はおもしろかったですが、いろいろひっかかる点もあったし、物語に奥行きを感じませんでした。別の本で、チキータという技は、小学生にはむずかしいというようなことを読んでいたので、まずそこから疑問だったし、卓球は、昔と違って日本はけっこう強く、けっして不人気な地味なスポーツという認識ではなくなっているのでは? 選択肢でも、ポートボールが人気、というのも今一つピンとこなかったというか。ポートボールは小学校の体育の授業だけといってもいいスポーツで、話題になることもあまりないし。それから、最初に登場する人気女子、四条と高沢の2人はいったい何だったんでしょうね。もっと話にからんでくるかと思ってました。他の人物たちも、何というのか、それぞれの役割を演じている感じで、物語としてはちょっと物足りなかったかな、という印象でした。たしかに、小さい声を届けることは大事で、そこが達成できたことはよかったですが、「ふみだすべき『前』という方向があっただけだったんだ」(p150)という寛仁の述懐も、今一つしっくりと落ちなかったです。

すあま:最初につまずいたのは、「上忍」と「下忍」が何かわからなかったこと。こういう言葉って、今の子たちにはわかるんだろうけど、時間がたつと古くさくなることもある。登場人物が、食べるのが好きな太めの子や気の強い女の子などステレオタイプで、主な3人以外の子たちや担任の先生に魅力がないと思いました。卓球は人気が出てきているから、子どもたちも興味を持って読めるはずなので、ちょっと中途半端で残念な感じがしました。

アンヌ:私は松林さんの描き方が大人っぽくて、母親的役割を求める感じがしてしまいました。松林さんが算数を応用していくところは、なかなかおもしろいぞと読んで行ったのですが、そこ以外での描き方は疑問です。卓球の作戦も冷静で強引ですし、最後の方の場面で、水商売の年上の女性の言葉にこんなふうに返すことが小学生にできるでしょうか? 同じマンションの男の子を訪ねていく場面にはとてもリアリティを感じたので、作者の女の子への視点に、疑問を持ちました。

ハリネズミ:一気にさらっと読めましたが、まず主人公がさえない男の子、友だちが太った男の子、もう一人はできる女の子というのが、ステレオタイプだなあと思いました。民主主義という考え方もできると思いますが、声の大きい「上忍」の男子たちに対して、千木田たちは「小さい声」に正義ありとして少数派をまとめていくのですが、裏で多数派工作をしている点では同じだと思えて、私はあまり好感が持てませんでした。タイガが秘密にしているらしい家庭の事情を、原口があっさり千木田に話してしまうところは、嘘っぽいように思いました。マッスーのキャラ造形はこれでいいのでしょうか? デブがバカにされているように思ってしまいました。

マリンゴ:小学校のクラスの物語に「小選挙区制の弊害」の話が出てくるのがとても興味深いと思いました。多数決は絶対正義だという考え方に疑問を呈して、子どもたちの視野が広がる物語なのではないでしょうか。ただ、ラストの卓球の試合は、盛り上げようとする意図はわかるのですが、後味が悪いですよね。0-8までわざと技を封印するということは、相手を舐めている、という意味になりますから、最後に惜しくも負けても「自業自得」という感じになってしまいます。それでも、デビュー作で、選挙の多数決について取り上げる、というユニークさがとてもおもしろかったです。著者の次作が気になります。

彬夜:実体験も含まれているようなので、作者の学校ではそうだったのかもしれないですが、私は、小学校の体育は男女一緒でした。それでちょっとネットで調べてみたところ、小学校では一緒、というところが多いみたいです。

西山:名前が古くないですか? 虎一って・・・・・・。

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エーデルワイス(メール参加):とにかく自分たちで考え、決めて実行するところが素晴らしい。スポーツ根性ものとは違うところがいいですね。「少数の意見を小さな声をつぶすのはやめてください」という言葉が何度も出てくるので、ここが作者の大切に思うところでしょうか。爽やかなラストで嬉しかった。

オオバコ(メール参加):スポーツものと思ったけれど、実は多数決について考えさせる、おもしろいねらいの本でした。クラスの話になると、どんどん内向きになっていく息苦しい物語が多いような気がしますけれど、こういう外へ、外へと広がっていく、社会性をもった物語は、とてもいいと思います。ただ、作者が25年前の自分の記憶から綴った物語ということですが、今の小学生が読んだときに違和感はないのかな? 今の学校の様子を知らないので、わかりませんが・・・・・・。

さららん(メール参加):このタイトルが何を意味するのかわからず、それが知りたくてまず手に取りました。主人公の名前が千木田くんだったので、たぶんあだ名だろうと予想はしたのですが、それだけじゃあなかった。(個人的な話ですが、選挙で自分が投票した候補者が当選した試しがほとんどありません。1度だけ、参議院選で中山千夏に入れてしまい、彼女がほぼトップで当選したときには、失敗したと思ったぐらい)。選挙の意味と虚しさを同時に感じている身としては、1票の格差が違憲、と判決が出ても行政が変わらない世の中に歯ぎしりするばかり。少しでも公正で公平な選挙が実現してほしいと思うのです。というわけで、小学校の「レク」でのスポーツ人気投票を素材に、何が正義かという正面からの問いをぶつけ、「ぼくらの小さな声がみんなに届く」ようにがんばるぼく、マッスー、知的な松林さんの奮闘ぶりを、応援したくなりました! 「上忍」でスポーツ万能の榎元派が脅し(?)を使えば、無記名の投票で対抗する知恵合戦も工夫され、最後は卓球で真正面から勝負! キャラクターの立て方が類型的、漫画的かもしれませんが、「最初からあきらめないで。きみの手でクラスを、社会を、変えることができるかもしれない」そんな可能性を、具体的にリアリティをもって、しかも楽しく子どもたちに伝えていく作品として評価できると思います。

ルパン(メール参加):これは、私は正直あんまりおもしろくなかったです。まず「上忍」「下忍」で引っかかりました。言いたいことはわかるけど、知らないマンガだし。知っていたとしてもあまり好感はもてなかったと思います。p16の「ナンバーワンの火影」というのもマンガの登場人物でしょうか。こういう言葉を使わずに表現することはできないのかな、と最初に思ってしまいました。あと、ミヤコさんもねー・・・「50をかなりこえてる」ってあるけど、私と同世代か若いくらいでこれはあんまりだ、と思いました。80歳くらいなら許せるかもしれませんが。クラスのヒエラルキーとか「親友」という言葉に対する思いとかはよく書けているなと思いましたが、なにしろクラスのレクリエーション決めというストーリーが退屈で、この先どうなるんだろうというわくわく感やドキドキ感に欠け、電車の中で読もうとしたのですがすぐに眠くなってしまって、なかなか最後までたどりつけませんでした。

(2019年10月の「子どもの本で言いたい放題」)

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