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ゴラブ&マルティネス『おまつりをたのしんだおつきさま』(さくまゆみこ訳 のら書店)表紙

おまつりをたのしんだおつきさま〜メキシコのおはなし

メキシコ南部のオアハカに伝わる、月と太陽についてのお話。私たちは、なんとなく太陽が沈むと月が出て、月が沈むと太陽が出ると思っていますが、じつは一つの空に太陽と月が一緒に出ていることもありますよね。そんなときオアハカの人たちは、「ゆうべは、お月様がお祭りをしてたんだね」と言うそうです。文章を書いたマシューさんは、何度もオアハカを訪ねて、昔話を聞き、自分でも読み聞かせのワークショップや、ストーリーテリングをしている方。マシューさんは、日本に住んでいたこともあって日本語がわかり、私の訳を送って相談しました。絵を描いたレオビヒルドさんは、オアハカに住んでいるメキシコ人画家で、彼ならではのユニークな絵に仕上げています。巻末には、メキシコの文化を知るための豆知識もついています。

(編集:佐藤友紀子さん 装丁:タカハシデザイン室 天文監修:縣秀彦さん)

 

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<作者あとがき>

メキシコの南部にあるオアハカ州にくらす先住民族の多くは、伝統的に宇宙を注意ぶかく観察してきました。オアハカの南でくらしていたマヤの人たちは、現代のカレンダーより正確ともいえるふくざつなカレンダーを考案していました。サポテカやミシュテカの人たちも、ピラミッドや都市を作ったり、宗教儀式を改革したりするときに、おなじように宇宙を意識していました。

いまでもオアハカの人たちは、月をじっくり観察して、天候を予知しようとしたり、作物の植えつけにふさわしい時期を知ろうとしたりしています。また、月は、美と命の源としてあがめられる一方で、人間らしい一面ももった存在として親しまれています。

こうして月を観察してきたオアハカの人たちにとって、太陽がのぼったあと、まだ空に月が見えるのは、想像力をかきたてるイメージだったにちがいありません。

ひと月をかけて月が地球のまわりをまわるなかで、月がのぼる時間は毎晩、変わっていきます。満月をすぎたあとの下弦の月(月の東側が光っている月)のころは、月は、真夜中に東の空にのぼってきて、朝には南の空を通り、お昼に西の空にしずみます。このため下弦の月のころには、午前中に西の空にかたむきかけた月を見ることができるのです。オアハカの人たちは、こうした現象をユーモラスに表現して「ゆうべは おつきさまが おまつりを してたんだね」というのです。

オアハカの人たちのお祭りは有名で、この絵本の絵を描いたマルティネスさんは、好んでお祭りを描いています。オアハカ州には、17の民族が8つの地域にすんでいるので、さまざまなお祭りが伝わっています。死者の日、ラディッシュの夜、ゲラゲッツァ祭などは有名ですが、そのほかにも、歴史的な出来事や、聖人や、英雄や、通過儀礼などを記念した何百ものお祭りが村々で行われています。この絵本の物語は、「蝶の川」を意味するリオ・パパロアパン川のほとりにある亜熱帯のパパロアパン地域が舞台です。

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ユリ・シュルヴィッツ『ぼくとくまさん』さくまゆみこ訳

ぼくとくまさん

『ゆき』や『よあけ』で有名なシュルヴィッツのデビュー作です。今の画風とはだいぶん趣が違いますが、デザインや空間に対するとぎすまされた感覚は共通しています。24歳でアメリカにやってきたシュルヴィッツは、自分の絵を持って出版社をまわりました。イラストレーションの仕事がほしかったからです。そして苦労してこの作品をつくりあげました。
(編集:山浦真一さん 装丁:桂川潤さん)

その時のことが『シュルヴィッツの絵本論』(未訳)に書いてあるのでちょっとご紹介しておきますね。

◆◆◆

 最初に出会った編集者は、幸運なことにスーザン・ハーシュマン(当時はハーパー・アンド・ロウ社勤務)だった。出版社を訪れたのは挿絵の仕事をもらえないかと思ってのことだった。彼女は私の作品を見て気に入ってくれたが、絵をつけるべき原稿は持ち合わせないので、自分で文章も書いて絵本をつくったらどうかと提案してくれた。私はふるえあがった。
自分で物語を書く? そんなことできるはずがない。私は画家で、作家ではない。やってみたいことはいろいろあったが、文章を書くなどという大それたことは考えてもいなかった。文章を書くということは、言葉の魔術師にこそふさわしい神秘的な行為だと思っていた。私にとって言葉を用いるということは、野生のトラを調教するようなものだった。
「どう書いていいか、わかりません」と、私は言った。
「やってみれば?」と、彼女は言う。
「でも」と私は言って、乗り越えがたい障害を思った。「私は英語を話すようになってから、まだ4年もたっていないのです」
「心配ないわ。変なところがあったら直せるから」と、彼女は請け合った。
そうまで言われれば、試みるしかない。私は何度も書いてみては、へたな文章をスーザン・ハーシュマンに見せにいく、ということを何ヶ月もつづけた。彼女の批評や提案を得て修行し、何度も失敗したあげく私はついに1冊の絵本をつくりだした。わずかな変更ののち、最初の絵本『ぼくとくまさん』The Moon in My Roomが生まれた。試行錯誤の繰り返しがなかったら、きっとつくれなかった絵本だと思う。

 

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ケイト・バンクス文 ゲオルク・ハレンスレーベン絵『おつきさまはきっと』さくまゆみこ訳

おつきさまはきっと

おやすみなさいの絵本。ホーンブックの書評でピンときて取り寄せてもらいました。その後ホーンブックで最優秀絵本に選ばれたので、わたしの目も節穴ではなかったと自慢してます。窓→お月様→世界という広がりがあります。力強い絵を描くこの画家には注目!
(編集:鳴瀬奈美子さん)

*「ニューヨークタイムズ」最優秀絵本選定、ホーンブック賞受賞


ジョナサン・ビーン『よぞらをみあげて』さくまゆみこ訳

よぞらをみあげて

アメリカの絵本。女の子が夜の風にさそわれて、ふとんや枕をかかえて屋上に出ていきます。頭上にはひろびろとした空が広がり、女の子はお月様を見上げながら眠りの世界に入っていきます。女の子をそっと見守るお母さんがすてき。
原書は主人公の女の子がsheという三人称でしか出てこなかったのですが、いくら日本語では主語が省略できるといっても、まったく出さないわけにはいきません。子どもの本では「彼女」は使えないので、「この子」?「女の子」?といろいろ考えたのですが、sheと比べると音数も多いし、どうしても硬い感じになってしまいます。そこで作者といろいろ相談して、最終的には許可をいただき一人称で訳しました。
(装丁:羽島一希さん 編集:小山侑希子さん)

ボストングローブ・ホーンブック賞受賞