カテゴリー: こんな本出してます

みんなからみえないブライアン

トルーディ・ラドウィッグ文 パトリス・バートン絵『みんなからみえないブライアン』さくまゆみこ訳
『みんなからみえないブライアン』
トルーディ・ラドウィッグ作 パトリス・バートン絵 さくまゆみこ訳
くもん出版
2015.06

アメリカの絵本。目立たない子どもを主人公にしています。私が前に訳した『ひとりひとりのやさしさ』(ジャクリーン・ウッドソン文 E.B.ルイス絵 BL出版)には、転校生をわざと無視したり、あざけったりするいじめが出てきました。いじめは、子どもをめぐる大きな問題なので、子どもの本でも取り上げられることの多いテーマです。でも、この絵本のブライアンは積極的ないじめを受けているというより、目立たないために、みんなからついつい忘れられてしまうのです。友だちから忘れられるだけではありません。ほかに手のかかる生徒を抱えていれば、先生までその子がいることになかなか気づきません。

でも、そんな体験をたくさんしてきたせいか、ブライアンは人の痛みがわかる子どもです。なので、転校してきたジャスティンがからかわれた時に、得意な絵をつけた手紙を書かずにはいられなかったのでしょう。それをきっかけにして、友だちの輪が広がっていくのがすてきです。

この絵本は、どうぞ後ろの見返しまで見てくださいね。
(装丁:森枝雄司さん 編集:宮本友紀子さん)

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<紹介記事>

・「公明新聞」2015年11月28日

・「AERA with Kids」2015年9月号

 

・「朝日小学生新聞」2015年11月号

 

・「教育家庭新聞」2015年7月20日

 

・「教育新聞」2015年6月25日

 

 

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消えた犬と野原の魔法

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『消えた犬と野原の魔法』

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『消えた犬と野原の魔法』
が出ました。

フィリパ・ピアス作
ヘレン・クレイグ絵
さくまゆみこ訳
徳間書店
2014.12
原題:A FINDER’S MAGIC by Philippa Pearce & Helen Craig, 2008

フィリパ・ピアスが最後に残した原稿に、共通の孫をもつヘレン・クレイグ(ピアスの娘のサリーと、クレイグの息子のベンはパートナーで、間にナットとウィルという二人の息子がいます)が絵をつけました。本ができあがる前にピアスは亡くなってしまったのですが、文章にも、クレイグの絵にも、ピアスが愛した風景や人々がたくさん登場しています。

イギリスに行ったとき、近くのルーシー・ボストンの家までは訪ねていった(この時はもうボストンは亡くなっていて、息子のピーターさんとその妻ダイアンさんにお目にかかりました)のに、ピアスをお訪ねすることはしませんでした。ファンというだけでお訪ねするのはいかがなものか、と変な遠慮が働いてしまったのです。もともと私は、作家にサインをもらったり一緒に写真を撮ったりするのも苦手なほうです。

本書は、表紙の左下に出ている少年ティルが、行方不明になった犬(表紙のまん中に出ていますね)を、右下の不思議なおじいさんの助けを借り、野原の家に住む二人のおばあさんたち(ピアスとクレイグがモデルのようです)にも手伝ってもらって捜すというストーリーです。

今はやりの、展開が早く刺激の多い作品とは違いますが、味わいの深い作品になっています。ピアスは、人間の心理をとてもじょうずに、しかもユーモアとあた
たかさをこめて書く作家で、私が大好きな作家の一人です。編集者としてもかかわらせてもらい、今度は翻訳者としてかかわったことになります。
(編集:上村令さん 装丁:森枝雄司さん)


おばあちゃんからライオンをかくすには

ヘレン・スティーヴンズ『おばあちゃんからライオンをかくすには』さくまゆみこ訳
『おばあちゃんからライオンをかくすには』
ヘレン・スティーヴンズ作 さくまゆみこ訳
ブロンズ新社
2015.01

イギリスの絵本。前作『ライオンをかくすには』では、迷い込んできたライオンを両親から隠そうと必死になったアイリスですが、今度は、両親の留守におばあちゃんがやってくるというので、さあ大変! なんとかしておばあちゃんからライオンを隠そうとします。

でも、大きな衣装箱を運び込んだおばあちゃんにも、何か秘密がありそうです。だって、おばあちゃんは「ねるまえのおやつ」を山のように用意するし、夜中におばあちゃんの寝室から変な物音が聞こえてくるのですから。

それにしても、ゆかいな家族です。アイリスは、このおばあちゃんの遺伝子をしっかり受け継いでいるのでしょう。怖いことは何も起こらない、あったかいストーリーとあったかい絵が魅力。くすくすっと笑えるユーモアもあります。
(装丁:伊藤紗欧里さん 編集:若月眞知子さん)

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消えた犬と野原の魔法

フィリパ・ピアス作 ヘレン・クレイグ絵『消えた犬と野原の魔法』さくまゆみこ訳
『消えた犬と野原の魔法』
フィリパ・ピアス作 ヘレン・クレイグ絵 さくまゆみこ訳
徳間書店
2014.12

イギリスの絵物語。フィリパ・ピアスが最後に残した原稿に、共通の孫をもつヘレン・クレイグ(ピアスの娘のサリーと、クレイグの息子のベンはパートナーで、間にナットとウィルという二人の息子がいます)が絵をつけました。本ができあがる前にピアスは亡くなってしまったのですが、文章にも、クレイグの絵にも、ピアスが愛した風景や人々がたくさん登場しています。
イギリスに行ったとき、近くのルーシー・ボストンの家までは訪ねていった(この時はもうボストンは亡くなっていて、息子のピーターさんとその妻ダイアンさんにお目にかかりました)のに、ピアスをお訪ねすることはしませんでした。ファンというだけでお訪ねするのはいかがなものか、と変な遠慮が働いてしまったのです。もともと私は、作家にサインをもらったり一緒に写真を撮ったりするのも苦手なほうです。
本書は、表紙の左下に出ている少年ティルが、行方不明になった犬(表紙のまん中に出ていますね)を、右下の不思議なおじいさんの助けを借り、野原の家に住む二人のおばあさんたち(ピアスとクレイグがモデルのようです)にも手伝ってもらって捜すというストーリーです。今はやりの、展開が早く刺激の多い作品とは違いますが、味わいの深い作品になっています。ピアスは、人間の心理をとてもじょうずに、しかもユーモアとあた たかさをこめて書く作家で、私が大好きな作家の一人です。編集者としてもかかわらせてもらいましたが、今度は翻訳者としてかかわったことになります。
(編集:上村令さん 装丁:森枝雄司さん)

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『ほんをひらいて』が紹介されました

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『『ほんをひらいて』が紹介されました』

『ほんをひらいて』
(トニ・モリスン&スレイド・モリスン文 シャドラ・ストリックランド絵 さくまゆみこ訳 ほるぷ出版)が、2014年12月4日の読売KODOMO新聞と、11月30日の新日本海新聞に紹介されました。

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読売KODOMO新聞(リブロ大分トキハ店 岸本由紀子さんが書いてくださいました)

本を広げてすてきな出会い

どんよりした空、
しょぼしょぼ降る雨。
気分が晴れないそんな日に、
少女は図書館へ出かけます。
海に浮かぶ街、片方の目を開けて眠るイルカ……。
本を広げると、
わくわくするような出会いが待っていました。

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探検や夢を手伝ってくれる

女の子のルイーズは黄色いかっぱを着て、家を出た。天気の悪い日は気分が暗くなるけれど、世界は広いからいいことがあるかもしれない。雨が強くなってきたので、図書館に入った。
「ほんは、たんけんしたり、かんがえたり、ゆめをみたりするのをてつだってくれるんだ」。ルイーズは本のおかげで、暗い気持ちやこわい気持ちが小さくしぼんだ。
ノーベル文学賞を受けた黒人女性作家のトニ・モリスンさんが、子どもたちに本のすばらしさを語りかける。

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『シャイローがきた夏』が紹介されました

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『『シャイローがきた夏』が紹介されました』

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『シャイローがきた夏』

が紹介されました。

2014年10月26日の朝日新聞「子どもの本棚」です。

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『シャイローがきた夏』(あすなろ書房)

11歳のマーティはある日曜日の午後、散歩に出かけ、やせたビーグル犬の子犬に出会った。おどおどしながらも後をずっとついてくる姿に心ひかれるが、近所の乱暴者ジャドの猟犬だと分かり、しぶしぶ送り届ける。ところがその犬は虐待されて逃げ出し、マーティの前に再び現れる。シャイローと名前をつけ、家族にも内緒でこっそり飼い始めたが、とうとう見つかってしまう。人と動物のあたたかな信頼関係、少年の一夏の成長を描いた作品=小学校高学年から(P.R.ネイラー著 さくまゆみこ訳 税抜き1300円) 


シャイローがきた夏

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『シャイローがきた夏』

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『シャイローがきた夏』

が出ました。

フィリス・レイノルズ・ネイラー作
岡本順挿絵
さくまゆみこ訳
あすなろ書房
2014.09

原題:SHILOH by Phyllis Reynolds Naylor, 1991

アメリカの田舎に住む少年がビーグル犬に出会い、最初に出会った場所の名前をもらってシャイローと名づけ、虐待している飼い主からなんとか救い出そうとする物語です。「夏」とタイトルについているのに、夏が終わった9月に出ました。少年とシャイローの間に通い合う気持ちが生き生きとフレッシュに表現されているのが気に入っています。

前は別の出版社から別のタイトルで出ていた作品ですが、新たに訳し直しました。

うちで飼っているのもビーグル犬なので、ずっと気になっていた作品です。ニューベリー賞を受賞しています。

3部作なので続編もあるのですが、3作とも映画になっていて、DVDで見ることができます。

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ほんをひらいて

トニ・モリスン&スレイド・モリスン文 シャドラ・ストリックランド絵『ほんをひらいて』さくまゆみこ訳
『ほんをひらいて』
トニ・モリスン&スレイド・モリスン文 シャドラ・ストリックランド絵 さくまゆみこ訳
ほるぷ出版
2014.10

アメリカの絵本。主人公は下町に暮らす東洋系らしき少女ルイーズで、雨宿りをするために図書館に入ります。ルイーズにはこわいものがいっぱいあって、不安を強く感じる子どものようです。でも、本を開くと、広い世界が見えてくる。お話を読めば、つらいことも忘れられる。そう、ひと味違った、本の世界の楽しさ を伝える絵本です。

トニ・モリスンはノーベル文学賞に輝くアフリカ系アメリカ人。スレイド・モリスンは、トニの息子です。スレイドは、この作品を母といっしょにつくった後亡くなっています。膵臓癌で亡くなったようですが、そこには何か事情もあるようで、原出版社からスレイドの死については著者紹介に書かないでほしい、と言われました。
(編集:石原野恵さん 装幀:森枝雄司さん)

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<紹介記事>

・「読売KODOMO新聞」2014年12月4日

 

・「新日本海新聞」2014年11月30日

 

・「読売新聞」2014年12月13日夕刊

 

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ゆうぐれ

ユリ・シュルヴィッツ『ゆうぐれ』さくまゆみこ訳
『ゆうぐれ』
ユリ・シュルヴィッツ作 さくまゆみこ訳
あすなろ書房
2014.10

アメリカの絵本。『ゆき』に出て来た男の子と犬がここでも登場します。この絵本では、男の子が黒ひげのおじいさんと犬を連れて散歩に出かけます。あたりはだんだん暗くなり、さびしくなってきます。でも、人々はあっちへ行ったりこっちへ行ったり忙しそう。そのうち、ぽつんと明かりがともります。そして明かりはだんだんに増えていき、通りも、お店のウィンドウも、広場も、まばゆいイルミネーションで飾られます。

クリスマスの街を描いた絵本です。あちこちにクリスマスツリーが登場し、本屋さんもおもちゃ屋さんも、マザーグース劇場も明るく楽しそうに見えます。空が暗いので、よけいに街のイルミネーションがきれいに映えるのですね。
(編集:山浦真一さん 装丁:城所潤さん+岡本三恵さん)

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<紹介記事>
・11月26日の毎日新聞です。「本はともだち」コーナーの「クリスマスには絵本の贈り物を」という記事で、書いてくださったのは木村葉子さんです。

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名作絵本「よあけ」で知られる作者の最新作。クリスマスの夕暮れどき、おじいさんと散歩に出かけた男の子は、川面に沈む夕日を見る。薄暗くなった街に戻ると、人々は忙しそうに行き交っていた。自然の光が消えると、街の明かりが次々とともる。静かな中にも華やいだクリスマスが感じられる一冊。

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シャイローがきた夏

フィリス・レイノルズ・ネイラー著 さくまゆみこ訳 『シャイローがきた夏』
『シャイローがきた夏』
フィリス・レイノルズ・ネイラー作 岡本順挿絵 さくまゆみこ訳
あすなろ書房
2014.09

アメリカのフィクション。アメリカでは長く読みつがれている作品です。山の村に住む少年マーティがビーグル犬に出会い、最初に出会った場所の名前をもらってシャイローと名づけます。ところがこのビーグル犬には持ち主がいて、自分の飼っている猟犬たちを虐待しているのでした。マーティは、シャイローを虐待している飼い主からなんとか救い出そうとします。このあたりは、ひと昔前のよきアメリカが反映されているかもしれません。少年とシャイローの間に通い合う気持ちが生き生きとフレッシュに表現されているのが、私は気に入っています。前は別の出版社から別のタイトルで出ていた作品ですが、新たに訳し直しました。うちにもビーグル犬がいるので、ずっと気になっていた作品です。3部作なので続編もあるのですが、3作とも映画になっていて、DVDで見ることができます。

*ニューベリー賞(アメリカ)受賞
*SLA夏休みの本(緑陰図書)選定

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トビのめんどり

ポリー・アラキジャ『トビのめんどり』さくまゆみこ訳
『トビのめんどり』
ポリー・アラキジャ作 さくまゆみこ訳
さ・え・ら書房
2014.08

西アフリカのナイジェリアを舞台にした絵本。主人公はトビという名前の男の子。友だちのアデが飼っている雌牛は月曜日に1匹赤ちゃんをうみ、トゥンデが飼っている羊は火曜日に2匹赤ちゃんをうみ、ビシが飼っているヤギは水曜日に3匹赤ちゃんをうみ…というふうに、村の子どもたちが飼っている動物には、次々に子どもが生まれていくのに、トビはずっと待っています。でも、3週間たつと、とうとう卵がかえって、ヒヨコが誕生!

村の人々の暮らしぶりを伝えながら、曜日や数についてもわかるように考えられた絵本です。最後の見開きには、「ぜんぶで なんば いるのかな?」と、たくさん描いてあるニワトリを数えてみる楽しさがあります。

作者はイギリスに生まれて、ナイジェリア人と結婚し、長年ナイジェリアに住んでいた画家です。作品が紹介されているホームページはここにあります。
http://www.pollyalakija.com/

◆◆◆

<紹介記事>

・「子どもと読書」2014年11.12月号の「新刊紹介」で北村明恵さんがご紹介くださいました。

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トビはめんどりを、友達はそれぞれ牛・羊・ヤギ・ネコなどを飼っています。月曜日、友達のアデの牝牛が赤ちゃんを一匹産み、トビのめんどりは卵を一つ産みました。火曜日、トゥンデの羊が赤ちゃんを二匹産み、めんどりは二個目の卵を産みました。こうしてどんどん赤ちゃんと卵が生まれ、七日目の日曜日、卵は七個になりました。三週間たって、他の赤ちゃんは大きくなって動きまわるようになりました。トビとめんどりは、卵がかえるのを待っています。

数がどんどん増えていく数の絵本でもあり、絵の中の動物を探して数える絵本でもあります。また、まわりで働く大人達や、動物と共に暮らすアフリカの暮らしが絵から伝わってきます。

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『ネルソン・マンデラ』の紹介記事

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『『ネルソン・マンデラ』の紹介記事』

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『ネルソン・マンデラ』

が紹介されました。

やまねこ翻訳クラブの三好美香さんが、「月刊児童文学翻訳」No.157(2014年6月号)で『ネルソン・マンデラ』を紹介してくださいました。

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●注目の本(邦訳絵本)●人種の融和を成し遂げた南アフリカの父
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『ネルソン・マンデラ』 カディール・ネルソン文・絵/さくまゆみこ訳
鈴木出版 定価1,900円(本体) 2014.02 38ページ ISBN 978-4790252771
"Nelson Mandela" by Kadir Nelson
HarperCollins Children's Books, 2013
 南アフリカの黒人が入植者に奪われたものは土地と自由。本書は、すべての国民に
自由を取り戻す闘いを続けたネルソン・マンデラの伝記絵本だ。
 ネルソン・マンデラはクヌ村で幸せな子ども時代を過ごした。9歳で父が亡くなり、
預けられた遠方の親戚のもとで、黒人が背負ってきた悲しい歴史を知る。そして、不
当な扱いを受ける黒人を守るために、より一層勉学に励み弁護士となるも、法律だけ
ではかなわぬことから、アパルトヘイト撤廃の活動へ身を投じる。抗議デモや集会を
組織する彼を政府は逮捕した。獄中生活は長く厳しいものだった。しかし、政府は国
際世論の非難を受けてアパルトヘイト撤廃へと方針を変え、投獄から27年を経てよう
やく彼を釈放した。そして彼は、全人種選挙で大統領に選ばれた。
 不屈の精神で非凡な人生を送ったネルソン・マンデラを、作者は平易な言葉と力強
い絵で描き出す。人物や背景に、太い線と艶を消した色を使うことで、絵はより本質
に迫り、時代色まで描写する。私が特に心を引かれたのは、冒頭の場面だ。クヌ村の
丘陵を、逆光と影の黒色を用いて描き、幸せな子ども時代が長く続かないことを予感
させる。次のページでは、父の死を語る文章と、厳しい表情で見つめ合う母子の絵で、
身を切るほどの悲しみを表す。父から受け継いだ民族の誇りと、「ゆうきを出すんだ
よ」と別れを告げた母の言葉が、彼の原点だと感じた。類いまれなる統率力と高潔な
人格をもって信念を貫き、彼は、「アマンドラ(力を)」の合言葉で民衆の心を1つ
にまとめ、大統領に選ばれた。人種差別のない社会への幕開けだ。作者は晴れ渡る空
を背にした彼を描き、天にいる先祖も国民も世界も南アフリカを祝福したと語る。そ
の青天には、この日を待たずに命を落とした多くの仲間やその家族も、先祖として描
かれているように思えた。
 読み終えて、表紙いっぱいに描かれたネルソン・マンデラの肖像画に見入った。そ
の背後にある彼の歴史。そして彼の視線の先に広がる未来。見つめられている私たち
は彼にとっての未来だ。その瞳が読者に真っすぐに問いかけてくる。人間は平等だ、
君は、差別を許さない勇気を持っているかと。長く読み継がれてほしい作品だ。
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【文・絵】カディール・ネルソン(Kadir Nelson):米国サンディエゴ在住。ニュー
ヨークのプラット・インスティテュートで学ぶ。絵本作家として、またイラストレー
ターとして、幅広く活躍。邦訳に、『わたしには夢がある』(マーティン・ルーサー
・キング・ジュニア文/さくまゆみこ訳/光村教育図書)、『ヘンリー・ブラウンの
誕生日』(エレン・レヴァイン文/千葉茂樹訳/鈴木出版)などがある。
【訳】さくまゆみこ:1947年、東京生まれ。青山学院女子短期大学教授。文化出版局、
冨山房で児童書編集に携わり、現在、翻訳家として多くの作品を手掛ける。最近の訳
書に『やくそく』(ニコラ・デイビス文/ローラ・カーリン絵/BL出版)、『海の
ひかり』(モリー・バング&ペニー・チザム作/評論社)、『ひとりでおとまりした
よるに』(フィリパ・ピアス文/ヘレン・クレイグ絵/徳間書店)などがある。
【参考】
▼カディール・ネルソン公式ウェブサイト
http://www.kadirnelson.com/
▼さくまゆみこ公式ウェブサイト
http://members.jcom.home.ne.jp/baobab-star/
▽さくまゆみこ訳書・著作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/ysakuma.htm
▽さくまゆみこインタビュー(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ysakuma.htm
                                (三好美香)



『奇跡の子』熊本子どもの本研究会から

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『『奇跡の子』熊本子どもの本研究会から』

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『奇跡の子』

の紹介を載せてくださいました。

ディック・キング=スミス 著
さくまゆみこ訳
講談社
2001.07

「熊本子どもの本研究会」の菊島紘子さんが、会報No.372(2014年8月6日発行)に『奇跡の子』について書いてくださいました。
私は大好きな本ですが、今は絶版になっているようです。

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「kisekinokokumamoto.pdf」をダウンロード

 


ちいさなタグはおおいそがし

スティーヴン・サヴェッジ『ちいさなタグはおおいそがし』さくまゆみこ訳
『ちいさなタグはおおいそがし』
スティーヴン・サヴェッジ作 さくまゆみこ訳
講談社
2014.06

アメリカの絵本。小さなタグボートが主人公です。タグボートというのは、港でほかの船を引いたり押したりして助ける船です。めだつ船ではありませんが、小回りがきき、強力なエンジンをもっています。

タグは大忙しで活躍していますが、夜になるとさすがにつかれてきます。そうすると、こんどは仲間の船がやさしくいたわってくれます。

作者のサヴェッジさんは、この絵本について、「自分に子どもが生まれて生活が変化したころ、アトリエから港を見おろしているうちにアイデアがうかんだのです」と語っています。

私はタグボートの絵本をもう1冊訳しています。『さあ、ひっぱるぞ!』(ケイト・マクマラン&ジム・マクマラン作 評論社)です。タグボートは小さいわりには力持ちなので、子どもに好かれるのかもしれません。
(編集:小川淳子さん 装丁:田中久子さん)

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海のひかり

モリー・バング&ペニー・チザム『海のひかり』さくまゆみこ訳
『海のひかり』
モリー・バング & ペニー・チザム作 さくまゆみこ訳
評論社
2014.02

アメリカのノンフィクション絵本。モリー・バングの『わたしのひかり』『いきているひかり』に続く「ひかり」シリーズの3作目です。今度は水の中にいる植物プランクトンがテーマです。海の生物も、陸の生物と同じように、太陽光のエネルギーが大事なのだということがよくわかります。光の届かない深海にまでその影響は及んでいるのです。

私たちが吸う酸素の半分は、水の中をただよう植物プランクトンがはき出したものだって、知ってました? そうだとすると、福島の汚染だって、空気や土のことしか考えていないのでは、まずいんじゃないのかな? 海の食物連鎖も心配だな・・・などと、いろいろなことを考えながら訳しました。

バングはこの絵本シリーズによほど力を入れているのだと思います。科学の絵本にしては珍しく、図鑑風ではない美しい絵がついています。2巻目からはMITでエコロジーを教えるチザムと組んでの仕事なので、科学的にもより正確になりました。

こういう絵本や、ホーキング博士のシリーズなどは、翻訳するときに丹念に調べなくてはなりません。でも、調べるのは嫌いじゃありません。知らなかったことが、いろいろわかってきますからね。
(編集:岡本稚歩美さん)

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ネルソン・マンデラ

カディール・ネルソン作 さくまゆみこ訳 『ネルソン・マンデラ』
『ネルソン・マンデラ』
カディール・ネルソン文・絵 さくまゆみこ訳
鈴木出版
2014.02

アメリカのノンフィクション絵本。作者は、アフリカ系アメリカ人のカディール・ネルソンで、私が大好きな画家さんなのですが、文章を読んでみると、小アパルトヘイトの側面しか描かれていない(白人専用だった海岸に黒人も入れるようになったから解決したというような)ように思い、政治・経済の巧妙なシステムの一環だったという点も、できたらちゃんと示唆しておきたいと思いました。そこで、原著出版社に許可をもらって、後書きにその部分にも触れさせてもらいました。絵本を読むような子ども向けにアパルトヘイトについて語るのは、なかなか難しいことでした。

マンデラさんのもともとの名前はRolihlahla。ネルソンは、学校の先生につけられた呼び名です。もともとの名前はコーサ語なのでクリック音が入っているのでしょう。これをどう表記すればいいか、悩みました。自伝の『自由への長い道』には、ロリシュラシュラと書いてあるのですが、ウィキペディアなどではホリシャシャ。お葬式の時に孫息子が話しているのを聞くと、ホリシャシャのほうが近い。それで、私は最初ホリシャシャにしていたのですが、途中で南ア大使館にきいてみることを思いつきました。大使館からの返事は、ロリシュラシュラ。音で聞くとそうは聞こえないのですが、大使館の言うとおりに表記することになりました。また自伝の中に書いてあることと、マンデラ・ファウンデーションが述べている事実にも違いがあり、何が本当なのかつきとめるのは大変でした。

もちろん、アパルトヘイトでさんざんに歪められた南アフリカは、ひとりの英雄が簡単にひっくり返せるようなものではありません。2004年に私が訪れたときも、改善された部分より変わっていない部分のほうがまだまだ多いと思ったものです。それでも、マンデラさんが怨みではなく赦しを掲げて様々な肌の色の人たちが強調して生きていける国を目指したこと、自分の政治的な立場にこだわることなく、民衆の側に立って正しいと思えることは言おうとしていたこと(女性の問題、エイズの問題を含め)は、多くの人々に力をあたえました。マンデラさんのバトンを受けて、その先へと歩き続ける人たちが、これからも世界中に現れるはずです。
(編集:波賀稔さん)

*コレッタ・スコット・キング賞銀賞受賞

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<紹介記事>

・「読売新聞」2014年4月7日夕刊

 

・「月刊児童文学翻訳」No.157(2014年6月号)

 

●注目の本(邦訳絵本)●人種の融和を成し遂げた南アフリカの父
『ネルソン・マンデラ』 カディール・ネルソン文・絵/さくまゆみこ訳
鈴木出版 定価1,900円(本体) 2014.02 38ページ ISBN 978-4790252771
"Nelson Mandela" by Kadir Nelson
HarperCollins Children’s Books, 2013

南アフリカの黒人が入植者に奪われたものは土地と自由。本書は、すべての国民に自由を取り戻す闘いを続けたネルソン・マンデラの伝記絵本だ。
ネルソン・マンデラはクヌ村で幸せな子ども時代を過ごした。9歳で父が亡くなり、預けられた遠方の親戚のもとで、黒人が背負ってきた悲しい歴史を知る。そして、不当な扱いを受ける黒人を守るために、より一層勉学に励み弁護士となるも、法律だけではかなわぬことから、アパルトヘイト撤廃の活動へ身を投じる。抗議デモや集会を組織する彼を政府は逮捕した。獄中生活は長く厳しいものだった。しかし、政府は国際世論の非難を受けてアパルトヘイト撤廃へと方針を変え、投獄から27年を経てようやく彼を釈放した。そして彼は、全人種選挙で大統領に選ばれた。
不屈の精神で非凡な人生を送ったネルソン・マンデラを、作者は平易な言葉と力強い絵で描き出す。人物や背景に、太い線と艶を消した色を使うことで、絵はより本質に迫り、時代色まで描写する。私が特に心を引かれたのは、冒頭の場面だ。クヌ村の丘陵を、逆光と影の黒色を用いて描き、幸せな子ども時代が長く続かないことを予感させる。次のページでは、父の死を語る文章と、厳しい表情で見つめ合う母子の絵で、身を切るほどの悲しみを表す。父から受け継いだ民族の誇りと、「ゆうきを出すんだよ」と別れを告げた母の言葉が、彼の原点だと感じた。類いまれなる統率力と高潔な人格をもって信念を貫き、彼は、「アマンドラ(力を)」の合言葉で民衆の心を1つにまとめ、大統領に選ばれた。人種差別のない社会への幕開けだ。作者は晴れ渡る空を背にした彼を描き、天にいる先祖も国民も世界も南アフリカを祝福したと語る。その青天には、この日を待たずに命を落とした多くの仲間やその家族も、先祖として描かれているように思えた。
読み終えて、表紙いっぱいに描かれたネルソン・マンデラの肖像画に見入った。その背後にある彼の歴史。そして彼の視線の先に広がる未来。見つめられている私たちは彼にとっての未来だ。その瞳が読者に真っすぐに問いかけてくる。人間は平等だ、君は、差別を許さない勇気を持っているかと。長く読み継がれてほしい作品だ。(三好美香)
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やくそく

『やくそく』
ニコラ・デイビス文 ローラ・カーリン絵 さくまゆみこ訳
BL出版
2014.02

イギリスの絵本。すさんだ大都会に暮らし、人の財布を盗んで生きていた少女は、ある日、おばあさんから中身のつまったカバンを引ったくろうとします。おばあさんは言います。「おまえさんにやるよ。これを植えるってやくそくするんならね」。

家に戻ってあけてみると、カバンの中身はたくさんのドングリ! でも、それを見た瞬間に少女はなぜか豊かな気持ちになるのです。ねずみ色の街にやがて緑の芽が顔をだし、街の風景も人の気持ちも変わっていくのですが、そのようすを伝える画家の絵がみごとです。最後に約束がつながっていくのもいいな。
(装丁:タカハシデザイン室 編集:江口和子さん)


ハリエットの道

キャロル・ボストン・ウェザフォード文 カディール・ネルソン絵『ハリエットの道』さくまゆみこ訳
『ハリエットの道』
キャロル・ボストン・ウェザフォード文 カディール・ネルソン絵 さくまゆみこ訳
日本キリスト教団出版局
2014.01

アメリカのノンフィクション絵本。女奴隷だったハリエット・タブマンは、ある日、売りとばされそうになったため、フィラデルフィアまで一人で逃げて自由の身に。でも、それだけでハリエットは満足しません。こんどは逃亡奴隷を助ける「自由への地下鉄道」(本当の鉄道ではなく、人間のネットワーク)の「車掌」となって、大勢の奴隷を自由の地へと案内します。当時のアメリカは、奴隷制を認める南部と認めない北部に分かれていて、北部に逃げ込めば、あるいはもっと北のカナダまで行けば、自由の身分を勝ち取ることができたのです。

ハリエットを力強く勇気ある女性として描いたカディール・ネルソンの絵がすてきです。
(装丁:桂川潤さん 編集:加藤愛美さん)

*コルデコット賞銀賞、コレッタ・スコット・キング賞画家部門受賞


ひとりで おとまり した よるに

『ひとりで おとまり した よるに』
フィリパ・ピアス文 ヘレン・クレイグ絵 さくまゆみこ訳
徳間書店
2014.01

イギリスの絵本。はじめておばあちゃんの家にひとりで泊まりにいったエイミーは、夜になると心細くなります。すると、自分の家から持ってきたマットや木馬やおもちゃの船が、エイミーを夜の飛行へと連れ出してくれるのです。エヴリデイ・マジックの、オーソドックスな、そして安心できる絵本です。

ところでピアスとクレイグは血のつながらない親戚です。ピアスの娘サリーの夫が、クレイグの息子なのです。私は、このコンビの絵物語『消えた犬と野原の魔法』も訳しています。
(装丁:森枝雄司さん 編集:上村令さん)


路上のストライカー

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『路上のストライカー』

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『路上のストライカー』

マイケル・ウィリアムズ著
さくまゆみこ訳
岩波書店 2013年12月20日
(STAMP BOOKS)

NOW IS THE TIME FOR RUNNING
by Michael Williams, 2009

故郷のジンバブエの村で家族や友人を虐殺されたデオは、障碍を持つ兄のイノセントと一緒に逃げて、さまざまな困難を乗りこえて、なんとか南アフリカにたどりつきます。でも、そこで遭遇したのは、外国人憎悪に駆られた人たちのヘイトスピーチと暴力。失意の底にあってシンナーに溺れていたデオを救ったのは、ホームレスのためのサッカーでした。ホームレス・ワールドカップという国際大会があるのを、私はこの本で知りました。切ないけど、勇気をもらえる作品です。迫力があり、最後には希望が見えてくるのがいいんです。
 著者は南アフリカ人。カーカスレビュー・ベストブック、ALAベスト・フィクション・ブック。(編集:須藤建さん 表紙絵:塩田雅紀さん)

<おまけの情報>

*ホームレス・ワールドカップ・・・現在70もの国が参加
http://www.homelessworldcup.org/

*「ホームレス・ワールドカップ」・・・2006年の大会を扱ったドキュメンタリー映画。日本でも公開されました。
http://www.cinematoday.jp/movie/T0008603

*「野武士ジャパン」・・・ホームレス・ワールドカップ日本代表のHP
http://www.nobushijapan.org/


チャーリー、おじいちゃんにあう

エイミー・ヘスト文 ヘレン・オクセンバリー絵『チャーリー、おじいちゃんにあう』さくまゆみこ訳 
『チャーリー、おじいちゃんにあう』
エイミー・ヘスト文 ヘレン・オクセンバリー絵 さくまゆみこ訳
岩崎書店
2013.12

イギリスの絵本。『チャーリーのはじめてのよる』の続編です。今度は、ヘンリーが子犬のチャーリーを連れて、おじいちゃんを駅まで迎えにいきます。おじいちゃんは、犬が好きではないので、ヘンリーは心配していたのですが、ある事件がきっかけで、おじいちゃんとチャーリーは仲良しになります。オクセンバリーのこの絵、犬好きにはたまらないですよ。
(装丁:中嶋香織さん 編集:河本祐里さん)

◆◆◆

『チャーリー、おじいちゃんにあう』
の書評・紹介記事が掲載されていました。

エイミー・ヘスト文
ヘレン・オクセンバリー絵
さくまゆみこ訳
岩崎書店 2013

◆ヘンリーと子犬のチャーリーは、おじいちゃんを駅まで迎えに行きます。犬の苦手なおじいちゃんはチャーリーと仲良くなれるのでしょうか?
透明感のあるやわらかな色彩が魅力の画家が、元気いっぱいの子犬のチャーリーを、表情豊かに愛らしく描きました。こじんまりとした小さな駅舎、昔ながらの街並みが残るイギリスらしい田舎が舞台。チャーリーとヘンリー、おじいちゃんの心温まる交流です。
—「子どもの本」安曇野ちひろ美術館 柳川あずささんによる紹介記事。「「赤旗」2014年1月1日)

◆雪のふる日。ヘンリーは子犬のチャーリーと、汽車でやってくるおじいちゃんをむかえに行った。おじいちゃんは今まで犬と仲良くなったことがない。チャーリーを見てもにこりともしない。
そんなとき、とつぜんおじいちゃんのぼうしが風にさらわれる。チャーリーは、ぼうしを追いかけて見えなくなった—。だれかと友達になるって、実はすごいことだ。おじいちゃんの気持ちが変わっていく様子をたどってみて。
—「友達になるって、すごい」(「高知新聞」2014年1月12日)

◆動物の気持ちが通じる姿を描いた『チャーリー、おじいちゃんにあう』は、子どもの柔らかな表情やしぐさが心温まる新刊絵本。子犬を飼い始めた男の子、ヘ
ンリー。犬と仲良くしたことのないおじいちゃんは、最初は硬い表情。しかし子犬のある行動によって、おじいちゃんの心は解きほぐされる。
—「子犬の懸命な姿、人の心を温かく」(「読売新聞」夕刊 2014年2月1日)

◆雪の日曜日、ぼくは愛犬チャーリーと駅までおじいちゃんを出迎えに。懐っこく賢い子犬に、おじいちゃんも心を開いていきます。ぼくの願いがにじむ文、愛のこもる確かなデッサンに温かく満たされます。
——「祖父と孫と子犬の大好きな心が通い合う」(「月刊MOE」2014年3月号「2014年2月3日)

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同じ主人公(少年ヘンリーと子犬のチャーリー)の絵本はもう一冊あります。『チャーリーのはじめてのよる』です。こっちは、やってきたばかりの子犬を気遣うヘンリーの気持ちに焦点を当てています。


路上のストライカー

マイケル・ウィリアムズ『路上のストライカー』さくまゆみこ訳
『路上のストライカー』
マイケル・ウィリアムズ著 さくまゆみこ訳
岩波書店
2013.12

南アフリカのフィクション。故郷のジンバブエの村で家族や友人を虐殺されたデオは、障碍を持つ兄のイノセントと一緒に逃げて、なんとか南アフリカにたどりつきます。でも、そこで遭遇したのは、外国人憎悪に駆られた人たちのヘイトスピーチと暴力。失意の底にあってシンナーに溺れていたデオを救ったのは、ホームレスのためのサッカーでした。ホームレス・ワールドカップという国際大会があるのを、私はこの本で知りました。切ないけど、勇気をもらえる作品です。著者は南アフリカ人。
(編集:須藤建さん)

*カーカスレビュー・ベストブック、ALAベスト・フィクション・ブック
*青少年読書感想文全国コンクールの課題図書(高校生)


謎の国からのSOS

エミリー・ロッダ『謎の国からのSOS』さくまゆみこ訳
『謎の国からのSOS』
エミリー・ロッダ作 さくまゆみこ訳 杉田比呂美絵
あすなろ書房
2013.11

オーストラリア児童図書賞・最優秀賞を受賞した『テレビのむこうの謎の国』の続編です。前作では主人公パトリックが、〈謎の国〉(もう一つの世界)の テレビ番組に出演して、みごと「さがしものチャンピオン」になっていました。その賞品として〈謎の国〉とやりとりができるコンピューターをもらったまではよかったのですが、それから1週間すると、二つの世界を隔てるバリアに異常が起き、通信不能になってしまいます。SOSをキャッチしたパトリックは、再び〈謎の国〉へと旅立つのですが、今回は、ひょんなことからパトリックの姉クレアと、弟ダニーも、〈謎の国〉に迷いこんでしまいます。というわけで、パトリックは、バリアの異常の原因を解明するだけではなく、姉と弟を無事に連れ帰ることもやらなくてはいけなくなってしまいます。

相変わらずロッダさんのストーリーテリングにひきこまれ、切羽詰まった展開に、はらはら、どきどきさせられます。

(編集:山浦真一さん 装丁:タカハシデザイン室)

紹介記事

・「産経新聞」2014年2月2日

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この世界とよく似たもう一つの世界、すなわちパラレルワールド〈謎の国〉のテレビ番組に出演して「さがしものチャンピオン」になったパトリックは、賞品として〈謎の国〉とやりとりができるコンピューターをもらってから1週間がたった。ある日、2つの世界を隔てるバリアに異常が発生して、通信ができなくなった。前作『テレビのむこうの謎の国』(あすなろ書房)の続編となる物語。

 

・「子どもと読書」2014年3・4月号で高橋峰子さんが紹介してくださいました。

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たった一人で世界を救わねばならないとしたら、どうする? 前作『テレビのむこうの謎の国』では、〈見つけ人〉として、パラレルワールドであるバリアの向こうの人たちのなくしものを探し出して、念願のコンピュータをゲットし、ハッピーエンドを迎えた主人公パトリック。だが、本作では、「バリアの向こうの世界」の崩壊を止める役割を与えられてしまう。しかもタイムリミットがどんどん迫ってくる。ハラハラする場面の連続だ。

パトリックは頭をフル回転させ、勇気を出し、あきらめることをしない少年へと成長する。そして何より、うっとおしいと思っていた姉弟と力を合わせ、〈見つけ人〉として、心を満たす「すばらしいもの」を見つける。


うさぎとかめ

ジェリー・ピンクニー『うさぎとかめ』さくまゆみこ訳
『うさぎとかめ』
ジェリー・ピンクニー作 さくまゆみこ訳
光村教育図書
2013.10

アメリカの絵本。イソップ物語の中にあるおなじみのウサギとカメが競走するお話を、ピンクニーが個性あふれる絵本にしました。ユニークなのは、油断したうさぎが、ただ負けてくやしがるだけではないところ。ピンクニーは、もうアメリカ絵本界の大家ですが、年々絵がじょうずになるし、絵本としての完成度も高まっているように思います。すごい!
(装丁・書き文字:森枝雄司さん 編集:鈴木真紀さん)


ひとりひとりのやさしさ

ジャクリーン・ウッドソン文 E.B.ルイス絵『ひとりひとりのやさしさ』さくまゆみこ訳
『ひとりひとりのやさしさ』
ジャクリーン・ウッドソン文 E.B.ルイス画 さくまゆみこ訳
BL出版
2013.07

アメリカの絵本。クローイの学校に、貧しい転校生がやってきました。その子がにっこりしたり遊びに誘ったりしても、クローイたちは知らん顔で無視。いじめの問題は、お題目を唱えたり、いじめた者を糾弾するだけでは解決しません。これは、自らもいろいろな差別や偏見にさらされてきたウッドソンが「いじめ」をテーマに書いた絵本です。ふつうの絵本にはない視点で、子どもの心の奥までおりていっています。ルイスの絵がまたすばらしいし、物語に出て来てやさしさを生徒たちに伝えようとする先生もすてきです。
(編集:渡邉侑子さん)

*シャーロット・ゾロトウ賞、コレッタ・スコット・キング賞銀賞受賞


ありがとう、チュウ先生〜わたしが絵かきになったわけ

パトリシア・ポラッコ『ありがとう、チュウ先生:わたしが絵かきになったわけ』さくまゆみこ訳
『ありがとう、チュウ先生〜わたしが絵かきになったわけ』
パトリシア・ポラッコ作 さくまゆみこ訳
岩崎書店
2013.06

アメリカの絵本。ディスレクシア(読字障害)をもっていたポラッコが、中国系のすてきな先生に出会って、美術の道を志すにいたるまでの経緯を描いた自伝的な絵本です。若き日のポラッコが、悩んだり、苦しんだり、喜んだり、ほっとしたり、得意になったりする様子が、生き生きと伝わってきます。子どもは愛情をかけられ、励まされて成長していくんですね。『ありがとう、フォルカーせんせい』(香咲 弥須子訳 岩崎書店)の、その後の物語。
(装丁:塚原麻衣子さん 編集:大塚奈緒さん)


1はゴリラ〜かずのほん

『1はゴリラ〜かずのほん』
アンソニー・ブラウン作 さくまゆみこ訳
岩波書店
2013.06

イギリスの絵本。1はゴリラ、2はオランウータン、3は・・・と、いろいろなサルや霊長類が登場する数の絵本。迫力ある絵がすばらしく、同じ種類でも1ぴきずつ個性が描きこまれています。最後にはなんと!

昨年9月にロンドンで最初にダミーを見つけ、その時、アンソニー・ブラウンさんとも話したのですが、「ぼくはどの絵本も作ってしまった後は関心がなくなってしまうんだけど、この絵本は違うんだ。自分でもとっても気に入っている」とおっしゃっていました。日本に戻ってきて完成した絵本を見た私は、すごい! と思いました。これまでのアンソニー・ブラウンとはひと味違う絵、そしてコンセプトです。ずっと見ていてもちっとも飽きない、不思議な力をもっています。ソデにある山極寿一さんの文章がまたいいんですよ。
(編集:須藤建さん)


ミサゴのくる谷

ジル・ルイス『ミサゴのくる谷』さくまゆみこ訳
『ミサゴのくる谷』
ジル・ルイス著 さくまゆみこ訳
評論社
2013.06

イギリスのフィクション。ミサゴというのは猛禽類の仲間で、日本では留鳥のようですが、この本の舞台のスコットランドでは夏に子どもを育て、冬になると西アフリカに飛んでいってしまいます。アメリカの緑の地球図書賞を受賞したこの作品では、そのミサゴが、スコットランドの農場で暮らす少年カラムと、ガンビアの病院で治療を受けていた少女ジェネバを結びます。ほかにも個性的なキャラクターが登場して、読み応えのある作品になっています。作者は、獣医さんから作家になった英国女性です。
(装画:平澤朋子さん 装丁:中嶋香織さん 編集:岡本稚歩美さん)

*緑の地球図書賞(アメリカ)
*厚生労働省:社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(子どもたちに読んでほしい本)特別推薦

紹介記事

・「子どもと読書」2013年11・12月号

 

・「朝日新聞」2013年9月28日(子どもの本棚)

 

・「子どもの本棚」2014年3月号

 


ふしぎなボジャビのき〜アフリカのむかしばなし

ホフマイア再話 フロブラー絵『ふしぎなボジャビのき』さくまゆみこ訳
『ふしぎなボジャビのき〜アフリカのむかしばなし』
ダイアン・ホフマイアー再話 ピート・フロブラー絵 さくまゆみこ訳
光村教育図書
2013.05

南アフリカの絵本。アフリカの平原に飢饉が来て、動物たちはみんなおなかをすかせています。おいしそうな実のなる木を見つけたのですが、なんとそこには大きなヘビが巻き付いていて、木の名前をあてないと実を食べさせてくれません。その名前を知っているのは、サバンナの王さまのライオンだけ。そこで動物の代表がライオンのところに出かけ、木の名前を聞いてくるのですが、いつも帰る途中でほかのことを考えたり、転んだりして、名前を忘れてしまいます。そこに登場するのは、小さくても賢いカメです。再話も絵も、南アフリカで生まれ育った人たちです。
(編集:吉崎麻有子さん 装丁・書き文字:森枝雄司さん)

*厚生労働省:社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(子どもたちに読んでほしい本)選定

***

<紹介記事>

・「女性のひろば」2013年11月号

 

・「朝日小学生新聞」2013年10月5日


わたしには夢がある

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア文 カディール・ネルソン絵『わたしには夢がある』さくまゆみこ訳
『わたしには夢がある』
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア文 カディール・ネルソン絵 さくまゆみこ訳
光村教育図書
2013.04

アメリカの絵本。キング牧師が「ワシントン大行進」で集まった人びとに向かって、リンカーン記念堂の前から有名な演説を行ったのは、1963年8月。半世紀前のことです。もちろんこの演説のことは私も知っていましたが、訳すにあたってもう一度考えながら読み直してみました。演説の映像も見てみました。キング牧師は最初のうち草稿を見ながら演説をしていますが、I have a dreamのあたりから、草稿を見ず、思うままに語り始めます。その後、1968年にキング牧師は暗殺され、犯人が逮捕されますが、ケネディの時と同じように、国家の上層部(CIAやFBIなど)がかかわる陰謀だという説が根強くあるようです。この絵本の巻末には、その日の演説の全文が載っています。格調の高い、勢いのある演説をなるべくわかりやすい言葉で訳すのに苦労しました。
(装丁:森枝雄司さん 編集:相馬徹さん)


あかちゃんぐまはなにみたの?

『あかちゃんぐまはなにみたの?』
アシュリー・ウルフ作 さくまゆみこ絵
岩波書店
2013.04

アメリカの絵本。巣穴の奥深くで目をさました赤ちゃんグマが、さまざまな色の世界と出会っていきます。おひさまの黄色、オークの葉っぱの緑、カケスの青、マスの茶色、イチゴの赤、チョウチョウのオレンジ色……でも、やがて風と雨がやってきて、赤ちゃんグマはお母さんについて巣穴にもどります。そしてまたすてきな色と出会うのです。はじめて日本で翻訳が出たこの作者は、森と動物に囲まれて育った女性です。
(編集:須藤建さん)


砂の上のイルカ

ローレン・セントジョン『砂の上のイルカ』さくまゆみこ訳
『砂の上のイルカ』
ローレン・セントジョン著 さくまゆみこ訳
あすなろ書房
2013.04

『白いキリンを追って』の続編です。舞台は南部アフリカ。大移動するイワシの群れを追って、鳥、イルカ、サメ、アザラシ、クジラが乱舞するサーディン・ラン。主人公の少女マーティーンは、心にわだかまりを抱えたまま、学校の旅行で、このスペクタクルを見に行くことになりました。ところが、大嵐に見舞われて大揺れに揺れた船から落ちてしまいます。助けてくれたのは、なんとイルカでした! マーティーンは何人かの子どもたちと一緒に、謎の多い島に流れ着きます。イルカと子どもたちの結びつきを描いた冒険物語。
著者は、南部アフリカのローデシア(今のジンバブウェ)で生まれ、16歳まで野生動物と接しながら農場で育った女性です。
(装丁・タカハシデザイン室 編集・山浦真一さん)

*SLA夏休みの本(緑陰図書)選定


ライオンをかくすには

ヘレン・スティーブンズ『ライオンをかくすには』さくまゆみこ訳
『ライオンをかくすには』
ヘレン・スティーヴンズ作 さくまゆみこ訳
ブロンズ新社
2013.03

小さな女の子が大きなライオンを隠すには、どうしたらいい? たいへんだけど、アイリスはがんばります。だって、家の中にライオンがいたら、お母さんもお父さんもあわてますからね。やさしいアイリスと、のんびり屋のライオンがいいコンビです。アイリスがライオンに読んであげる絵本は、ジュディス・カーの『おちゃのじかんにきたとら』なんですよ。新しい絵本ですが、どことなくクラシックな趣があります。
(装丁:伊藤紗欧里さん 編集:若月眞知子さん)

*厚生労働省:社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(子どもたちに読んでほしい本)選定


チャーリーのはじめてのよる

エイミー・ヘスト文 ヘレン・オクセンバリー絵『チャーリーのはじめてのよる』さくまゆみこ訳
『チャーリーのはじめてのよる』
エイミー・ヘスト文 ヘレン・オクセンバリー絵 さくまゆみこ訳
岩崎書店
2012.12

小さな男の子ヘンリーが、小さな子犬をもらってきて、チャーリーという名前をつけます。見慣れない環境にひとりで寝かされて不安になる子犬と、その子犬を全存在をかけて愛し、守ろうとしている小さな男の子の思いが、びんびん伝わってくる絵本。子犬と子どものしぐさの一つ一つに、オクセンバリーのうまさが光っています。うちの犬が幼かった時のことを思い出しました。

(装丁:中嶋香織さん 編集:河本祐里さん)

◆◆◆

<子犬とのつき合い方、知ってますか?>

わたしの家には、コナツという犬がいます。体が白、茶、黒と3色の、とっても食いしん坊のビーグルです。

赤ちゃんのコナツがわが家にやってきたのは、11年前の6月。最初の夜は、毛布を敷いた大きな段ボール箱の中で過ごしたのですが、しょっちゅうクンクン鳴いていました。でも、わたしたち家族は、「鳴くたびに抱いていたら、じっと我慢して耳を塞いでいました。そのうち鳴き声がしなくなると、今度は、ちゃんと息をしているのかな? 衰弱したんじゃないのかな? と不安になって段ボールの中をのぞき込み、おなかが上下しているのを見て、ああ眠っているのだとホッと安心したものです。

この絵本は、雪の日に小さな男の子が子犬をもらってくるところから始まります。男の子はヘンリー。ヘンリーは、子犬にチャーリーという名前をつけ、だっこをせがまれればすぐにふかふかの毛布でくるみ、抱いたまま家まで連れて帰ります。家に着いたら、あちこち案内して、「今日からこの家に住むんだからね」と、何度も何度も話してやります。

ヘンリーは、チャーリーと片時も離れずにいたいのです。でも夜になると、お母さんとお父さんに「犬が寝るのは、キッチンだよ」とくぎを刺されてしまいます。そこで、ヘンリーは工夫してチャーリーのベッドを作るのですが、その工夫の仕方が子どもらしくて、なんとも素敵です。

でも、すやすや眠っていたはずのチャーリーは、真夜中に大きな鳴き声をあげます。慌てて飛び出していくヘンリー。子犬を心配し、思いっきり愛情を注ぐヘンリーも、その愛情に甘えるチャーリーも、表情やしぐさがとってもかわいい。オクセンバリーは、子どものことも犬のことも本当によくわかって絵を描いています。

この絵本を見て、わたしはコナツが来た夜にあまりかまってあげなかったことを後悔しました。犬だって、知らない家での初めての夜はとっても不安なんですよね。

(「子とともにゆう&ゆう」2013年1月号掲載)

◆◆◆

<紹介記事>

・「子どもと読書>2013年3・4月号で藤井亜希子さんがご紹介くださいました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そのひは、ゆき。だっこして、と子犬はせがんだ。だから、ぼくはずっとだっこして家まで帰った。ふかふかの青い毛布に子犬をくるんで。

「これからは、ここにすむんだよ」と家の中を見せて回る男の子から、一緒に住む嬉しさが伝わります。犬が寝るのはキッチンだよ、とお母さんとお父さんは決めますが、真夜中に突然の鳴き声。男の子はあわててキッチンにかけつけます。そんなやり取りを繰り返し、結局一緒にベッドに眠る二人。画面のすみに小さく映ったお母さんの表情から、きっと許してもらえただろうことも感じ取れて、柔らかな絵からは、二人(犬)の幸せな寝息まで聞こえてきそうです。


イライジャの天使 ハヌカとクリスマスの物語

『イライジャの天使 ハヌカとクリスマスの物語』
マイケル・J・ローゼン文 アミナー・ブレンダ・リン・ロビンソン絵 さくまゆみこ訳
晶文社
2012.12

ユダヤ教徒の少年ととキリスト教徒のおじいさんの友情の物語。この絵本が取り上げているのは、実在のアフリカ系アメリカ人イライジャ・ピアース。文章を書いたローゼン(イギリス人のマイケル・ローゼンとは別人です)も、絵を描いたロビンソンも、小さいときにイライジャが大好きでした。床屋さんをしていたイライジャの木彫りはナイーブアートの一種だと思いますが、素朴で心のこもった本当にすてきなもので、一部は▶︎http://foundationstart.org/artists/elijah-pierce/▷ここ│や▶︎http://www.kenygalleries.com/images/af-pierce/pierce-bio.html▷ここ│で見ることができます。(編集:松井智さん、松木近司さん)


風をつかまえたウィリアム

『風をつかまえたウィリアム』
ウィリアム・カムクワンバ & ブライアン・ミーラー文 エリザベス・ズーノン絵 さくまゆみこ訳
さ・え・ら書房
2012.10

舞台はアフリカのマラウィ。飢饉になり授業料が払えないので学校へ行けなくなったウィリアムは、近くの図書館にあった本で風車をつくる方法を研究し、ゴミ捨て場で材料を集めて自分の家に電灯を灯すことに成功します。文藝春秋社で出た『風をつかまえた少年』の絵本版。コートジボワール生まれの画家が絵をつけています。カムクワンバ君の物語は、ずいぶん前にアメリカ人の友人から教えてもらってTEDの講演記録(今は日本語もあります)を見て以来、ずっと気になっていました。第46回夏休みの本に選定。(装丁:桂川潤さん)

*SLA夏休みの本(緑陰図書)選定


くまさんのおたすけえんぴつ

アンソニー・ブラウン『くまさんのおたすけえんぴつ』さくまゆみこ訳
『くまさんのおたすけえんぴつ』
アンソニー・ブラウン作 さくまゆみこ訳
BL出版
2012.07

先に出た『くまさんのまほうのえんぴつ』は、これを下敷きにして作られました。以前は田村隆一さん訳で評論社から『クマくんのふしぎなエンピツ』として出ていた絵本です。ハンターに追いかけられたくまさんが、魔法の鉛筆でつぎつぎに絵を書いて危機を脱出していきます。8月の「子どもの本の世界大会」で、私もアンソニー・ブラウンに会って話をしてきました。(編集:渡邉侑子さん)


じゆうをめざして

シェーン・W・エヴァンズ『じゆうをめざして』さくまゆみこ訳
『じゆうをめざして』
シェーン・W・エヴァンズ作 さくまゆみこ訳
ほるぷ出版
2012.05

アメリカに奴隷制がしかれていた時代、南部の奴隷たちを北部やカナダに逃がす秘密のルートがありました。「自由への地下鉄道」です。アフリカ系の人たちだけでなく白人も先住民もこの地下鉄道にかかわっていました。彼らは自らの命の危険を覚悟して、奴隷たちをかくまったり、食べ物や必要品をあたえたり、道案内をしたりしていたのです。自由の地にたどりついたとき、赤ちゃんも生まれるんですよ。
(装丁:石倉昌樹さん 編集:木村美津穂さん)

*コレッタ・スコット・キング賞受賞


だれも知らない犬たちのおはなし

エミリー・ロッダ『だれも知らない犬たちのおはなし』さくまゆみこ訳
『だれも知らない犬たちのおはなし』
エミリー・ロッダ著 さくまゆみこ訳 山西ゲンイチ絵
あすなろ書房
2012.04

ドラン通りに住む6匹の犬たちの物語。この犬たちは、ペット(=人間)が学校や職場に出かけてしまうと、一緒に集まってテレビを見たり、異星人や幽霊をやっつけたり、ニワトリと渡り合ったり、どろぼうから仲間を救出したり・・・と、大忙し。ユーモアたっぷりの物語。思わず笑ってしまいますよ。
(装丁・タカハシデザイン室 編集・山浦真一さん)


いきているひかり

モリー・バング&ペニー・チザム『いきているひかり』さくまゆみこ訳
『いきているひかり』
モリー・バング&ペニー・チザム作 さくまゆみこ訳
評論社
2012.03

太陽の光や植物の役割と、私たちが生きていることの関係を、ときあかしてくれる絵本です。『わたしのひかり』の姉妹編ですが、こちらもすてきな楽しい絵がついています。ほんとにいい絵なので、ながめているだけでも楽しい。普通の科学絵本や知識絵本とは、そこが違います。ペニー・チザムさんは、長年エコロジーについて教えてきたマサチューセッツ工科大学の教授です。
(編集:岡本稚歩美さん)


つぼつくりのデイヴ

『つぼつくりのデイヴ』
レイバン・キャリック・ヒル文 ブライアン・コリアー絵 さくまゆみこ訳
光村教育図書
2012.01

奴隷には読み書きが許されていなかった時代に、自分がこしらえたすばらしい壺に詩や名前を書いていた奴隷がいました。それがデイヴです。巻末には壺の写真も載っているので、ぜひ見てください。職人としての誇りを持っていたデイヴの焼き物は、実用的でしっかりしていて、しかも美しいのです。
(装丁:則武弥さん 編集:相馬徹さん)

コルデコット賞銀賞、コレッタ・スコット・キング賞受賞

***

<紹介記事>

・「2012年に出た子どもの本」(教文館)

 


川のうた

ラングストン・ヒューズ詩 E.B.ルイス絵『川のうた』さくまゆみこ訳
『川のうた』
ラングストン・ヒューズ文 E.B.ルイス絵 さくまゆみこ訳
光村教育図書
2011.10

アメリカの絵本。ラングストン・ヒューズのジャズの本や詩の本を、私は学生時代によく読んでいました。ヒューズは今でもアフリカ系の人たちの尊敬を集めているのですね。この詩は、いろいろな先輩が訳されているので自分なりの訳にするのに深く考えなくてはなりませんでした。絵もただ美しいだけではなく、そこからいろいろな思いが伝わってきます。
(装丁:城所潤さん 編集:相馬徹さん)

***

<紹介記事>

・「子どもの本棚」2012年6月号


くまさんのまほうのえんぴつ

アンソニー・ブラウンとこどもたち『くまさんのまほうのえんぴつ』さくまゆみこ訳
『くまさんのまほうのえんぴつ』
アンソニー・ブラウンと子どもたち作 さくまゆみこ訳
BL出版
2011.10

イギリスの絵本。栄えあるチルドレンズ・ローリエトのアンソニー・ブラウンが、子どもたちと一緒に作り上げた絵本です。子どもらしい発想に満ちています。絶滅しそうな動物たちも、魔法の鉛筆でなんとか助けられるといいな。そういえばアンソニー・ブラウンが大好きなゴリラも絶滅危惧種ですね。この絵本にも登場していますよ。
(編集:渡邉侑子さん)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

<子どもと一緒に作った絵本>

子どもとのやりとりの中から生まれた本はたくさんあります。ルイス・キャロルは、勤めていた大学の学寮長の娘アリスをボートに乗せてピクニックに行く途中、即興で語ったお話を基にして、『不思議の国のアリス』を書きました。ケネス・グレアムは、自分の息子に夜寝る前にしてやったお話を後に整理して『たのしい川べ』を書きました。ビアトリクス・ポターは、かつての家庭教師の息子が病気だと聞いて、励ますために書いた絵手紙をほとんどそのまま使って、『ピーターラビットのおはなし』を作りました。どうもイギリスにはそのような伝統があるようですね。

さて、今回のこの絵本は、子どもたちとのやりとりを基にしただけでなく、子どもが描いた絵が使われています。「サン」という新聞が主催したコンテストに応募した子どもたちと、イギリスの絵本作家アンソニー・ブラウンが一緒に作った絵本なのです。ブラウンにはその前に『くまさんのおたすけえんぴつ』という絵本があって、何でも描くと本物になってしまう鉛筆が登場していました。同じ不思議な鉛筆が登場するという意味では、その続編です。

ちょっととぼけたくまさんが、悪い人間に捕まりそうになるたび、この不思議な鉛筆を使って、危機を脱出していきます。そのうち、くまさんは、自分だけでなく他の動物たちも助けようとがんばるようになるのです。この絵本がおもしろいのは、子どもたちが描いた絵と、大人の絵本作家が描いた絵が同じ画面に登場すること。子どもたちの想像力の豊かさは、プロの絵本作家をしのぐほどです。

イギリスには「チルドレンズ・ローリエト」という名誉な称号があります。ローリエトというのは本来、国を代表する「桂冠詩人」の称号ですが、こちらは国を代表する子どもの本の作家や画家で、2年ごとに選ばれます。アンソニー・ブラウンは、6代目の現在のチルドレンズ・ローリエト。8月末にロンドンで開かれた「子どもの本の世界大会」でも大活躍でした。わたしもこの大会に参加したので、お話を伺うと、「子どもたちとの本作りは、とっても楽しかったよ」と笑顔でおっしゃっていました。

(「子とともにゆう&ゆう」2012年10月号 通巻684号 愛知県教育振興会発行)


宇宙の誕生 ビッグバンへの旅

『宇宙の誕生 ビッグバンへの旅』 ホーキング博士のスペースアドベンチャー3

ルーシー&スティーヴン・ホーキング著 さくまゆみこ訳 佐藤勝彦監修
岩崎書店
2011.10

3巻目で扱われているのは量子力学。最初はよくわからなくて、量子力学についての入門書を何冊か読みました。ホーキング博士の分身であるエリックのかつての敵、リーパーがまた登場してきます。リーパーやブラックホールをめぐる謎で読者を引っ張りつつ、「ヒッグス粒子」など最先端の科学知識についても披露しているというすごい本です。(装画・挿画:牧野千穂さん 装丁:坂川栄治さん+永井亜矢子さん 編集:板谷ひさ子さん)


きみたちにおくるうた〜むすめたちへの手紙

バラク・オバマ文 ローレン・ロング絵『きみたちにおくるうた:むすめたちへの手紙』さくまゆみこ訳
『きみたちにおくるうた〜むすめたちへの手紙』
バラク・オバマ文 ローレン・ロング絵 さくまゆみこ訳
明石書店
2011.07

アメリカのオバマ大統領が文章を書いた絵本で、子どもたちを励ますメッセージがいっぱい。ただ原著出版社が「何もつけ加えてはならぬ。ちょっとした変更もならぬ。とにかく直訳しろ」の一点張りだったので、翻訳は苦労しました。明石書店は被災地の子どもたちにも読んでもらいたいと、この絵本をたくさん寄贈してくださいました。オーストラリアのラッド前首相も犬と猫を主人公にして絵本を書いていますが、日本の首相と絵本はとうてい結びつきませんね。
(装丁:桂川潤さん 編集:赤瀬智彦さん)

◆◆◆

<この絵本に登場する人たち>

ジョージア・オキーフ(大きな花や骨の絵で知られる画家)
アルバート・アインシュタイン(相対性理論を唱えた物理学者)
ジャッキー・ロビンソン(メジャーリーグ初のアフリカ系選手)
シッティング・ブル(北米先住民スー族の大戦士)
ビリー・ホリデイ(多くの名曲・名唱で知られるジャズ歌手)
ヘレン・ケラー(視覚と聴覚を失いながら活動した社会福祉事業家)
マヤ・リン(ベトナム戦争戦没者慰霊碑を設計した中国系の建築家)
ジェーン・アダムズ(貧困をなくすために努力した社会事業家)
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(公民権運動の指導者)
ニール・アームストロング(月面を初めて歩いた宇宙飛行士)
シーザー・チャべス(農場労働者の人権を守ったメキシコ系の運動家)
エイブラハム・リンカーン(奴隷解放宣言に署名した大統領)
ジョージ・ワシントン(アメリカ独立戦争を戦った初代大統領)

◆◆◆

<日本のみなさんへ>

オバマ大統領はこの絵本をとおして、世界中の子どもたちに語りかけているのだと思います。力や才能はだれにでもあると、彼は語っています。だれでも、ヘレン・ケラーやジャッキー・ロビンソンのように、大きな困難を乗りこえていくことができると、語っているのです。私の絵が示そうとしているのは、こうした偉人たちもみんな同じように、かつては子どもだったということです。

この絵本が国境をこえて、日本の子どもたちにもなぐさめや勇気やはげましや希望をあたえることを私は願っています。そして日本の子どもたちも、困難を乗りこえる力や、すばらしい生き方をするための力が、自分の中にもあると気づいてくれるよう願っています。

ローレン・ロング


わたしのひかり

モリー・バング『わたしのひかり』さくまゆみこ訳
『わたしのひかり』
モリー・バング文・絵 さくまゆみこ訳
評論社
2011.06

モリー・バングの『ソフィーはとってもおこったの!』は、女の子の日常を描いた絵本でしたが、これは詩的に描かれた科学絵本です。「わたし」と言っているのは太陽です。ソーラー・パワーについて、エネルギーや電気のことを考えるのにちょうどいい絵本だと思います。とっても絵がいいんです。これまでの科学絵本や知識の絵本の多くは、説明的な絵がついていましたが、これは違います。絵だけ見ていても楽しいんです。モリー・バングは絵本の視覚的効果についての理論書(”Picture This: How Picture Work”)も書いていますよ。
カバーには窓があいていて、そこから表紙の絵がのぞいています。
(編集:吉村弘幸さん)

第58回青少年読書感想文全国コンクール課題図書選定
*SLA「よい絵本」選定

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<モリー・バングの後書きより>

長いあいだ、わたしは、電気にあまり興味をもっていませんでした。電気というものが電線を流れ、モーターを動かし、光をともすことは知っていましたが、そこでとどまっていました。
でも、わが家にソーラーパネルをつけると、がぜん興味がわいてきたのです。ソーラーパネルのガラスにうめこまれた小さな太陽電池は、いったいどうやって日光をとらえ、それをわが家のレンジや、温水器や、せんたく機や、コンピュータや、テレビや、照明で使われるエネルギーに変えているのでしょうか? この絵本にかかれているのは、わたしがさぐりだしたことの一部です。


おやすみなさい

『おやすみなさい』 (くまのテディ)

レスリー・フランシス & ニコラ・スリー文 ローラ・クーパー絵 さくまゆみこ訳
日本キリスト教団出版局
2011.06

「くまのテディ」シリーズの3作目。自分の部屋でひとりで寝ようとしても、いろいろなものが怖くなって、テディはなかなか眠りにつけません。でも、だいじょうぶ。安心しておやすみなさい。夜の間も守ってもらっているのですよ。(装丁:桂川 潤さん 編集:土肥研一さん)


ごめんなさい

『ごめんなさい』 (くまのテディ)

レスリー・フランシス & ニコラ・スリー文 ローラ・クーパー絵 さくまゆみこ訳
日本キリスト教団出版局
2011.04

ぬいぐるみのクマさんが主人公の「くまのテディ」シリーズの2作目です。ふきげんでまわりのみんなに当たり散らしてしまったテディは、鏡を見てびっくり! 怖い顔になっていたからです。みんなにあやまって許してもらったときの気持ちはまた格別です。(装丁:桂川 潤さん 編集:土肥研一さん)


スタンプに来た手紙

エミリー・ロッダ『スタンプに来た手紙』さくまゆみこ訳
『スタンプに来た手紙』 チュウチュウ通り10番地

エミリー・ロッダ作 さくまゆみこ訳 たしろちさと絵
あすなろ書房
2011.04

オーストラリアの絵物語。いよいよ「チュウチュウ通りのゆかいななかまたち」シリーズの最終刊! 10番地に住んでいる郵便屋さんのスタンプが主人公です。ほかのネズミたちにいつも郵便を配達しているスタンプは、ある日、自分にはちっとも手紙が来ないことに気づいて、ペンフレンドがほしいと思います。ところが・・・。ストーリーがおもしろいだけでなく、生きる喜びについても作者は子どもたちに伝えようとしているようです。
(装丁・タカハシデザイン室 編集:吉田亮子さん、山浦真一さん)


セーラと宝の地図

エミリー・ロッダ『セーラと宝の地図』さくまゆみこ訳
『セーラと宝の地図』 チュウチュウ通り9番地

エミリー・ロッダ作 さくまゆみこ訳 たしろちさと絵
あすなろ書房
2011.03

オーストラリアの絵物語。チュウチュウ通り9番地に住んでいるのは船をつくる仕事をしているセーラ。ある日、郵便屋さんのスタンプが宝の島の地図を発見し、セーラといっしょに宝探しに出かけていきます。でも、海賊につかまってしまい、もう少しで海に沈められそうになりますが・・・。いつも思いますが、ロッダさんはすばらしいストーリーテラーですね。幼年童話をこんなにおもしろく書けるなんて、みごとです。
(装丁・タカハシデザイン室 編集:吉田亮子さん、山浦真一さん)