オーストラリアのファンタジー。『ローワンと魔法の地図』『ローワンと黄金の谷の謎』に続く<リンの谷のローワン>シリーズの第3作目です。不思議な呼び出しを受けたジラーとローワンは、海辺にあるマリスの町まで出かけていきます。ところが、マリスでは〈水晶の司〉の地位をめぐって3種族が争っており、ローワンは思わぬ冒険にひきずりこまれてしまいます。最後のどんでん返しには、うなってしまいました。
(絵:佐竹美保さん 装丁:丸尾靖子さん 編集:山浦真一さん、佐近忠弘さん)

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〈訳者あとがき〉

ローワンシリーズも本書で三作目となり、弱虫だったローワンも少しずつたくましくなってきました。それぞれ独立した物語になっているので、どの巻から読んでいただいてもいいのですが、本書から読み始める方のために少し説明をしておきましょう。もっとも、いちばんおもしろい部分は実際に作品を読んで楽しんでいただいたほうがいいので、ここでは簡単な紹介にとどめます。

一作目の『ローワンと魔法の地図』では、リンの村でバクシャーという家畜の世話係をしているローワンが、ほかの村人六人と一緒に、魔の山に登る羽目になります。ローワン以外はみんな勇敢でたくましい大人たちです。ところが魔の山は一行七人を次々に試練にかけてゆき、一人また一人と脱落してしまいます。最後には、村に水が流れてこなくなった原因がつきとめられ、リンはまた豊かな水に恵まれた村としてよみがえります。この巻には、リンの村の成り立ちや、ローワンの家庭環境についても、くわしく書かれています。

二作目の『ローワンと黄金の谷の謎』には、リンの村人と〈旅の人〉たちの反目が描かれています。奇妙な眠り病に襲われたリンの村人たちは、〈旅の人〉が呪文をかけたのではないかと疑うのです。ところが病の原因は思いがけないところにあり、それを発見したローワンは、村人を助けるために空を飛んで大活躍します。

『ローワンと魔法の地図』も『ローワンと黄金の谷の謎』も、おかげさまで大変評判がよく、弱虫で怖がりやのローワンも、多くの人に気に入ってもらえているようです。謎解き、冒険、ファンタジーと、おもしろい要素をそろえたこのシリーズは、一作目がオーストラリアで最も優れた児童文学にあたえられる児童図書賞の最優秀賞を、三作目の本書が優秀賞を受けています。

オーストラリアでは現在四作目まで出版されていますが、二〇〇二年の秋には、五作目も出版されるというので、今度はどんな物語になるのか、私も今から楽しみにしているところです。

本書を訳すにあたって、原著の設定が少しわかりにくかった箇所は、日本語版ではわかりやすく改めました。それも、手紙で著者のエミリー・ロッダさんに質問をし、話し合った結果であることをお断りしておきます。

最近本屋さんには新しい冒険ファンタジー作品がたくさん並んでいるので、私もいろいろ読んでみました。ひいき目かもしれませんが、やっぱりローワンのシリーズがいちばんおもしろい、と私はひそかに思っています。とくに、スピーディーな展開でありながら、それぞれの人物がうかびあがるように描かれているところが、私は好きです。それに私は、文章の端々に垣間見える作者の世界観も、なかなか気に入っているのです。

二〇〇二年一月

さくまゆみこ