タンザニアのティンガティンガ派の画家による、楽しい絵本です。親友だったゾウとネズミ(ずいぶんと体の大きさが違うのに!)が、とっても愉快な絵を通して、本当の友情について教えてくれます。ボローニャ国際児童図書展ラガッツィ賞受賞作品。(装丁:長友啓典さん+徐仁珠さん 編集:細江幸世さん+佐川祥子さん)

ボローニャ国際児童図書展ラガッツィ賞受賞

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<訳者あとがき>

ボローニャ国際児童図書展でラガッツィ賞を受賞したこの絵本は、タンザニアの絵本作家ジョン・キラカが出版した2冊目の絵本です。この独特な趣のあるゆかいな絵は、ティンガティンガ派とよばれるタンザニアの画家たちの流れから生まれました。

この流派の始祖はエドワード・サイディ・ティンガティンガという1932年生まれのユニークな人で、農夫、庭師、八百屋、刺繡屋、ペンキ屋、ミュージシャンなどの仕事をしながら、絵も描いていました。最初は自転車にぬるペンキで、合板に描いていたといいます。タンザニアの動物や自然や人々の暮らしを描くその絵は、しだいに評判になり、観光客にも人気が出て売れるようになったため、ティンガティンガは親戚や友人の若者たちに教えるようになります。こうして画家のグループができたのですが、彼自身は1972年に友人たちと乗っていた車が盗難車とまちがえられて(あるいはティンガティンガが知っていたかどうかは別として、実際に盗難車だったという説もあります)パトカーに追跡され、警官に撃たれて不慮の死をとげました。

しかしティンガティンガの死後も弟子たちは活動をつづけ、今は画家たちがたがいに技をみがきあったり助け合ったりしています。ティンガティンガ派の画家の中には、観光客向けのきまりきった絵を描く人もいますが、この絵本の作者ジョン・キラカのように、豊かな独創性をもって新たな世界を切りひらいていく画家も生まれてきています。

タンザニアだけでなくアフリカ大陸はおもしろい昔話の宝庫で、動物を主人公にした昔話もたくさんあります。人間を主人公にすると、自分の悪口をいっているのではないかと勘ぐる人も出てきます。社会に波風が立つことにもなりかねないので、動物を主人公にして語ることが多いのです。

この物語は、そうした豊かな昔話にもとづいてそこにオリジナルな味わいをつけくわえたものだと思われますが、最初に本にしたのはスイスの出版社でした。私は、キラカさんが書いた英語の文章と、スイスで出版されたドイツ語の文章の両方を参照しながら、日本語に翻訳しました。

この絵本の舞台になっているタンザニアは、東アフリカにあります。赤道が近いので、季節が日本のように四つあるのではなく、雨季と乾季に分かれています。農業は今でも天候に左右される部分が大きく、雨がふるはずの雨季に日照りがつづくと、この絵本にあるように、みんなが食べるものに困るということになります。

絵本の中でバッファローやサイやシマウマが身につけているのは、カンガというきれいな布です。カンガは、巻きスカートにしたり、赤ちゃんをおぶうのに使ったり、テーブルクロスに使われたりと、暮らしの中でさまざまに用いられています。

また21ページには、果物や木の実を入れておくかご、土を焼いてつくるつぼ、ヒョウタンでつくったひしゃくなど生活の道具が描かれていますし、23ページには、板にくぼみを彫って、そこに小石や豆などを入れてあそぶバオとよばれるゲーム盤が描かれています。絵本に登場するのは動物たちですが、タンザニアの人々の暮らしぶりがわかる絵になっているのですね。

さくまゆみこ