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「草のふえをならしたら』表紙

草のふえをならしたら

『草のふえをならしたら』をおすすめします。

まこちゃんがブイブイッとネギのふえを鳴らしたら、ブタがひょっこり顔を出す。ともくんが笹の葉をビブーッと鳴らすと、タヌキがおしょうゆの注文をとりにくる。すみれ組の子どもたちは桜の花びらでぴーっぴーっ、たえちゃんはカラスノエンドウのさやでプピッ、あっちゃんはドングリのふえをほーっ……野原や森でつんだ草や実や葉っぱを鳴らすと何かが起こって、子どもたちはウサギやキツネやアオバズクやカエルたちと不思議な世界に入り込む。
草笛をじょうずに鳴らすには練習も必要。自然とうまく付き合うのも同じ。でも、こんなに楽しいことが起こるならやってみたいな、と思わせてくれる八つのお話に、ゆかいな絵もいっぱい入っているよ。小学校低学年から(さくまゆみこ)

(朝日新聞「子どもの本棚」2022年5月28日掲載)

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ジル・ルイス『パップという名の犬』表紙

パップという名の犬

野良犬たちを主人公にしたイギリスのフィクションです。家庭の中に居場所がない少年にとって、唯一愛する存在だった雑種犬の子犬パップ。でも、少年が学校に行っている間に、捨てられてしまいます。そして、野良犬として生きていかなくてはならなくなったパップの試練が始まります。獣医として働いていた著者の観察眼や描写は、さすがと思わされます。野良犬それぞれの個性が立ち上がってくるように描かれていますし、犬たちの目を通して人間社会の歪みも見えてきます。パップのことだけではなく、無理矢理愛犬を奪われてしまった居場所のない少年の行く末も気になりますが、最後はハッピーエンドです。

(編集:岡本稚歩美さん 装丁:川島進さん)

◆2023年読書感想画中央コンクール指定図書

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〈訳者あとがき〉

本書は、イギリスで二〇二一年に出版されたA Street Dog Named Pupの翻訳です。

著者のジル・ルイスさんは、環境や動物と人間との関係を書き続けているイギリスの作家です。日本でも、すでに『ミサゴのくる谷』『白いイルカの浜辺』『紅のトキの空』(以上評論社)、『風がはこんだ物語』(あすなろ書房)が出版されています。

ルイスさんは、小さいころから草ぼうぼうの庭で、虫や鳥に親しんでいたそうです。そのつながりで獣医になり、その仕事にはやりがいを感じていたものの、今の時点で職業を選ぶとすれば、環境科学を勉強して野生動物を保護する活動をめざしたかもしれないと言っています。

またルイスさんは小さいころから物語を作るのは大好きだったのですが、学校では物語を楽しむよりは、文章の分析、文法、正しいつづりなどを注意されるあまり、物語から遠ざかっていたそうです。それが自分の子どもに本を読んでやっているうちにまた物語が好きになり、その後、大学院で創作を学び、『ミサゴのくる谷』 でデビューしました。

『ミサゴのくる谷』は、鳥のミサゴがスコットランドの少年とアフリカ・ガンビアの少女を結ぶ物語です。『白いイルカの浜辺』は、行方不明の母親と働く意欲を失った父親をもつ少女が、脳性麻痺の気むずかしい少年フィリクスといっしょに、傷ついた子イルカを母イルカのもとへもどそうと奮闘する物語で、持続可能な漁業についても考えさせられます。『紅のトキの空』は、心のバランスをくずした母親と発達のおそい弟を抱えたヤングケアラーの少女が、居場所をさがす物語で、ショウジョウトキなどの動物が象徴的に登場してきます。『風がはこんだ物語』は、小舟に乗った難民たちが、舟の上でバイオリンをひきながら少年が語る、モンゴルの白い馬と馬頭琴の話に勇気をもらうという物語です。どの作品でも、人間の心理と動物たちがからみあって、読ませる物語になっています。

そしてこの作品は、人間と動物のかかわりをていねいに描いている点や、弱い立場の者たちに著者が心を寄せて書いている点はほかの作品と同じですが、野生生物ではなく都会に暮らす野良犬たちを主人公にしているところが、ほかとは違います。

その野良犬たちですが、レックスは、闘犬として相手を殺すよう訓練されていました。ルイスさんによると、強く見せるために耳も切られているそうです。「おれは、社会ののけ者なんだよ。怪物みたいに戦うための犬なんだ。だけどよ、おれが知ってる本当の怪物は、人間だけだぜ」という言葉が辛辣ですね。サフィは、愛してくれた家族から盗まれて繁殖犬をやらされ、病気になったので捨てられました。レディ・フィフィは、セレブ気取りで流行の犬を購入した飼い主があきて捨てられました。レイナードは、キツネ狩りに役立たないので頭に銃弾を撃ち込まれて殺されかけました。イギリスでは実際にキツネ狩りが行われていますが、このように殺されるフォックスハウンドは年間三千ひきもいるそうです。マールは、かしこい犬なのにこの犬種の習性を理解していない飼い主に、手に余るとして捨てられました。クラウンは元気が良すぎて捨てられたのでしょう。また、フレンチに関してもルイスさんには特別な思いがあるようです。人間の都合でマズルが短くされたパグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、ブルドッグなどの短頭種(鼻ぺちゃの犬たち)は、健康上いろいろ問題があるのですが、イギリスではかわいいとして大いに宣伝されるので飼う人も多いそうです。イギリスでは多くの獣医さんや動物保護団体が、宣伝広告に短頭種を使わないように申し入れているとのこと。「利益よりも健康を」とルイスさんは言っています。

コロナ禍でイギリスでもリモートワークになり、家で子犬を飼う人もふえたので子犬の盗難も二・五倍にふえたそうです。また、安易に飼い始めた人がめんどうになったり、通勤が再開すると犬の世話ができなくなったりして、捨てる犬も多くなったとのことです。こんなところにもコロナ禍の影響が出ているのかと驚きましたが、日本ではどうでしょうか。

さて、本書の挿絵ですが、ちょっと素人っぽいとか、素朴だと思われた方もいらっしゃるかもしれません。絵を描いたのは、作者のルイスさんご自身です。ルイスさんはもともと絵が好きで、絵も描きながら物語の構想を深めていくそうです。必要なことをいろいろと調べたうえで書き始めるのだけれど、とちゅうでいろいろな場面や登場するキャラクターを線画で描いてみるとのこと。文字で書くときとちがう頭の領域を使うので、いろいろなことを思いついたり、もっと深く物語に入りこめたりする、とルイスさんは語っています。よく見ると、たしかにいろいろな犬種の特徴や表情をよくご存知の、獣医さんならではの味が出ていますね。

子どものころに、何をどう感じ、どう思っていたかを今でもよくおぼえているというルイスさん、これからもおもしろい子どもの本を書いてくださることを期待したいと思います。

さくまゆみこ

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〈紹介記事〉

・「西日本新聞」(おすすめ読書館)2023.04.10

ジャーマンシェパードの雑種パップは生後数カ月の子犬。吠(ほ)え癖があるため人間に捨てられ、愛する少年と引き離されてしまう……。動物をテーマに物語をつむぎ続ける作家が、都会に暮らす野良犬たちの運命に思いをはせた児童書。「人間と犬との間には〈聖なる絆〉がある」という。それは本当なのだろうか。さくまゆみこ・訳。

・「朝日新聞」(子どもの本棚)

子犬のパップは、ある雨の夜、飼い主によって「しかばね横丁」に置き去りにされる。途方にくれるパップを助けてくれたのは野良犬のフレンチだった。フレンチは人間に捨てられた仲間たちと一緒にいて、パップもそこで暮らすことになる。群れで生きる犬たちを個性豊かに描いているところに、作者の動物たちへの深い愛を感じることができた。母犬が子犬に語りついできたという人間との「聖なる絆」はあるのか。またパップはどうなるのか、はらはらしながら読んだ。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)

・大阪国際児童文学振興財団(動画):やすこぼんさんのご紹介です。

パップという名の犬(動画)

 

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『ダーシェンカ』表紙

ダーシェンカ 愛蔵版

『ダーシェンカ 愛蔵版』(NF)をおすすめします。

フォックステリアのダーシェンカが、「片手にひょいと載せられるほどの、白い小さなかたまりだった」時から、歩けるようになっても「足を一本見失ってしまい、四本であることをすわりなおして確認しなくてはならな」かったり、なんでもかんでも手当たり次第にかんでしまったり、おしっこの水たまりをあっちこっちに作ったりしながら成長していく過程を、味のある文章と、愛情あふれる写真と、ゆかいなイラストで描写した本。ヒトラーとナチスを痛烈に批判した作家の、日常生活や人となりを知るうえでもおもしろい。

原作:チェコ/13歳から/犬、ペット

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『ネコとなかよくなろうよ』表紙

ネコとなかよくなろうよ

『ネコとなかよくなろうよ』(NF絵本)をおすすめします。

ネコが飼いたいパトリックは、ネコのことならおまかせ、というキララおばさんのところへやってくる。そしてさまざまなネコの種類についての説明を聞き、古代エジプトから現代に至るまでの人びとの、ネコとのつき合い方の変遷を知り、ネコが登場する絵やお話について教えてもらい、ペットとして飼うための秘訣を話してもらう。自分もネコを飼っていた作者が、キララおばさんの姿を借りて、子どもに知っておいてほしいネコについての知識のあれこれを、楽しい絵とともにわかりやすく伝えている絵本。

原作:アメリカ/7歳から/ネコ、古代エジプト

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『〈死に森〉の白いオオカミ』表紙

〈死に森〉の白いオオカミ

『〈死に森〉の白いオオカミ』(読み物)をおすすめします。

村には、川向こうの森を丸裸にしてはいけない、という言い伝えがあったのに、人口が増えて農地が足りなくなると、男たちは向こう岸にわたり森を焼き払ってしまう。そこは〈死に森〉と呼ばれるようになり、村人たちを襲うオオカミが次々に現れる。リーダーの巨大な白いオオカミは森を守っていた魔物なのか? 子どものエゴルカが一部始終を見届け、村を救う。ロシアの伝承を下敷きにし、不思議な人びとも登場する、土の香りがする物語。自然と人間の関係を描いた象徴的な寓話としても読める。

原作:ロシア/11歳から/オオカミ、伝説、自然

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『オオカミの旅』表紙

オオカミの旅

『オオカミの旅』(読み物)をおすすめします。

親に守られ、兄弟と競い合いながら子ども時代を過ごしたオオカミのスウィフトは、別の群れに家族を殺されてひとりになってしまう。生存をかけてさまよう間に何度も危険な目にあうが、やがてとうとう自分の居場所を見いだして家族が持てるまでに成長する。ノンフィクションではないが、オオカミの生態をうかがい知ることができるし、巻末には物語のモデルになったオオカミの紹介や、シンリンオオカミの特徴についての説明もある。波乱に満ちたサバイバル物語としても、おもしろく読むことができる。

原作:アメリカ/11歳から/オオカミ、旅、 サバイバル

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2021」より)

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『オランウータンに会いたい』表紙

オランウータンに会いたい

『オランウータンに会いたい』(NF)をおすすめします。

著者は、野生のオランウータンを調査・研究している学者。本書は、オランウータン研究者になった動機、ボルネオでの調査のやり方、オランウータンの生態、チンパンジーとは違う群れない生き方、絶滅の危機と私たちにできること、親子関係に見る人間やほかのサルとの違いといったことを、わかりやすい文章で伝えている。オランウータンについていろいろと知ることができるだけでなく、私たち日本人の暮らしとオランウータンが暮らす東南アジアの森が密接につながっていることにも目を向けさせてくれる。

11歳から/オランウータン ボルネオ ジャングル 絶滅危惧

 

I Want to Meet an Orangutan

Written by a Japanese scientist who studies wild orangutan, the text is very easy to follow. Readers learn what motivated the author to study orangutan, how she conducts fieldwork in Borneo, the ecology of orangutan, the fact that they are an endangered species, and what we can do to help them. The author also explores the differences between orangutan and chimpanzees, which live in groups, and differences in the parent-child relationships of orangutan as compared to humans and other ape species. Not only do we gain a deeper knowledge of orangutan, but we also learn how our own lifestyle is intricately connected to their habitat, the forests of southeast Asia. The author urges us to not only buy products that are good for us, but ones that are good for the environment of the whole planet. (Sakuma)

  • text: Kuze, Noko | illus. Akikusa, Ai
  • Akane Shobo
  • 2020
  • 188 pages
  • 22×16
  • ISBN 9784251073105
  • Age 11 +

Orangutan, Borneo, Jungle, Endangered species

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2021」より)

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『こんぴら狗』表紙

こんぴら狗

『こんぴら狗』(読み物)をおすすめします。

江戸時代、商店の娘・弥生に拾われて大きくなった犬のムツキは、ある日、江戸から讃岐(今の香川県)にある金比羅神社までお参りに出される。弥生の病気の治癒を祈願する家族の代理で参拝することになったのだ。ムツキは途中で、托鉢僧、にせ薬の行商人、芸者見習い、大工、盲目の少年など、さまざまな職業や年齢の人々に出会い、ひとときの間道連れになって旅をする。そして、川に落ちたり、雷鳴に驚いてやみくもに逃げ出して迷子になったり、姿のいい雌犬と出会って仲良くなったり、追いはぎに襲われた道連れを助けたり、といろいろな体験をしながら、金比羅神社までの往復をなしとげる。ムツキをかわいがっていた盲目の少年が、やがてムツキの子どもをもらうという終わり方にもホッとできる。たくさんの資料や文献にあたったうえで紡がれた、愛らしいリアルな物語。多くの賞を受賞している。

12歳から/犬 参拝 旅

 

Konpira Dog

This is an entertaining adventure novel with a dog as the protagonist, and is also historical fiction introducing the customs and lifestyle of Japanese people in the Edo period (1603-1868). The dog, Mutsuki, had been abandoned, but was rescued by Yayoi, the daughter of a wealthy merchant, and is now grown up. In this story he is sent on a pilgrimage from Edo (Tokyo) to a shrine in Sanuki (today’s Kagawa Prefecture in western Japan) dedicated to Konpira, the guardian deity of seafarers. He is being sent as the family’s representative to pray that Yayoi will recover from illness. He sets out carrying a bag around his neck containing a wooden slab engraved with his owner’s name and address, a monetary offering for the shrine, and enough money for buying food to last him the journey. He comes to be known as “Konpira Dog” and is looked after by travelers and other people he crosses paths with, so eventually he completes his mission and returns home safely.
On his travels, Mutsuki keeps the company of many people of different trades and ages, including a mendicant, a snake oil peddler, an apprentice geisha, and a carpenter. He also has many experiences on his pilgrimage, such as falling into the river, making friends with an attractive female dog, and saving a traveling companion from bandits. His last companion on the road is a woman who runs a kerosene wholesale business and whose young son Muneo is blind. The boy is later given Mutsuki’s puppy, providing a satisfying conclusion to the story. The author researched the subject thoroughly to make it into a creative yet realistic story. The book won the Sankei Children’s Publishing Award, the Association of Japanese Children’s Authors Award, and the Shogakukan Children’s Book Award. (Sakuma)

  • Text: Imai, Kyoko | Illus. Inunko
  • Kumon Shuppan
  • 2017
  • 344 pages
  • 20×14
  • ISBN 978-4-7743-2707-5
  • Age 12 +

Dogs, Pilgrimage, Travel

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本2019」より)

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『あめがふるふる』表紙

あめがふるふる

『あめがふるふる』をおすすめします。

雨の日に、ふたりだけで留守番をしている兄のネノと妹のキフが、窓の外をながめていると、フキの葉の傘をさしたカエル、たくさんのオタマジャクシ、くるくる回るカタツムリ、踊っている木や草や野菜などが次々にあらわれる。そして魚に誘われて向こうの世界にとびこんだ兄妹は、困っている小さな動物たちを笹舟をたくさん作ってのせていく。やがてお母さんが帰ってきて、子どもたちは現実に戻る。「あめがふるふるふるふる・・・」という言葉が効果的に使われ、力強い絵がファンタジー世界を楽しむ子どもをうまく表現した絵本。

5歳から/雨の日 冒険 思いやり

 

It Rains and It Pours

Neno and his younger sister Kifu are home alone on a rainy day. As they gaze out the window, they slip into a fantasy world. One by one strange things come into view: a frog with a butterbur leaf umbrella, a horde of tadpoles, snails spinning round and round, huge trees and vegetables. Dancing joyfully, Neno and Kifu weave boats from blades of bamboo grass to help little animals get through the rain. When their mother comes home, they return to reality. The playful wording and strong illustrations capture the children’s delight in the strange world they encounter. (Sakuma)

Text/Illus. Tashima, Seizo Froebell-kan 2017 32 pages 25×23 ISBN 9784577045190 Age 5 +
Rain; Staying home alone; Reality and fantasy

(JBBY「おすすめ!日本の子どもの本 2018」より)

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ダチョウのくびはなぜながい? 〜 アフリカのむかしばなし

昔むかし,首の短いダチョウがワニに虫歯の治療をたのまれて……。ケニヤに伝わる昔話を,カルデコット賞に輝くコンビが絵本化。 (日本児童図書出版協会)

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わたしのだいすきなどうぶつは…

犬,にわとり,馬,牛,ねこ,ぶた……。子どもたちがよく知っている動物たちを迫力満点のダイナミックな絵で表現した絵本。 (日本児童図書出版協会)

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イングリッド・メンネン&ニキ・ダリー文 ニコラース・マリッツ絵『ぼくのアフリカ』

ぼくのアフリカ

南アフリカの反アパルトヘイト出版社の出した絵本の翻訳。男の子が自分の住んでいる街を紹介する。力強い絵が素晴しい。 (日本児童図書出版協会)

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もりのともだち

春になり,氷の家がとけてしまうと,きつねは野うさぎの家を占領してしまいました。それを聞いた森の動物たちは……。 (日本児童図書出版協会)

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びっくりどうぶつえん

子どもたちの大好きなクイズや数あて,まちがいさがしなどがいっぱい載った動物絵本。動物の生態や姿なども知ることができます。 (日本児童図書出版協会)

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遠い日の歌がきこえる

キャトリーナとトビー、ミランダはイギリス諸島の一つで休みをすごすことになった。島の中の冒険、浜辺に棲むアザラシたち等、自然を通して成長していく若者達を描く。 (日本図書館協会)

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ふしぎなどうぶつえん

迷路,かくし絵,数あて,まちがいさがし……子どもたちの大好きな遊びやクイズがいっぱいの動物絵本です。 (日本児童図書出版協会)

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セロひきのゴーシュ

おなじみの若き音楽家と動物たちの交流の物語を,「私もひとりのゴーシュだ」と言う司修が,思いをこめて描いた力作です。 (日本児童図書出版協会)

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いっとうのいぎりすのおうし

にひきのにたものがえる、さんとうのさけのみとら、よんわのよくばりぺんぎん、ごひきのごきげんなわに、などで12までの数を数える。言葉遊びも含む。 (日本図書館協会)

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『シュゼットとニコラ〜ゆめのどうぶつえん』表紙

シュゼットとニコラ5〜ゆめのどうぶつえん

ジュゼットとニコラは動物園で見た動物たちそれぞれのふるさとを訪ね、そこで彼らがどんなふうにくらしているかを見る。 (日本図書館協会)

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『この世界からサイがいなくなってしまう』表紙

この世界からサイがいなくなってしまう〜アフリカでサイを守る人たち

『この世界からサイがいなくなってしまう〜アフリカでサイを守る人たち』をおすすめします。

私はケニアの自然公園で、銃を持ったレンジャーがサイのグループから少し距離を保ってついて回っているのを見たことがある。密猟で角がねらわれるサイは、あと20年で絶滅してしまうかもしれないという。だから守る方も必死なのだ。本書は、南アフリカの人々がどんなふうにサイを保護しようとしているか、孤児になったサイの子どもたちをどう育てているか、なぜ密猟者がはびこるのか、女性だけのレンジャー隊の活躍ぶりなどを、生き生きとした文章でわかりやすく伝え、地球は人間だけのものではないこと、さまざまな種が支え合って生きていることに目を向けさせてくれる。アフリカを知るうえでも、おもしろく読めるノンフィクション。
小学4年生から。

(朝日新聞「子どもの本棚」2021年8月28日掲載)

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スズキコージ『?あつさのせい?』表紙

?あつさのせい?

『?あつさのせい?』をおすすめします。

ここは、暑い盛りの動物の町。暑いと頭がきちんと働かないので、うっかりもぼんやりもしょっちゅう起こる。馬は駅のベンチに帽子を忘れ、その帽子を拾ったキツネは駅のトイレにかごを忘れ、そのかごを拾ったブタは銭湯でシャンプーを忘れ・・・と連鎖はずっと続いていく。暑さに負けていない力強い絵が、動物たちそれぞれのクスッと笑えるユーモラスな姿を伝えている。
5歳から。

(朝日新聞「子どもの本棚」2021年7月31日掲載)

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『バッタロボットのぼうけん』表紙

バッタロボットのぼうけん

『バッタロボットのぼうけん』をおすすめします。

主人公は犬の子どもたちで、バッタ型のロボットに乗って冒険に出かけるという設定。このロボットが、子どもの持つ知識の範囲内でなるほどと思えるように工夫されているのが楽しい。

ボルネオ、オーストラリア、ニュージーランドの陸地と海と川にすむ虫や動物たちが、生き生きと描かれ、吹き出しの中に簡単な説明も付されている。

ファンタジーの要素も取り入れた知識絵本だが、その土地に生息する動物をリアルに、主人公の犬たちをイラスト風に描くことによって、子どもが混乱しないよう配慮がされている。さらに最後の場面がストーリーに奥行きをもたせ、そこからもう一つの想像がふくらむよう工夫されている。

(産経新聞「産経児童出版文化賞・美術賞」選評 2019年5月5日掲載)

キーワード:ロボット、自然、絵本、動物

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『フラミンゴボーイ』表紙

フラミンゴボーイ

『フラミンゴボーイ』をおすすめします。

イギリスの青年ヴィンセントが旅先の南フランスで話を聞くという枠の中に、フラミンゴが大好きで動物と気持ちを通じ合えるロレンゾと、社会から排斥されてきたロマ人のケジアの物語がおさまっている。ナチスの脅威、戦争に翻弄される人間、差別、動物保護など様々なテーマを扱いながら、巧みなストーリー展開で読者をひきつけ、おもしろく読ませる。(小学校高学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚・冬休み特集」2019年11月30日掲載)

キーワード:動物、差別、戦争

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『嵐をしずめたネコの歌』表紙

嵐をしずめたネコの歌

『嵐をしずめたネコの歌』をおすすめします。

イギリスのコーンウォール地方に伝わる伝説を基にした物語。大嵐が来て海が荒れ、漁師たちが船を出せずに村に食べるものがなくなったとき、年老いた漁師のトム・バーコックは飼い猫のモーザーと一緒に、命がけで海に出て行く。村人たちのために、なんとしても魚をとろうと決意したのだ。細かくていねいに描かれた絵がとてもいい。もともとは横書きの文章量の多い絵本だが、そのままの形では日本の子どもに読みにくいので、文字を縦書きにして絵童話風に仕立てている。(小学校中学年から)

(朝日新聞「子どもの本棚」2019年5月25日掲載)

キーワード:海、ネコ、嵐、伝説、絵物語

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ジョン・キラカ『なかよしの水』(さくまゆみこ訳 西村書店)表紙

なかよしの水〜タンザニアのおはなし

スイスのバオバブブックスの編集長が来日なさったとき、表参道のビーガンレストラでお昼を一緒に食べながら話をしました。その時「今はキラカさんにこんな本を描いてもらってるのよ」と聞いて、西村書店につないで出版してもらいました。

前作の『ごちそうの木』は、食べ物がなくなって動物たちが困るというお話でしたが、こちらは、日照りが続いて水がなくなり、動物たちが困っています。ようやく水が流れる川を見つけましたが、そこにはワニがいて、いえにえを差し出さないと水をくれません。この絵本でも、小さくて弱そうなノウサギの女の子が知恵を使って活躍します。キラカさんの絵は、ユーモラス。クスッと笑えるところがいくつもあります。

(編集:植村志保理さん 描き文字デザイン:ほんまちひろさん)

 

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<訳者あとがき>

ジョン・キラカさんは、タンザニアに生まれて今もタンザニアでくらし、村の人たちからいろいろなお話を聞いて書きとめ、それをもとに絵本をつくっています。本書は、そのキラカさんの新作ですが、前作『ごちそうの木』と同じように、日照りがつづいたせいで困っている動物たちが登場します。天候と結びついたくらしをしているアフリカの人々にとっては、水が手に入るかどうかは生死にかかわる大問題です。それで昔話にも、水をさがすとか、水を手に入れるために井戸をほる、というモチーフがよく出てくるのです。

また前作でも、かしこいノウサギが登場していましたが、この絵本でも、ノウサギが大活躍します。ノウサギは、アフリカ各地の昔話によく顔を出すキャラクターです。体が小さく、たたかうための牙も角も、するどい爪も持っていないので、生きのびるためには知恵を使うしかないのが、ノウサギです。力の強い、大きな動物たちに負けることなく、生きる方法を考え出すノウサギは、アフリカの昔話の中では、英雄ともみなされています。昔話をもとに再構成されたこの絵本では、かわいいスカートをはいた姿で登場していますが、そこには、女性や子どもを応援しようと思っているキラカさんの考えがあらわれているように思います。

キラカさんは、2017年夏に来日され、ストーリーテリングや、講演や、子ども向けのワークショップをしてくださいました。末っ子のおじょうさんヴィヴィアンちゃんのことが自慢で、何度も写真を見せてくださったり、何をおみやげにしたらいいかと迷ったりする姿からは、子煩悩なパパぶりを垣間見ることができましたし、講演からは、アフリカに伝わる口承文芸を絵本にして次の世代につなげていこうとする決意がうかがわれました。

さくまゆみこ

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『野生のロボット』表紙

野生のロボット

しじみ71個分:とてもおもしろく読みました。AI、ロボットの物語ということですが、お母さんの心を持って、ガンの子どもを育てる話を主軸として、最後は島の動物が一致団結してロボットを回収に来た戦闘用ロボットと対決する。ロボットの話というよりは、血のつながらない親子の物語や、文化の異なる移民がコミュニティに受け入れられていく物語など、いろんな読み方ができると思いました。ロボットがふわふわした梱包につつまれて箱の中にいたものがパカンと出てくる描写など、赤ちゃんが生まれた様子の表現の暗喩とも見え、赤ちゃんみたいな状態から、学習を経て賢く愛にあふれた大人の存在になっていくのも、人間の成長過程をトレースしたようにも読めます。物語の中で、ロボットは当初、インプットされた情報から声色を選んで、自然なしゃべり方になるように努めたことがきちんと書かれていますが、異質なもの同士が共生し、ガンの親として機能する中で、ロボットがあえて生き物らしく行動するという記述は減って、どんどん普通に感情を持った生き物のように自然に行動するように語られます。読んでおもしろいのですが、物語として、だんだん何を言いたいのか、わからなくなってしまいました。

西山:それは例えば、p85の1行目、親鳥を死なせてしまったことをテレビショッピングみたいなしゃべり方で「なあんと、この子だけが生き残りましたあ!」なんて言っているところでしょうか。あそこは、笑いました。ハリネズミの針が刺さってしまったキツネのカットとか、絵も好きでした。先が気になってどんどん読み進めたわけですが、最終的には釈然としない思いが残っています。これは、野生化したロボットの話なのかな? 文明化された野生動物たちの話なのでは? と思うんです。動物たちが火を操るということがどうしてもすとんと来ない。レコたちは、暴力をふるうことがプログラミングされているらしいし、作中唯一の完全な悪役ですが、なんの躊躇もなく破壊する=殺すことに抵抗を感じました。初めのほう(p43)で、「ロズは、プログラムのせいで暴力をふるうことはできない。でも、相手をいらいらさせることならできる」と松ぼっくりをしつこくクマに落とすところが好きだったんですが、そのくらいのゆるい闘いならよかったのに、と思います。ロズがキラリの母親となると、言葉づかいが「わ」「よ」で女言葉を強調しますが、原文でいかにも女性の台詞であるように表現されているのかどうか気になります。

マリンゴ: 非常に興味深い物語で、読めてよかったと思っています。変化が多くて、次はどうなるのかと、ストーリーに引きこまれました。一般的に、ロボットと人間を描くと、人工知能が人間の知能を超えるか、敵対してきたらどうするのか、といったあたりが焦点になりがちですよね。でも、このロボットのように、人間に害をおよぼさない範囲で、自由を求める、ということがあるかもしれません。こういう素朴なロボットに対しても、人間は、「人の命令に背いて自分の意志を持つ危険なやつ」と判断するのでしょうか。そんなことを考えさせてくれる作品でした。それからp141「うちは変わった家族だね。でも、ぼくはけっこう気に入ってる」というフレーズ、アメリカのYAなんかでよくありそうなセリフですけれど、この小説のなかだと新鮮でした。ほんとに変わった家族ですものね。また、ガンのクビナガが目の前で倒れて死んじゃったり、冬の寒さで凍死した森の動物たちも多かったり、と死をためらいなく書いているのがいいな、と思いました。児童書だと、そのあたりを匙加減して、みんななんとか冬を乗り切りましたぁ! とハッピーエンドになりがちなので。ただ、1つだけ気になるのは、ロボットのスペックがどの程度なのかよくわからないということ。たとえばp132 では、見たものを脳で検索して「あれは船」と言っています。でも、p76では見たものを検索できず、「あなたはオポッサム・・・・・・」と名前を知ってから情報を検索しています。何ができて何ができないのか、わかりづらいなと思いました。

リック:AIなのに、母親らしくなっていくのがおもしろいですね。子育てするママが成長していくお話でもあります。ロボットゆえに、いかなる困難も乗り越えるスーパーウーマンなのが痛快だけど、なんでも解決できちゃうのはおもしろみにかけます。ロボットでは対応できない問題点に突き当たるような展開があったら、もっとおもしろかったのではと思いました。

カピバラ:1章1章が短く、次の章を読みたくなるような書き方がしてあり、絵もたくさんあって、この厚さでも読みやすくする工夫がみられます。小学5~6年生から読める本になっているのが、うれしいです。今の子にとってAIは身近な存在になっていますが、人間社会でどう共存していくか、といったよくある設定ではなく、逆にロボットが野生に入っていくというところがユニークですね。作者は、プログラミングされたロボットと、本能によって動く野生動物は似ているといっていますが、おもしろい着眼点です。たくさんの動物たちが登場しますが、名前のつけ方がその動物に合っていておもしろいし、イタチのチョロリとか、アナホリーとか、翻訳も工夫していますね。セリフもうまく訳し分けていると思います。子どもたちにすすめたい物語です。

イバラ:とてもおもしろく読みました。この本の動物たちはお互いに会話したりして擬人化されていますが、ロズも単純に擬人化されたロボットという位置づけでしょうか? それともSF的に未来のロボットとしてここまで人間化が進んだということなのでしょうか? 物語世界の設定としてそのどっちなのかが、よくわかりませんでした。今のところロボットには感情がなくてプログラミングされたことしかできないはずなのですが、このロボットは人間世界に触れていないので人間らしい会話はできないはず。でも、人間世界の人間らしい口調で話します。さっき原書を見せてもらったのですが、原書はフラットな言い方ですね。訳者が、子どもに読みやすいようにということで、こうなさったのでしょうか? いったいどこまでが科学で、どこからがファンタジーなのか、知りたいです。ロズは、『オズの魔法使い』に出て来るブリキの木こりと同じようなファンタジーの産物なのか、それともサイエンスフィクションの住民なのか、興味があります。著者はどのような物語世界を作っているのか、続刊があるとのことなので、期待して待ちたいと思います。

コアラ:ロボットものは好きでよく読んでいましたが、ロボットが野生化するという物語は初めてで、おもしろかったです。絵がいいですね。p176~p177の見開きの絵とか、飛んでいくキラリを見送るp190~p191の絵とか。あと、シカのキャラメルとか、名前がいいですよね。ロズとキラリの親子関係もいい。キラリが、母親がロボットだということを受け入れていくのがいいし、お互いに支えあっているのがいいですね。最後、ロズが島に戻れる見込みは、私はほとんどないと思っていて、ロボットだから初期化されれば終わりですよね。でも、続編があると聞いて、希望が持てました。続編も読んでみたいと思います。

アンヌ:動物たちの描かれ方が、夜明け前の協定とかなんとなく宮沢賢治的な世界を感じたので、SFというよりファンタジーなんだと思いながら読みました。けれども、動物が火を使うのにはびっくりしました。あげくにライフル銃を使って戦ってしまうし、なんだか受け入れがたい設定です。ロボットのほうは自己保存の法則を生かして言葉を習得し、動物社会の中で生き残っていくというストーリーには納得しましたが、なぜ女性で母親という設定なのか疑問を持ちました。でも、あとがきを読むと作者は最初から女性のロボットを書くつもりだったのですね。ガンの渡りの中で島の外の社会を見せ、他のロボットの働く様子を見せるところなど実にうまいと思いましたが、最後にレコが死にかけながらいろいろ忠告するところは、急に仲間意識を持つロボットに変身したようで、矛盾を感じました。すべてのロボットはロズも含めて実に人間的な存在なんだという落ちを予感させます。続巻があるようなので、そこで解き明かされるのかもしれません。

すあま:読みやすかったです。設定については疑問に思わず、楽しく読みました。ロボット版『ロビンソン・クルーソー』かな。知らない島に漂流した人間の話はあるけれど、ロボットだとこうなるのか、とおもしろく読みました。本をあまり読まない子にもすすめられるのではないかと思います。

ハル:読んでいてとっても癒されました。動物たちの様子が生き生きとしていて楽しかったです。お話も書けて、絵も描けて、多才な著者ですね。でも、これは動物たちにとっては無害なロボットだから、この世界に入っていけたんですよね。捕食・被食の関係にある動物たちが、この時間だけは交流できるという「夜明け前の協定」はおもしろかったのですが、後半、魚たちがクマを助けたところで、クマが「ありがとう! もう魚は食べないことにするわ!」って言うんですよ。これはいただけません。野生の動物同士、食う、食われるというのは、胸が痛むことではありますが、生きていくための手段で、憎しみとか、和解とか、仲直りとか、そういう話じゃないんだから、そこは一緒にしちゃいけないんじゃないかと思います。せめて「魚は今日から3日は食べないわ!」とか、そのくらいじゃだめですかね(笑)。ラストで急に殺伐とした戦いが始まってしまったのも、ちょっと残念でした。私は、ロボットが女性という発想がなかったので、他の方もおっしゃっていましたが、ロズがキラリのお母さんになったとたんに、急に女性的な話し方に変わったように思い、母親役だからって女性にならなくてもいいのに、と違和感を覚えたのですが、あとがきによると、著者は最初からロボットに女性的なものを感じていたのですね。母親になったからと話し言葉を変えたわけではなさそうですが、私は気になりました。

鏡文字:厚い本だったので、時間がかかると思ったら、絵もとても多く、以外と文字数もなかったので、すぐに読むことができました。絵がいいですね。

イバラ:著者は絵と文の両方で表現したかったんでしょうね。日本語版のレイアウトがきっと大変だったと思います。

鏡文字:野生と対極にあるロボットという取り合わせがおもしろかったです。「~んだ」という語尾がちょっと気になって、それで、よけいにだれかに語っているという印象を与えます。だれが、だれに向かって語っているのかと、ちょっと思ってしまいました。それから、無人島でインターネットに接続できるのかな、とかエネルギーは? なんて言うのは野暮というものでしょうか。

イバラ:きっとソーラー・エネルギーを使ってるんじゃないですか。

鏡文字:ソーラーかな、とは思いましたが・・・・・・。動物が火を使うことへの抵抗、という話が出ましたが、そもそもここの動物って、どういう存在なんでしょうか。

イバラ:野生の環境、野生のロボットと言ってるのに、擬人化されている。

鏡文字:それぞれの動物同士は、会話が可能。でもロボットは学習が必要で・・・・・・と考えだすとちょっとわからなくなってくるのですが、まあ、あんまりこだわらずに、物語を楽しめばいいのかもしれません。イワヤマが、突如、温暖化の影響について言及するところが、やや唐突で、「語ってる」感があったのですが、これは作者の文明批評なのでしょう。ラストは思いがけない展開で、ちょっとびっくりしました。

しじみ71個分:そもそもの設定で気になってしまうのが、工場で似たようなロボットがたくさん製造されているのであれば、そんな量産型のロボットを回収する必要はないんじゃないか、と思います。そこに矛盾を感じてしまう。

さららん:字の組み方、改行が読みやすく、文字の見せ方も工夫していますね。たとえばp279「どさっと/ロズのわきに/たおれた」と、ワンフレーズずつ改行してあって、レコ(敵のロボット)がガクリと倒れていく時間を感じました。全体に絵と文のレイアウトのバランスが見事です。小さな事件が次々に起こり、お話の展開が早い。絵も多く、子どもは早い展開が大好きなので、小学生の読者もどんどん読める作品になっていると思います。ただ、ロズと動物たちが暮らす島が、一種のパラダイスなのかと思ったら、終わりのほうで雲行きが変わり、ディストピアのようにも思えてきました。オープンエンディングであるものの、レコたちの追跡が執拗だったので、人間から絶対に逃れられないロボットの宿命をロズが変えることができるようには思えず、疑問が残りました。人間の世界で必要な修理をしてもらい、ロズが島に帰る方法を見つけたとしても、待っているのは、「正義」のために敵を葬り去ることのできる動物たちです。作者にとって「野生」とはなんなのか? 論理の矛盾をどう解決するのか、続編に期待しています。

まめじか:『トラさん、あばれる』(青山南/訳 光村教育図書)の絵本で有名なピーター・ブラウンが児童書を書いたというので、アメリカでたいへん注目を集めていた本で、私は出版後、わりとすぐに読みました。移民も、血のつながらない家族も、いまアメリカの児童書界が手渡そうとしているテーマなので、広く受け入れられたのも納得です。絵と文がよく合っていて、物語の運びに勢いがありますね。ビーバーが義足を作ってくれる場面ではじんとなりました。少し気になったのは、ロズが小屋を作り、動物たちを迎えるところです。異常気象で例年になく寒い冬だったとしても、厳しい自然の中で生きる動物の生き死にを、人工的なもので変えてしまっていいのか。ファンタジーだからそれでいいのかもしれませんが、だとしても、その世界の中でのルールは必要ですよね。あるいは、そういうことは気にせずに楽しいお話として読めばいいのか。どうなのでしょう。

アンヌ:自分の足を直せないところとか、変ですよね。木で直してもらうなんて。ある程度の修理能力を持っていないなんて、おかしい。

鏡文字:木で足を直すのは、私はおもしろかったです。絵的にもいいな、と。ただ、ほかのロボットの部品を使えないのかな、とちょっと思いました。

しじみ71個分:ロボットが動物の言葉を理解するまでは設定として認め得るとしても、動物同士は異なる言語を話すはずなので、意思疎通できないはずじゃないかと思うのですが、その辺はさらりと流してある感じがします。

カピバラ:楽しい動物物語として読めばいいんじゃないかな。

イバラ:それだったら、なにもロボットにする必要はないと思うんだけど。

しじみ71個分:そうなんです。まさに思ったところはそれで、タフな血のつながらないお母さんの話でもまったくよくて、あえてロボットである必要性がなくなっていると思うんです。ロボットでなければならない必然性が物語にない。なので、ロボットがただ素材にしかなってないように感じられました。

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エーデルワイス(メール参加):同じ作者なので、絵と文がよく合っていた。主人公のロボットは、ジブリ映画「天空のラピュタ」に出てくる巨人ロボットのイメージかなと思いました。ばりばりのAIの話かと思って読み始めたら、ばりばりの生身の物語でした。自然素材の足をつけるなんて、ね。

(2019年11月の「子どもの本で言いたい放題」)

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ビヴァリー・ナイドゥー『ノウサギのムトゥラ〜南部アフリカのむかしばなし』さくまゆみこ訳 岩波書店

ノウサギのムトゥラ〜南部アフリカのむかしばなし

南部アフリカに暮らすツワナ人に伝わるノウサギの昔話集。南アで生まれ育ったナイドゥーさんが、再話しています。

どのお話でも、体の小さなノウサギが、知恵を使って体の大きな動物たちを出し抜きます。

ナイドゥーさんによる「日本の読者へ」という序文もついています。またフロブラーさんの挿絵は、ノウサギのムトゥラのキャラクターをとてもよく表現していて、ユーモラスです。

入っている昔話は、以下の8つです。

1.ゾウとカバのつなひき
2.ノウサギのしっぽ
3.にごった水たまり
4.ノウサギとカメの競走
5.恋するライオン王
6.夕ごはんはどこへ?
7.角を生やしたノウサギ
8.親切のお返し

この本、当初は昨年秋に出るはずだったのですが、翻訳権の取得に時間がかかり、ようやく出ました。

(編集:松原あやかさん)

 

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<訳者あとがき>

この本は、アフリカ南部のツワナの人たちに伝わる昔話を、ビヴァリー・ナイドゥーさんが再話したものです。ツワナの人たちは、ボツワナ、ナミビア、南アフリカ共和国にまたがって暮らしています。アフリカ大陸は、かつてヨーロッパの国々が地図上で線引きをして国を分け、植民地にしていたので、一つの国の中に多様な民族が暮らし、一つの民族がいくつもの国に分かれて住んでいるのです。ちなみにボツワナというのは、「ツワナ人の国」という意味で、国民の九割がツワナ人ですが、南アフリカ共和国には、それより多い数のツワナ人が住んでいます。

アフリカの昔話には、いたずら者の動物がよく登場してきます。たとえば、日本でも知る人が多いクモのアナンシは、神さまから指示されたものを、ほかの動物をだまして集めたりしています。アナンシはもともとはガーナのアシャンティ地方の昔話に登場するキャラクターでしたが、それが近隣の国の人々にも伝わったり、奴隷貿易の影響でアメリカや西インド諸島にも伝わりました。

世界各地の昔話や神話に登場する、こうしたいたずら者を、文化人類学などではトリックスターとよんでいます。トリックスターは、いたずらや思いがけない行動をして、社会のきまりや力の関係を混乱させます。でも、それだけではなく、トリックスターは新たな価値をつくりだす役割も担っています。まわりの者たちをしょっちゅうこまらせているけれど、どこか憎めない——トリックスターは、そんな存在なのです。

私は、アフリカ各地に伝わる昔話の本をたくさん収集していますが、そうした本にトリックスターとして登場する機会がいちばん多いのが、ノウサギだと思います。カメ、クモなどがトリックスターになるお話もあります。

本書に主人公として登場するノウサギのムトゥラも、そんなトリックスターだと言えるでしょう。身体は小さいし力も弱いのに、知恵(ときには悪知恵)を使って、ゾウやライオンやカバなど力の強い大きな動物たちを出し抜いたり、だましたりしています。力の強い動物にとっては、ノウサギはやっかいないたずら者でしょうが、いつもいじめられている、力の弱い小さな動物たちにとっては、胸がすっとするヒーローかもしれません。でも、時には、ノウサギがもっと弱い動物(たとえばカメ)にへこまされたりするのも、おもしろいところです。日本でもよく知られている「ウサギとカメ」に似たようなお話も、この本の中には入っています。

ムトゥラというのは、ツワナ語でノウサギという意味ですが、すべてのノウサギをさすのではなく、固有名詞として使われています。原書では、ほかの動物たちもツワナ語で登場していた(たとえばカバはクブ、ジャッカルはポコジェー、カメはクードゥというように)のですが、日本の読者にはなじみがないので、ムトゥラ以外は、日本語にしました。

動物が登場するこうした昔話は、じつは人間のことを語っているといいます。お話の中に人間のだれかを登場させると、「ばかにされた」と思ったり、「嫌みを言われた」と思ったりする人も出てきて、村のなかの人間関係がうまくいかなくなる場合があるので、動物の姿を借りて間接的に語るのだそうです。

アフリカ大陸の多くの地域では、「読む・書く」の文字の文化よりも「語る・聞く」の声の文化のほうが尊重されてきました。民族や村の歴史や、叙事詩なども、語り部の人たちが語り、みんなでそれを聞くことによって、伝えられてきたのです。地域によっては「語り」を職業とする人たちがいましたし、夜になると人々が集まって語り合ったり、年配者が子どもたちに昔話を聞かせたりすることも、よく行われていました。けれども、今はアフリカにもテレビやスクリーンメディアが入りこみ、そうした伝統は失われかけています。

昔は、欧米の学者の人たちが、伝承の物語や昔話を集めて出版していましたが、通訳を介しての記録だったり、欧米の昔話風に再話されることも多かったようです。今は、自分たちの文化の源が消えていくことを心配したアフリカの人たちが、あちこちを回って伝承の物語を自分たちで集めるようになりました。たとえば大学の先生が学生たちに、長い休みの期間に祖父母や長老から昔話を聞いて書きとめるようにという宿題を出し、集まったものをまとめて本にするなどということも行われています。またタンザニアの絵本作家ジョン・キラカさんのように、あちこちの村をまわってお話じょうずの人たちから昔話を聞き、それに基づいて絵本をつくっている人もいます。現地のようすをよく知る人たちが集めたり再話したりした本のほうが、語られるときの雰囲気なども伝わってくるので、より楽しく読めるのではないかと私は思っています。

本書も、子どものころ聞いた昔話が楽しかったことを思い出したナイドゥーさんが、今の子どもたちに向けてその楽しさを伝えようと、再話して本にまとめたものです。ナイドゥーさんの作品は、人種差別がはげしかったアパルトヘイト時代の南アフリカの子どもたちを主人公にした『ヨハネスブルクへの旅』(もりうちすみこ訳 さ・え・ら書房)や『炎の鎖をつないで〜南アフリカの子どもたち』(さくまゆみこ訳 偕成社)、父親を殺されてナイジェリアからロンドンへ脱出する子どもたちを描いた『真実の裏側』(もりうちすみこ訳 めるくまーる)が、これまでに日本でも翻訳されていますが、昔話の再話の本が日本で紹介されるのは本書がはじめてです。

ナイドゥーさんは、黒人差別のはげしい時代に南アフリカのヨハネスブルクで生まれました。子どものころは白人だけの学校に通っていたのですが、そのころは目隠しをつけて走る馬みたいに周囲のことが見えていなかったそうです。大学生のときに目隠しをはずすことができたナイドゥーさんは、人種差別はおかしいと思い始め、政府に反対する運動に加わって逮捕され、牢屋に入れられた経験をもっています。その後イギリスに亡命して作家となりましたが、最初の作品『ヨハネスブルクへの旅』は、ネルソン・マンデラが牢獄から釈放されて自由になった一年後の一九九一年まで、南アフリカの子どもたちが読むことはできませんでした。ナイドゥーさんはほかにも、アフリカの子どもが抱える困難や、アフリカの文化や暮らしを伝える本を書いています。私は二〇〇八年にケープタウンで開かれたIBBYの世界大会でお目にかかり、親しくお話をさせていただきました。今回も、お願いすると快く「日本の読者のみなさんへ」というメッセージを寄せてくださいました。

私は「アフリカ子どもの本プロジェクト」というNGOにかかわって、仲間といっしょにアフリカの子どもたちに本を送ったり、ケニアに設立した子ども図書館を支えたり、日本で出ているアフリカ関係の子どもの本を残らず読んで、おすすめ本を紹介したり、おすすめ本をみなさんに見てもらう「アフリカを読む、知る、楽しむ子どもの本」展を開いたりしています。この本を読んで、アフリカの昔話っておもしろいな、と思った方は、「アフリカ子どもの本プロジェクト」のウェブサイト(http://africa-kodomo.com)を開いて、「おすすめ本」の中の「昔話」のところをクリックしてみてください。そこにも、おすすめの昔話絵本や、昔話集がのっていますよ。

二〇一八年冬           さくまゆみこ

 

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ガルブレイス文 ハルバリン絵『わたしたちのたねまき』

わたしたちのたねまき〜たねをめぐるいのちたちのおはなし

『わたしたちのたねまき〜たねをめぐるいのちたちのおはなし』をおすすめします。

春になったら芽を出す種。その種をまくのが人間だけじゃないって、知ってた? 風も小鳥も太陽も雨も川もウサギもキツネもリスも種まきをしてるんだって。どうやって? この絵本を見ると、わかってくるよ。見返しに様々な種の絵が描いてあるのも、おもしろいね。[小学校中学年から]

(朝日新聞「子どもの本棚」2017年12月23日掲載 *テーマ「冬休みの本」)


人間は植物を育てようとして畑や庭に種をまくが、人間以外にも種をまいているものがいる。それは、風、小鳥、太陽、雨、川。そしてウサギやキツネやリスなどの動物たちも。でも、いったいどうやって? それがわかってくるのがこの絵本。見ているうちに、自然の中に存在するものは、みんなお互いに利用し合い、助け合いながら、命をつないでいることもわかってくる。絵が親しみやすく、訳もリズミカル。見返しに描いてあるさまざまな種子の絵もおもしろい。

原作:アメリカ/6歳から/種、自然、動物、命のつながり

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)

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ジョン・キラカ『ごちそうの木』さくまゆみこ訳

ごちそうの木〜タンザニアのむかしばなし

最初はスイスで出た絵本です。ドイツ語で出たのですが、キラカさんはもともと英語でテキストを作られていたので、英語版を中心にして訳しました。

キラカさんがご自分で村人から聞き取った昔話を絵本にしています。キラカさんの最初の絵本『チンパンジーとさかなどろぼう』(若林ひとみ訳 岩波書店)には、伝統的な衣装を着た動物たちが登場しますが、この絵本に登場する動物たちは、現代風の衣装を着ています。「なぜ?」とたずねてみると、今はタンザニアの田舎でも伝統的な衣装を着る人が少なくなり、子どもたちに絵本を見せると、「どうしてこんな変わった服を着ているの?」と言われるからだと、おっしゃっていました。

キラカさんは来日の際、この絵本のストーリーテリングをあちこちでしてくださいました。ご覧になったみなさんは、アフリカのストーリーテリングが パフォーマンスだということを目の当たりにして、その楽しさを充分味わうことができたのではないかと思います。

この昔話の基本形はアフリカ各地にあり、たとえば光村教育図書から出た『ふしぎなボジャビのき』(ダイアン・ホフマイアー文 ピート・フローブラー絵 さくま訳)も、とても似た昔話を絵本にしたものです。ほそえさちよさんのご尽力で、西村書店が2017年夏のキラカさんの来日に間に合うように出してくださいました。
(書き文字デザイン:ほんまちひろさん 編集:植村志保理さん)

*厚生労働省:社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(子どもたちに読んでほしい本)選定

◆◆◆

<訳者あとがき>
アフリカには、まだ農業が天気に左右されているせいで、日照りがつづくと飢える人が出てしまう地域があります。それを考えると、この絵本にあるような「ごちそうの木」の存在は夢であり、あこがれをもってくり返し語られてきたのもうなずけます。これはタンザニアの昔話ですが、類話はアフリカ各地にあって、南アフリカの作家と画家による絵本『ふしぎなボジャビの木』(光村教育図書)も、同じテーマをあつかっています。
アフリカの多くの地域は文字をもたず、歴史や叙事詩や物語は口伝えで語りつがれてきました。そういう社会では、きちんと記憶することが生死にかかわるくらい重要だったのかもしれません。
またここにも、アフリカ各地の昔話に姿を見せるノウサギが登場しています。英語の原書では「ウサギ」となっていましたが、作者に確認したうえで「ノウサギ」と訳しました。ノウサギは、体は小さいのに知恵のある存在で、大きな動物をぎゃふんといわせるトリックスターでもあります。
おとなたち(とくに祖父母)が1日の仕事が終わった夜、子どもたちに昔話を語って聞かせ、そのなかで社会の決まりや価値観や歴史を伝えていくという文化が、アフリカにはあります。こうしたお話の時間は、歌や踊りが入ることもある楽しいひとときです。しかし、近代化の波におされて、今はその文化も消えていこうとしています。そのため、学者だけでなくキラカさんのような方も、故郷の昔話や伝説を集め、語りの楽しさもふくめて子どもたちに伝えていこうと努力しているのです。
ところで、「ン」で始まる言葉や人名が、アフリカにはあります。「ントゥングル・メンゲニェ」は、「びっくりするほどすばらしいもの」という意味で、こうした語りのなかでだけ使われる言葉だそうです。

さくまゆみこ

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ヴィエラ・プロヴァズニコヴァー文  ヨゼフ・ラダ絵『森と牧場のものがたり』さくまゆみこ訳

森と牧場のものがたり

私はラダの絵が大好きです。ゆかいなラダの絵を使って、動物たちの物語が展開する絵物語です。


ジュリアス・レスター文 ジェリー・ピンクニー絵『おしゃれなサムとバターになったトラ』さくまゆみこ訳

おしゃれなサムとバターになったトラ

アメリカの絵本。『ちびくろさんぼ』に違和感を持っていたアフリカ系作家のジュリアス・レスターとアフリカ系画家のジェリー・ピンクニーが作った絵本です。お話のおもしろさはそのままに、アフリカ系の子どもたちが誇りを持てるように考えられています。ピンクニーも、そのような点を意識して絵を描いています。


ウェンディ・ハートマン文 ニコラース・マリッツ絵『ひとつ、アフリカにのぼるたいよう』さくまゆみこ訳

ひとつ、アフリカにのぼるたいよう

南アフリカのユニークな数え歌の絵本。1は太陽、2から10まではサバンナの動物、そして太陽が沈んで月が出ます。それからまた10、9、8……と数が下がっていき、最後にまたアフリカの太陽が登場します。
(編集:飯田静さん)

エネルギーのかたまりみたいなマリッツの作品はほかに、『ぼくのアフリカ』という絵本があります。そちらは冨山房の編集者だったとき、渡辺茂夫さんに訳していただいて、私が編集した本です。


ジョン・ラングスタッフ文 ロジャンコフスキー絵『おおきなのはら』さくまゆみこ訳

おおきなのはら

アメリカの絵本。野原にいるいろいろな動物たちが登場してきます。数の絵本にもなっています。光村さんで絵本を出し始めるというので、いろいろ相談した中から生まれてきた絵本です。オリジナル版は1957年。2色刷の見開きと4色刷の見開きが交互にあらわれます。ロジャンコフスキーの絵がすばらしい! 動物や鳥のお母さんと子どものやりとりが楽しいし、見返しがまたとってもいいですよ。
(装丁:桂川潤さん 編集:轟雅彦さん 鈴木真紀さん)


おかあさんともりへ

舞台はアフリカ。ヒヒの赤ちゃんが、お母さんと一緒に森に出かけ、いろいろな動物と出会います。そしてヒヒの赤ちゃんは、この世界がさまざまな特徴をもっていることを知るのです。『おつきさまはきっと』で好評のハレンスレーベンの絵本。
(装丁:田中久子さん 編集:塩見亮さん)


ジョン・キラカ『いちばんのなかよし:タンザニアのおはなし』さくまゆみこ訳

いちばんのなかよし〜タンザニアのおはなし

タンザニアのティンガティンガ派の画家による、楽しい絵本です。親友だったゾウとネズミ(ずいぶんと体の大きさが違うのに!)が、とっても愉快な絵を通して、本当の友情について教えてくれます。ボローニャ国際児童図書展ラガッツィ賞受賞作品。(装丁:長友啓典さん+徐仁珠さん 編集:細江幸世さん+佐川祥子さん)

ボローニャ国際児童図書展ラガッツィ賞受賞

◆◆◆

<訳者あとがき>

ボローニャ国際児童図書展でラガッツィ賞を受賞したこの絵本は、タンザニアの絵本作家ジョン・キラカが出版した2冊目の絵本です。この独特な趣のあるゆかいな絵は、ティンガティンガ派とよばれるタンザニアの画家たちの流れから生まれました。

この流派の始祖はエドワード・サイディ・ティンガティンガという1932年生まれのユニークな人で、農夫、庭師、八百屋、刺繡屋、ペンキ屋、ミュージシャンなどの仕事をしながら、絵も描いていました。最初は自転車にぬるペンキで、合板に描いていたといいます。タンザニアの動物や自然や人々の暮らしを描くその絵は、しだいに評判になり、観光客にも人気が出て売れるようになったため、ティンガティンガは親戚や友人の若者たちに教えるようになります。こうして画家のグループができたのですが、彼自身は1972年に友人たちと乗っていた車が盗難車とまちがえられて(あるいはティンガティンガが知っていたかどうかは別として、実際に盗難車だったという説もあります)パトカーに追跡され、警官に撃たれて不慮の死をとげました。

しかしティンガティンガの死後も弟子たちは活動をつづけ、今は画家たちがたがいに技をみがきあったり助け合ったりしています。ティンガティンガ派の画家の中には、観光客向けのきまりきった絵を描く人もいますが、この絵本の作者ジョン・キラカのように、豊かな独創性をもって新たな世界を切りひらいていく画家も生まれてきています。

タンザニアだけでなくアフリカ大陸はおもしろい昔話の宝庫で、動物を主人公にした昔話もたくさんあります。人間を主人公にすると、自分の悪口をいっているのではないかと勘ぐる人も出てきます。社会に波風が立つことにもなりかねないので、動物を主人公にして語ることが多いのです。

この物語は、そうした豊かな昔話にもとづいてそこにオリジナルな味わいをつけくわえたものだと思われますが、最初に本にしたのはスイスの出版社でした。私は、キラカさんが書いた英語の文章と、スイスで出版されたドイツ語の文章の両方を参照しながら、日本語に翻訳しました。

この絵本の舞台になっているタンザニアは、東アフリカにあります。赤道が近いので、季節が日本のように四つあるのではなく、雨季と乾季に分かれています。農業は今でも天候に左右される部分が大きく、雨がふるはずの雨季に日照りがつづくと、この絵本にあるように、みんなが食べるものに困るということになります。

絵本の中でバッファローやサイやシマウマが身につけているのは、カンガというきれいな布です。カンガは、巻きスカートにしたり、赤ちゃんをおぶうのに使ったり、テーブルクロスに使われたりと、暮らしの中でさまざまに用いられています。

また21ページには、果物や木の実を入れておくかご、土を焼いてつくるつぼ、ヒョウタンでつくったひしゃくなど生活の道具が描かれていますし、23ページには、板にくぼみを彫って、そこに小石や豆などを入れてあそぶバオとよばれるゲーム盤が描かれています。絵本に登場するのは動物たちですが、タンザニアの人々の暮らしぶりがわかる絵になっているのですね。

さくまゆみこ


ミリアム・モス文 エイドリアン・ケナウェイ絵『アフリカの大きな木バオバブ』さくまゆみこ訳

アフリカの大きな木 バオバブ

ノンフィクション絵本。アフリカの大地にどっしりと根をおろし、空に向かって枝をひろげ、何千年も生きつづけるバオバブ。バオバブという木のふしぎと、サバンナに生きる動物たちの生き生きとした表情が楽しめる科学絵本です。アートンのアフリカの絵本第2弾!
(装丁:長友啓典さん+徐仁珠さん 編集:細江幸世さん+佐川祥子さん+船渡川由夏さん)

◆◆◆

<訳者あとがき>

私が最初にバオバブという木があることを知ったのは、サン=テグジュペリの『星の王子さま』を読んだときでした。バオバブという言葉のひびきがとてもおもしろくて記憶に残ったのですが、同時にこの物語には、バオバブはとても悪い木だと書かれていました。毒気を発してはびこり、しまいには星を破裂させるというのです。だから芽が出ているのを見つけしだいひっこ抜かなければいけないのだ、と。

その後私は、ナイジェリアの北部でバオバブの木を実際に見る機会にめぐまれました。そのときは乾季だったので、バオバブはすっかり葉を落としていました。ちょっと見ただけでは枯れているように見えるのですが、近づいて見ると太い幹からはしっかりとした生命力が感じられ、ふしぎな思いに打たれたものです。

東アフリカに行ったときには、バオバブの繊維でつくったバッグを手に入れ、もっといろいろ知りたくなって調べてみると、バオバブは悪い木であるどころか、とても役に立つすばらあしい木だということがわかってきました。バオバブには年輪がないので樹齢を調べるのはむずかしいのですが、2000年以上生きていると信じられている木もあるようです。この絵本を見ていただけばわかりますが、どっしりと立って、まわりの人間や動物に憩いの場や、子育ての場や、住まいを提供し、食べ物や生活の道具をもたらしてくれる木、それがバオバブだったのです。とくにバオバブの巨樹は、神聖な木とみなされたり、村人たちの集会の場となったりしています。西アフリカのセネガルのように、バオバブを国の木と制定して大事にしている国もあります。

バオバブは世界に10種類以上あって、アフリカ大陸のほかにマダガスカル島やオーストラリアにも自生していますが、この絵本に描かれているのはアフリカ大陸に育つバオバブ(学名でいうとアダンソニア・ディギタータ)です。

さくまゆみこ


ホフマイア再話 フロブラー絵『ふしぎなボジャビのき』さくまゆみこ訳

ふしぎなボジャビのき〜アフリカのむかしばなし

南アフリカの絵本。アフリカの平原に飢饉が来て、動物たちはみんなおなかをすかせています。おいしそうな実のなる木を見つけたのですが、なんとそこには大きなヘビが巻き付いていて、木の名前をあてないと実を食べさせてくれません。その名前を知っているのは、サバンナの王さまのライオンだけ。そこで動物の代表がライオンのところに出かけ、木の名前を聞いてくるのですが、いつも帰る途中でほかのことを考えたり、転んだりして、名前を忘れてしまいます。そこに登場するのは、小さくても賢いカメです。再話も絵も、南アフリカで生まれ育った人たちです。
(編集:吉崎麻有子さん 装丁・書き文字:森枝雄司さん)

*厚生労働省:社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(子どもたちに読んでほしい本)選定

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<紹介記事>

・「女性のひろば」2013年11月号

 

・「朝日小学生新聞」2013年10月5日


1はゴリラ〜かずのほん

イギリスの絵本。1はゴリラ、2はオランウータン、3は・・・と、いろいろなサルや霊長類が登場する数の絵本。迫力ある絵がすばらしく、同じ種類でも1ぴきずつ個性が描きこまれています。最後にはなんと!

昨年9月にロンドンで最初にダミーを見つけ、その時、アンソニー・ブラウンさんとも話したのですが、「ぼくはどの絵本も作ってしまった後は関心がなくなってしまうんだけど、この絵本は違うんだ。自分でもとっても気に入っている」とおっしゃっていました。日本に戻ってきて完成した絵本を見た私は、すごい! と思いました。これまでのアンソニー・ブラウンとはひと味違う絵、そしてコンセプトです。ずっと見ていてもちっとも飽きない、不思議な力をもっています。ソデにある山極寿一さんの文章がまたいいんですよ。
(編集:須藤建さん)


ディック・キング=スミス『奇跡の子』さくまゆみこ訳

奇跡の子

イギリスのフィクション。著者のキング=スミスが、自分でいちばん気に入っているという作品です。イングランドの田舎の牧場にある日捨てられていた男の子は、障碍を背負っていたものの、馬や鳥やキツネやカワウソたちと心を通わせることができました。この少年が、まわりの人々や動物と交流をしながら生きた軌跡をたどります。宮澤賢治の『虔十公園林』を思わせるような、愉快な作品が多いキング=スミスとしては異色のしみじみとした作品です。
(絵:華鼓さん 装丁:野崎麻理さん 編集:中田雄一さん)


エミリー・ロッダ『だれも知らない犬たちのおはなし』さくまゆみこ訳

だれも知らない犬たちのおはなし

ドラン通りに住む6匹の犬たちの物語。この犬たちは、ペット(=人間)が学校や職場に出かけてしまうと、一緒に集まってテレビを見たり、異星人や幽霊をやっつけたり、ニワトリと渡り合ったり、どろぼうから仲間を救出したり・・・と、大忙し。ユーモアたっぷりの物語。思わず笑ってしまいますよ。
(装丁・タカハシデザイン室 編集・山浦真一さん)


ゆかいな農場

フランスの農場に暮らすデルフィーヌとマリネット姉妹と動物たちがくりひろげる物語が七編。めんどりがゾウに変身したり、キツネにそそのかされてニワトリたちが家出したり、ブタがやせるダイエットに夢中になったり、イノシシが学校に出かけていったり……。最初はセンダックの絵を使って英語から訳すはずが、事情あってフランス語から全部訳し直しました。厚労省児童福祉文化財選定。(絵:さとうあやさん 装丁:森枝雄司さん 編集:松本徹さん)

*厚生労働省:社会保障審議会推薦 児童福祉文化財(子どもたちに読んでほしい本)選定


ジュディス・カー『アルバートさんと赤ちゃんアザラシ』

アルバートさんと赤ちゃんアザラシ

『アルバートさんと赤ちゃんアザラシ』をおすすめします

店を売って生きがいをなくしていたアルバートさんが、海で、親を亡くしたアザラシの赤ちゃんに出会う。このままでは死んでしまうと連れ帰ることに。
でも、アパートはペット禁止で、うるさい管理人もいる。動物園で飼ってもらうもくろみもはずれ、さあ困った。
作者の父親の実体験をもとにしたお話で、絵も楽しい。

(朝日新聞「子どもの本棚」2017年6月24日掲載)


仕事を辞めて生きがいをなくしたアルバートさんが、海に出かけた時に、親を亡くしたアザラシの赤ちゃんに出会う。このままでは死んでしまうと連れ帰ることになったのはいいが、アルバートさんのアパートはペット禁止で、うるさい管理人もいる。なんとかごまかしてアパートで飼っていると、とんだ事件が次々に起こる。作者は、父親の実体験を下敷きにして、最後はアルバートさんにとってもアザラシにとっても幸せな、楽しいお話に仕上げている。

原作:イギリス/8歳から/アザラシ ペット 動物園

(JBBY「おすすめ!世界の子どもの本 2018」より)