ダンテス:かなり分量があって読むのは大変かなと思いましたが、けっこう楽に読めました。ストーリー的には『マルベリーボーイズ』(ドナ・ジョー・ナポリ著 相山夏奏訳 偕成社)と似ていますか。現実にこれに近いような話があったのでしょうね。最後、ボディガードが親方を殺すところには驚きました。そういう解決に持っていくのかと。ここはかなり意外でした。細かく詮索してここは変じゃない?と思う所はないわけではありませんが、お話として読めばおもしろかったですね。

トム:物語の世界へ引き込む力がとても強い。次々変わる場面も見えるようだし、食事の匂い、バイオリンの音色、地下室のカビ臭さなども感じられて、細部のリアルさが全体を支えている気がしました。

ハコベ:厚いので「うわっ!」と思いましたが、おもしろくて一気に読んでしまいました。お互いに知らなかった3人の主人公が結ばれていくところもうまくできていると思いました。ダンテスさんのおっしゃるように『マルベリーボーイズ』と時代背景が似ていて、同じ時代と場所の物語をもっと読んでみたいと思いました。ただ、ロボットまがいの代物が出てくるあたりから「こんなのあり?」という感じで、波乱万丈を通りすぎてハチャメチャになっているような。なにやら訳の分からない粘土や、お金持ちのご婦人を追っている「敵」の正体も明かされないまま終わるのは、どうなんでしょうね?

ハリネズミ:3人の物語がだんだんからみあって一つになっていくところや、謎を解明しているところや、アリスの存在など、おもしろいところもあったのですが、「これでいいのか?」と疑問に思ったところもかなりありました。一つは子どもの盗みです。ハンナはポメロイ夫人のダイヤのネックレスを盗むし、博物館にしのびこんでゴーレムの一部である粘土のかたまりを持ってきてしまいます。フレデリックも、博物館から銅製のマグヌスの頭を盗む。仕方なく盗んでしまったのはしょうがないとしても、盗んだ後の著者の処理が腑に落ちなかったんです。p369では、ハンナの独白で「ポメロイ夫人は、ミス・ウールとグルンホルトさんの味方をして、ハンナを裏切った。(中略)もちろん、父親のためなら、何度だってやるだろう」と言わせているし、p453では「おまえはポメロイ夫人のネックレスを盗んだが、おかれた状況を考えれば、それも無理からぬこと」と、トゥワインさんに言わせている。目的さえよければ盗んでもいい、というメッセージが伝わってきますが、著者は意図的にそうしているんでしょうか? またハンナはゴーレムのかけらをポメロイ夫人にプレゼントしてしまうし、フレデリックの盗みに関しても、博物館の管理人が悪いやつだったからということですませている。盗んだことの結果を、子どもはまったく引き受けていないわけです。また、社会の底辺にいる3人が力をあわせて希望をつかむという流れですが、最後は結局お金持ちのポメロイ夫人が幸運を授けてしまう、というのも残念だし、トゥワインが子どもたちと取引をするところもあまりにも単純で、子どもだましの感があります。私は、訳者あとがきに書かれているほどすばらしい本だとは思えませんでした。この著者の次の作品がむしろ楽しみです。

プルメリア:長編は好きな方なので楽しみながら読みました。各章にある目次のカットが内容を表していてわかりやすかったです。ハンナがネックレスを盗む、ジュゼッペが緑のバイオリンを盗まれる、フレデリックが嘘をつきながらお母さんを探すところ場面など、ドキドキハラハラすることが多かったです。ただ、ハンナのお父さんが元気になる場面は展開が早すぎるように思いました。からくり人形がしゃべるのはびっくり、また、マグヌスの頭が話した言葉がドイツ語でしたが、それが英語になるのも不思議でした。おもしろかったものの、ファンタジーの世界にはちょっと入り込めませんでした。3人の登場人物に興味をもって読み出すと、長いけれど読める作品だと思います。

ウグイス:まず見た目が魅力的でおもしろそうな本だなと思いました。3人の子どもたちが出てきますが、先ほどプルメリアさんもおっしゃったように、各章のはじめに子どものイラストが入っているのはわかりやすくてよい工夫ですね。途中で訳者あとがきを読んだら「飽きるどころかどんどん引き込まれて」と書いてありましたが、それほど引き込まれる感じはしなかったです。19世紀末のアメリカ東部が舞台と書いてありましたが、それらしいにおいはあまり感じられず、架空の世界の話のようでした。

きゃべつ:帯に、日本の児童文学は内面の描くことに重きを置いている作品が多いけれども、純粋に読んでいておもしろい作品も必要だ、というような主旨のことが書かれていて、なるほど、と思いました。おもしろくて夢中になって読んだのですが、瀕死のお父さんがいるのに、助けるために現実的な手段を選ばず、伝説のお宝を探しに行くところなど、展開に無理があるところが少々気になりました。ゴーレムなども本当に必要だったのかな、と。ファンタジーの要素をもっと減らしても、充分に楽しめる作品だったかと思います。

ajian:ディケンズのようだという触れ込みで、期待して読んだのですが、後半がやはりぐずぐずでした。前半は魔法のバイオリンをひく場面や、ハンナがオペラに行くためにドレスアップするところなど、印象的な場面がたくさんあって、好きな作品だったのですが。後半の自動人形が動き出すくだりは、いらない気がしますよね。動き出して、暴れて、壊れて終わりで、何だったんだろうという。前半のせっかくのおもしろい風呂敷を後半にたたみ損ねた感じが、惜しいです。つまらない作品ではないのですが……。

メリーさん:とてもおもしろかったです。「黒魔女さん」の著者が訳しているということもあり、これだけの分量の物語を読ませるところ、やはり読みやすさに気をつけているなと感じました。3人がそれぞれ語る構成もいい。主人公たちがそうとは知らずに、偶然同じ場所に居合わせているところなど(読者だけが知っている)は、とてもうまいなあと思いました。前半は主人公たちが自らの運命を切り開いていく姿がとてもいいのですが、後半は彼らの実力と超能力の境界があいまいで、ちょっと残念でした。オートマタなどは、そこまで超能力を持たせずに、からくり人形のままでよかったのでは。キャラクターも立っているし、バックグラウンドとしての時代や街の様子をきちんと描いているので、ファンタジーにしてしまわずに、きちんとした歴史冒険物にしたほうがよかったのではないかと思いました。タイトルは、「機械じかけの〜」というような意味だと思いますが、原題そのままだと、読者にはちょっと意味がわかりにくいかなと思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2012年3月の記録)