げた:今の小学校には宿題の点検係っていう係があるんですかね。それはともかく、宿題を忘れた時、言い訳を話すことで許してもらえる。子どもたちにそれが受けて、わざと忘れてきて、おもしろい話をしようするようになるという展開になって、お話の発表会の場のようになってきちゃうんですよね。現実には、こんな風にはならないでしょうけどね。職場でも月曜の朝礼の時に、順番にフリーテーマで話すということをしていたことがあったんですが、なかなか大変だったことを思い出しましたよ。おもしろいと思わせる話をするのは難しいですもんね。

アンヌ:物語の枠にとらわれない「ウソ」というのがおもしろいお話でした。ファンタジーの決まり事では、物語の最後に何か証拠が残るような仕組みを置くのだけれど、ここではウソなので何もない。例えば、お話の中で頭をぶつけても「目が覚めたらたんこぶがあって昨日の話は本当だった」となるところが、ウソなので「たんこぶもありませんでした」 となるのが新鮮でした。先生のお話も、生徒たちが引き込まれていって新しいウソの目撃談を誰かが口にすると、それも物語の中にとり込んでしまう。そして、ぐんぐん伸びていく物語は「宿題が出来なかった、作れなかった」 という着地点に収まる。なんだか、一瞬の夢が言葉で語られ教室の中でふっと消えていく感じが、伝承されない物語という感じで新鮮でした。表紙の中にも隠し絵があるし、p.64、p.67の竜のお母さんの挿絵も、 みだれ髪といい裸足といい、怪しそうにおもしろく描けていると思いました。

ルパン:私はあんまりおもしろくありませんでした。子どもたちが「宿題をやらなかった言い訳」として作るお話が、つまらないんです。どれも陳腐でたいしたことないから、宿題忘れが帳消しになっていいと思えるほどの説得力がない。やっぱり、宿題って、やらなきゃいけないものなんです。ましてや、先生が自分で出した宿題を「やらなくていい」というからには、それでもいいやと思えるほどのあっといわせるものがないと。そこが中途半端だと、むしろ「読ませたくない話」になってしまいます。

アカザ:子どもがすらすら読める本だと思いました。特にいやだなという点はなくて気持ちよく読み進めましたが、おもしろかったかときかれれば、ちょっとね。宿題を忘れた言い訳を考えさせるというのはいいのですが、肝心のウソの話がつまらない。ウソ話が奇想天外にふくれあがって、学校が大変なことになるとか、いくらでも冒険できると思うのだけれど、肝心のファンタジーの部分がおもしろくないので、すぐに忘れてしまいそうです。

レジーナ:たわいのない話で、『きのうの夜、おとうさんがおそく帰った、そのわけは・・』(市川宣子作 ひさかたチャイルド)に少し似ていますが、私はこういう本はいろいろあっていいと思うし、読んだあとに満足感が得られる短い作品というのはなかなか見つからないので、積極的に子どもに手渡していきたいです。表紙にも工夫がありますね。今の学校現場は、いじめや貧困などいろんな問題を抱え、児童文学でもそうした問題が描かれることが多いですが、この本は、先生と子どものやりとりをほのぼの描いていて、「そういえば学校って楽しい場所だったよね」と思いださせてくれる作品です。

レン:さっと読めましたが、私はそんなにおもしろくありませんでした。宿題忘れちゃうというだけで、おもしろそうと思って子どもは手に取るのかな。中に出てくるつくり話を、私は楽しめませんでした。やらなくてもいい宿題なら、最初から出さなくていいのにって思っちゃいます。子どものときに読んだら、好きじゃない本だったと思います。生活童話のたぐいがとても苦手だったんです。そんなこと言ったって、学校なんて楽しくないのにって思っているヘソ曲がりだったから。

カピバラ:4年生の学級の話なので中学年向けですが、幼年童話かと思うほどの造りですね。4年生向けの本だともっと文章量のある本を想定してしまうけど、今の4年生の読書力が落ちていることを考えると、この薄さ、いかにもおもしろそうなタイトル、ほとんどのページに挿絵入りで、カラーページもたくさんあり、挿絵なしのページは下に余白をたっぷりとって字がぎっしり詰まっていない……読書が苦手な子も何とか読めるように、と考えたところに努力賞をあげたいです。

ハル:そうか、この本は、中学年向けなんですね! もう少し下の子向けかと。ちょっと今そのことに感心してしまって、感想が飛んでしまいそうです。えっと、タイトルから何か、古典的な名作といったものを期待しすぎてしまって、ちょっと物足りなかったなというのが正直なところです。つまらなくはないんですけど。途中で「宿題、もう忘れたくない!」という展開になったところで、新たな展開やオチを期待してしまったんですけど、そこで先生のつくり話がきて終わってしまったので、やっぱりちょっと、ぼやっとした印象を受けました。

マリンゴ: シンプルな話っていうのはこういうものなのだな、と。決して悪い意味ではなくて、むしろいい意味で、お手本になると思いました。自分だったら、みんなのついたウソが一つの物語につながる、というような、もう一段階凝ったストーリーを考えてしまいがちですが、そうなると文章が長くなって本が分厚くなって、中学年向けではなくなってしまう。このくらいの文章量と絵の多さが、中学年の子が楽しく読めるスタンダードなのかも、と感じました。今の子は読書力が落ちていると聞くので……。

西山:読みましたけど、よそに差し上げちゃって手元になくて、地元の図書館では貸し出し中で読み返せませんでした。いまさっとめくって、学校の息苦しい現状が進行していて、学校は重くなりがちだから、こういう軽さは意外と技が必要なのかもと思います。それと、「仕方ないねぇ」っていう緩さが、今回のテーマに沿うんだなと納得。先日テレビで「エイプリルフールズ」という映画を観ました。出てくる人物が全員ウソをついてて、それがちゃんと絡んでいくし、こっちが思っているウソと真相が逆だったり、とてもおもしろかった。作り話がからんでいくとか、どんでん返しがあるとか、中学年向きでも試みてもよかったのではと、欲が出なくもないです。

アカシア:さあっと読めて楽しかったんですけど、後には残らなかった。市川宣子さんの『きのうの夜、おとうさんがおそく帰った、そのわけは・・・』と同じつくりですが、あっちは、一人のお父さんがほら話をするので、お父さん像もだんだん浮かび上がってくる。こっちは、一人一人ばらばらに話をするので、ばらばらな感じ。小学生が次々にこんなうまい話を長々とするわけもないので、リアリティもない。想像力の訓練として、あなただったら、どんな話をする? という方向に持って行ければ、それもおもしろいのかもしれないけど。

(「子どもの本で言いたい放題」2016年4月の記録)