アサギ:これは結構おもしろく読んだんですけど、19カ国に訳されていると聞くと、逆にそれほどかな、と思った。

アカシア:映画化の話があって、あちこちで翻訳されたのかも。

アサギ:思いつきというか、アイデアがいいというか、次々といろんな話が出てきて、人間の書き分けもできているけど、先が読めてしまうところがある。たとえば、ティビーとベイリー。知り合ったところで、敵対してつっぱねるけど、嫌い嫌いと言いながらきっとあとでお友達になるパターンなんだろうなと思ったし、カルメンがお父さんに会いに行くところも、きっとお父さんには新しい女の人がいるなと思ったら、そのとおり。それとレーナとコストスの出会いもやっぱりで、予定調和というか、意外性がなくて物足りなかった。お手軽なストーリー展開だれど、それでも飽きずに読めたというのは、作品として感じがいいってことなのかしら。構成力もすぐれてますよね。母親同士は友情がうすれていくけれど、娘たちは魔法のパンツで結ばれている、だれがはいてもぴったりはけてしまうパンツ。

ねむりねずみ:3冊の中では一番すらすらと読めた。いきのいい女の子が4人出てきてて明るい。最初のところで、ジーンズをはいたらみんなにぴったりきちゃうというのが、「これは物語なんですよ、フィクションの世界なんですよ」という約束ごとのようで、仕掛けとしてうまいなと思った。誓いの言葉をいうところも、いかにもこの年頃の子が好きそうだし。4人がそれぞれいろんな問題を持ち、それぞれ違ったキャラクターで、そのあいだをジーンズがつなぎながら夏休みが展開していく。ころころ変わっていくのを、「ふんふんふん。なるほど、なるほど、おもしろいねえ」と読み進んだ。
確かに予定調和的な話だけど、後ろのほうになってくると、ティビーが友達の死という喪失を受け入れる場面が強く印象に残りました。ビデオで映画を作るというのもおもしろい。なにしろおもしろさですらすら読めちゃった。よくできてるな、カルメンが自分の内面をお父さんにやっとぶちまけるとか、ティビーが喪失をうけいれたりするところも、ちゃんとうまくできているな、よかったよかったと読み終わった。最後のところで、レーナがブリジッドを心配してとんでいくんだけど、ブリジッドのほうは話すことがなくなるというのも、なるほどそういうことはある、と納得。ともかく、これはこの年代の女の子のお伽噺だと思う。予定調和的な軽さだけど、同世代の子にすれば、「そうだよね。そう、そう」と入れ込んで読める。

きょん:理論社のこのタイプの本はおもしろいから、すごく期待して手に取ったんですよね。表紙もお金がかかってて。

アカシア:そうそう、透明のジーンズが印刷してあるすてきなしおりがついてるでしょ? これもお金かけてるよね。

一同:ええーっ、そんなの入ってた?

アカシア:わたしのには入ってたよ。当たり外れがあるのかな?

きょん:トラベリングパンツという名まえもいいじゃないですか。主人公の女の子みんなにぴったりする御守りみたいなパンツでしょ。でも読み始めたらつまんなくて、途中でやめてしまいました。でも、同世代の子だったら、面白く読めるのかな。コバルトブックスみたいに。アイデアも面白いし、設定も面白いから、ストーリー自体ももうちょっとわくわくさせてくれたらよかったのにな。

アカシア:私は、けっこうおもしろかった。学生なんかと本を読んでると、とにかく『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス/著 高杉一郎/訳 岩波書店)よりハリポタの方が面白いという子が多いんですからね。そういう子たちには、この手の作品も受けるだろうな、と思いました。「文学」だと思って読むと、いかにもお手軽なストーリー展開だと批判も出るけど、子どもにとっては、自分が結末を想像できるっていうのも読書の楽しみの一つなんじゃない? 文学っていうことを考えると、たとえば一つのきっかけでいろいろな子どもが物語を語っていくという設定でも、アン・ファインの『それぞれのかいだん』(灰島かり/訳 評論社)のほうがずっとよくできているとは思うけど。

ねむりねずみ:この本は作りもおしゃれだよね。題名がカタカナだし。

アカシア:前は、書名をカタカナにすると地方ではあんまり売れないよ、なんて言われたけど、今は違うのね。

きょん:ネットでみると、この本にはダーッとコメントがはいっているんですよね。同世代の子たちの書き込みがすごく多い。4人の主人公に自分を投影して読んでるなという感じ。

アサギ:でも、あの爪の長い女店員がベイリーのことを話すエピソードなんか、ベタすぎると思うけどなあ。

アカシア:イギリスで読書運動をやってるマーガレット・ミークは、「ハリーポッター」を読んだ子が次にプルマンにいくと行ってハリポタも評価してるそうですけど、一般的にいって、お手軽なエンタテイメント読書が、次には文学を読むようになるんでしょうか?

きょん:本を好きになるっていうのは、小さい頃からたくさん本を読んだりしてきた積み重ねがあってのことでしょう?

:「ハリーポッター」を読んだ子が、ほかの本にいくというのはあるみたい。

アカシア:でも、「ダレンシャン」どまりってことはないの?

カーコ:私は4人の女の子が魔法のパンツで結ばれて、バトンタッチしながら話が進んでいくという構成がおもしろいなと思いました。人物がかわるところに顔のイラストが入っていたり、手紙で次につないであったり。それに、この世代の女の子を応援しているような書き方ですよね。読んでいると、この4人のうちのだれかに親近感をおぼえたりする。私の場合は、ティビーがおもしろかった。

:本屋さんで見て、まず「わー、きれいだ」と思いました。この年頃の子は、わくわくして読むんじゃないかな。でも、小道具としてジーンズをはくっていうのが、女の子のベタベタした友情っていうのか、一部始終手紙で伝えて「友達よね」って確認するみたいなのが、個人的には受け入れにくかった。4人が親友っていうお話は少ないですよね。2人っていうのはあるけど。でも、儀式とか、それぞれに「私の気持ちよー」みたいに手紙を書くっていうところは、もういいっていう感じ。手紙の場面にくるといらいらした。

アカシア:こんなふうに友だちをつくることができる人は、文学なんか読まないかも。でも、私はそんなにベタベタした関係とも思わなかったのね。お互いの個性は認めているし、それぞれ違うし。

:でも、「はじめて夏休みをばらばらにすごすなんて」ってことは、いつも夏休みはいっしょに過ごすってこと? こういうのが私はいやだった。でもまあ、そんなふうなことを感じながらも最後まですらすらすらすらと読めた。だから、15歳くらいの子は、どの子にもなって、それぞれの持っている感じを自分の中に感じながら読めるんじゃないかなって思いました。

アカシア:予定調和的なのも、大衆路線的なおもしろさなんじゃない? 橋田寿賀子のドラマみたいに。

:これは文学じゃなくて読みものですね。子どもの本のなかにも、文学、読みものとかいろいろあっていいのではないでしょうか。