no image
『樹上のゆりかご』
荻原規子/作
理論社
2002

版元語録:元男子校としての気風が色濃く残る都立辰川高校に入学した上田ヒロミは、女子を疎外する居心地の悪さを学校生活の中で感じるようになっていた。そんな折り、合唱コンクールで指揮をした美しい女生徒の出現をきっかけに、校内で次々と事件が起きだし……。青春の残酷さと、伸びやかさを描く学園小説。

アサギ:私ね、これだめだったの。半分も読めなかった。だめと思ったら、最後まで我慢して読むのは時間がもったいない。でもね、こないだも『インストール』(綿矢りさ/著、河出書房新社)っていうのを読んだんだけど、この作品が作品としてだめなのか、書いてる世界が自分の嗜好に合わないのか、どっちだろう、って思うわけ。『インストール』はひきこもりの話で、普通の高校の風景を描いているんだけど、私こういうタイプのはだめなのかも。とにかく、好きでないっていうのか。

ねむりねずみ:すあまさんが、この本を選んだとき、「私は都立高校だったからおもしろかったけど」って言ってたでしょ。私、おそらくこの高校の卒業生なので、クラス分けから、行事から、先生の名前までわかる。私自身もこの学校に入ったときに、なんだこりゃって思った覚えがあるから、この人がその感じを書きたかった気持ちはすごくわかる。これって、30年くらい前でしょ?

アサギ:設定は今よね。現実の高校生とどこまでダブるのかわからないけど。

ねむりねずみ:でも、回想ものですよね。だから、「樹上のゆりかご」っていう感じもよくわかる。

アサギ:この題名、どうなのかしら。図書館で、「じゅじょうの」っていっても、「えっ」て何度も聞き返された。

ねむりねずみ:ともかく、私は、そうそう、こうだったなあ、と「卒業生の同窓会」的に読んじゃったところがあって、あまり突き放して判断できてない。で、作者が何を書きたかったかというと、「名前のない顔のないもの」について書きたかったんだろうと思うのね。そのために、有理を登場させ、事件を起こし……。でも、無理があるんですよ。有理の登場も、木に竹をついだような妙なことになっていて。この人は今の子を描くとかそういうんじゃなくて、自分の高校時代を書きたかったんでしょうね。ミステリーとからめて。

アサギ:私も都立高校だったけど、女子が多かったから全然違う。

きょん:私も都立高校で、むかし女子校だったところだけど、学風としては立川ととても似ている。そうした実体験とは別に、私は学園ものが好きだから、これもおもしろかった。でも作者は、違和感のある「名前のない顔のないもの」を書きたかったのだろうけれど、それは失敗している。その正体を作品の中で具現化できなかったので、読者も消化不良になってしまう。でもね、3冊比べて、お話の筆力という点を考えると、私はこの本がいちばん質が高いという気がしました。今の高校生だって、こんなふうじゃないんでしょうか? 私が高校のときは、学園祭とかもりあがって、結局みんな浪人しないと大学に行けなくなってしまうっていう、そんな世界だったけど。

アカシア:私はね、荻原さんのファンタジー3部作(『空色勾玉』『白鳥異伝』『薄紅天女』)は好きなんですけど、『これは王国のかぎ』やこの作品はだめだったんです。文章がうまいとは思えないの。でも、その辺は、読者の私との相性の問題かもしれませんね。だけど、『トラベリングパンツ』と同じ読者層がこれを読めるのかしら? 荻原さんにはファンの固定層がいるから売れてはいるんでしょうけど。

きょん:違和感の正体が具現化されていたら、読めたんじゃないかな。

カーコ:作品としての質が高いというのは、私も思った。だけど、どれだけの高校生がこれをおもしろいと思って読むのかは疑問だった。確かに高校生くらいのときは背伸びをして知ったかぶりをしたがるというのもあるけど、オスカー・ワイルドのサロメときいて、「あの、ビアズレーの悪魔っぽい挿し絵のつく」なんてすぐ答えるような高校生っているかしら、って思ってしまった。それに、「名前のない顔のないもの」というのが、結局最後までよくわからなかったし、有理さんはすごく病的で、高校生がここまでするかって感じだったし。

ねむりねずみ:作者が「名前のない顔のないもの」を描ききれていないから、有理さんを登場させないといけなくなったんじゃないかな? 顔のないものが何なのかが立体的にいろんな側面から伝わってこないから、しょうがない、有理さんを出した。でも、有理さんの行動のモチベーションはあくまでも私的なものでしょう。だから無理が出ちゃう。

きょん:きっと、「名前のない顔のないもの」の正体をはっきりさせてくれれば、男社会の中の女の人とか、共感する人はもっといるんじゃないかな。

:私は地方の県立高校だったけど、この空気はとても似てるんですよね。中学まではそこそこだったのに、高校になったら、こんな順位とったことないやというような成績をとって、高校の世界からちょっと身を引いて傍観者的になっているっていう子ですよね、この子は。でも、忙しいんですね、都立高校って。こんな次から次に行事があるんですね。みなさんもおっしゃってたように、「名前のない顔のないもの」というのが、ぜんぜん前に出てこなくて、この女の子の恋愛というかストーカーみたいなので終わってしまって、なんなんだろうって思いました。パンにかみそりを入れるのも、キャンバスを燃やすのも、みんなこの女の子がやったんでしょ? でも、この女の子が壊したくてやったんですか? 最後まで、今一つ納得がいかない本でしたね。ほんとこれ、今の子じゃないよ、携帯電話とっちゃったら。私、この最初の「中村夢乃、鳴海…」って名前が並んでいるのを見ただけでもうだめ。わざとらしいっていうか。

アカシア:今はこれが普通の名前なんじゃない? もっとも私はこの作品の文章全体に違和感があるんだけど。

カーコ:でも、それってこの作家の文章がそれだけはっきりあるってことですよね。

アカシア:ここに書かれてるのって、もしかしてすごいエリート意識じゃない?

全員:そうそう。

アカシア:それも、ちょうど高校生くらいのエリート意識よね? 普通だったら思い出したも恥ずかしいようなものだけど、どうしてわざわざ書くのかな?

ねむりねずみ:それで、作者はそのエリート意識をつきはなしきれていないんじゃないかな? それにしても、自分にとってすごく思い入れのあることを書くっていうのは、難しいですね。中にいた人間の雰囲気はすごく再現されているんだけど、それで終わっちゃってる。