『ホワイト・ピーク・ファーム』
バーリー・ドハーティ/著 斎藤倫子/訳
あすなろ書房
2002.12
原題:WHITE PEAK FARM by Berlie Doherty, 1984(イギリス)

版元語録:イギリスの背骨といわれるダービーシャーの丘陵地帯にある農場の娘ジーニーが語り手となって、祖母がシェフィールドのホスピスに入ったことや、ジェシー伯母の事を語る。 *2002年度課題図書

トチ:ドハーティは大好きな作家だから、わくわくしながら読みました。登場人物がひとりひとり、くっきりと描けているし、人生の奥深さを感じさせる。訳者の斎藤さんは、とても優れた翻訳者ですね。ドハーティは詩集も何冊か出しているし、もともとの文章も美しいけれど、訳文もその美しさを損ねていない。

:『アンモナイトの谷』(バーリー・ドハティ著 中川千尋訳 新潮社 のちに『蛇の石 秘密の谷』に改題)もポイント高かったけれど、これもいいですね。「少女の気持ち」という視点から読みました。そういう意味では、成功してる。

むう:うまいなあ、と思いました。最初の、インドに行くといってホスピスに入るおばあちゃんのエピソードはへええ、と、どんでん返しに感心してしまった。おばあちゃんの元気の良さもいいし。とてもきれいな訳文ですしね。全体の印象としては、すごく強烈に何か動くとかひとつのドラマをぐっと掘り下げるというのではなく、穏やかで抑えた感じでした。この女の子の成長物語というよりは、家族というか、ひとつの農場が否応なく変わっていく歴史を書いた作品なんだろうと思いました。

すあま:印象としては、連作短編集という感じ。特に最初の話がインパクトがあります。短い中で、ストンと落ちて終わる。児童文学として出ているけれど、大人の短編集という感じがしました。読んでいて思い出したのは、モンゴメリの『赤毛のアン』シリーズにある短編集(『アンをめぐる人々』など)です。ただ、この表紙の絵は、物語から受ける印象と違ってちょっと子どもっぽいような気がします。

トチ:でも、この表紙なら小学生も手にとるかもしれない。読書力のある小学生だったら読めるかもしれない。

愁童:いい本ですね。でも、この手の本はたくさんあって、新しい感動はなかった。これを今子どもたちに渡そうとする側の思いはなんだろう。ただ今回の3冊の中でこれがいちばん好きです。本を読んだという感動がありますからね。はっきりとした実在感を与えてくれる本で、説得力もありました。

ケロ:16歳くらいの女の子が主人公です。人間の根っこになるようなものを訴えかけている作品だと感じました。家族というのは、時を経るとともに変わっていくものです。今が絶望的でも、未来永劫その状態が続くわけではない。読者となる思春期の子は、今が変わらないかのように思いつめて絶望してしまう傾向があると思うけど、家族のそれぞれが成長しながらその関係も時とともに変わっていくものだということを、読者が感じてホッとできるといいなあ。最初の章の祖母ですけど、みんなが演じていたお芝居だったというのが、ちょっとしっくりきませんでした。どこでみんなが知ったのか? お芝居をする必要があるのか?「インドへ行く」といったとき、カッコいいじゃんと思ったのに・・・。また、「復活祭の嵐」の章で、お父さんとお母さんが踊るシーンですが、それを見た主人公にとっては裏切りのような複雑な気持ちになるのかも知れないけど、以降の父母の仲へつながる重要なシーンだと思いました。

アカシア:2回読んだんです。最初読んだときはとってもいいなと思ったんだけど、2回目読んだら情緒的に流れるところが目についてしまって、どうなのか、と考えてしまいました。インドへ行くと言ってホスピスに入るおばあちゃんですけど、家族の者たちはそれがわかっているのに、その後おばあちゃんの存在は忘れられてしまう。それに家族観が古いのも、ちょっと気になりました。みんながお父さんに気兼ねしてて、崩れかけた家父長制をどう支えていくか、みたいなところもある。ドハーティなので当然文章はうまいし、翻訳もうまい。「このホワイト・ピーク・ファームはいつだって、あなたの帰ってくる場所よ」という最後のしめくくりも泣かせる。うーん、だけどね。

すあま:私も、さっきモンゴメリを例に出したのは、同じような時代の話なのかと思っていたからです。

トチ:私は、もともと家族って理屈じゃ割り切れない、ぐじゃぐじゃで、どうしようもないものだと思ってるから、違和感はなかったわ。でも、課題図書になっているって聞いて「えっ、どうして?」と思った。この本を子どもに読ませて、どういう感想を期待しているのか、選んだ大人たちのおなかの中が見えるような気がして、白けちゃう。

:ノスタルジーの物語ですね。

カーコ:私はいいお話だと思いました。等身大の主人公の女の子が、迷いながら、自分の道をさがしていく話なので、中・高校生の読者がすっと入っていけそう。人物が多面的に、一つの型にはめこまずに描かれていて魅力的でした。文学として質の高いこういう作品が、課題図書として読まれるのはいいことでは? 主人公の家族が古典的なので、その辺をみなさんはどう読まれるかなあと思っていたのですが。現代の日本のリアリズム作品って、大人も子どもといっしょになっておろおろしていたり、気分ばかりが重視されるようなものが多いから、こういう一見あたりまえの家族の機微を描きこんだ作品は安定感があっていいなあ、と私は思いました。

きょん:ずいぶん前におもしろくさらっと読みました。おもしろく読めるけれど、あとに残らない。お話としては質がいいけど、インパクトは弱い。『若草物語』(オルコット著)とか、『大草原の小さな家』(ローラ・インガルス・ワイルダー著)とかは、一人一人家族が描かれているけれど、インパクトは弱くない。どうしてかなと思いました。

せいうち:途中までしか読んでいないのですが。非常にいい小説だと思います。小説としてちゃんとしたものを久しぶりに読んだなあと。すごく感じたのは、家族のことを描いているのだけれど、複数の人間がいると何かが思い通りにいかないということ。おばあちゃんが、いったん大学に行って、やむを得ず戻ってきたことを、一切口にしなかった、というところで、非常に無念だった思いが伝わってきましたね。

(「子どもの本で言いたい放題」2003年6月の記録)