うさぎ:とっても楽しく読めました。物語が軽快でぐいぐい話にひきこまれました。物語の軸がしっかりしているからだろうなあと思います。自分が、この家の子ではないとわかりすぐに本当の親さがしの旅に家出をするというのが、リアリティがないかなと思ったけれど、読んでいくとそうでもない。ポリッセーナが家出したあと残された家族はどうしたのかとか気になりながら読み進めていったけど、途中からは面白さにのめりこんでいつの間にかそれも忘れてしまってた。構成がしっかりしていたからでしょう。訳文も素直で、へんに気取ったところもなく親しめました。女の子の個性が、二人ともしっかり描けていて好感を持てます。分厚い本ですが、読書好きな子は難なく読めてしまうでしょう。

すあま:楽しく読める本。あっけらかんとして、とにかく楽しく読めるお話はあまりないので、いいですね。主人公も、性格的にすごくいい子というわけでもなく、勝手に思い込んだり、完璧な性格でないのが面白かった。どんでん返しの楽しさがあるけど、何度も何度も繰り返されるので、読み手に根気がないと最後まで読み進むのがしんどくなるかも。クウェンティン・ブレイクの絵が物語に合っていてとてもいい。ただ、内容はやさしいのにかなり長いので、対象年齢が難しいかも。エピソードを減らしてもう少し短くてもよかったかな、と思いました。

カーコ:私も楽しく読めました。こういう素直なお話ってあんまりないので、いいですね。何回もどんでん返しがあるけれど、こじつけっぽいいやらしさがない。長さは確かに長いけれど、だからこそ、ハリーポッター・シリーズを読んで、こんな長い本が読めたと思っている子に、「じゃあ、これはどう?」って、次のお話として手渡してやりたいですね。「こんな楽しいお話もあるんだぞ」って。

ハマグリ:お話の楽しさを手軽に味わえますよね。こんなに厚いと、なかなか気軽に勧められないけれど、この本だったら安心して面白いよ、と手渡せる。できごとが次々に起こるし、「実はお姫様でした」といった昔話のような面白さもある。昔話は短いけど、これは読んでも読んでも終わらない。そういうのを読みたい子もいるんですよね。大人が読めば、すぐに先がわかってしまうようなところもあるけれど、そうとわかっていても、お話の楽しさを味わえる本だと思う。

トチ:私もとても面白かった。大好きになりました。たしかに長いけれど、私もカーコさんと同じように「ハリポタ」だって長いんだから、小学生だって読める子はたくさんいると思いました。子どもの読書の楽しみ方のうちには、厚い本を読み終えたという満足感もあると思うから、本好きの子どもにはこたえられない一冊なのでは?
感心したのは、作者が子どもの好きなものを実によく知っているということ。動物が芸をする旅まわりの一座とか、夜になってやっとたどりついた緑のふくろう亭を窓からのぞき見るシーンとか……子どもでなくても、楽しくてわくわくすることばかり。
それから、主人公のふたりの女の子のキャラクターが面白い。ポリッセーナは、最初は元気で賢い、読者の共感を呼ぶ少女だけど、旅を続けていくうちに旅芸人のルクレチアのほうがまっとうな考え方をするのを疎ましく思うようになったり、自分が王女さまかもしれないと思っていばってみせたり、軽はずみな言動をしてルクレチアにいさめられたりする。最初は裕福な家に育ったポリッセーナのほうが常識があって、ルクレチアよりずっとお姉さんのようだけど、とちゅうで立場が逆転する。単なるジェットコースター式の展開で読者をひきつけるのではなく、主人公たちの心の揺れや葛藤もしっかり書いていて、見事だと思いました。
お姫さまものということでいえば、ポリッセーナのほうは単純にお姫さまや貴族というものに憧れているけれど、ルクレチアのほうは「あんたはそんなに貴族になりたいの? あんたの育てのお母さんみたいにかしこくて、やさしいひとでも、貴族でなきゃだめなの?」というような意味のことをいって、ポリッセーナをたしなめる。子どもたちの大好きなお姫さまの話を書きながら、作者がちゃんと言いたいことを言っている。そのへんが『つる姫』とずいぶん違うと思ったわ。
それから子豚の名前だけど、「シロバナ」は「白花」なのかしら? それとも、「白鼻」?鼻のほうだったら、「ハナジロ」かなって……豚をかかえた女の子って設定は、とってもおもしろかったけど。

アカシア:豚をかかえた少女は、きっと「不思議の国のアリス」が下敷きになってるのよね。

トチ:ブレイクの絵がすばらしいわね。笑わないお姫様のイザベッラがついに笑うところなど、絵を見て思わず笑ってしまった。とっても描くのが難しいところだと思ったけれど、表情がすごくいいのよね。

アカシア:私も最初から最後まで面白く読みました。「ハリポタ」は、こんなにちゃんとキャラクターを書いてないしゲーム的だから、「ハリポタ」を読んだ子がこれも読めるかどうかは疑問だけど、こっちは本好きな子が楽しめて、じゅうぶん堪能できる。現実とお話の距離がうまくできていて、お話だけれど、でもありそうって思わせる距離がとてもいい。訳もとてもよかった。ブレイクの絵も動きがあっていいし、同じ絵がいろいろなところで使われてるのね。編集の人が手をかけてるのもわかりますね。

トチ:編集も見事だし、訳も素直でいい訳よね。読者に「素直な訳」と思わせるような訳文を書くのは、本当はとても難しいことだと思うんだけど。204ページの「日が暮れるすこし前に、宿屋が見えてきました。葉を落とした大きな木がまばらにそびえる丘の上に、一軒だけ立っているあの建物が、緑のふくろう亭にちがいありません。たくさんある煙突から(どの部屋にも煙突がついているのです)、冷たくすみきった空にむかって灰色の煙が立ちのぼっていました。まだ日は落ちきってはいないのに、窓ガラスのむこうにはすでに明かりがともっていました。」などというところ、なんでもないようだけど、美しい光景があざやかに目に浮かぶ、すばらしい訳だと思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2005年7月の記録)