アカシア:さらっと読めたんだけど、登場人物が全部ステレオタイプなので、がっかりしました。紋切り型の表現が多すぎます。お母さんの秘密というのが、秘密でもなんでもないし。新人賞入賞というけれど、どうなんでしょう? ハードカバーで出して、読者を獲得できるんでしょうか?

むう:すいません。他の2冊がそれなりにインパクトが強いというか、ぐっとこっちに来るものを持っていたので、今となってはこの本についての印象がほとんどどこかに飛んでしまって、ぜんぜんおぼえていません。

すあま:あまり期待せずに読んだんですけど、逆に読後の印象はよかったです。前回の講談社の新人賞佳作は『佐藤さん』だったので、佳作の人も良い書き手に育つ可能性があるように思います。今の子どもの感じを出そうとするあまり会話の部分で失敗する人が多い中で、これは違和感なく読めました。あまり本を読みなれてない子が読むのにいいと思います。

ポロン:おきゃんな文体に、最初はちょっとな、と思ったけれど、読み始めたらそんなに嫌じゃなかった。今時っぽい感じだし、みんなの意見を聞きたいと思いました。だけど、今の子って小学生からスパイクはいてるのかしら? 私の時代はスパイクは中学からだったんだけど……。スパイクをはいたら、タイムも1秒くらいはかるくあがっちゃうので、スパイクをはいてる子とはいてない子が、同じ競技会で走るというのは、ちょっと無理があると思いました。

アカシア:今の小学生に詳しい方が、「これは小学生とは思えない」という感想をおっしゃっていましたよ。

ポロン:走るところが、いまいちカッコよくなかったのが残念。速い人が走ると、それはそれはカッコよく、美しいものなので、もう少しそれが感じられたらよかった。あと、気になったのは「走りが」という言葉。テレビなどで「いい走りを見せてくれました」というような使い方を耳にすることはあるけれど、「走りがすき」といった言い方は、ふつうあんまりしないのでは?

ケロ:以前数学と文学は相性がいいという話が出たことがありましたけど、スポーツと文学の相性がいい本ですよね。良い意味で、単純にジーンと感動できる部分がある、というか。「セナ」という題名から、読むまでは陸上の話とは思いませんでした。また、お母さんがアイルトン・セナが好きと言ってるわりには、レースの事とか、あまり出て来ないですよね。これも、ちょっと残念。もう少し枝葉を広げられる様な気がするのですが。「走れ、セナ!」というタイトルとこの絵は、手に取りたくなるけど。

ハマグリ:見た感じがまずおもしろそうだし、日本の作品で、5年生を主人公にしたものは少ないから、その点がまずうれしい。最近の日本の児童文学は、もっと主人公の年齢が高く、ひねこびたところがあったり、人間との関わりが変にクールだったりするものが多いけど、この本の主人公は、わりと素直で単純で、5年生の子どもらしいところに好感がもてます。確かに登場人物がステレオタイプではあるけれど、ところどころ、今の子どもが共感できるところがありますよ。字面も文章の量も読みやすく、とにかくさらさらっと1冊読み通せる本だと思う。そういう本って貴重なのではないでしょうか。チビデブコンビは、ありがちな設定だけど、それぞれに俳句が上手だったり、数字を記憶する才能があったりしておもしろいので、もう少し書き込めばもっと良くなっただろうに。惜しい。

げた:紋切り型は紋切り型なんですけど、この読者対象で、前向きな作品は少ないので、図書館でも子どもに薦めたいと数をそろえました。

アカシア:だけど、紋切り型の本で人間について知るのは難しいんですよね。もうちょっと深みがあるとよかったんだけどな。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年2月の記録)