うさこ:たかどのさんの作品はどれも好きです。たかどのさんのファンタジーは、素材は普通でも物語がどっちの方へいって最終的にどこにたどりつくのか、話の途中では全くわからないところが魅力的。この作品もとてもおもしろいし、好きなお話でした。キツネの真剣な姿、でも誤りも多かったり、手紙の間違いなどもクスクスっと笑ってしまう。特に好きだったのが、最後に人間の子どもたちがキツネの学校へ遊びにいくところ。どんなに楽しかったかというのは、1枚の見開きの絵になっています。そこを一つづつ丁寧に見ていくと、人間の子どもに化けたキツネの子とほんものの人間の子がうまく楽しそうに描いてある。キツネの子の「よれよれ」ぶりもいいですね。楽しかったことをことばで綴るより、この見せ方のほうが読者にお話をあずけ、想像力を引き出してくれますね。最終ページのその後の両方の学校の交流ぶりもいい余韻で終わっていると思います。

たんぽぽ:たかどのさんは、おもしろいですね。ただ、最初の部分がちょっと、こみいっているかな。

むう:なんか、なつかしい感じがしました。昔から日本にある、キツネが人間を化かすという枠を使って、うまく書いてあるなあと思います。読んでいて、宮沢賢治の『雪わたり』を連想しました。キツネの子の学校に人間の子がぽんと一人入っていくという設定も、その子がかえってほめられて戻ってくるのもおもしろい。お手紙のへんてこさも楽しかった。

ウグイス:すごく好き。たかどのさんは、幼年もののほうが断然うまいわね。まずタイトルにやられた。何だろうと思わせる、うまいつけ方。最初書店で見つけてその場で全部読んでしまったんですけど、手元に置いておきたくて買って帰りました。キツネたちの正体が途中でばれるんだけど、ばれるところが子どもには楽しい。キツネの子が字を間違えますが、字を習っている最中の読者も同じような間違いを経験してるはずなので、ほほえましく思えるでしょう。ただ、たんぽぽさんも言ってたように冒頭の部分は、状況がすっと飲み込めないのではないでしょうか。いきなり3人の名前が出てくるし、しっかり読んでおかないと次に進めません。小さい子どもが読む本は、『ケイゾウさんは四月がきらいです』みたいに、端的に状況が把握できて、もっとぱっぱっぱっと進んでいかないと。あと、こんなに薄い本なのに、この本にはちゃんと目次があるところがうれしいですね。今まで絵本ばかり読んできた子どもたちにとって、「目次がある本」を読むというのは、いっぱしの大人の本を読んだという満足を与えてくれますから。だから、内容的には絵本とほとんど変わらないものでも、きちんと目次がある本は、ひとり読みを始めたばかりの子どもにはとても大切だと思うの。最初の1章をを大人が読んであげて、あとは子どもが自分で読むようにしむけることもできますね。

アカシア:私もとってもおもしろかった。まず書名を見て、いったい何だろうと惹かれます。キツネの学校に行くと、山本さんに化けた子が鉛筆を耳にさしているなんていう一つ一つのディテールも、それぞれおもしろい。キツネの子どもたちの言葉の間違いも、ほほえましくもとっても愉快。校長先生まで間違ってる! 最後の見開きのイラストも本当にいいですね。よく見ると、キツネの子には尻尾がついていたり、ひげがついていたり……。たっぷり楽しみました。ただ、確かに言われてみると、冒頭の部分はすっと入ってこないわね。一文が長いのかな?

もぷしー:あまり湿度を感じず、とても晴れ晴れした読後感でした。校長先生の文やキツネたちの化け方など、すべてちょっとずつ間違っていて、でも登場人物たちは精一杯頑張っていて、そののびのびとした姿が、読んでいて気持ちよかったです。子どもたちに、ぜひ読んでほしい。もう一つこの本で良いなと思ったのは、読み聞かせがしにくい本だということ。読み聞かせてもらうのは私も大好きだし、とても楽しいけれど、自分で読む力も育まなければいけないと思うので、まちがった字などを見つけながら、楽しく自分読みをして、ワクワク感を味わってほしいなと思いました。

ドサンコ:宮沢賢治の作品を、より軽快に描いた印象です。たぶん賢治の作風をそのままにすると、物語は「それからキツネの校長先生から手紙がきました。そこでクラス全員で、赤い鳥居をくぐってキツネの学校を訪ねていきますと、そこにはただ、草が風にゆれているだけでした」というような終わり方になっていたと思います。このさし絵は、ゆかいなまちがいもふくめてですが、文章のていねいさと呼吸がとても合っているなと思いました。本文の書体や、キツネの校長先生からの手紙のページ全体がキツネ色だったこと、その手紙の文字も、作品を味わい深くしているなと思います。

ミラボー:かわいい本という印象です。どきどきする場面と、大丈夫だなと安心できる場面が交互に出てくる。最後のイラストと、後日談もとてもユニーク。人間があまりきちんとしすぎない方がいい、という作者の価値観が出ていると思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年7月の記録)