ミラボー:さあっと読んでしまって、特にこれといった感想がありません。

ドサンコ:これは、安心して読める本、こう言ってしまうと悲しいですが、印象が薄い本でした。ひとりで本を読める子ども向き、でしょうか。表紙の猫の目が、動物を描くときによくあるような愛らしさがなくて、むしろやや怖いのが印象的でした。かわいいばかりがいい、ということでもないのですが。お話は大きな事件はなく、小さな出来事が全体をとおしていくつか描かれている…という印象ですよね。あえて言うなら、どろぼうが来るエピソードが最大の山でしょうか。グルがドラッグストアにおいてもらえることになる決定打はここにあると思うので…。でもこのエピソードは後半なので、前半にもう少し動きがあると、あきずに読める子どもが増えるのかなと思いました。

もぷしー:私は楽しめなかった。一話一話のどこが悪いというわけではないけれど、これだけの長さの物語を読ませるには、ドラマが足りないのかなと思ってしまいました。猫に共感して読もうとしても、出会う相手が一期一会でどんどん変わったりするので、気持ちがついて行けなかった。この本は、長さからして、中学年くらいの子向けに作られているのかと思いますが、そうだとしたら、おじいさん、おばあさんの話ばかりでこの長さはきびしいかな。猫の言葉が通じる相手が、努力とかコミュニケーションの末に増えていくわけではなく、年齢条件で当てはまる人のみというのも、私にはしっくり来ませんでした。

アカシア:これは課題図書になった本なんで、私もどうかなと思って読んだんですが、意外におもしろかったんです。もぶしーさんが、猫の言葉がわかる相手が年齢で限定されているのがどうか、と言いましたが、老人と子どもだけがわかるというのはむしろ自然なんですね。夢の中に生きている部分が大きい人たちなわけですから。猫の描写もリアルです。予定調和的にお話が収束するところはクラシックですが。もっとすごい事件が次々に起こらないと飽きてしまうと感じる人もいるでしょうが、子どもって、ささいな出来事でも大きな印象を受けますから、このくらいでもドラマを感じるんじゃないでしょうか? 今風のお話と比べるとテンポがゆっくりですが、お話を味わいながら読むのにはいいんじゃないかな。

ミラボー:アメリカの一,二時代前の文化を描いているという感じですね。

愁童:ぼくは『いぬうえくんがやってきた』と同じ雰囲気が感じられて、あまりおもしろくは読めなかった。猫の擬人化が過ぎていて、猫らしさが失われてしまっている。何か猫の着ぐるみの芝居を見るようで、むしろ人間の子どもにした方が理解しやすいのでは?

ウグイス:ていねいに描いてありますが、全体に平坦に進むので、途中でちょっと退屈してしまいました。グルもそこまでひきつけるキャラではないし、たいしたことも起こらない。最初におじさんの家にもらわれたとき、おばさんがちょっと冷たい人という設定に思えて、この人とは何かあるぞ、と思わせるのに、あとですぐにひざにのせてくれて、「えっ、そうなの?」と思ったり。子どももとまどうのではないかな。表紙の絵も魅力に欠けますね。

むう:なんというか、のんびりしているなあという印象でした。今時のテンポとはまったく違う。それが良さでもあるように思うけど、必然性があまり感じられずに、ふわふわと動いていく印象で、最後にお約束という感じでちょっとした冒険があって、無事暮らすことができたという筋もクラシック。ただ、老人と子どもだけとはネコと話をできるというあたりは、そうだろうなあという感じで、それほど違和感は持たなかったし、読者である子どもたちもまた、すっと受け入れるんだろうと思いました。

たんぽぽ:この本は子どもによく読まれています。これくらいの長さのもので、安心して薦められるものが出た、という感じです。これを読んで、長いものへと進む子がいます。

うさこ:グルの様々なかっこうの絵がなんともいえずいいですね。しっぽが短いところ、缶詰に前脚をはさまれたところ。話は大事件がおこるわけでもなく、わりと平和な展開。ドラッグストアにどろぼうが入って、グルが活躍…といった展開にはあまり新鮮さを感じませんでした。ピーターとおじいさんだけに、グルの声が聞こえる。ドラッグストアのおじさんが、おじさんからおじいさんへかわるから動物の声も聞こえるように…というくだりはふんふんとうなずいて読みました。そんなにおもしろいと思った作品ではなかったので、この本が子どもに多く読まれているということを聞いて、ちょっとびっくり。おもしろいという定義に、大人と子どもの体温差を感じてしまいました。

ウグイス:本の体裁は、子どもの読者に程よいかと思います。挿絵がたくさんあり、字面の感じも読みやすい。1冊読み通せたという満足感を子どもに与えてくれると思います。

アカシア:著者はアフリカ系アメリカ人の女性です。時代背景からすると、不満や矛盾に直面しているアフリカ系の子どもたちに、「もう少し忍耐強くやってみようよ」と呼びかける意図もあったのかもしれませんね。愁童さんは、猫が擬人化されすぎて自然じゃないとおっしゃってましたが、私はそうは思わなかった。子猫の自然な姿がよく描かれていると思いました。

げた:訳文がとても読みやすかったですね。冒頭、グルがどういう猫で、これからどんな話が展開するのかわかりやすく書かれていて、お話の中に入りやすかった。読み手の子どもたちもきっとグルに同化して、グルと一緒にいろんな冒険ができると思いますよ。何も起こらないと言っている人もいますが、小さく見えるかもしれないけどグルにとっては大きな事件、というか冒険がありますよ。グルの成長も頼もしく思いました。本文の挿絵は内容を的確に表現していると思いましたが、表紙がいまひとつ、かな。刺激的な内容ではないですが、ゆったりした気持ちで楽しめる本でした。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年7月の記録)