たんぽぽ:まだ半分しか読めてないんですけど、早く先が読みたい。ヴィクトワールが楽しくって。こんな子がとなりにいたら楽しいだろうな。

ウグイス:この本はとても好きですね。最初、この男の子の生活がすごく変わっているので、なんなんだろうってひきこまれるでしょう? ちょっと昔風で、普通の子どもの暮らしとあまりにもかけ離れている。それが、女の子が出てくるところから、がらっと変わってしまう、その落差が激しいところがおもしろかった。そんな展開になるなんて意外で。題は『秘密の手紙0から10』となっているんだけれど、その割にはお父さんの手紙はあまり重要ではないので、違和感があった。これを題にするなら、お父さんとエルネストのことをもう少し書いてもいいのに。

むう:この作品は、『オリーブの海』とは対照的にとてもくっきりしていて、楽しかったです。この女の子のパワーがなんといっても強烈で、魅力的。エルネストっていう子も、こういう生い立ちだと、ひきずられるだろうなと納得できる。女の子の13人の兄弟もそれぞれ強烈だし、その出会いとかエルネストの変わっていく様子もとてもおもしろい。それに、なんだろう、なんだろう、といっていた秘密の手紙が、なんていうことのない内容なのもおもしろいし。それに比べると、お父さんのことは、つけたしっていう感じでしたね。

ねず:女の子が元気良く生き生きと描けていて、おもしろかった。ほかの登場人物も、ほんの少ししか出てこない人もふくめて、よく書けていると思います。英米児童文学とはまったく趣のちがう、まさにヨーロッパ本土のにおいがする。ただ、「だからどうした?」と言われると、なんてことない話なんだけどね。フランスで権威のある児童文学賞を受賞しているし、主人公は10歳ということだけど、こんなに凝った文章ーー暗喩が非常に多い文章を、フランスの子どもはすらすらと読めるのかしら? けっして、感心したり疑ったりしているわけではなく、素直に「誰かにきいてみたいな」と、思いました。ただ、お父さんの最後の手紙には、腹が立ちましたね。あまりにも無責任で、言い訳がましくて……そんな親に主人公が怒りを感じないと言うのも不自然だし。

カーコ:ヴィクトワールがおもしろかったです。それに、細部の表現がおもしろかったです。p177の「ヴィクトワールがいないということが、エルネストの心のなかでは、とてつもない大きさにふくれあがっていた。穴に落ちないようにわざわざまわり道をしたのに、あまりにも気にかけすぎて、けっきょくその穴におちてしまったみたいな感じだ」とか、p133のインフルエンザの場面で「ヴィクトワールは、ばい菌の巣くつをエルネストのとなりに移し」とか。お父さんの手紙はあんまりじゃないの、と思ったけれど、生後3日で捨てられたことを気にしていたエルネストにとっては、ハッピーエンドでよかったのかな、と思いました。でも、この本の題名の「秘密の手紙0から10」っていうのは、どういう意味なんですか? おばあちゃんが大事にしていた手紙は1通だけでしょう? 原題では、「愛の手紙」だけど。

だれか:お父さんの送ってきた手紙が、10冊のファイルだったからじゃない?

げた:でも0から10だと、11冊になるよ。

カーコ:あと、白水社は目次を立てない方針なんでしょうか? 『オリーブの海』は細々としていたから目次がないのもわかるけれど、こちらはそれぞれに人の名前がついていて、目次として並べることにも意味があるような気がしますけど。

きょん:タイトルの意味がよくわかりませんでした。表紙もいまいちわかりにくいと思います。でも、読んでみるとおもしろかったので、一気に読んでしまいました。私は、ヴィクトワールよりもエルネストにひかれました。我慢強くて、こうだと思いこんだらきまじめにそれをするところ、たとえば、まっすぐに寄り道しないで帰らなくちゃいけない、おばあちゃんが待っているから……とか、おばあちゃんの言うとおりにしないといけないとか……、こういう極端なきまじめな部分は、どんな子どもの心の中にもあるもので、それが、ストレートに嫌みなく描けていて、よかった。そこから解き放たれていく子どもの心の成長もよかった。「一度も」したことがないから「初めて」するに置き換えていくっていうところも素直に気持ちが伝わってよかった。そして、ちょっとしたことで生活が変わっていくというのがさわやかに楽しく描けている。それを手助けしてくれる女の子の存在もなかなか愉快だと思いました。

アカシア:確かにヴィクトワールはおもしろかったし、エルネストとおばあちゃんの生活もよかったけれど、最後お父さんとこの子の関係に話を持ってきているのが不満でした。なんでここでお父さんのことに持っていくの? そのことで作品の世界が小さくなって、「小さな家庭のささやかな悲劇」に終わってしまったような気がします。p46「人道主義的なすばらしい大志だね」などなど、10歳の子どもの言い方とはとても思えない口調のところが気になりました。私は、この作品もわざわざ翻訳して出すことはないと思ってしまいました。

ウグイス:お父さんが見つかって、無理やりまとめてしまった感があるわね。別に見つからなくてもよかったのに。

げた:うちの図書館では、この本は一般書の棚に置かれています。主人公は10歳という設定だけど、いくらフランスだって10歳の子がここまで言うのは無理だろうと思うようなことを言うんですよね。エルネストもおばあちゃんも、お手伝いさんや、ヴィクトワールの家族も、登場人物がくっきり描かれていてわかりやすかったです。お父さんの糸口を見つけるのが、初めて行ったスーパーマーケットというのは、おもしろいけど。でも、このお父さん、ひどいですよね。放りっぱなしにしておいて、今更という感じがしますね。

むう:若いエルネスト自身は、お父さんの不在なんか乗り越えてさっさと自分の世界を作っていくわけだけれど、おばあちゃんにとっては、エルネストのお父さんが出てこないと一件落着しないからかもしれませんね。

ねず:昔から、フランスでは子どもを未完成の大人と見ているから、児童文学があまりおもしろくないと言われてきたけれど、確かにこの作品も子どものほうを向いて書いているとは思えないわね。

アカシア:大人の感覚でひねってあったりして、ストレートなおもしろさに欠けるのが多いのよね。

ミラボー:まず前半のヴィクトワールとエルネストの出会いはおもしろかった。陽気なヴィクトワールと出会って、全然知らなかった世界に触れて、世界が広がっていくのも極端な話でおもしろい。父親の話は、あまりに不自然だと思う。この言い訳おやじめ、という感じ。毎日息子宛に手紙を書いてたっていうけど、息子から突然手紙をもらって、それで初めて過去に書き溜めた手紙を全部送るっていうのは、それはないでしょう。最後、切符が3枚届いて、わいわいわいと終わるって感じでした。

(「子どもの本で言いたい放題」2006年10月の記録)