エーデルワイス:生徒たちはけっこう喜んで読むんですよね。ビートたけしの家族構成はよく知られていて、それをよく反映しているのが最初の短篇ですが、まあ、深みがあるわけではなく、漫画的な感じですね。でも徒競走のヒーローであるカラバカが熱を出して、それでもどてらを着て走って、倒れて、というドタバタに、後に偉くなって社長になりましたという落ちがついて、楽しめる話だと思います。次の短篇は、最後に兄弟が死ぬのかどうなのかということが、読んだ生徒たちの間で議論になります。兄弟は亡くなった父への想いをまだ断ち切れず学校でもいじめられ、一方母親は再婚へ、というあたりが切ない作品だと思います。3つ目は大人の世界をかいま見るというように、3つの作品の持ち味がそれぞれに違う。気軽に読める本の世界への入門編という感じですね。よく本を読んでいる生徒からは、「底が浅い」という感想も出ることがありますが、一般的には取っつきやすい作品だと思います。

アカシア:ビートたけしの本だから読んでみたらおもしろかった、というのは、たしかに本の世界への入り口としていいと思います。この小説には、ビートたけしにつきものの飛躍というかギャップがないから、編集の手も相当入っていると考えていいのでしょうか? 読みやすいですよね。カラバカみたいな子は今の時代にはいないでしょうけど、昔は得体の知れないおもしろい人がまわりにいっぱいいましたね。そういう得体の知れない人がまわりにいると、子どもはいろいろと考えたりすると思いますけど。エーデルワイスさんの学校の生徒は、この本のどういうところをおもしろいって言うんですか。

エーデルワイス:生徒たちの発言をどう引き出すかですが、まず、読んでこさせて、記憶に残っている場面や、気に入った登場人物を言わせると、一人一人違っていろいろ出てくるわけです。成績では振るわない子が、カラバカに対する熱い思い入れを語って「将来大物になるぞ」と宣言したり、兄の立場の子が作品中のお兄ちゃんに自分を重ねたり、弟はまた弟に自分を重ね合わせたり、あるいは、弟の立場でこんなお兄ちゃんがいればいいのに、とか。様々な人物が出てくるから、それぞれが作中人物に自分を重ねられる。子どもにとっては、感想が言いやすい本で、バラエティーに富んでいるので、おもしろかったという印象が生まれるんだと思います。選択教科の時間というのがあって、生徒が選んだ本を読み合うというのをやっていますが、そこで中3の子が選んできたのがこの本です。

アカシア:それぞれの短篇のイメージがくっきりしていますよね。人物の描き方は深いとはいえなくても、ステレオタイプでもないから、中学生くらいで読むにはいいと思います。わかりやすいし。

げた:アカシアさんと同じ感想です。ストーリーも人物設定もわかりやすい反面、ぼくはステレオタイプかなとも思わなくもないですけどね。カラバカが土建屋になって駅前にビルを建てました、というのはいかにもという感じかな。でもイメージはたしかにくっきりしていて、本になじみのない子にとっては、イメージがわきやすい。本に親しむための、とっかかりの本としていいと思います。

ミッケ:みなさんがおっしゃったとおりだと思います。いわば、昔の中学生が星新一から本格的な読書に入っていったような、そんな感じの位置づけ。特に新しいことがあるわけではないけれど、長さも短いしくっきりしているし、たけしの作品ということで近づきやすい。ただ、星新一の前回の作品に比べると、家族を扱っているという点で普遍性があるから、古びないかもしれない。でも、最初の短篇はかなり時代色が濃いですよね。今の子にとっては大丈夫なのかな?

アカシア:「菊次郎とサキ」みたいなのをお茶の間で見ているわけですから、子どももけっこうわかってるんじゃないかな。

ミッケ:エーデルワイスさんの学校の生徒たちは、たとえば第一作のようないわば昭和という時代の色が濃くて、大人が読むとノスタルジーを感じるようなものを読んだときに、こういう時代性にはどう反応するんですか?

エーデルワイス:それは、生徒によっていろいろですね。

げた:この話の中に登場する小道具は確かに古いけれど、運動会への思い入れという点では、今の子にも通じるところがあるから、わかるんじゃないかな。どてらを着たカラバカはさすがにいないだろうけど、それに近いくらいの子はいそうだし。私が見た運動会では、子どもたちは結構シビアに競走してますよ。

アカシア:今は学校の運動会でも、タイムをあらかじめ計っておいて同じようなレベルの子を競走させたりするので、カラバカタイプが注目されるチャンスが少なくなってるのでは? カラバカ、いいですよねえ。

(「子どもの本で言いたい放題」2007年3月の記録)