ジーナ:おもしろいと思えませんでした。エピソードが並んでいるオムニバスタイプの本だから、このユーモアにのれないと楽しめませんね。1冊読んだという満足感もないし。日常生活をあれこれかき回す透明人間が出てくる、という設定自体はおもしろいんだけれど。一番気になったのは、54ページの歌をうたうシーン。透明くんの声はみんなには聞こえないはずなのに、ここだけ急に聞こえるでしょ? これってどうして? 聞こえたら確かにおもしろいけれど、その場その場で都合よくただ楽しげに書かれている感じがして、ついていけなくなりました。

アカシア:透明くんはもうひとりの自分ってことでしょ? だから、ここは自分の声なんじゃないのかな。私はそう読んだけどな。

ポン:えっ? 自分の声だったの? あらぁ、びっくり! 話を間違って読んでたかも……。そんな私がコメントしてよいものかちょっと不安ですが、思ったことを言いますと、いろいろと、おもしろいといえばおもしろい出来事が起こるんだけど、最初から作者に「これはおもしろいんでーす!」って言われているような感じがして、あんまりのれなかった。袖に、イェンス・ペーターは「おりこうさん」って書いてあるけど、読んでてそんなにおりこうさんとも思えなかったし……。

サンシャイン:子どもの本でも何かしら人間の深い部分に触れている作品かそうでないか、という視線でどうしても読んでしまいます。透明くんが現れて、人間の裏側の深いところに触れている感じがするか、ということですが、そういう視点で読んでいい作品なのかどうか、皆さんがどう思われたかうかがいたい。私は、そうは思えませんでした。ファンタジーにしかできないこと、ファンタジーでしか表現できないことがあって、それは人間の隠れた部分を描くことだと河合隼雄さんが書いていましたが、そのような作品なのかかどうかということを皆さんに伺いたいです。

アカシア:別に人間の隠れた部分を書かなくてもいいと思うんです。大人の思う「ためになる」本ばかりじゃなくてもいい。入り口から入って出るまでに何かが得られればいいのかな、と思うんです。その何かは、すっごくおもしろかったとか、すっごく笑えたとか、それだって一つの体験なんだから、いいんじゃない? ただこの本は、そこまでもいかなかったけど。

ウグイス:見た目はすごくおもしろそうな本。タイトルも表紙の絵も、あまり分厚くないことも、子どもには手にとりやすい本だと思う。でも中身は期待はずれだった。目に見えない存在がいるというのはそれだけでおもしろいんだけど、起こる出来事はたいしておもしろくない。それに会話のおもしろさが全然ない。透明くんのセリフが「よんでくれたまえ」とか、「あるまいね」とか古めかしいし。

みっけ:すごくおもしろい、とは思わなかった。というのは、どれもワンパターンだったから。全部、透明君が、ほとんど暴力的にペーター君をそそのかして、ペーター君がひきずられてはちゃめちゃになっていくという構造でしょ。子どもがしたそうなことを取り上げているのはわかるけれど、なんか感じ悪い、と思いました。透明くんの存在が、なんかうざったい感じになっちゃっている。だからたのしくない。9ページの絵を見ても、ペーター君がお利口さんとは思えないし。

ケロ:タイトルなどおもしろそうだったけど、実際に読んでみると、あまりおもしろくなかった。どうしてかなと考えてみましたが、おそらくこの「透明くん」という存在が、いわゆる心の中の「悪魔」みたいなもので、作者側にしてみれば、そそのかされてイエンス・ペーターがとんでもないことになってしまうことが「悪いことをしちゃうのって、おもしろいだろう」ということになるのでしょう。でも、それすらも教訓めいて、説教くさく感じてしまう。悪いことするのも、まあ悪くないよ的なスタンスで描いているのでしょうが、意外性もない。だからおもしろく感じられなかったのかな、と思いました。

たんぽぽ:発想は、牡丹さんと同じでおもしろいのですが、悪戯のしっぱなしで最後まで、すとんとくるようなものがなかった。

アカシア:幼年童話かと思って読み始めましたが、違いますね。「彼女」なんていう言葉がルビナシで出てきますもんね。編集者は読者をどの辺に想定しているんでしょう? 49ページ6行目には「碧色(あおいろ)の瞳」っていうのもあります。文体とあまりにも合わない漢字が使われていたり、編集方針が分からない。訳もすっきりしませんね。ドタバタならそれなりの言葉で訳せば、もっとおもしろかったのでは?

愁童:透明くんがどんな存在なのか、よくわからない。はちゃめちゃなとあるけど、何が、どうはちゃめちゃなのか、さっぱりわからない。まして透明な存在ということになれば、この作品の描写じゃ、読者にはさっぱりイメージがつかめないよね。子どもには何が何だかわからないんじゃないかな。

アカシア:主人公以外がみんなステレオタイプなのも、つまらない。もっとはちゃめちゃにやってもらいたかったな。

愁童:透明くんが、おばさんに対して無反応なのが不自然な感じで、作者自身の透明くんのイメージが明確じゃないのかな?なんて思えちゃう。

ねず:ごめんなさい、わたしは、けっこうおもしろく読んじゃった!小学校の中学年くらいのときって、ある日とつぜん「わたしってなに?」と気づくころなんじゃないかしら? わたし自身、ある晩、眠りにつく前に、とつぜんそう思って自我に目覚めたときのことを強烈におぼえているので、そういう年頃の子どもたちが読んだら、けっこうおもしろいのでは? 『ジャマイカの烈風』にもそういう場面が出てきて、あの傑作のなかでも最高の場面だと思っているのだけれど。こんな風に読むのは、ちょっとひいきのしすぎかな? 透明君の台詞の色を変えているのも、いい工夫ですよね。ずいぶんぜいたくな本!

(「子どもの本で言いたい放題」2007年7月の記録)