メリーさん:読んだのは、今回が初めてです。物語の中では、「ゆうがた」「オニヤンマ」がおもしろかったです。ほかの2冊とともに読んでみて、動物と擬人化について考えました。動物は本当にこんなこと考えてるんだろうか、と。この本でいうと、動物がこういうことを考えているというよりは、人間(画家の先生)の気持ちが、一番身近な生き物(ヒロシ)に投影されているのではないかという気がしました。

ウグイス:感想が言いにくい本ですね。犬の気持ちになって書くという視点はとてもおもしろいんですけど、何かこうお行儀のいい感じがしました。著者がこういうふうに作りたいと思ったとおりにできあがった作品なんでしょうね。子どもにはきちんとしすぎてるっていうのか、こういう書き方はおもしろいのかな、と疑問な部分もありました。とても文章がよくできているので気持ちよく読めるんですけど、時々ふと眠くなってしまうようなところがあって。子どもは途中で飽きるんじゃないかという気がしました。おもしろかったのは、「サイダーは、ひえたこえでいいました」(p24)というところ。そういったユーモアがところどころにあって、いいなと思いました。

げた:印象としては、お父さんが子守唄代わりに子どもに思いついた空想話を話してあげているみたいな感じですね。文字で読むよりも、お父さんがお話しているという雰囲気で、読み聞かせしたらいいんじゃないかな。

クモッチ:なつかしい感じがする本だな〜、と思って読みました。1つ1つのお話が短くて、ソーダとか、パンとかが、普通に登場人物になっているところが絵本の世界と近い気がするので、絵本を卒業しつつある読者には貴重ですね。最近、ストーリーが複雑になりがちな中で、これは短くて読みやすいし、身近にある話なので、想像しやすくていいなと思います。ウチの小学校3年生は、大笑いしながら読んでましたし、サイダーにはとても同情してました。大人なら、犬がビーフジャーキーをどうやって送るのって思うかも知れませんが、子どもの読者はその辺すっとばして、受けるんじゃないかな。最後、犬のヒロシは死んじゃうんでしょうけど、こういうのを子どもはどう読むのかな。わかるんだろうか? わからないかもしれないですね。それから、ウチの子どもは、表紙の絵が怖いって言ってました。こういうぽっかりとした黒い目は、漫画だと、取りつかれてたり死んでしまったりしてることを意味するらしいんです。

セシ:全体に大きな筋のないオムニバスのような話は、読み進みにくい本が多いんですけど、これは1つ1つに意外性があって、おもしろく読めました。ところどころに詩が入っていますけど、全体が詩みたいな作品ですね。動物同士のとぼけたほのぼの感、そこはかとないユーモアが、『ともだちは海のにおい』(工藤直子/著 理論社)を思わせました。日常の何気ないものを詩的に切り取ってみせるっていうのは文学ですよね。文学的表現の入り口となる本だと思いました。

うさこ:出版されたときにタイトルが気になって、ずっと読んでみたいなって思っていたのに、読んでなかったんです。本屋さんに並んだ当時も、表紙の印象がクラシックで、今見るとなおさらクラシックなイメージなので、ずっと前に出たのかなと思ったら1995年でした。内容は、ほのぼのとした世界ではあるけど、とびぬけた奇想天外とかユーモアがぴりっときいているということもなく、そこがいい、とするのか、ちょっと物足りない、とするのか、判断つきかねました。短いお話の連作で、低学年の子どもにとっては読みやすいでしょうね。

ハリネズミ:私はとても好きな本です。子どもが読んでもおもしろいと思います。アリの会話に「…しくコケは特上にしたか」「はい。コシヒカリじるしです」なんていうところがあるし、サイダーは「キミを男とみこんで、ぜひたのみたいことがある」なんて言うし、ヒロシが落とした枝が「ああいてえ。こんどは腰を打ったじゃないか」と言うと、枝の腰ってどこなんだろうとヒロシが悩む。そんなプッと笑えるところがたくさん用意されている。犬は寿命が短いから飼い犬の死を体験する子どもは多いですよね。子どもがこの本の最後を読んでヒロシが死ぬと思うかどうかは別として、こういう本を読んでいれば、そういう時でも、ただ悲しいだけではない気持ちももてると思います。
犬は大体おひとよしですが、そんなヒロシの日々の様子が目にうかぶように書かれてます。書き方が、ただ情景を描くだけでなく、そのもう一つ向こうへ行ってしまっている感じもします。やさしさ、生きること、年を重ねること、ほかの生き物たちとの関わり合い、などをすべて混ぜ合わせて物語ができているんでしょう。今は、プロットだけで引きつけようという作品が多いけど、味わって読むタイプのこういう本を、文学の入り口にしてもらいたいな。

エクレア:この本は出版されたときに読みましたが、あらためて読むと、文章に擬人法が多いためか、間延びするようなところもあるんですね。でもそこに、絵が出てきたり、白抜き文字になっていたりして、目先が変わるように工夫されてる。詩も入っていて、ゆっくり時間がすぎていくようです。言葉がレトロっぽくて、今の子どもが使っている言葉じゃないから、逆に新鮮に思いました。

ヨカ:私はかなり好きでした。このあいだのネコの話(『おおやさんはねこ』福音館書店)と同じような、ゆったりとした、それでいた細やかな感じがして、三木卓さんの本をもっと読んでみたくなりました。あのネコの話は一つのストーリーになっていたために、逆に、筋を作らなくてはという無理が感じられたけれど、これはそういう縛りがなく、1つ1つが自由に広がっていて、さらにいい感じ。三木さんの目線って、すごく細かくて、人が意識化していないところを見ていて、しかもそれをユーモラスな感じですくっているのがいいなあ。主人公の犬のヒロシが、かなり間が抜けているんだけど、そういう自分でいいや、と思ってる。しかも、そういうとぼけた犬を、作者は決して下に見ていない。そこがいいんですね。しかも、飼い主である画家さんとすれ違っているあたりも、しっかり書いてある。だから、ひょっとしたらごく普通の日常にも、自分が気がついていないことがいろいろあるのかも、と思わせてくれる気がします。
とにかく、1つ1つの物語が、なんとも不思議な感じ。サイダーがおしょうゆを垂らしてビールになりたいとか、なんかおかしくて。そういうおかしさから、中盤で、毛虫に恋する葉っぱの話や、バッタとの飛び比べなんかが出てきて、「時」というものを感じさせる作品に移行して、最後は、たぶん「死」で終わっている。でもそれも、決して暗くなく、ふわっと書いてあって、わかってもわからなくてもいいよ、感じられるものを感じて、というスタンスなのが、この本の魅力だと思います。それと、言葉の使い方がうまくて、特に、カタカナが上手に使ってあるなあ。アタマとかマエアシとか、ふつうは漢字にするところをカタカナにしていることで、乾いた感じというのか、ちょっとゆるい感じになっていて、好きですね。

サンシャイン:ほんわかというのか、のんびりというのか、三木さんご自身を髣髴とさせるところがあります。4年生、5年生向きでしょうか。中学年くらいで最後まで読み通させたいなと思う本です。絵もうまいですね。

ヨカ:たとえば『ゆうやけ』なんかは、はじめはちょっとシンとした感じで大人っぽい。ところが、このまましんみりといくのかな、と思ってたら、最後のところで、ヒロシのハラとセナカが入れ替わろうといってヒロシをからかう、というふうに突拍子もなくおかしな話になる。つまり、シンとした情景にずぶずぶと入り込むのでなく、すいっとかわしていく。この切り替えの早さって、子どものものではないでしょうか。その意味で、子どもを意識して書いている作品なんだなあって思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2009年1月の記録)