『となりのウチナーンチュ』
早見裕司/著
理論社
2007-12

版元語録:友だちなんかいらない、と思っていた。あなたに出会うまでは…。沖縄を舞台に少女たちの出会いと絆を描く不思議さと温かさいっぱいの物語。

紙魚:刊行されたころに読みましたが、正直なところ、あんまり記憶に残っていないくて……。軽くすらすら読めたという印象です。ファンタジーが生まれやすい場所というのがあると思うのですが、そうか、最近は、沖縄というのもあるんですね。それも、現在の沖縄。作者が、沖縄在住ということもあって、沖縄に関する記述は信頼できそうです。

ササキ:これって、課題図書ですよね。図書館でもずっと貸し出し中でした。キャラクターが個性的で、それぞれの登場人物がわかりやすく、読みやすいのかな。テンポはよかったんですけど。お母さんがゴーストになって出てきたのには驚きました。あそこまでのゴーストにしなくても。課題図書で、子どもがどういうふうに読書感想文を書くのか気になりますね。想像を膨らませにくい、一方向でしか読めない作品かなと感じました。

ハリネズミ:出てくる人たちは、みんな個性的でおもしろいんですね。沖縄の生活事情や、基地のことなどもわかる。ところどころにユーモラスなところもあったり、沖縄の人たちの楽しい会話もあったりする。でもね、夏海のお母さんは、あまりにも不自然じゃない? 最初は家庭内別居をしていて、後には娘にとりつくほどの教育ママであれば、娘をつれて出ていくんじゃないのかな? お母さんが言うことに客観性もないし、妄想を生で見せられている感じで気分もよくない。夏海の登校拒否の原因がお母さんだとするなら、お母さんのキャラクターづくりをしっかりしておかないと、物語そのものの構造が弱くなってしまう。沖縄については、間違いがないように、真面目な態度で取り組もうとしているのがわかるんですが。

ショコラ:沖縄の生活がリアルに書かれています。台風の場面は、迫力があり、すごいなと思いました。作品の中の沖縄の言葉1つ1つに対して意味が出ているので、わかりやすかったです。テレビドラマ「ちゅらさん」のアットホームな家庭の雰囲気に対して、2つの家族が異なっているのがおもしろい設定だと思いました。お母さんが出てくるのはホラー的だし、さらにお母さんが台風のときに東京からやって来るのがしつこすぎます。表紙のイラストから、男の子と女の子の話なのかなと思いましたが、作品を読み終わってから表紙のイラストが表しているものがわかりました。昨年の中学校課題図書になった作品なので、子どもたちの感想を聞いてみたいです。

小麦:私も去年課題図書になった時に読んだんですけど、内容が残ってなくて今回一から読み直しました。装丁がすごくいいですよね。内容は、イメージの沖縄でなく、実際の沖縄がしっかり描かれていて楽しめました。著者が実際に沖縄に移住しているということもあり、「へー、こんなこと知らなかった」と、エッセイのように読めたところもありました。彩花の性格もすごくリアルに感じられました。この子なら、隣の子となれなれしく、すっと友達になっちゃうのもわかります。夏海と彩花のベタベタしすぎない友情も、さわやかで自然で好感がもてました。でも、それらをガラガラと崩してしまったのが、お母さんの存在。キャラクターがあまりにも類型的で、なにもそこまでっていうくらい感じが悪い。問題をお母さんひとりに集約して、悪者退治でもするような展開に、物語からどんどん気持ちが離れてしまいました。お母さんは去ったけど、まだ問題は残っていますよという終わり方には、沖縄の描き方同様リアリティがありました。

カワセミ:第1章は、彩香の家族の話。第2章になると、急に夏海の話になったので、短編集かと思ってしまいました。読み進めるうちに、別の家族として彩香が登場してきたので、こういうふうにつながっていくのかと、急におもしろくなってきた。でもその後は、ずっと夏海中心になって彩香が脇役になってしまったのが残念。私は彩香の方に興味をもったんです。今までにない主人公だから。夏海のほうは、傷ついていて癒しを求めているというありきたりな設定で、あまり興味がもてなかったの。書き方は、最初からリアリズムだったのに、急に置物のカエルがしゃべりだすという突飛なところがあります。でも、このカエルとの会話がユーモラスなので、あまり違和感なく楽しく読めました。私もお母さんの出し方はあんまりだと思ったけど、この作家は、ホラーを書いている人だから、どうしてもその要素を入れたくなったのかな。この年頃の女の子が母親に対してこうした気持ちをもつことはあると思うし。だから、本当の母親は出さない方がよかったわね。生き霊よりも現実の母親はもっとひどいんですもんね。ちょっとやりすぎだと思う。私も沖縄の家庭というと「ちゅらさん」くらいの知識しかないのだけど、沖縄の人たちの、遠慮はないけどあったかい、独特のベースが感じられた。食べ物の描写や、言葉の使い方もおもしろかったし、沖縄のことがいろいろわかってよかった。ただ、夏海が最後の312ページで言うセリフ、「私の心も同じだもの。とがって痛いほどだったのを、海と、沖縄が丸くしてくれたから。……でも私は、沖縄に来たいって思って、来られて、受けいれてもらえた。……私は沖縄が大事だ、って思ったから、沖縄が助けてくれたの。このビーチグラスは、私の心なんだよ」これはとっても浮いてます。夏海ってこんなこと言う子じゃないし、いかにも「言わせた」という感じで、がっかりしました。沖縄を舞台にしたものって、だいたいそうなりがちでしょう。傷ついた心が沖縄のあたたかい人たちに囲まれて癒されていくっていう……。せっかくちょっとおもしろい工夫があるなと思ったのに、結局これも同じだったのか、という感じがしてしまう。いいと思ったのは、2人の女の子がそれぞれに痛みを抱えているけれど、ありのままの心でつながっていくというところ。ほっと心なごむものがあった。今までの児童文学にはないよさも散りばめられていて、新しい感じではあると思うけれど、やっぱりちょっと残念な部分もあるわね。

セシ:よかったところは、今の中学生が読むとこの3冊の中でいちばん読みやすそうなこと。彩香とか夏海とか、おっと思わせる、魅力あるキャラクターに仕上がっていると思います。だけど、この本はこの子たちのことより、沖縄のことを書いたお話のように感じられました。マンガでスポーツを知るように、小説で沖縄を知るというような。きれいな浜だけど、天然ではなくて砂を運んできていることとか、言葉とか食べ物とか。沖縄で癒されると思われがちだけれど、こんなに不便なところがあるとか。夏海のお母さんのエピソードは、やっぱりあんまりですね。九州から南ってまじない師のような文化があるじゃないですか。もしかすると作者は、ユタに代表される文化と、お母さんとを結びつけたかったのかな。でもやっぱり違和感がある。彩香のお父さんは、これで暮らしていけるのだろうか、貯金はあるのだろうかとか心配になるけれど、細かいところは書かれてなくて感覚的だと思いました。沖縄の人は時間に驚くほどおおらかだと、沖縄人と結婚した知人から聞いたこともあるから、もしかすると風土自体がこんな感じなのかもしれないけれど。

カワセミ:フィクションじゃなくエッセイとして書いた方がよかったのかもね。沖縄のことはいろいろわかるし。

メリーさん:これは、楽しみに読み始めたのですが、期待はずれでした。沖縄の現実を語るといっておきながら(「ちゅらさん」ではない)、カッコ書きで沖縄の言葉を説明したり、沖縄のウンチクを語ってしまうところや、母親の描き方が一面的で深みがないところ、極めつけは、蛙の神様と、病院、お守りをくれた神様がまったく活きていないというところがとても残念でした。彩華のキャラクターはいいと思いますが、そんな簡単に友だちになれるのかな? 台風のエピソードもご都合主義にしか見えませんでした。個人的に沖縄については詳しくなく、まさに「ちゅらさん」から仕入れた知識くらいのものですが、沖縄の風土をうまく使いきれていない、というのが印象です。これを読んだ子どもはどういう感想文を書くのでしょうか?

(「子どもの本で言いたい放題」2009年5月の記録)