『国境まで10マイル〜コーラとアボカドの味がする九つの物語』
デイヴィッド・ライス/著 ゆうきよしこ/訳 山口マオ/画
福音館書店
2009.03
原題:CRAZY LOCO by David Talbot Rice, 2001

版元語録:テキサス最南部に暮らすメキシコ系ティーンエイジャーの日々を、リアルに彩り豊かに、起伏に富む情感とユーモアを交えて描く。マイノリティの持つ光と影が織りなす短編集。

サンシャイン:国境近くに住んでいるメキシコ系アメリカ人の話。日本語の題名はつけにくかったんでしょうね。工夫していますね。ヒスパニックの物語というのとは違うんでしょうか? アメリカに住んでいる人なら違いが分かるんでしょうね。いい話だなと思ったのは、「パパ・ラロ」。最後、おじいちゃんが死んじゃって、しゃれたタキシードを着せてあげるっていう話です。教会の侍者をする少年の話「最後のミサ」もよかった。不良の侍者の1人が死んじゃって、その子のためにミサをするという話ね。アメリカ社会一般の話と読むか、テキサス州のメキシコとの国境地帯でのローカルな話と取るか、よくはわからないけど、印象に残りました。

プルメリア:今月の3冊の中でこれが一番おもしろかったです。地図を見ながら読みました。2つめの話は、アメリカ人なのかメキシコ人なのかわかりませんでしたが、人々の気質や料理が詳しく書かれていて、暗いことでもユーモラスに描かれていることに好感をもちました。「最後のミサ」に出てくる侍者をした少年と、バチカン市国でクリスマスのミサを見たとき侍者をしていた少年が重なりました。本人よりも家族が誇らしげにしていたのを思い出しました。「さあ、飛びなさい!」は、インコを全部放してしまうダイナミックさ、日本人とはまったく違う発想の違いがおもしろかったです。

セシ:私は出たばかりのころに読んで気にいりました。すごくおもしろいなと思ったのは、いろんな人生が出てくるところです。日本の中学生を見ていると、似たような大人に囲まれていて、こんな大人になりたいという理想像も、小さくかたまりがち。でも、この本に出てくる人たちは、とてもさまざま。いろんな人生があって、喜びや悲しみがある。いろんな価値観が出てきて、こんなふうにも生きられるのか、と考えさせられました。国境を行ったり来たりするメキシコ人をとおして、国境があること、国が分かれてしまうことのむずかしさや、そのはざまで生きていく人の様子もよく伝わってきました。お手伝いさんの話や、その家に行ったら主人公が自分の家に行ったみたいだったという「もうひとりの息子」や「カリフォルニアのいとこたち」が印象に残りました。ユーモアのスケールが大きい。あっけらかんとして爽快でした。

カワセミ:子ども向きの短編集はむずかしいなと思うんですよね。この本は、日本の子どもが想像もつかないような環境だし、大人が読めばテックス・メックスの文化が興味深いところもあるんだけど、一つ一つのオチが微妙なものが多くて、子どもはストレートにおもしろいと思えないじゃないかなと思います。児童文学としてどうなのかな? 伝わりにくい部分があるんじゃないかなと思いました。その中では「ぶっとんだロコ」がおもしろかった。犬がいなくなっちゃうので本当は悲しい話なんだけど、犬が車を運転してったって考えると、なんだかおかしい。どうしようもないやりきれなさみたいな感じが、どの話にも漂っているものの、決して暗くはない、そういう気分は、あまりほかの本では味わったことがないですね。

ハリネズミ:冒頭の短編に、「まさかのときにスペイン宗教裁判!」とか「しゃれ者の遅刻」なんていうジョークが出てくるんだけど、日本ではそう言われてもちっともおもしろくないので、すべってしまうんですね。それで、最初は白けながら読んでたんですが、読んでいくうちに、おもしろい短編もあることがわかってきました。カワセミさんがあげた「ぶっとんだロコ」なんか挿絵もやたらおかしくって、犬ごと車が盗まれてしまったという悲劇を別の視点から見ることができる。悲しかったり、つらかったり、嘆かわしかったりすることもきっと多い人たちの話ですが、それを笑い飛ばす勢いがあるんですね。「パパ・ラロ」のおじいちゃんも、バリバリ存在感があっていいですね。「さあ、飛びなさい」の、鳥をぱあっと放すイメージと女の子の未来が重なるところもいい。味わいのある話が並んでいますが、読書好きの子どもじゃないとそれを十分に味わうのは難しいかもしれませんね。本に読者対象は書いてないんですが、対象は読書好きの中学生といったところかな。この場所で暮らした人でないと書けないことを書いているので、貴重な本だなと思いました。

みっけ:うん、私もかなりおもしろかった、読んでよかった、という感想です。最初の作品の、あっけらかんと色恋を取り上げているあたりは、自分の中でのラテンのイメージにぴったりはまって、やっぱりメキシカンだなあ、と一人納得。でもそれ以外にも、ちょっとシュールな作品があったり、とても信仰心の厚い人が出てきたり、家族の絆が強かったりするところは、ラテンの世界だなあと思ったし、おもしろかった。カリフォルニアにはヒスパニックが多くて、ソトをはじめとする書き手もいるけれど、この本は、そういうのとは明らかに違う気がしました。もっと、自分たちのルーツに近いところで生きている感じですよね。それに、トイレの話だの犬の話だの、独特のほら話的な感じがとても愉快でした。「もうひとりの息子」では、長い国境線の両側にまったく違う生活をする人が住んでいるという現状に対する想像力を刺激されました。いろいろとたいへんなことがあっても、その中でタフに生きていく、荒っぽさはないんだけれど笑いにくるみながら強じんに生きていくのがすごい。「パパ・ラロ」の話も、年齢の差を越えて男同士どこか通じてるところがあって、おもしろい。爆弾を打ち上げ花火の代わりに使おうなんて、結構危なっかしいんだけれど、勢いのある感じが伝わってきますね。「最後のミサ」で従者をする男の子の話はかなり微妙で、読みなれてない子だと、なんだかよくわからないまま終わってしまうかもしれません。ちょっと高級というか、大人っぽい気がしました。日本で出すことの意味はさておき、アメリカはとっても広いから、自分たちの国にこういう人たちも住んでいるんだよ、ということを知らせる意味でも、出版は意味があることなんだろうなあ、と思いました。

(「子どもの本で言いたい放題」2009年8月の記録)