アカシア:いいなと思ったのはスウェーデンの若い人たちの気持ちがとてもリアルに書かれているところですね。主人公のイェンナは中学1年生なんですけど、思春期特有の偏狭な気持ちが片一方にありながら、殻を破って行きたいというのがもう片一方にあるっていうところが、うまく伝わってくる。ただ最初の方では、主人公のイェンナがウッリスのことをねたんで悪くばかり言うし、理由もなく乗馬スクールを辞めちゃうし、親友と言いながらスサンナのことはあまり考えていないみたいだしで、嫌な人物に思えてしまったんですね。まあ思春期のことなんかあんまり思い出したくないので、自分も持っていた嫌な面をつきつけられたような気がしたのかもしれませんけど。それから母親の癌をイェンナは隠すんですけど、母親は松葉杖をついて買い物に行ったりしてるわけだから、隠したってしょうがないのになんて思って、ちょっと物語の中のリアリティに入っていけない箇所がありました。冒頭で、イェンナは「母親が死んだら自分も命を絶つ」という内容の詩を天井の星の裏に隠し、最後はその詩を「母さんが死んでも あたしは生きていくよ。母さんのために」と書き換えて、また同じように星の裏に隠すんですね。その二つの詩の間でイェンナが成長したことをちゃんと書いている。そこはいいですね。あと、この本はきれいだな、と思いました。黄色と青と、この星が。

プルメリア:母が乳癌で死ぬという重い作品だったので、読むのが苦しかったです。なにかと控えめなスサンナと、とても自信満々のウッリスが関わり合う場面からストーリーの流れが自然とおもしろくなってきました。異性に対する思春期の揺れ動く少女の心情が伝わりました。ウッリスの行動も、スサンナやあこがれの男の子との関係も、リアルによく書けているなと思いました。13歳なのに、ワインを飲んだりタバコを吸ったり……国が違うとずいぶん子どもたちの生活や遊びも違うんですね。ガンと戦っている娘や母親をなくし一人になる孫娘を心配する祖父母の心情もよくわかり、母親の死をのりこえる子どもの心情が痛々しかったです。泣きながら読みました。

メリーさん:この物語は登場人物の心情や、シチュエーションがとてもリアルでおもしろかったです。ストーリーそのものには目新しさはないのですが、とにかく描写がすごいと感じました。特に、悲しみの表現といたたまれない気持ちの部分。母親とふたりの生活に、祖父母がずかずか入ってきてしまうことに主人公がいらだつセリフ「栓抜きは四番目の引き出しに入れることになっているんだけど!」。電話越しに母親と笑いながら話すのだけれど、それがかえってふたりの距離を遠くしている感じなどは主人公の悲しみをとてもよく描いていると思いました。また、祖父母が母親の使う歩行器をあからさまにほめるところや、お見舞いにいきたくない主人公の気持ちをわからないまま、冗談をいってはげますところなどは、気まずい雰囲気が細かく描写されていて、こちらがいたたまれない気分になりました。

バリケン:ウッリスがイェンナのお母さんを助けたところは、その場面でははっきり書いてないけれど、お母さんが亡くなったあとで、実はお母さんもそのときにウッリスにとてもいいアドバイスをしてあげていたということを、主人公が知るわけですよね。それで、主人公も悲しみにくれるだけではなくて、一歩踏みだしてみようという気持ちになる。生きていこうと思う。亡くなったお母さんが、ここのところで娘の背中を押してあげているわけで、とってもうまい書き方だと思って感動しました。
ストーリーはとても単純なんだけど、細かいところが実によく書けている。特に余命あとわずかの母を持つ娘の怒りやいらだち。実際に家族が癌になったりすると、まず最初にぶつけどころのない怒りを感じると思うのね。主人公も、自分の怒りやいらだちをウッリスに向けたり、おばあちゃんに向けたりしている。それから、スウェーデンの十代の子の暮らしの様子……男の子との交際や、お酒やタバコのことなどが分かって、おもしろく読みました。周囲の大人たちも、日本と同じように、そういうことに対して眉をひそめるけれど、だからといって教師がすぐに停学だの退学だのとは言い出さないのよね。主人公の友だちの、奔放なウッリスと、優等生のスサンナも、うまく書きわけられていて、おもしろかった。

セシ:言いたいことはもうほとんど出尽くした感じですが。「天井に星の輝く」というタイトル、最初は意味がわからなかったのですが、天井にはった星が出てきたところできれいなイメージだなと思いました。物語が進むにつれて、ウッリスへの見方、関係がどんどん変わっていくところがよかったです。ただ、ここに出てくる中学生の行動や言葉づかいは、私の周囲にいる日本の中学生のそれとはかけはなれていて、日本の読者がすんなりと物語に入っていけるのかなと思いました。スウェーデンだからこんなふうだと、すぐに頭を切りかえて、違いをおもしろがって読めるんでしょうか。

げた:確かに表現的には13歳にしてはちょっとというところもありますもんね。訳者あとがきにも日本の読者の目には少し早熟に映るかもしれないとあったけれど、日常生活は日本の子どもたちに比べると随分早熟に見えますね。でも、体と心のバランスがとれていないところがあって、中身そのものは中学生かなって思いました。天井にはった星の下に隠している国語の時間に書いた詩が、「命をたつよ」から「母さんが死んでもあたしは生きていく」って成長していくところって、そんなに日本の中学生と変わらないなと。行動自体は、お酒やたばこが頻繁に出てきたりして、かなり過激だけど、友だちとの関係は日本の子どもたちとそんなに変わらないかなと思います。私は祖父母との関係が気になったんです。祖父母は一生懸命孫になんとかしようとしているのに、イェンナは受け入れられないんですね。匂いがいやだとか何とか言って。マリッサっておばさんには、違和感なくなじんでいるんだけど、彼女には母を感じられるからかな。文章は、全体的にちょっと読みにくい感じはありました。

こだま:聞き慣れない名前がいろいろ出てくるんで、男か女かわかんなくなっちゃうんですね。

ダンテス:おばあちゃんと孫の間の人間関係が、うまくいっていない。両者とも娘・母親のことが心配なのに、気持ちがつながらなくてすれ違っていることが、この作品のベースにありますね。この作品の中では、おばあちゃんとの関係がうまくいかないことからも、母親が死んだら自分も死ぬという思いを強くしていたのかも。ウッリスがおかあさんにカードを贈っていた、というのは、ウッリスと主人公の関係性の改善につながるよくできた伏線だと思いました。スウェーデンのカルチャーや、若者の現実をそのままうつした作品なんんでしょうね。

(「子どもの本で言いたい放題」2010年1月の記録)